トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米国抜きの11カ国TPP 11月に成立するのか

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(ロサンゼルス港 出所はWIKI画像)

 米国がTPPを離脱してから7か月が経ちますが、現在、日本とオーストラリア、ニュージーランドの三か国が協定の見直しを進めています。

 変更を最小限にとどめ、いわゆる「米国抜きTPP」の大筋合意を11月頃に実現しようとしているのです。

 産経ニュース(2017.8.28)では、28日のTPP首席交渉官会合の模様を報じています(「TPP首席会合開幕 11月大筋合意へ カギ握る多数派工作、日豪NZが議論主導」)

 25日には「茂木敏充経済再生担当相が豪州のチオボー貿易・投資相、NZのマクレー貿易相と相次いで電話会談し、連携を確認した」ことが報じられ、「世界的に保護主義の傾向が見られる中、自由で公正な貿易システムを築くことが非常に重要だ」(梅本首席交渉官)の28日の発言が紹介されています。

 懸念事項としては、ベトナムやマレーシアに「米国抜きのTPP発効には慎重な意見が根強く、凍結要望のリストが一気に膨れ上がる恐れがある」ことや日本国内でも農林関係者が「牛・豚肉の緊急輸入制限(セーフガード)の水準やバターの低関税枠で見直しを求めている」こと等があげられていました。

 交渉官が話をまとめても、各国に話を持ち帰り、国内で議論が紛糾すれば、11月までにはとても間に合わないわけです。

 日本としては、将来の二国間FTA交渉の開始を見込んで、あらかじめ米国抜きTPPを妥結してしまい、交渉の前提となる貿易の基準を固めたほうが有利になると考えています。

 TPPはもう死んだと見る人もいますが、その意味では、このニュースも無視せずに追っていく価値があるので、今回は、この経緯と現状について見直してみます。

米国抜きの11か国TPPが出てくるまで

 2016年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が「あらゆる保護主義に対抗する」と宣言した翌日に、トランプ氏は「大統領になった初日にTPP離脱だ!」と強力なカウンターパンチを放ちました。

 12か国が署名したTPPは、参加国のGDP合計が85%以上を占める6か国以上が国内の手続きを済ませないと発効しないので、参加国GDPの6割を占める米国の意向は無視しがたいものがありました。

 日本時間で22日の昼頃、トランプ氏が就任初日の予定を語ったビデオを公開。就任初日にTPP(環太平洋連携協定)を離脱することを予告。

 そこでは、TPPは「米経済にとって大惨事となる可能性がある」。TPPに代わり「米国に雇用と産業を呼び戻す」二国間貿易協定の締結を目指すと言明。「米国第一」の中核原理を基本に据え、「次世代の生産や技術革新を米国内で実現し、国内労働者に富と雇用をもたらすことを望む」と述べたわけです。

 その後、トランプ氏は就任直後に「TPPから撤退」し、「公平な二国間貿易を通じ、米国の雇用と産業を取り戻す」ことを呼びかけました。TPPは発効していないので、トランプ氏は大統領令で難なく離脱することができました。

 安倍首相は2016年11月15日に参院で「(TPPが発効しなければ)軸足は東アジア地域の包括的経済連携(RCEP)に移る。そこで国内総生産(GDP)最大の国は米国ではなく中国だ」と述べ、トランプ氏を念頭に置いて「君子豹変す。国や国民のためになれば、メンツを捨てて判断する。それが指導者に求められる姿勢だ」と述べましたが、当然ながら、豹変はありませんでした。

 トランプ氏は「NAFTA再交渉」「環太平洋経済連携協定(TPP)の阻止」「不公平な輸入」と「不公平な貿易慣行」の停止、「二国間貿易協定」の実現に向かって動き続けています。

  その後、安倍首相は2016年1月中旬にオーストラリアとベトナムを訪問し、TPPを発効させるべく連携することを確認し、20日にTPP承認を閣議決定しました(TPP承認を取りまとめ国のニュージーランドに通知)。

 さらに、4月には、麻生副総理とペンス副大統領で日米経済対話が行われましたが、この時はまだ貿易の担当者であるUSTR代表が就任していません。その後、トランプ政権はロシア疑惑などで足を取られ、日本との二国間FTAどころではありませんでした。

 米国が十分に動いていない間に、日本は、速めに11カ国でTPPをまとめてしまおうと考えているわけです。

 日本が主導しなければ、オーストラリア等がここに中国を入れようと画策してくる危険性もあるからです。

米国抜きの11カ国TPPはどうなる

 その後、TPP妥結に向けた取り組みは続いてきました。

  • 3月14日~15日:TPP閣僚会合(於:チリ・ビニャデルマール)
  • 5月21日: TPP閣僚会合 (於:ベトナム・ハノイ)
  • 7月12日~14日:TPP高級事務レベル会合 (於:日本・箱根)

 2017年はASEAN設立50周年にあたります(8月8日が設立日)。

 秋口にはAPECやASEAN等、東南アジアにまつわる行事が多いのですが、このあたりで11カ国のTPPをまとめようとしています。

  • 8月18~30日:APEC第3回高級実務者会合(SOM3)(ホーチミン市)
  • 8月28~30日:TPP参加11カ国の事務方会合(豪州で開催)
  • 10月20~21日:第24回APEC財務大臣会合(ベトナム)
  • 11月8~10日:APEC首脳会議(ベトナム)
  • 11月10~14日:ASEAN関連首脳会議(フィリピン)

 TPPによってFTAのカバー比率は上がり、自由貿易の範囲が広がるのは事実なので、米国抜きであっても、日本政府は推し進めようとしています。

 また、帝国データバンクの調査によれば、調査対象となった企業の半数近くが賛成しているようです。

 帝国データバンクは、農業の強い山形県の調査結果を「TPP11、企業の 48.6%が「日本に必要」」(2017/8/4)と題して報告しています。

  • TPP11、企業の 48.6%が日本にとって「必要」。自社の属する業界では 24.3%が「必要」と考えている。
  • 自社への影響は「プラスの影響がある」(13.1%)が「マイナスの影響がある」(6.5%)を上回るも、「影響はない」が 32.7%、「分からない」が 47.7%と不透明感が高まる。業種別では、プラス影響は「建材・家具、窯業・土石製品卸売」(100.0%)、マイナス影響は「飲食料品小売」(100.0%)がトップ。
  • 具体的内容、影響を想定する企業のうちプラス面では「売り上げや利益の増加」(47.6%)がトップ。以下、「輸出の増加」「原材料コストの低下」が続く。マイナス面では「販売価格の低下」「新規参入の増加による競争の激化」(各 28.6%)がトップ。

 米国が離脱する前に比べると「必要」と答えた企業が減ったことや、「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」に36.4%の企業が期待していること等が記されています。

 そのほか、帝国データバンクでは、仙台での調査で〔TPP11、企業の 45.0%が「日本に必要」7/31発表〕、神奈川県での調査で〔TPP11、企業の 56.9%が「日本に必要」7/28発表〕等の結果を公にしています。

 いまだTPPを日本に必要な政策と見ている企業は多いわけです。

 こうしてみると、従来ほどのインパクトは失われたものの、TPPを完全無視せず、きちんと交渉結果をフォローしていくことも大事だと言えそうです。