トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

2017年の日露首脳会談 成果は何? 

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(国後島の風景。出所はWIKI画像)

  ロシアのウラジオストクでプーチン大統領と安倍首相は9月7日に19回目の日露首脳会談を行いました。

 もう19回も会談しているわりには、領土交渉は進展していないのですが、そこでは、平和条約締結問題や北朝鮮問題、二国間協力などを議論しました。

 会談では、以下の合意がなされたことが各紙で報じられています。

第十九回の日露首脳会談(2017/9/7)の成果

 昨年12月のプーチン訪日時に北方領土で共同経済活動を進めることで合意したのですが、今回の会談では、そのうち、以下の5つのプロジェクトを早期に進めることを決めました。

  1. 海産物の共同増養殖プロジェクト
  2. 温室野菜栽培プロジェクト
  3. 島の特性に応じたツアーの開発
  4. 風力発電の導入
  5. ゴミの減容対策

 10月初めに、実現に向けての現地調査を行い、具体的な措置(人の移動の枠組みに関する検討等)を加速するために局長級作業部会を設けることや、海上交通の安全を確保するために貝殻島灯台の改修プロジェクトの検討で合意しました。

 日経電子版(2017/9/8)ではその内容が以下のように報じられています「日ロ首脳、5項目で経済協力 北方四島で養殖など」) 。

 会談では、歯舞群島にある貝殻島の灯台改修を「双方の法的立場を害さない形」で検討を進めることも決めた。

  • 観光分野:手つかずの自然景観に加え、色丹島などには日本の元島民が暮らしていた当時の雰囲気が残るなど日本人の観光ニーズが大きいと判断。まず日本人観光客向けの日帰りのクルーズ船ツアーを実現させる。ロシア側と協力し、北海道を拠点とする企業が北方四島の観光開発を手掛ける構想もある。
  • 養殖事業:北方四島の周辺海域で適しているとされるウニやホタテなどを念頭におく。北海道根室市の漁業者の関心が高く、北方領土を拠点とするロシアの漁業会社との共同事業となりそうだ。
  • 特別な法的枠組み:互いに主張する主権を害さないことを条件に話し合いを進める。日ロ双方が対等な立場で参画する公社を設け、事業運営を進める案もあるが「交渉の俎上には載っていない」(外務省幹部)という。

 しかし、日露官民で動いた具体的事業や日本の投資規模は「中国の10分の1の規模」(ロシア政府筋)にすぎず、「ロシア政府内では共同経済活動への関心も薄れつつある」と指摘されています。

 そのほか、北朝鮮問題では、9月3日の北朝鮮核実験が朝鮮半島と地域の平和と安定に対する深刻な脅威であり、今後も緊密な協力が必要だという認識で一致しました。

 二国間協力に関しては、11月か12月に以下の二つの会合を開催することで一致しています。

  • 河野外相がモスクワ訪問。日露外相会談と貿易経済日露政府間委員会を開催する
  • 日露の安全保障協議のために11月にサリュコフ地上軍総司令官、12月にゲラシモフ参謀総長が訪日

 改正租税条約の署名や8項目の「協力プラン」全体に関わる10億ドルの共同投資枠組みの設立などが決まりました。

 改正租税条約では日本企業がロシア投資で得た配当への課税率を下げます(現行15%から5%程度に下がるケースも有)。ロシア企業の対日投資でも税負担を軽減します。

(「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」が全面的に改正されました)

 配当にかかった15%の税金は以下の比率になります(そのほか、特許権や設備使用等は免税)。

  • 年金基金受取は免税
  • 議決権保有割合15%以上・保有期間365日以上の株式は5%
  • 不動産化体株式は15%
  • 政府受取の利子等は10%。

 日露経済共同活動に向けて一歩が進められました。

 しかし、本題の領土交渉はなかなか進んでいないのかもしれません。 

 前回の首脳会談を振り返っても、亀のような遅々たる歩みのように思えてなりません。

第十八回の日露首脳会談(2017/4/27)の成果

 前回の会談はモスクワのクレムリンで行われ、共同経済活動の実現のために両国から現地調査団を5月に送ることで合意。具体化のために優先事業のリスト化や北方領土の元島民の墓参の拡大なども決まりました。

