トランプ政権と日本・アジア 2017

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日韓が核のタブーを破る? 米軍との「ニュークリア・シェアリング」はありえるのか

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(出所はWIKI画像)

  北朝鮮の核開発の本格化への対策として、まず、韓国で米軍の核を再配備せよという議論が提起されています。

 今日は、北朝鮮の核開発として、どんな選択肢がありうるのかを、今までよりも踏み込んで考えてみます。

韓国で「戦術核再配備」論が浮上

  1991年、「冷戦終了」に伴って在韓米軍が戦術核を全て撤去し、その後、核再配備論はタブーとされてきました。しかし、北朝鮮の核開発の本格化に伴い、それが破られようとしています。

 産経ニュースはその詳細を9月3日の記事で紹介しています。

(出所:〔タブー破った韓国国防相「戦術核再配備」発言 保守層で急浮上…対北「非核化」要求は有名無実に〕2017.9.3)

 「韓国の野党やメディアから戦術核兵器の再配備を求める声が出ている」(※宋永武国防相)

 8月30日、宋氏が米国のマティス国防長官やマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)との会談でこう述べたことが明らかになった。

 その後、文在寅(ムン・ジェイン)政権は火消しに追われたわけですが、保守陣営は核再配備を主張しています。

 最大野党、自由韓国党が8月中旬、戦術核再配備の推進方針を決めるなど、保守系野党や保守系紙の間で再配備を求める声が急速に高まっている。ICBMなど米本土を狙った北朝鮮の核兵器完成が時間の問題とされる中、同党幹部は「われわれが非核化原則を守ってきたことは事実上、無意味になった」と主張する。

 戦術核(=戦術核兵器)というのは、飛距離が500km以下で、短距離ミサイルや野砲等で発射でき、爆発規模が数キロトン以内の核兵器のことです。核弾頭だけでなく、今ではあまりなじみのない「核地雷」「核機雷」「核砲弾」等が含まれています。冷戦期には、敵軍の最前線部隊の壊滅等を想定して戦術核が配備されていましたが、91年以降、「ソ連の脅威」が弱まったことを理由に、韓国から撤収されたのです。

日本でも核と憲法の議論が本格化する?

 日本でも保守系の言論人が危機感をつのらせ、防衛政策の変更を提言しています。

 その代表格の提言として、櫻井よしこ氏の主張を見てみましょう。

(出所:産経ニュース【櫻井よしこ 美しき勁き国へ】2017.9.4〔北への「最も強い表現」での抗議限界に 日本よ 自立へ核武装と憲法議論を〕)

  • 「米国が長年最大限忌避してきた日本の核武装についてさえ微妙な変化が見え始めた。日本に自立を求め、同盟国としての責任をまっとうする軍事貢献を強く求めているのが、現在のトランプ政権である。日本にとって場面展開の好機だ。国の土台である憲法についての議論に、内外の共感と支持を得る条件は以前より整い始めている」
  • 「韓国保守派の主張は、軍事問題、とりわけ核武装についてほとんど議論してこなかった日本人にとって興味があるはずだ。議論のポイントは(1)米国に戦術核再配備を要求する(2)米国が拒否する場合、韓国は核拡散防止条約(NPT)第10条に基づいてNPTから暫定的に脱退して核を自主開発する。核保有国として北朝鮮と交渉し、相互に核を放棄した段階でNPTに復帰する(3)核武装宣言だけをして行政手続きを準備することで、外交的、政治的効果を生み出す-の3点である」
  • 「(1)については、現代の長距離ミサイルの性能を考えれば、日本国内に配備してもらう必要性はないだろう。また、(2)や(3)を宣言するよりも、日本の場合は国民が現実を見ることができるように、できるだけ情報を公開するのがよい」
  • 「他に例を見ない程の米国依存の国防体制が日本である。憲法にがんじがらめに縛られている点で、わが国は世界で最も脆弱な国家だという事実を繰り返し訴え、国民と共有することが大事だ」

