トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

小池新党の「輝照塾」と「希望の塾」に足りない科目とは

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(東京の万世橋の風景。出所はWIKI画像)

 民進党で「離党ドミノ」が続く中、小池都知事の側近である若狭勝氏(衆院議員)が16日に国政向けの「輝照塾」を開講します。

 15日には民進党を離党した細野豪志元環境相に続いて、民進党の笠浩史、後藤祐一(共に衆院議員)が離党届を提出。民進党執行部は離党ドミノの本格化を恐れ、離党を検討していた岸本周平氏や福島伸享氏らの動向を注視しています。

 前原代表は小池都知事との連携を模索していますが、小池新党側は、民進党と丸ごと合流するのではなく、個々の議員が離党してきた時にのみ受け入れる方針をとっているようにも見えます。暗に民進党議員に離党を促しているわけです。

 こうしてみると、小池氏は都議選で自民党に勝ち、国政でも民進党に「勝利」しつつあるのかもしれません。

 振り返ると、2017年1月1日に小池都知事は都議選に「希望の塾」から30人以上の候補者を出し、地域政党を立ち上げることを宣言。その言葉通り、7月の都議選では見事に大勝利を収めました(都民ファーストの会は6議席から55議席へと大躍進。自民党は57議席から23議席へと大敗)。

 2017年秋の現在、賛否を別にして(筆者は小池氏には否定的ですが、これは客観的な見方)、小池氏が本年に大勝利を収めた人物の一人であることは間違いありません。

 そこで、「輝照塾」の開講日に、来年以降もキーパーソンとなりそうな小池都知事の動向や都政の基礎知識などを整理してみます。

小池都政(2016〜17)

 2016年7月に当選した小池都知事は「都民ファースト」と「情報公開」を訴え、オリンピックのコスト削減等を進めてきました。その主たる仕事は築地市場の豊洲市場への移転延期、五輪計画の検証、都内の「高校無償化」の取り組みなどです。

 メディアの注目を引いたアクションを並べてみます。

 【2016年】

  • 8/31:豊洲市場への移転延期
  • 9/10:豊洲地下で「盛り土なし」が判明
  • 9/29:五輪予算3億超の試算発表。この頃に五輪会場見直し案が出される
  • 10/18:オリンピック委員会のバッハ会長と会談
  • 11/17:豊洲移転の時期を17年冬以降と表明
  • 11月~12月にかけて見直し案の四会場が当初予定案に決定(コストは削減)
  • 12/28:都議らが「新風自民党」を立ち上げ。自民都連の高木啓幹事長は絶句

 オリンピック予算案の見積もりは1.6~1.8兆円規模に収まりました。

 その後、17年の歩みを見てみましょう。

 【2017年】

  • 1/10:安倍首相と小池知事が官邸で会談(五輪の費用分担問題等の協議)
  • 2/5:千代田区長選で小池氏が推す石川雅己区長が内田都議の推す与謝野信氏に勝利
  • 3/19:百条委員会開始。19日に浜鍋元副知事、20日に石原元知事を招致
  • 5/11:安倍首相が小池知事が官邸で会談。東京都が都外の仮設整備費を全額負担
  • 5/25:築地市場の土壌から基準を上回る5種類の有害物質が見つかる
  • 5/31:五輪経費を巡って都、国、組織委、開催自治体等が予算分担に大枠合意
  • 6/20:小池都知事が豊洲市場と築地市場の併用案を公表
  • 7/2:小池氏率いる都民ファーストの会が自民党に勝利
  • 7/13:政治団体「日本ファーストの会」を設立
  • 8/7:小池百合子氏の側近である若狭勝衆院議員は「日本ファーストの会」の発足を記者会見で発表

  こうしてみると、マスコミが飛びつくような話題を就任以降、延々と繰り出し続けています。

 豊洲の盛り土、オリンピック予算、自民都連VS都知事の構図、希望の塾、日本ファーストの会、輝昇塾の開塾など、マスコミの耳目を引く話題を定期的に繰り出していることがわかります。

 商品にも売り初めの時期と拡販期、売り納めの時期がありますが、小池氏は商品を繰り出すマーケティングの波状攻撃のように次から次へと話題を打ち出し、都知事選から都議選までを走り続けてきました。

 視聴者を止まらせず、常に新しい話題を出して自分の勢力の注目度を挙げてきたわけです。

 筆者は小池氏の豊洲・築地併用プランには反対ですが、都政の良しあしは別として、このマーケティング力は並大抵のものではないと考えています。

 そして、その「目玉」として都政向けの「希望の塾」と国政向けの「輝昇塾」が注目されています。

小池知事主催の「希望の塾」とは?

