トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

テリーザ・メイ首相訪日とこれからの日英関係

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 (ウェストミンスター宮殿。出所はWIKI画像)

  メイ英首相は8月30日から9月1日まで訪日します。

 訪日中には日英首脳会談や夕食会だけでなく、天皇陛下との御引見が行われます。

 メイ氏が首相として訪日するのは初めてですが、安倍総理大臣とは2016年9月の国連総会、2017年4月の安倍首相訪英、7月のG20ハンブルクサミットで、すでに累計3回の首脳会談を行いました。

 このたびの訪日で、日英関係をいっそう強化することが期待されています。

 今回は、このメイ訪日を取り上げてみます。 

メイ首相の経歴

 メイ首相の本名はテリーザ・メアリー・メイ(Theresa Mary May)。生まれは1956年(60歳)なので、台湾の蔡英文総統と同じ世代です。

 生地はイギリスの最南部にあるイーストボーン(イングランド南部)で、父はイングランド国教会の司祭でした。

 12歳の時に政治家を志し、公立学校からオックスフォード大学(地理学専攻)へ進学。24歳の頃、夫のフィリップ氏と知り合うのですが、この出会いはのちにパキスタンの女性宰相となるブット氏(2007年に暗殺される)の紹介によるものでした。ブット氏は1953年に生まれているので、年代的にはメイ首相とは近いわけです。

 若いころに父が交通事故で死に、母は病死しているので、メイ氏は夫を心の拠り所にしているともいわれています。

 金融業界でキャリアを形成し、イングランド銀行で働いた後、銀行共同支払決済機構(APACS:Association for Payment Clearing Services)などで活躍しました。

 その後、二回の落選の後、1997年に保守党の下院議員に初当選しました。2002年に保守党の幹事長となり、2003年には枢密顧問官となりました。

 野党時代にはシャドーキャビネット(影の内閣)の「閣僚」を務め、2010年に保守党が政権復帰すると、内務大臣となります。このころは、増え続ける移民関連の行政を取り仕切り、出入国管理の厳格化などを行いました。

 このころ、違法移民に向けて「帰国せよ。さもなくば逮捕だ」という宣伝文句をつけた車両を全国に走らせたなどの逸話が残っています。

 メイ氏は自分の感情を露わにせず、政治家同士のなれあいをしないことから、メディアからは「氷の女王」とも呼ばれていました。

 しかし、わりと厳格なキャラに見られがちですが、ヒョウ柄の靴をはいたりとお洒落な一面もあります。

 メイ氏に党首になるチャンスが回ってきたのは2016年6月23日のEU離脱国民投票の頃です。

 同氏はこの時、消極的ながらも残留派の側につき、離脱決定後のキャメロン首相辞任を経て、保守党党首選に立候補します。

 この党首選は5人が立候補し、候補者の辞退続出となった結果、7月12日にメイが唯一の候補者となり、党首就任後に首相となったわけです。

 EU離脱投票の時、メイ氏は消極的ながらもEU残留派でしたが、首相就任後は、国民投票の結果を受けて離脱のための手続きを一歩一歩と進めています。

トランプ当選後、米英の「特別な関係」が復活

 イギリスにとってはアメリカは輸出入の1~2割を占めているので、メイ首相はまずはアメリカと話をつけ、その後、日本やインドや中国など、主要国と自由貿易交渉協定をまとめたいと考えています。

 メイ首相は1月27日に米英首脳会談を行いました。

 トランプ政権発足後、ホワイトハウスではチャーチルの銅像がもう一度、執務室に置かれることになりましたが、最近は、英米の「特別な関係」が復活しつつあるのかもしれません。

 BBCの記事を見ると、メイ首相が27日(金)に訪米することを報じ、英政府が「特別な関係」を重視してトランプ新政権に送った祝辞を紹介しています(Theresa May to meet Donald Trump on Friday - White House)。

「今までの対話を経て、私(メイ)は、我々の関与は英米の特別な関係を促進し、大西洋両岸の繁栄と人びとの安全のためにあることを認識している」

"From our conversations to date, I know we are both committed to advancing the special relationship between our two countries and working together for the prosperity and security of people on both sides of the Atlantic.

 米国と各国との同盟関係の存在は知られていますが、その内実は意外と理解されていません。

 松村昌廣氏(桃山学院大教授)は『軍事情報戦略と日米同盟』という著書で、アメリカと七か国の同盟を比べていました。

 この中では「米国ー英国」の同盟関係が最も緊密で、それは基地施設、ミサイル供給、ミサイル発射場、兵器生産、兵器の共同研究・開発、軍事情報にわたる多数の協定で構成されています。

 この次に位置するのが「米国ーカナダ」「米国ーオーストラリア」というアングロサクソン諸国との同盟です。

 松村氏は、このアングロサクソン諸国との緊密な関係が米国の同盟のインナーサークルを形成し、フランスやドイツ、日本などはその外側に置かれていると指摘しています(イスラエルはアングロサクソンではないが特別扱いされている)。

