トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

モディ首相の2017年 インドの大国外交の行方

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(ムンバイ市の風景。出所はWIKI画像)

  安倍首相が9月13日にインドを訪問しました。

 2016年の11月10日から12日にインドのモディ首相が訪日して以来、約10カ月後の訪印となります。

 今回はモディ訪日から2017年の安倍首相訪印までの経緯を振り返り、今後の日印関係について考えてみます。

モディ首相と安倍首相の首脳会談(2016年11月)

 まず、2016年のモディ首相訪日時には以下の合意がなされました(外務省「日印首脳会談」)。

  •  アジアの海洋安全保障環境のための日印協力
  •  「日印新時代」の象徴案件であるムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道は18年着工、23年開業を目指す。
  •  日本の救難飛行艇US2の輸出のための協議を続ける
  •  インドの製造業の発展を支援
  • 日印原子力協定の発効により原子力の平和利用を促進

 当時、安倍総理は「自由で開かれたインド・太平洋戦略」と「アクト・イースト」の連携により,インド太平洋地域の繁栄と安定を主導したい」と述べ、モディ首相は「日印のグローバルな連携が順調に進展し、その成果がでていることを嬉しく思う」と述べています。

 日印原子力協定に関して、安倍首相は日印間で「核兵器のない世界」という目標が共有されていることを強調(日本国内向けのパフォーマンスと見られる)。モディ首相は「日印の協力はインドのエネルギー安全保障に資する」「インドは、核実験の自発的モラトリアムを実施しており、国内の輸出管理体制は世界で最も優れている」と述べました。

 そして、「日印新時代」の象徴案件であるムンバイ・アーメダバード間高速鉄道については、安倍総理が新幹線方式の採用に期待の意を表明しています。

(※その後、トヨタの豊田章男社長とスズキの鈴木修会長は2017年3月9日に訪印し、モディ首相と会談(両者は業務提携している)。インド政府は「製造業育成策を促進し、雇用創出に寄与する」と2社のインドでの協業に期待の意を示しました)

モディ首相は中国の「一帯一路」を批判

 その後、2017年に入り、モディ首相は1月に中国がダボス会議で「一帯一路」構想を強調したことを批判。

 「地域の連結性は、他国の主権を無視したり、傷つけたりするものであってはならない」と述べました。この発言にはインドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方の一部を中パ両国が一帯一路の「合流点」と見なし、「中パ経済回廊」として整備していることへの批判が含まれています(産経ニュース「モディ印首相、ダボス会議の裏で中国の「一帯一路」を批判」2017/1/18)

 その後、3月にはスリランカのシリセナ大統領がインドを初訪問し、民生用の原子力開発の協定を結び、ラジャパクサ前大統領時代の中国寄り外交の修正を約束。

 4月4日にはチベット仏教を指導するダライ・ラマ14世がインド北東部アルナチャルプラデシュ州を訪問。その地は中国との領有権を巡る係争地なので、当然、中国側は大反発しました。

 5月14~15日には中国で「一帯一路」首脳会談が開催されましたが、インドは「中国パキスタン経済回廊」がカシミール地方のパキスタン支配部分を経由することに抗議し、この会議に出席を拒否しました。

 6月8~9日にはカザフスタンの首都アスタナで上海協力機構(SCO)の首脳会議が開かれ、その席でモディ首相と習主席が会談しましたが、その後、印中関係の改善はならず、その後、両国の軍隊が8月28日まで国境沿いでにらみ合うことになりました。

 中国とブータンが共に領有権を主張する地域で中国が道路をつくり始め、ブータンを支援する形でインドが軍を派遣。7月のG20でも中印両国は首脳会談を見送っています。

  これは国益をめぐる根深い対立でしたが、BRICS首脳会議前一週間の8月28日に対立が終わり、9月5日に福建省アモイにてモディ首相と習主席は再び会談。争いを手打ちにし、両国関係を正常化することで合意しました。

 中印首脳は両国の平和共存を世界にPRするために報道陣の前で笑顔を見せ、握手しています。

モディ外交は中国を包囲する? 2017年の各国訪問

 モディ首相は4月10日に訪印したオーストラリアのターンブル首相と会談。

 包括的経済協力協定(CECA)締結のための交渉再開で合意しました。ただ、その席でターンブル氏はインドや中国を含むアジア広域の自由貿易協定である「域内包括的経済連携(RCEP)」の成立を優先させる意向を明かしています。CECAの協議ポイントとしては豪⇒印への農産物輸出、豪州へのインド人技能労働者の受入れ等が挙げられてました。