 こうした危機を見た時、日本も核と憲法改正についての議論を公にすべきだとしています。 

欧州では今でも戦術核が配備されている

 米軍の核再配備がなされた場合、東アジアにも欧州と同じ体制が敷かれます。

 欧州ではロシアの最前線部隊などを撃破するために「戦術核」が配備されてきましたが、東アジアでも同じような核が並ぶことになるわけです。

 核配備の形態には、米軍だけが核を使用するケースと、米軍と同盟軍が共に核を用いるケースの二つがあります。

 前者は米軍が引上げを決めたら「終わり」なので、欧州では後者の「ニュークリアシェアリング」が導入されています。結局、日本や韓国は欧州軍ほど信頼されていないので、冷戦期でも後者の「ニュークリア・シェアリング」は実現していませんでした。

 しかし、今後、北朝鮮の核や中国の核の脅威が本格化すれば、日韓も「ニュークリアシェアリング」を求めざるえをえなくなるのかもしれません(これはNPTとは矛盾しないことになっています)。

 結局、ミサイル防衛には限界があるからです。

ニュークリア・シェアリングとは

 ニュークリア・シェアリングとは、非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)の第三項を見直し、米国の核の「持ち込み」を認め、それを日本と米国で共同運用することで、抑止力を強化することです。

 この政策は、NATOとアメリカとの間でも採用されていることから、これは日米同盟と矛盾しない核保有プランだとも言われています。

 アメリカは1970~80年代にソ連がヨーロッパを狙って配備した「SS20」(最大射程5000キロ)に対抗し、西独に「パーシング2」(同1800キロ)を配備しました。(現在は撤去されている)

 ニュークリア・シェアリングとは、米国が管理する核兵器を同盟国に配備し、有事に米国の許可のもとに同盟国と共同運用する仕組みです。NATOでは、今もドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコに計180発の米軍の核兵器が置かれています。

 日本では、京大の中西輝政氏などが、この欧州の核シェアリングをモデルとした日米の核兵器の共同運用を提唱しています。その意義を、(中西輝政編著)『「日本核武装」の論点』P53~54)にて、以下のように説明しています。

【二国間の同盟強化】

「イギリスは米国の核に頼るけれども、米国だけに核のボタンを持たせるのではなく、イギリスも核のボタンの一つを握り、米国が勝手に押したり、引き揚げてしまったりできないようにしている。しかも米英共同で核のボタンを握る、というシステムであるため、米英同盟にはさらに強い安定構造が生まれた」

【独自の核開発は危険】

「日本が『アメリカと完全に切れた』形で、半ばパニック状態で独自の核開発に向かおうとすれば、必ずその移行期に中国(場合によると中国と朝・露など)からのあからさまな核威嚇、さらには軍事的先制攻撃を受け、すべてを『つぶされて』しまう可能性が極めて高くなる。移行期には『アメリカの傘』もなく、独自の抑止力もない最も危険な状態になるからだ」

 米国が日本の核開発に拒絶反応を示す可能性や、独自保有にかかる時間などを考えると、ニュークリア・シェアリングのほうが、実現可能性が高いのではないか、と見られているわけです。

ニュークリア・シェアリングは日本でも冷戦期に検討されていた

 日本の核シェアリングに関しては、実際に、冷戦期にも議論されていたことがあります。

 2015年1月18日付の東京新聞(朝刊)では、1957年に自衛隊と米軍による核使用を想定した共同図上演習「フジ」の概要が報道されています。

 この記事は、黒崎輝(あきら)・福島大准教授と共同通信社が米国立公文書館で見つけた文書をもとに、内密にニュークリア・シェアリングを進めようとしていたと批判したものです。
 当時の自衛隊幹部から米軍に「自衛隊に核兵器を貸与するか」「日本の核武装を支援するか」などを問い、米軍側は「核兵器に関する支援の提供は日本の要望と能力次第」「米国は日本が自衛隊に適切な核兵器を導入することを望む」などと答えていましたが、当時、日本にもNATOと同じ核シェアリングを進めたいとの意向があったわけです。
 しかし、この構想は、50年代後半の反核運動や安保闘争もあって、政治的には断念せざるをえませんでした。
 東京新聞は、「国民に伏せたまま制服組が核共有を構想した戦後史の裏面が明るみに出た」と批判していますが、アメリカよりも早くソ連がスプートニク人工衛星を打ち上げ、西側諸国が危機感を募らせていた時代状況を考えれば、やや的外れな批判です。これは、当時の自衛隊幹部が必死に日本を守る努力をしていた営みだったとも言えます。
 その後、ソ連崩壊によって、幸運にも核攻撃の脅威が薄れたわけですが、その後、中国が核戦力の拡大を続けました。