 フランスはかつてドイツと共に戦った仲間なので、安全保障上の連携はしますが、独自外交が強い国です。そして、ドイツはかつての旧敵国ながらソ連の脅威のために仲間になった国という位置付けになります。

 そして、訪米中のメイ首相は、フィラデルフィアの共和党会合で以下のように演説しました(AFP通信「訪米中の英首相、安全保障でトランプ氏の主張に理解を示す」)

 メイ首相はまた、トランプ氏が世界の安全保障における米国の防衛費負担に不満を示していることに同調し、「われわれを強固にしている同盟関係を、(同盟国が)自らが担う部分の増大とその遂行を怠ることによって弱体化させるべきではない」と述べた。

 一方、NATOや国連(UN)などの国際機関の在り方を見直す必要があることには理解を示しつつも、テロや気候変動などの世界的な脅威に対する協力を推進するうえでそれらは必要不可欠だと述べた。

  トランプ政権とNATOの関係が微妙になっているタイミングで訪米し、イギリスがその間を取り持つバランサーとなることをPRしたわけです。27日の米英首脳会談では、以下の内容が決まっています。

  • 米英の「特別な関係」を深化する
  • 今後、米英二国間通商協定の早期締結に向けた協議を行う
  • IS(イスラム国)の殲滅のために英米の軍事協力強化で合意
  • NATO(北大西洋条約機構)の重要性を確認
  • トランプ大統領が年内に英国を公式訪問
  • 対露関係改善に前向きなトランプ氏(制裁解除は時期尚早とも発言)、メイ氏は対露制裁の継続を主張

(※トランプ氏は対露関係改善を目指したが、17年7月に対露制裁法案が成立)

メイ首相の訪日の狙いと日本側の思惑

 メイ首相が30日に日本へ公式訪問しました。

 日本に来た主な目的は、EU離脱の懸念を払拭するためです。

 英国での日本企業の拠点としては、日産自動車のサンダーランド工場が有名ですが、日系企業はすでにイギリスで14万人もの人員を雇っているので、EU離脱の影響がどうなるのかを昨年から注視を続けています。

 メイ首相には数多くの企業の経営者が同行していますが、イギリスは2019年にEU離脱を完了するまで貿易協定を結ぶことができません。今回の訪日は、19年までの不透明感を払しょくするための機会でもあるわけです。

 日本はEUと7月に経済連携協定(EPA)で大枠合意し、8月末のメイ首相訪米を通して、日英関係の強化を目指しています。

 安倍首相はこの会談で、メイ首相にEU離脱が日系企業のイギリスでの事業展開に悪影響を及ぼさないことへの確証を求め、今後、英国とEUの関係構築の詳細を探るともいわれています。

 メイ首相は30日に訪日し、京都の市内の表千家不審庵で25分ほど安倍首相とお茶会をしました。

 その後、午後6時50分から約75分間ほど、日英首脳は京都迎賓館で夕食会を開催。

 安倍首相が京都迎賓館で外国首脳を迎えたのは、2014年のモディ印首相訪問、2015年のバルス仏首相の時以来で、これは4月の訪英時に安倍首相がイギリス首相別荘(チェッカーズ)に招待されたことへの返礼だともいわれています。

 今回のメイ首相との非公式会談では、以下の二点が話し合われました。

 安倍首相は、8月29日の北朝鮮によるミサイル発射の詳細を説明し、日英首脳はこの挑発行動が「これまでにない深刻かつ重大な脅威」であり、「断じて容認できない」との認識で一致しました。

 そして、北朝鮮への圧力強化や国連等で連携、中国に更なる役割を求めること、東シナ海や南シナ海で連携すること等でも一致したことが公にされています。

(出所:日英首脳による表千家でのお茶会及び夕食会 | 外務省

 その後の予定は、以下の通りです。

 31日にメイ首相は東京・元赤坂の迎賓館で会談。そこで日英共同宣言を発表。メイ首相は国家安全保障会議(NSC)の特別会合に出席。海自護衛艦「いずも」にも乗艦します。

 その後、天皇陛下との会見等も予定されています。

 メイ首相は訪日前に「安倍首相とはEU離脱後の自由貿易協定締結に向けて特に意見交換したい」「日本はアジアにおける最も親密なパートナーだ」と述べ、北朝鮮のミサイル発射を批判しています。

「違法な実験であり、我々は強く非難する。この違法行為をやめるよう北朝鮮に確実に圧力をかけるため、日本や海外のパートナーと協力していく」

メイ英首相が日本を公式訪問 EU離脱めぐる懸念の払拭目指す - BBCニュース

 公式会談後、安倍首相が主催する歓迎夕食会には、経団連の榊原定征会長や英国に投資する日本企業トップらが出席し、経済シンポジウムやメイ首相同行団と日本財界の懇談会が開催されます。

 そこで日本側はメイ首相にEU離脱が日本企業に悪影響がでないように対応を要望します。

 経団連は英国とEUに対し、2019年3月までに通商の枠組みを確立させることや、確立できない場合の移行期間に現状を維持することを提言。

 日本企業は以下のような取り組みを行っています(〔メイ首相来日 「離脱」対応を英国に要請へ 日本企業、強まる警戒感〕産経BIZ)