 さらに6月1日に訪露し、モディ首相はプーチン大統領とインドとの原子力協力(原発推進)で合意(モディ内閣は前月にインド製原子炉を10基増やす計画を承認している)。そして、3日にはマクロン仏大統領との初会談等を経て、パリ条約を守ることを強調。原発推進でCO2排出削減と経済成長を両立させる意向を示しました。

  7月4日にはインド首相としてイスラエルを初訪問。イランとペルシャ湾の湾岸諸国への配慮から、安全保障面よりも経済協力を強調しています。

 しかし、実際はかなり安保面での協力が色濃いようです。

 毎日新聞の報道(「イスラエル・インド首脳会談」2017/7/5)はその内実を以下のように報じています。

  • インドにとってイスラエルは露・米に次ぐ武器供給国。軍同士でも交流はあるが、イスラエルとの防衛協力はパレスチナ問題など、イスラム諸国にとっての敏感な課題があるため、インドは広くPRしなかった。
  • イスラエルはインドが1998年の核実験で制裁を受けた際も武器取引を続けていた。2017年4月にも共同開発する防空システムを地上と空母に展開する20億ドル相当の契約を結んだ。

モディとトランプの関係は良好(米印首脳会談)

 こうしたモディ外交の中で特筆すべきなのが、訪米時のトランプ大統領との会談(6月26日)です。

 米印首脳会談ではアメリカが約240億ドルの対印貿易赤字を抱えていることから、トランプ大統領は印航空会社「インディアン・エアラインズ」が米国製旅客機100機を新規発注したことを喜び、インド企業が米国の天然ガスなどのエネルギー資源を購入することを期待しました。そのほか、米国はインドにC17輸送機(約3.6億ドル)の売却や22機の非武装無人偵察機MQ9Bガーディアンの供与等を決めました。
 その後、7月には米印日の3カ国合同での海洋軍事演習「マラバール」が開催される等、安保面での協力関係が進みました。

 ホワイトハウスHPに掲載された両国首脳の発言を紹介してみます(出所:米印首脳会談にあたっての記者会見)。

トランプ大統領の発言

  • 私は大統領選の間、当選したら、インドは真の友人をホワイトハウスに持つことを約束した。そして、あなたは、それをまさに持っている。本当の友人だ。
  • 米国とインドの友好関係は、我々の民主主義への献身を含めた共通の価値観に基づいている。多くの人は知らないが、アメリカとインドの憲法は同じ3つの非常に美しい言葉(We the people)で始まる。首相と私は、両国の協力の基盤づくりを助ける、これらの言葉の重要な意義を理解している。
  • 私は、モディ首相とインドの人々が共に成し遂げた全てに敬服し、感激している。あなたの業績は広大だ。インドは世界で最も経済成長が速い
  • わずか2週間で、あなたがたの国は、史上最大の税制改革を実施するーー我々も同じように(減税)するーー税制改革は、あなたがたの市民に素晴らしい新機会を創造するだろう(※インドでは7月1日に全国統一の物品サービス税(GST)を導入。インドの州境を越えて商品を移動させる際に賄賂等が要求されず、全国で一律の税制となる)。
  • あなたがたには、インフラを改善する大きなビジョンがある。そして、あなたがたは常に民主主義にとって重大な脅威である政府の汚職と戦っている。両国は一緒に、新技術、新インフラ、そして非常に勤勉でダイナミックな人々の熱意と興奮を引き出す未来への楽観的な道筋を描くのを助ける。
  • 私は、あなたの国の雇用を生み出し、経済を成長させ、公平で相互的な貿易関係をつくるため、首相と共に働くことを楽しみにしている。
  • 米国商品を輸出する市場の障壁を取り除き、貿易赤字を削減することが重要だ。
  • インドの航空会社が最近の100機の米国製航空機について、大型注文を行った。これはこれは幾千もの米国人の雇用を支える。
  • また、現在交渉中の米国の天然ガスの長期購入契約を含め、経済成長に伴い、より多くの米エネルギーをインドに輸出することを楽しみにしている。その価格を少し上げようとしているのだ。
  • 経済的な協力関係をさらに発展させるため、モディ首相がわが娘イヴァンカに今秋、インドのグローバル・アントレプレナーシップ・サミットに米国代表団を率いるように招待したことに感激している。彼女はそれを受け入れるだろう。
  • 米国とインドの安全保障上の協力関係は非常に重要だ。
  • 両国とも悪しきテロに打撃を受けており、テロ組織とそれらを推し進める過激主義のイデオロギーを破壊しようとしている。我々は過激なイスラムのテロを破壊する。我々の軍隊は、協力を強化するために毎日働いている。
  • そして、来月、日本の海軍(海上自衛隊)と一緒に、広大なインド洋で過去、最大の海上訓練に参加する。(※7月には米印両海軍と自衛隊による3カ国合同での海洋軍事演習「マラバール」が開催される)
  • 私はまた、アフガニスタンでの努力への貢献、そして北朝鮮に対する新制裁の適用に参加してくれたことをインドの人々に感謝する。北朝鮮政権は大きな問題を引き起こしており、対処しなければならない。

