トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

マレーシアのGDPと経済力について(ナジブ首相訪米)

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(マレーシアの行政新首都となるプトラジャヤの風景。出所はWIKI画像)

  マレーシアの首相が訪米し、9月12日(米国時間)にトランプ大統領と会談しました。

 マレーシアのナジブ首相は、政府系ファンドである「1MDB」(1Malaysia Development Bhd)の資金を不正流用した疑いがあるため、米司法省が追及を続けており、メディアからは「今回の会談は行うべきではない」との批判も出ていました。

 「1MDB」が米国等に持つ資産の差押さえを求め、米司法省が16年夏に提起した訴訟の当事者であるナジブ氏と米国の大統領が会談するというのは、異例の出来事です。

 ナジブ氏が首相を務めるマレーシアには、どの程度の可能性があるのでしょうか。

 今日は、その人物像とマレーシアという国について調べてみました。

マレーシア:ナジブ・ラザク首相

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  マレーシアのラザク首相の本名はハマド・ナジブ・ビン・トゥン・ハジ・アブドゥル・ラザク(長い・・・)。

 ラザク首相は63歳。1953年7月23日に生まれました。父親は第2代首相のトゥン・アブドゥル・ラザクです。マレーシアの第6代首相を務め、統一マレー国民組織(UMNO)の総裁を兼ねています。

 04年以来、副首相を務め、09年に首相となりました。

 クアラルンプールのセントジョンインスティテューションを卒業し、その後、イギリスのモルヴァーン・カレッジ、ノッティンガム大学を卒業しました。

 目立った施策としては、09年にクアラルンプールにて外資企業を誘致する国際金融地区「トゥン・ラザク・エクスチェンジ(TX)」を建設したことが挙げられます。

 不正疑惑も出ていますが、18年竣工予定なので、無事に完成できるかどうかが一つの見所になっています。

 オバマ政権との良好な関係を築き、15年には同大統領訪問を実現させました。

 その後、汚職疑惑でダメージを受けているので、17年の今回の訪米には、トランプ氏を訪問することで「捜査進展の可能性を低く見せる狙い」(WSJ:2017/8/24)があるとも言われています。

 WSJ日本語版は「米司法省の捜査が進む中、ナジブ首相はトランプ大統領との友好関係の強調に努めてきた。トランプ大統領との会談によって捜査進展の可能性を低く見せたい思惑がある」と指摘していました。

 同紙によれば「米司法省は2016年からの裁判で、マレーシアの政府系投資ファンド「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」の資金がナジブ首相と義理の息子リザ・アジズ氏に流れたと主張。両者がそれぞれ6億8100万ドル(約744億円)、2億3800万ドルを受け取ったとみている」そうです。

 この疑惑が公になれば、それなりに大きなスキャンダルとなると思われます。

トランプとナジブの会談

 トランプとナジブの会談では以下のような議論がかわされています。

 汚職疑惑などはどうでもよく、ビジネスをしたいと言っているようです。

(出所:Remarks by President Trump and Prime Minister Najib Abdul Razak of Malaysia Before Bilateral Meeting | whitehouse.gov

トランプ大統領の発言

我々は貿易について話している。とても大きな貿易についてだ。

We’re talking about trade -- very large trade deals.

我々は、100億〜200億ドル相当のボーイングジェット機やゼネラル・エレクトリックのエンジンや、他の多くのものの購入について議論するつもりだ。

We’re working on one deal where between 10 and 20 billion dollars’ worth of Boeing jets are going to be purchased, General Electric engines will be purchased, and many other things.

マレーシアは、株式や債券の形で米国に大規模に投資している。

Also, Malaysia is a massive investor in the United States in the form of stocks and bonds, and the stock exchange.

・・・

私はあなたがたが米国で行った全ての投資に対して、とても感謝したい。

But I want to thank you very much for all of the investment you’ve made in the United States.