 そもそも、この塾について知らない方のために説明を入れておきます。

 4000人以上が応募した小池知事の「希望の塾」は2016年10月30日に開塾。「仮面女子」のメンバーで東大卒アイドルの桜雪さんが入塾したことも報じられました。 

    会塾後、10月30日、11月12日、12月10日、1月14日、2月4日、3月4日の講義日程が進行しましたが、実際のところ、この塾はどんな塾なのでしょうか。

 まずは、「希望の塾」HPから、この塾の概要を見てみましょう。

【応募者はどんな人を想定?】

⇒「主義主張や党派を超えて、改革を志す政治に関心を持った人々」。募集要項では「東京大改革の理念に賛同し、政治を学びたい方」に応募をよびかけている。自民党以外の党籍があっても、都民以外でも応募は可能。

【何を教えるのか?】

⇒「地方自治制度、財政・税、待機児童、福祉・医療、議会・選挙制度」等。二時間程度の講義が17年3月まで6回ほど予定されている。

【受講料は?】

⇒前六回で男性は5万円、女性は4万円、25歳以下の学生は3万円

※ネット記事等では4500人応募との説も出ており、一部の変な人を除いて応募者のほとんどを受入れるらしいので、男性と女性が半々で計算すると、4000人で1億8000万円になります。2億円近い金額ですね。ちなみに、松下政経塾の経常費は3.4億円なので、小池氏はこの塾の入塾費だけでその半分を稼ぎだしました。講義は6回だけで、高額の設備は要らないので、コストパフォーマンスのよい政治塾になりそうです。

【どこが運営するのか?】

⇒政治団体「都民ファーストの会」事務局が運営。自民党東京都連に背いて小池知事を応援した“7人の侍”の一人である本橋弘隆豊島区議がその代表を務めている。会計責任者は音喜多駿都議。

【卒業後、立候補時に小池知事の支援は受けられるのか】

⇒選挙の公認・推薦・支持・支援は行わない。規約には「本塾は、人材育成に主眼を置いた組織であり、特定選挙において「都民ファーストの会」「小池百合子」の公認・推薦・支持・支援を塾生に約する組織ではない」と書かれている。これは数千人単位でみんな一律に面倒を見れるわけがない、ということ。

 小池政治塾で学んだ人の中から、有望株を選挙に出すので、そのうちに桜雪さんが立候補している光景を国民が見ることになるのかもしれません(※地方議員の被選挙権は25歳以上なので、2017年12月で24歳となる桜雪さんは都議選には出れませんでした)。

 筆者もたまたま、知人の元区議が前回の選挙で落選後、どうしたのだろうかと調べていたら、その方のHPには、小池氏と一緒に映っている画像が掲載されていました。きっと、過去の選挙で敗れた元議員などが小池旋風にあやかって再起の手掛りをつかもうとしているのでしょう。

輝照塾(日本ファーストの会)とは

 次に輝照塾の内容を見ると、基本的には「希望の塾」と似ています。

 「希望の塾」の構成を国政向けにリニューアルしたものと考えるべきでしょう(出所:輝照塾 | 日本ファーストの会)。

  • 講義内容:「行財政改革、国と地方、外交・安全保障、経済・財政制度」など
  • 学習過程:1回の中で講義、グループディスカッション・論文作成等が入る
  • 受講料:入塾選考料2000円。入塾金14000円。受講料36000円(全6回分)
  • 第一期:2017年9月~2018年2月(予定)
  • 応募資格:25歳以上(2017年8月31日時点)の日本国籍保有者
  • 申込締切:2017年8月31日必着

 「規約」には「都知事選で「有権者は「東京大改革」を掲げる小池百合子氏を支持、当選させた」こと、都議選で「「都民ファーストの会」による公認・推薦を受けた多数の者が当選し、都民ファーストの会は都議会第1党となった」ことを前提として、しがらみ政治の打破や情報公開等を訴えています。

国政において、こうした有権者の切実な願いに対して応え、日本の政治・経済・社会上の問題点につき抜本的大改革を立案・断行する有為な人材を育成・輩出し、もって、我が国の輝ける未来を照らし出すことを目指し、ここに「輝照塾」を創設する。

都知事に求められる経営者の資質とは?

 しかし、「希望の塾」と「輝照塾」という二つの政治塾の内容をみると、一つだけ欠落している「科目」があるように思えて仕方がありません。

 それは何かというと、「経営」です。

 小池氏に、本当に経営センスがあるのかどうかを疑問視する声も意外と根強いのですが、これに関しては『SAPIO』(2017年2月号、P41~43)で大前研一氏が面白いことを述べていたので、その要旨を紹介してみます。

  • 小池氏は防衛相時代から”悪者”を発見して叩くことで人気を得てきた。
  • しかし、都知事は超巨大組織のトップなので、それだけでは不十分。大企業経営者に匹敵する能力が求められる。
  • 大組織のトップは自ら細かいアイデア(例:企画倒れの横浜アリーナ活用案等)を出すよりも、相手に代替案を出させるべきだ。
  • カルロスゴーン風に「コスト三割削減」を主張し、そうでなければ応分の負担に応じられないとして森氏らに既存の会場の代替案を出させるべきだったのだ。