 三井住友フィナンシャルグループ(FG)はドイツのフランクフルトに新たに銀行と証券会社の現地法人を19年3月に設立する。EU全域で自由に営業できる「単一パスポート」をロンドンの拠点で取得していたが、英国以外のEU加盟国で営業ができなくなるため、改めて申請する必要があるためだ。証券大手各社も同様にドイツに新拠点を開設していく方針だ。

 また、英国で鉄道車両工場を運営し、原子力発電所の建設も進める日立製作所が「今後の離脱交渉や、その他の経済協定の動向を注視し、慎重に対応する」姿勢を示す。日本企業のEU離脱への警戒感は強まっている。

 日経電子版(8/29)によれば、その夕食会には数多くの日本企業が終結するようです(「首相がメイ氏と31日夕食会、日本企業トップ集結 英重視を強調」)

 金融、運輸、商社、医療などの分野で英国に投資する二十数社のトップが出席する。3メガバンクや野村証券のほか、日本郵船、日本航空、三菱商事などが名を連ねる。経団連の榊原定征会長も参加する予定。安倍首相はスピーチで英国を重視する立場に言及する見通しだ。

  31日以降の正式会談で何が決まるのかを注視したいものです。

日英首脳会談の内容(追記)

 その後、31日に正式会談がなされ、以下の合意が声明で明らかになりました。

 メイ首相は破格の待遇でもてなされ、日英関係強化の方針が固まっています。

「日英共同ビジョン声明」では、特に以下の三点が注目です。

  1. (日英が)インド太平洋地域において共有する課題に取り組む
  2. 日EU経済連携協定(EPA)の早期署名及び発効を引き続き支持する。英国のEU離脱に伴い,我々は,日EU・EPAの最終的な規定を踏まえ,日英間の新たな経済的パートナーシップの構築に速やかに取り組む。
  3. 我々は,2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議において採択された気候変動に関するパリ協定にコミットしている。

 1はインドも含めて日英印でインド太平洋圏での協力を強化する方針です。

 2は英EU離脱対策。3はトランプ政権とは違う路線を打ち出しました。

 そのほか北朝鮮対策での連携や「安全保障協力に関する日英共同宣言」「繁栄協力に関する日英共同宣言」が打ち出されました。その中の各論の幾つかを紹介してみます。

  • 朝鮮半島の非核化と国連安保理決議の厳格で十分な実施に向け、友好国・同盟国と協働。
  • 英国空母の展開といった陸海空軍の派遣を通じたものを含む、アジア太平洋地域への英国の安全保障面での関与の強化を歓迎。
  • 日本は、共同演習のため、自衛隊の人員、航空機または艦艇を英国へ派遣する機会の可能性を検討。
  • 共同演習の実施を強化し、その定例化を探求。
  • 日本は五ヵ国防衛取極(FPDA)を通じたアジア太平洋地域の安全保障への英国のコミットメントを歓迎。
  • 最近締結された物品役務相互提供協定(ACSA)に基づき、後方支援、技術支援及び専門的な支援の相互提供に関する協力を強化。
  • 自衛隊・英国軍間の共同運用・演習促進。防衛装備・技術協力を強化
  • 英国は、日本の国連安保理常任理事国入りに対する強い支持を改めて表明。
  • 日本による英国への投資を歓迎。非関税措置を含む市場アクセスの向上のため協働。英国産の牛肉と羊肉の日本への輸出再開に向けた進展を維持。安全と証明された福島県産品を含む食料・飼料に対するEUによる輸入規制の撤廃を支持。
  • 英国は、WTOでの独立したコミットメント確立に対する日本の支援を歓迎。複数国間協定の進展のために協働することにコミット。
  • 高級実務者による新たな産業政策対話の開始を決定(宇宙、航空、エネルギー・気候変動、先端製造業及びバイオ経済など)。
  • 英国での新原発建設計画への日本の産業界の関与を歓迎する。

 ある意味では、日英同盟以来の協力関係が復活し始めているのかもしれません。

 アジア太平洋に英国が返ってきつつあるとも言えそうです。

 

※在ロンドン国際ジャーナリストの木村正人氏は、このたびのメイ首相訪問の背景には英国と中国の関係の変化があり、それが日英関係強化のチャンスになったことを指摘しています(出所:アメリカの衰退見据え「日英同盟」の再構築を 英首相メイと安倍首相の握手 |  ニューズウィーク日本版

  • 「日本でG7(先進7カ国)首脳会議が開催されるか、中国との関係がまずくなっている時でない限り、イギリスの首相は日本にやって来ない」
  • メイは、「英中黄金時代」を仕掛けた前財務相ジョージ・オズボーンをパージし、原発発注に関して中国企業の持ち分が全体の50%を超えないようきつい縛りをかけたため、中国の国家主席、習近平から完全に睨まれた。7月末の訪中を予定していた中国からは待てど暮らせど、お呼びがかからない。