首相は、ISIS(もしくはDaeshなど)の存在を許さないという重要な役割を担っている。彼はマレーシアのテロリズムに非常に強く、我々への大きな支持者になっている。それは米国にとって非常に重要なことだ。

Also, the Prime Minister has a major role in not allowing ISIS -- or, as you say, Daesh -- and others to exist. And he’s been very, very strong on terrorism in Malaysia, and a great supporter from that standpoint. So that’s a very important thing to the United States.

彼はもはや北朝鮮とは取引をしていない。それは非常に重要であることがわかる。

He does not do business with North Korea any longer, and we find that to be very important.

ナジブ首相の発言

我々は米国経済の強化にお手伝いしたい。 

Number one, we want to help you in terms of strengthening the U.S. economy.

3つの具体的な提案がある。 

I come with three specific proposals.

1つ目は、MASが購入するボーイング機の台数を増やすことだ。

Number one, we intend to increase the number of Boeing planes to be purchased by MAS.

我々は、737 MAX 10の25機と、787ドリームライナー8機に加えて、そして近い将来、737 MAX 10を25機以上、追加する可能性はない。

We are committed to 25 planes of the 737 MAX 10, plus eight 787 Dreamliners. And there is a strong probability -- not possibility – probability that we will add 25 more 737 MAX 10 in the near future.

5年以内に、この取引は100億ドルを超える価値があるだろう。それが1つ。エアアジアにGEのエンジンを購入させるよう説得するつもりだ。

So within five years, the deal will be worth beyond $10 billion. That’s one. We will also try to persuade AirAsia to purchase GE engines.

第二に、マレーシアの主要な年金基金であるエンプロイー・プロビデント・ファンドがある。

Secondly, we have Employees Provident Fund, which is a major pension fund in Malaysia.

彼らは輸出される資本のかなりの部分を持っている。

They’ve got quite a big sum of capital to be exported.

彼らは、米国で株式で70億ドル近くを投資してきた。

They have invested close to $7 billion, in terms of equity, in the United States.

また、米国でのインフラ再開発を支援するために、3〜4億ドルを投資する予定だ。

And they intend to invest three to four additional billion dollars to support your infrastructure redevelopment in the United States.

そして第三に、私たちのソブリン基金、Khazanahは、シリコンバレーに事務所を持っている。

 And thirdly, our sovereign fund, Khazanah, they have an office in Silicon Valley.

彼らはハイテク企業について約4億ドルを投資している。その投資を増やそうとしているのだ。

They have invested about $400 million, in terms of high-tech companies, and they intend to increase that investment as well.

我々は、Daesh、IS、Al-Qaeda、Abu Sayyaf -と戦うことに全力で取り組んでいる。

we are committed to fight Daesh, IS, Al-Qaeda, Abu Sayyaf -- you name it.

彼らは米国とマレーシアの敵だ。我々は世界を安全にするための一部を担っている。

They are the enemy of the United States, they are also the enemy of Malaysia, and we will do our part to make sure that our part of the world is safe. 

マレーシアの経済力とは

 マレーシアは1957年にイギリスからマラヤ連邦が独立して後、1963年に成立した国です(1965年にシンガポールが分離・独立)。

 立憲君主制(議会制民主主義)を強いているので、ムハマド5世という国王がいます。議会は二院制で、上院70議席(44名は国王任命/26名は州議会指名)、下院が222議席(小選挙区制で直接選挙)で構成されています。

 内政では2008年3月の総選挙で、独立以来政権与党だった「UMNO(統一マレー国民組織)」等が議席を90%から63%まで減らし、アブドゥラ首相からナジブ副首相(当時)への政権移譲がなされました(2009年4月)。2013年5月の総選挙ではナジブ率いる与党連合が133議席(2議席減)を得て再任されています。