モディ首相の発言

  • 今日の会談は、両国の協力の歴史の中で非常に重要なページだ。
  • 双方にとって、全面的もしくは包括的な経済成長と両国と両社会の共同の進歩が主な目的だ。
  • 大統領と私の最優先事項は、テロリズムのような地球規模の挑戦から私たちの社会を守ることだ。私たちの目標は、インドと米国の強化だ。世界の中での2つの偉大な民主主義国であり、友である二国関係を強化したい。
  • 我々は、すべての主力プログラムとスキームにおいて、米国をインドの社会的・経済的変革のための主要パートナーと見なしている。私は新しいインドのビジョンと「アメリカを再び偉大にする」というビジョンの連携が、我々の協力に新次元を開くと確信している。 
  • 我々の共通の優先事項の1つは、貿易、商取引、投資の関係の発展にある。技術、革新、知識経済の分野では、協力拡大と深化が最優先事項の一つだ。このため、デジタルパートナーシップの成功をさらに強化する措置を講じる。
  • 友人というが、我々は偶然のパートナーではない。我々は現在または未来においても直面する課題に対処するパートナーだ。
  • 今日の会合では、今日の世界が直面する主要課題であるテロリズムや過激主義等について議論した。我々はこれらの惨状と戦うための協力強化に合意した。テロとの戦いやテロリストにとって安全な避難所や聖域をなくすことは、我々の協力の主要部分だ。

モディ首相は中国を警戒しつつ、「全方位外交」を展開

 インドと日本は同じ自由民主主義を奉じる経済大国ですが、外交・安保政策には大きな違いがあります。

 日本は日米同盟を国を守る中心軸においていますが、インドは同盟国を持っていません。冷戦期においては「非同盟諸国」の中心でもありました。

 建国以来、国を率いたネルー首相は、当初は中国と連携したのですが、非同盟諸国の旗を掲げた後に中国側に裏切られるという挫折を経験し、外交・安保政策をより現実的なものに変えていきます。

 最終的には核兵器まで持つようになり、米国やロシア、中国がインドを侮れないだけの軍事力を養成したのです。

(※インドは核武装を自国防衛の柱にしているため、指導者層は本音ではNPTを核大国が他国に核を持たせないための偽善的な枠組みだと評価している。ここでも日本と立場が大きく異なる)

 インドはソ連から武器を買い、イランから石油を輸入し、アメリカと最先端のビジネスで提携しながら多くの人材を送り(米IT系大手の経営者の中にインド系は少なくない)、中国とは対立しながらも取引を続けています。

 これはインドの全方位外交とも言われています。いわば各国と”いいとこ取り”をして自国に最大の利益を引き出すという、独立した大国の外交を実践しているわけです。

(米国に言いなりの日本に住む筆者としては、インドの大国外交はある意味ではうらやましく見えるところもあります)

 インド側からは、日本は日米同盟のために外交の自由性を失っているように見えているようです。

 ただ、立場や手段は違えども目指すところは、自由民主主義国としての発展なので、日印はこれから大きく経済協力に踏み込むべきでしょう。