 首脳会談後の記者会見で安倍首相は、「共同経済活動を大きく発展させたい。その双方の努力の向こうに平和条約がある。新しいアプローチを通じて両国国民の信頼を増進させ、2人の間で平和条約を締結したい」と述べたことが報じられています。

(※北方領土での「共同経済活動」は日露の信頼関係深化のために両国による合弁事業(想定分野は漁業やインフラ整備等)を進めるプラン)

 ロシア側はもともと自国法内での事業展開を考える傾向が根強く、日本領内にロシアの法律適用は認められないと主張してきた日本側とは大きな見解の相違がありました。そのため、昨年のプーチン訪日時には、日本法でもロシア法でもない「第三のルール」のもとに進めるとしました。

 しかし、そのルールの中身は不明で、今後、日露双方の法律の違いを埋めるためには延々と調整が必要になるので、今後も両国の交渉が必要になります。

 ただ、今回の会談で話題にのぼったのは、共同経済活動のほか、元島民の往来や北朝鮮問題にかかわる協議等で、領土交渉ではなかったと言われています。

(北朝鮮に関しては、挑発行為を自制するように働きかけることで双方が合意し、プーチン大統領は6カ国協議の再開を提唱しました) 

北方領土交渉は進展していない?

 懸案の領土問題に関しては、もともと、プーチン氏は北方四島は先の大戦を経て正当にロシア領になったと考えています。そして、ロシアでは2018年3月に次期大統領選があるため、プーチン氏は易々と領土で妥協できません。すでに国後、択捉の二島では軍の新駐屯地の建設が進み、樺太と北方領土を結ぶ光ファイバー回線の海底敷設、極東の土地の国民への無償分与なども行われているので、今後の領土交渉は難航が予想されているわけです。

 日本側は日ロ経済活動を契機に、領土交渉を進めたいと考えていますが、プーチン氏は、2016年に「領土を取引するつもりはない」(9/2)とも述べています。

「(日ロ平和条約の交渉に)期限を設けるのは不可能であり、有害だ」(10/27)という発言から見れば、この交渉は長期化することが見込まれています。 

 2016年12月の訪日時、プーチン大統領は「1945年に、ソ連はサハリンを取り戻しただけでなく南クリール諸島(※引用者注:この中に北方領土が入る)も取り戻した」という戦勝国の立場を堅持。「最も重要なことは平和条約の締結だ」としながらも「平和条約締結についても協議したが、すぐに解決できるとの考え方は放棄しなければならない」と述べました(産経5面:12/17)。 

 基本的には、こうしたスタンスは今でも変わっていません。

 日本には中露双方を敵に回せるほどの余力はないので、「外交・防衛閣僚級協議(2プラス2)の再開」等で中露緊密化にくさびを打とうとしていますが、ロシアは北方領土を返還しても日米安全保障条約の対象外にするよう求めてきたりもしています。

 日本がこれに応じた場合、日米安保条約が適用されない範囲が出てくるので、「米政府が尖閣諸島を日米安保条約5条の対象外とする口実を与えかねない」と懸念されているわけです。

 そのため、この要望を飲むことはできません。

 日米安全保障条約を機軸にしながら、中国への牽制球を投げるという趣旨で日露防衛協力を進めていくしかなさそうです。

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北方領土。 地図出典:外務省HPhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo.html

過去の日露交渉の経緯

 一応、ここで過去の日露交渉の過程を振り返ってみます。

 先の大戦の終わり頃に、ソ連は北方領土の四島(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)を占領しました。そして、戦後もそれを手放さず、返還を求める日本との交渉が続きました。