 外交方針ではASEANやイスラム諸国との協力を強化しつつ、米国や中国等の大国との等距離外交を図るという特色があります。

  外務省HP(マレーシア:基礎データ )では、その主要情報を概観してみます。

  • 面積:約33万㎢(日本の約0.9倍)
  • 人口:3119万人(2015年)
  • 首都:クアラルンプール
  • 民族:マレー系(67%)/中国系(25%)/インド系(7%)
  • 宗教:イスラム(61%)/仏教(20%)/キリスト教(9%)/ヒンドゥー(6%)
  • 主要産業:製造業、農林業、鉱業等
  • 輸出先:シンガポール(1位)、中国(2位)、米国(3位)
  • 輸出品目:電機製品、パ-ム油、化学製品、原油・石油製品、LNG、機械・器具製品、金属製品、科学光学設備、ゴム製品等
  • 輸入先:中国(1位)シンガポール(2位)、米国(3位)
  • 輸入品目:電機製品、製造機器、化学製品、輸送機器、金属製品、原油・石油製品、鉄鋼製品、科学光学設備、食料品等

 注目すべきは経済成長が続いていることです。

 現在の名目GDPは2963億ドル(2016年)

 実質GDPで見た経済成長率と失業率は以下の通り(出所は世界銀行HP)。

 【実質GDP成長率/失業率】

  • 2007年度:9.4%/3.2%
  • 2008年度:3.3%/3.3%
  • 2009年度:-2.5%/3.7%
  • 2010年度:7%/3.3%
  • 2011年度:5.3%/3.1%
  • 2012年度:5.5%/3%
  • 2013年度:4.7%/3.1%
  • 2014年度:6%/2.9%
  • 2015年度:5%/3.1%
  • 2016年度:4.2%/?

 外務省HPによれば軍事費は422億ドル(2016年予算)。兵員数は10.9万人(陸軍8万、海軍1.4万、空軍1.5万)なので、軍事費にかなりのお金を費やしています。

マレーシアの高速鉄道に新幹線は採用されるのか

 日本のビジネスマンの関心を引くのは、マレーシアへの新幹線の売り込みです。

 つい最近も、8月29日に国土交通省が8月28日にマレーシアとシンガポールを結ぶ「マレー半島高速鉄道」(2026年開業を目指す)のために新幹線を売り込むシンポジウムをシンガポールで開催したりしています。

 そこでは、石井啓一国交相がシンガポールの要人200人に向けて「(日本の)経験、技術、ノウハウを皆さんと共有し、高速鉄道のもたらす効果が隅々まで行き渡るよう協力したい」とPRしたそうです(産経ビズ「日本の新幹線方式、売り込みでシンポ マレー半島高速鉄道に国交省」2017.8.29)。

 最近、中国がややこの高速鉄道計画に手を引く兆しが出てきたので、新幹線が採用される可能性が高まったとも言われています。

 そのいきさつがNewSphere(2017/5/8)で「マレーシア高速鉄道、日本が受注の可能性高まる 有力の中国が断念か 」と題して説明されていました。

クアラルンプールの高速鉄道駅は、再開発プロジェクト「バンダー・マレーシア」で整備される地区に作られる予定だ。「バンダー・マレーシア」は、軍の空港跡地を高級住宅街とオフィス街として開発する計画で、もともと国営投資会社「1MDB」が手掛けていた。「1MDB」は、ナジブ首相がマレーシア経済の発展を目的に創設したが、大規模な腐敗の温床だったと見られており、汚職疑惑は首相自身にも及んでいる。 

 詳細は複雑ですが、「1MDB」が「バンダー・マレーシア」の株式の6割を「中国中鉄」と地元企業の企業連合(ICSB)に約1920億円で売ろうとしたのですが、儲けが見込めないことから中国政府が中国中鉄に投資を認めず、この構想はとん挫したわけです。

「バンダー・マレーシア」の中国出資がなくなったころ、日本側が現地でセールスを強め、新幹線受注の可能性が高まったと言われているのです。

 こうした経緯を見ると、日本企業がマレーシアの汚職に巻き込まれないかどうかが、一抹の不安として残るのですが・・・。