トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

THAAD(高高度防衛)ミサイル 15度目の迎撃実験に成功

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(THAADの発射軌道。実に美しい・・・。出所はWIKI画像)

 7月28日の北朝鮮のミサイル発射に対抗し、米軍が30日に「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を使った弾道ミサイル迎撃実験を行いました。 日本のマスコミでは取り上げられませんでしたが、28日には、米韓両軍は北朝鮮への攻撃を想定したミサイル実験も行っています。

 今回は、その両者に関する国防総省の発表と、THAADミサイルについてのあらましを紹介してみます。

THAAD実験を含む軍事演習の内容

 7月28日の北朝鮮のミサイル発射に対抗し、攻撃と防衛の両者にわたる軍事演習が行われました。

米韓両軍が北朝鮮を狙うミサイル発射実験

 米国防総省は28日に米韓同盟の合同訓練の内容を公にしました(出所:U.S.-South Korea Conduct Training in Response to North Korean Missile Launch)。

  • 北朝鮮の大陸間弾道ミサイル発射を踏まえ、米第8陸軍と南朝鮮陸軍が2度目の合同訓練を実施した。
  • この訓練では、米陸軍の戦術ミサイルシステム(ATACMS)と韓国の「玄武(ヒョンム)2」ミサイルが用いられた。
  • ATACMS(Army Tactical Missile System)は迅速に導入され、敵地深くへの精密打撃能力を提供し、米韓同盟がいかなる天候下でも時宜にかなった目標の攻撃を可能にする。

 ATACMSは、ロッキード・マーティン社がつくった短距離の地対地ミサイルで米陸軍と韓国軍の双方が用いています。射程は約128kmなので、国境近辺にある北朝鮮の重要目標を攻撃するために用いられます。

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(ATACMS:WIKI画像。筆者トリミング)

 また、「玄武2(ヒョンム)」は韓国がつくった短距離弾道ミサイルです。射程300kmの「玄武2A」は軍事境界線(38度線)付近にあるサイロから発射され、飛行場を含む北朝鮮の主要拠点を攻撃します。

米第八陸軍がTHAADを用いたミサイル迎撃実験に成功

 アメリカ国防総省のミサイル防衛局は、30日にTHAADの迎撃実験が成功したと発表しています(出所:Ballistic Missile Defense System Test Successful)。

  • 米ミサイル防衛局とテキサス州フォート・ブリスに配属された米軍第11防衛砲兵旅団がミサイル防衛実験を実施。
  • 中距離弾道ミサイルを模して、太平洋上の空軍C-17輸送機から発射された標的をアラスカ州のコディアク島に配備されたTHAADシステムが迎撃。標的を検出、追跡、傍受することに成功した。
  • この実験で収集されたデータによってTHAADの性能が上がるとミサイル防衛庁長官は述べた。
  • 第11防衛砲兵旅団の兵士には、あらかじめミサイル発射の時刻は伝えていない。実際の戦闘と同じようにレーダー操作やミサイル発射を行った。
  • THAADシステムのテストは15回行われ、15回目とも迎撃に成功。

  米軍は5月には地上配備型迎撃ミサイル(GBI)を使い、ICBMを想定した迎撃実験にも成功。様々なフェーズでミサイルを迎撃する態勢を固めています。

  THAADミサイルに関しては、トランプ大統領が韓国に費用負担(約10億ドル)を求め、韓国大統領選で争点にもなりました

 過去を遡ると、4月30日の韓国大統領府の声明で米国のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が米国の費用負担を認めたとされ、同日にマクマスター氏はフォックスニュースのインタビューでその発言を否定。

 同氏は「再交渉を行い、協定が成立するまでの当面の費用負担でしかない」としましたが、韓国側はTHAADの費用負担の再交渉に否定的なスタンスを取りました。

 しかし、7月に二回も北朝鮮が弾道ミサイルを発射したので、最近はTHAAD配備に肯定的になってきています。

 このTHAADは極めて政治的な案件になっているとも言えます。

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(THAAD画像。出所はWIKI画像)

THAADの役割:米国の迎撃ミサイル群の中での位置づけ

 中国がTHAADミサイルの配備に反対していることもよく報道されますが、そもそも、このミサイルには、どんな機能があるのでしょうか。

 弾道ミサイルは宇宙ロケットと同じ推進方式で、放物線を描いて飛びます。

 その放物線の中で、加速しながら上昇する過程を「ブースト段階」、最高高度を描く頂点付近の過程を「ミッドコース段階」、重力の加速を受けて陸地に迫る過程を「ターミナル段階」と呼んでいます。

 これに対して、米軍は何段階もの迎撃ミサイルを用意しており、THAADミサイルは「ターミナル段階」のミサイルを高高度で迎撃する装備として位置づけられています。

 すでに、日本に配備されている迎撃ミサイルを例に挙げると、イージス艦のSM3ミサイル(射程500km)は「ミッドコース段階」での迎撃、陸上車両から発射されるPAC3ミサイル(射程20km)は「ターミナル段階」の最後の迎撃を担います。多くの段階を持つ米国のミサイル網のうち、2つだけが今の日本に配備されているわけです。