 これは、悪役叩きの「政治家」の手法では限界が来るので、「経営者」としてどう成果を上げるか考えたほうがよいという提言です。

 確かに、よく考えて見れば、森氏が率いる組織委は自分たちの予算制約をはるかに超える3兆円という見積を出し、それを国や県にふっかけていたわけですから、削減案を出さなければいけないのは、本来は組織委のほうです。大前氏の主張であれば、お金を出す側であり、都民に選挙で選ばれているという小池都知事の最大の強みが活かせるような気もします。

 「小池氏にはもっと組織経営者としての自覚が必要ではないか?」という見方の人はほかにもおり、エコノミスト(2016/11/1:P36)でも、佐々木信夫氏(中央大学教授)が”悪役”を叩くだけでは都庁の協力さえおぼつかないことを指摘していました。

「約3万8000人もの官僚組織を動かすには、今のような知事と役人がお互い疑心暗鬼で、相談もしない状況ではいけない」「ブレーンとのみ組み、上から目線で自律改革せよと言っているようでは、なかなか動かない」

 どれぐらいの大組織なのでしょうか。

 都庁の職員数は167000人。大阪府でも82900人程度しか職員はいないので、この規模は全国随一です。企業で同じぐらいの規模の職員数を誇るのは富士通(156000人)や日産自動車(152000人)です。

 都庁職員数の内訳をみると、教育庁(63900人:これは学校職員)、警視庁(46400人)、東京消防庁(18300人)、地方公営企業(12900人:水道やバスなど)が多く、知事部局(総務、財務、主税、制作企画など16局)の人員は25100人程度です。

 元国会議員といえども、そう簡単に経営できる組織ではないことは間違いありません。

 小池氏が得意なPR能力だけでなく、傑出した判断力が求められるわけです。

 最近の事例では、小池知事は市場を豊洲に移している間に築地を再整備し、5年後に完成したら豊洲の機能の一部を築地に移すと発表しました。築地を運用しながら工事することは、技術的に困難なので、このプランが出てきたのです。

 ただ、この併用案には疑問点が残ります。

 冷静に考えれば、豊洲と築地を両方使えば維持費と人件費が増えますし、機能を一つにまとめた市場のほうが使いやすいはずです。

 そして、豊洲市場を過剰投資だと批判しながら、築地再整備の費用を増やす都知事の発言には矛盾があります。

 小池氏に近い都のプロジェクトチーム(都PT)の試算によれば734億円の追加投資が必要。豊洲と同程度の設備を作る場合は、1460~1780億円かかるそうです(後者は『Wedge 2017年5月号』を参照)。

 併用プランだと築地跡地を売らないので、豊洲整備にかかった4000億円の借金をすぐに返すことはできません。

 都PTの提言通りであれば、借金を抱えながら築地市場の土地を貸し出すのです。

 都PTは50年間の定期借地で貸せば、年160億円の賃料収入が見込めるとしましたが、これに関しては見込み収入の額が大きすぎるという声も出ていました。

 しかし、いちばん本質的な問題は、このプランはキャッシュフロー途絶のリスクを抱えているということです。

 中嶋よしふみ氏(ファイナンシャルプランナー シェアーズカフェオンライン編集長)はヤフーニュース(2017/6/26)で疑問を呈しています(「築地・豊洲の市場移転問題、知らないと恥をかく数字の読み方~マスコミ・都知事・当選した都議向けのお話~」)。

  • (築地跡地を売った場合は)「平成32年から38年に発生する3500億円の企業債(=豊洲市場を作るために発生した借金)を問題なく返済できる。ただし、豊洲市場の規模縮小により、徐々に赤字が大きくなり、平成61年には・・・手持ち資金がなくなる」
  • (築地跡地を)「貸す場合は・・・3500億円という巨額の借金を返すことは出来ない」
  • これは借金の借り換えを行うプランである。その内実は「期限までに返済ができずに借金を継続すること」で「資金ショートを回避する」ことだ。
  • 「当初は3500億円のうち2/3を借り換える」ため、「多額の借金がそのまま残る」

 中嶋氏は本当の問題は赤字か黒字かではなく、運転資金が続くかどうかだと論じています。

 キャッシュフローの金額の推移を見通すと、併用プランは借金を抱えながら土地を貸してやりくりする自転車操業でしかないわけです。

 都民の大半が併用プランを支持しても、会計的に運転資金が途絶するリスクが高いことは否定できません。

 小池都知事は都議選前に併用プランを出し、選挙に勝つことで、都民の「お墨付き」を得ようとしたのですが、そもそも、会計やキャッシュフロー経営が理解できる人は少ないのが現実です。

 小池政治塾で都政や国政、地方政治の「経営」が身につくのかどうかが気になります。

 輝照塾で教える「行財政改革、国と地方、外交・安全保障、経済・財政制度」という科目の中には「キャッシュフロー経営」は含まれているのでしょうか。