「米国の核」に信頼性を持たせるための「シェアリング」

 ニュークリア・シェアリングという仕組みを理解するには、冷戦時代にソ連とヨーロッパが対峙していた状況を理解することが大事です。

 特に問題となったのは、ソ連がヨーロッパ全域を脅すために配備した「SS-20」という中距離弾道ミサイルでした。

 当時、ソ連はこの「SS-20」に積んだ核弾頭でヨーロッパ全域を脅かすことができたのですが、在欧米軍に配備されていた「パーシングⅠ」の射程距離は700km。欧州に近いソ連の地域しか狙うことはできません。

 ソ連がヨーロッパ全域を「SS-20」で攻撃してきた場合は、アメリカ本土からの長距離弾道弾で反撃せざるをえない体制になっていました。

 しかし、アメリカが長距離弾道弾を発射した場合、ソ連も同じく長距離弾道弾を打ち返してきます。

「アメリカがもし本土から報復攻撃した場合には、ソ連もまたアメリカ本土に再報復攻撃をかけて対抗することになり、結局米ソの本格的な核戦争に発展する」「この戦略では、アメリカもソ連も政経中枢の相当部分を失うし、何百万人の国民が犠牲になる可能性がある」(防衛システム研究所編『核神話の返上』)

 その事態を想定した時、「ヨーロッパから、アメリカはソ連と核戦争をしてまで、ヨーロッパを守ることができるのか?」という疑問が出てくるわけです。

 実際、ドゴール大統領はケネディにこれを問いかけたわけですが、返答として、十分な確証を得ることはできませんでした。

 こうした背景があって、欧米では「SS-20」に対抗できるだけの核兵器を共有する仕組みがつくられたわけです。

「NATO諸国は、ヨーロッパが限定的な核戦場になった場合には、アメリカ本土に拡大させずにヨーロッパだけで収められる核抑止の体制をつくっておかないと、ソ連が意図する米欧分断が現実のものとなるとの危機感を持っていた。そのためには、ヨーロッパを脅かしている『SS-20』と対等のミサイルを、ヨーロッパに配備する必要が強調され、結局アメリカは西欧諸国と何度も協議を重ね、パーシングⅡ・ミサイル(射程=約1500km)と巡航ミサイル(射程=約2400km)を西ドイツなど西欧諸国に配備することになった」

「局地の核脅威を局地で収める態勢を作らなければならないという考え方には、局地の核脅威を取り除くために、大国は自らの本土を危険に晒すような選択肢を採らないだろうとの考えが下敷きになっている」

(防衛システム研究所編『核神話の返上』)

  アメリカがソ連と大陸間弾道弾を打ち合う全面的な核戦争の危険を冒してまでヨーロッパを助けるとは信じがたいので、「SS-20」を抑止するための核ミサイルをNATO軍とアメリカ軍が共有する仕組みがつくられました。

 このニュークリア・シェアリングでは発射権限がアメリカ軍とNATO軍に共有されており、アメリカ軍のみのOKでも、NATO軍だけのOKでも、核ミサイルは発射できません。

 ダブルキー方式の下でもアメリカが同盟国のために本当に核戦争のリスクを冒すのかどうかには疑問が残りますが、そうであっても、核を持たない丸腰の状態よりはマシです。そのため、NATOは核シェアリングを進めました。

 アメリカの核戦力は強大ではありますが、東アジアでは、中国が近隣諸国を脅かすに足るだけの核戦力の強化を続けています。

 中国はすでに近隣諸国をいつでも核攻撃できる以上、単に、「アメリカの原潜と本土に長距離核弾道ミサイルがあるから、日本や韓国、台湾などが安泰だ」とは言い難い状況です。

    この上に北朝鮮の核が実戦配備されれば、日本はロシア、中国、北朝鮮に包囲されることになるのです。

    もはや非核三原則だけを奉じていればよいとは言い難い状況なのです。