 米国の迎撃ミサイルを段階別に見ると、以下の通りになります。

  • ブースト段階:SM3-ブロック1A(射程1200km)※今の主力
  • ブースト段階:SM3-ブロック2A(射程2000km)※開発中
  • ミッドコース段階:SM3(射程500km)※イージス艦等から発射
  • ミッドコース段階:GBIミサイル(射程2000~5000km)※大気圏外迎撃用
  • ターミナル段階:THAADミサイル(射程250km)
  • ターミナル段階:PAC3ミサイル(射程20km)※いわゆるペトリオットミサイル

 GBIミサイルの飛距離の長さが目を引きますが、このミサイルは大陸間弾道弾を迎撃するためのものです。これは大気圏外にまで出て迎撃するために、異様に長い射程距離が必要になっています。

 日本を狙うのは射程千数百kmである中国の東風21号や北朝鮮のノドンミサイルなので、従来、GBIはスペックオーバーだったと言えるのかもしれません。

 同じミッドコースと言っても、日本のイージス艦から撃つSM3は大陸間弾道弾ではなく、前掲の東風21号やノドンミサイルなので、GBIほどの高度が要らないわけです。

 このブースト、ミッドコース、ターミナルの区分は、対象とするミサイルによって区分けがずれることもあります。米国の場合は迎撃対象が大陸間弾道弾になるため、SM3はターミナル段階に分類されるようです。

 そして、問題のTHAADを見ると、ちょうど、SM3とPAC3までの間の空白地帯を守るミサイルだということが分かります。

THAADかイージス・アショアか?

 軍事評論家の野口裕之は米軍関係者から「文大統領は、最新鋭のTHAAD(サード=高高度防衛ミサイル)システムをいらないというつもりだろうか? 彼は正気だと思うか?」と聞かれ、「韓国がいらないのなら、日本に持っていく』と、トランプ米政権が文政権に伝えればいい」と答えたと最近の産経記事(2017.5.15)に書いています。

(「 文在寅大統領がミサイル迎撃システムを拒否するなら『日本移転』しかない! そうなった時、韓国は」)

 この記事では、予算が足りないので、結論としてはイージス艦に搭載されている防空システムの陸上バージョンである「イージス・アショア」の配備を薦めているのですが、日本にTHAADが入ったら、日本に負けたくない韓国も必死に配備したがるだろう、というわけです。

 日本にTHAADが配備されれば、韓国はさぞ慌てるだろう。しかし、防衛予算がいくらあっても足りぬ現下の危機的情勢では、フトコロ具合と相談し《イージス・アショア》の導入を優先させたい。もちろん、同時に手に入れられる財源が確保できれば、そちらがベストではあるが…。 

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(Aegis Ashore deckhouse:出所はWIKI画像)

 THAADの難点としては「とにかく高い」という問題があります。

 10億ドルなので、今の為替で言えば、だいたい1100億円~1200億円ぐらいの間になります。護衛艦「こんごう」の建造費は1223億円ともいわれるので、THAADミサイルだけで艦艇1隻分のお金がかかるわけです。

 我が国の予算制約からいえば、これはかなり厳しいと言わざるを得ないでしょう。

THAADの目玉は、高性能レーダー

 では、THAADは、どのように運用されるのでしょうか。

 よくある方式は、8輪駆動の重トラックに8連装ランチャーを乗せ、そこに24発の迎撃ミサイルを積み込みます。6両を一組にし、射撃管制通信所とXバンドレーザー部隊と連携しながら、目標となるミサイル迎撃を行うのです。

 THAADミサイルは射程250km、迎撃高度は150kmともいわれています。

 まずは前掲のXバンドレーダーで誘導し、次に弾頭に付随する赤外線シーカーを用いて「飛翔体」を把握し、小型のスラスターからの噴射で軌道を変えた弾頭が「飛翔体」への体当たりを行うのです。

 このミサイルの肝は、Xバンドレーダーにあるわけですが、この正式名称はAN/TPY2。

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(AN/TPY-2レーダー:出所はWIKI画像)

 THAADで用いるAN/TPY2レーダーの捜索距離は1000km。韓国に配備すると、北朝鮮を通り抜けて中国の東北地方までが捜索されてしまうので、中国側が嫌がっているわけです。

 AN/TPY2レーダーには、ターミナルモード(捜索距離1000kmだが、高角度なので、広い扇型の範囲を捜索可能)と、フォワード・ベースド・モード(前方配備型:捜索距離1400km以上。ターミナルモードより見れる角度は狭い)の二種類があり、THAADは前者のターミナルモードを採用しています。実際は、在日米軍は後者のフォワード・ベースド・モードのXバンドレーダーを京都府経ガ岬と青森県車力に配備しており、その距離は何と2000kmにも及ぶようです(『軍事研究』2017年6月号 P123~127 河津幸英氏)。

 こうしてみると、すでに高性能レーダーが置かれている我が国は、前掲の野口氏が指摘したように、THAADよりも、イージス・アショアを優先させたほうがよさそうです。

 なぜかというと、日本のSM3は護衛艦搭載の48発程度の数量なので、百発単位でのミサイルが迫った場合、対応しきれなくなってしまうため、防衛は穴だらけなのが現状だからです。

 かといって、ミサイル防衛システムにだけお金を使えるわけでもないので、イージス・アショアで可能な限り、「穴埋め」をすべきなのでしょう。