 1956年の「日ソ共同宣言」では、戦争状態の終了、日本の国際連合への加盟支持、ソヴィエトで有罪判決を受けた日本人の帰国が明記され、そこでは歯舞、色丹の二島が平和条約締結後に返還されるとしています。日本側は四島返還論を主張したため、これは条約ではなく、宣言という形になりました。
 その後、アメリカが日本に「二島返還で合意するなら沖縄を返さない」と圧力をかけたり、ソ連が日米安保条約の締結を契機に硬化したり(領土問題の存在を否定)と、複雑な関係が続きました。 

 冷戦後には93年の「東京宣言」で四島の帰属問題について交渉し、「歴史的・法的事実に立脚し両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続」することを明記しました。読みにくい文章ですが、ここでやっと四島返還が議論できるようになったわけです。
 エリツィンからプーチンに大統領が変わり、2001年には「東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結」するとした「イルクーツク声明」が出されました。これは親ロ派の森首相とプーチン大統領とで出した声明です。  

 ほかにも「日ソ共同声明」(91年)や「クラスノヤルスク合意」(97年)や川奈合意(98年)などがありますが、具体的な内容が明確に書かれているのは、前掲の文書です。
 小泉首相とプーチン大統領の間で決めた「日露行動計画」(03年)を見ますと、領土問題に関しては、56年の日ソ共同宣言、93年の東京宣言、2001年のイルクーツク声明が「四島の帰属の問題を解決する」ための過去の外交交渉上の合意文書として、名前をあげて列挙されています。
 この計画によれば、北方領土交渉というのは、「平和条約を締結し、もって両国関係を完全に正常化することを目的とした交渉」だと位置づけられています。

GDP激減のロシアの活路はアジア?

 ロシアの姿勢は強硬ですが、その国内事情を見ると、経済危機が進展しています。

 原油安や欧米からの経済制裁を受け、ロシアは名目GDPが2兆2306億ドル(2013年)から1兆3260億ドル(2015年)にまで激減しました。

 ここには石油や天然ガスなどの資源に依存しすぎた経済の弊害が出ています。

 防衛省が2013年に出した資料によれば、当時のロシア政府の歳入の45%は石油・ガス関連収入で占められていたそうです(『東アジア戦略概観2013』)。資源輸出に依存した経済のために、2014年頃までは100ドルだった原油価格が16年初めには40ドル割れするほど急降下し、それに伴ってGDPも減少しました。

 こうした経緯で、ロシアは中国や日本との関係を深め、アジアに活路を見出そうとしてきました。 

 最近のニュースでは中ロ接近を印象づける報道も多いのですが、ロシアにとって、今でも中国は安心して見ていられる国ではありません、

 例えば、ロシアの極東地域は人口がまばらで領土はだだっ広いのですが、そこに人口過多の中国から訪れる移住者が増えています。

 また、近年、中国は新型の原子力潜水艦(晋級)から大陸間弾道弾を撃てる能力を持ち、核兵器の技術でもロシアに近づいてきました。防衛省防衛研究所が出した『東アジア戦略概観』(2014年版)では、ロシアの安全保障の専門家にとって、この「核戦力の差が縮小する」ことが「最大の懸念」になりつつあることや、ロシア人識者が有事に中国軍がロシア極東地域に進撃し、領土を奪取する可能性を示唆したことなどが紹介されています。 

 日本にとって、核大国の中国とロシアにタッグを組まれるのは、非常に恐ろしい話なので、こうした中露間の埋まらない溝をついて、日露関係強化のクサビを打つことは、非常に大事です。ロシアが中国だけでなくインドやベトナムにも兵器を売っているのは、やはり、隣国の軍事大国を警戒しているからです。

 日本では「日ロ経済活動はロシア側の食い逃げに終わる」「ロシアに騙されるな」という声も根強いのですが、こうした観点から見れば、日露関係の強化というのは、進めるべき価値のある政策だと言えるのではないでしょうか。