トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

【文在寅政権】政策一覧/大統領の経歴 

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(国連軍管理「キャンプ・ボニファス」入口。出所はWIKI画像)

 文在寅政権はどうなるのか。

 日本人には読み方が分かりにくい韓国の大統領が就任してから100日が経ちました。

 そして、金正恩は相変わらず、元気はつらつとしてミサイルを撃ちまくっています。

 日本の安倍政権は支持率が急落し、近い時期に発足したフランスのマクロン政権も支持率が3割台に急落。

 しかし、文政権はなぜか高支持率をマークしています。

 韓国ギャラップ社が8月25日に発表した世論調査(22~24日に成人1004人を対象)によれば、文大統領の支持率は79%!(聯合ニュース8/25)

 前週は78%でしたから、これは驚異的な数字です。

 筆者は別に文政権が素晴らしいとは思っていないのですが、これだけの難しい時節に8割近い支持率を維持していることには驚きを禁じ得ません。

 これは、文在寅が良くも悪くも「並」ではないことを意味しているのでしょう。

 今回は、その文在寅政権の政策について考えてみます。

文在寅政権:政策一覧

 まず、就任後に文政権が打ち出した政策をざっと見てみます。 

  • 北朝鮮に軍事・赤十字会談を提案  ⇒ シカトされる   
  • 北朝鮮に核兵器放棄を呼びかけ ⇒ 金正恩は「ICBM」発射で返答 
  • 徴用工問題「個人請求権」を提起 ⇒ 日本側は「すでに解決済み」と反発 
  • 日韓慰安婦合意を再検証 ⇒ 日本側は合意は「不可逆的」と返答 
  • THAADミサイル配備で合意 ⇒ 米安堵。中国は韓国企業ボイコット  
  • 2020年に最低賃金1万ウォン ⇒ 人件費増を懸念。労働者には恩恵? 
  • 公共部門の非正規職を正規化 ⇒ 企業も追随。人件費増が懸念事項 
  • 脱原発・老朽火発の閉鎖 ⇒ 電気料金上昇と供給不安定化の危険性 
  • 富裕層への所得税増税 ⇒ 富裕層は不満。低所得層は期待 
  • 大企業への法人税増税 ⇒ 大企業は反発。左派層は歓迎

 格差是正を訴えたことが大衆の人気を博した理由なのかもしれませんが、外交・安保政策は、あまりうまく行っていません(こちらはもともと期待されていないのかもしれませんが)。

文在寅政権の経済政策

 当ブログはわりと文政権の外交・安保政策を取り上げてきたので、まず、就任後の経済政策に焦点をあててみます。

 文政権は低成長や雇用問題、格差是正への対策を打ち出そうとしています。

 前掲一覧に出した、最低賃金の引き上げや公共部門の雇用正規化、格差是正のための増税政策はその典型です。

 図表には書けませんでしたが、増税対象になるのは課税標準2000億ウォン超の企業(22%⇒25%) と課税標準5億ウォン超の個人(40%⇒42%)です。

 また、雇用政策やエネルギー政策は、結局、企業の負担増につながるのではと懸念されています。

 これに関しては、日経記事(2017/8/19:朝刊9面)にも書かれていました(以下、その要点)。

  • 韓国政府が2018年の最低賃金を16.4%増と決めたため、全紡(紡績メーカー)は6工場の半分を閉鎖し、600人を解雇する方針。
  • 最低賃金引上げで中小企業の雇用抑制や零細企業破綻が進むことを西江大の南盛日教授は懸念。
  • 韓国政府は脱原発しても電気料金はさほど上がらないと楽観するが、文氏陣営のエネルギー政策を担当した金座官教授(釜山カトリック大)は2030年までに電気料金が25%上がると予測。
  • 韓国紙(文化日報)が152社対象に行った調査では電気料金が10%上がれば営業利益は平均30%減るという。

 これはかなりきついのではないでしょうか。

 日本で言えば、民主党政権の頃のような路線に見えます。市場経済の優勝劣敗に対して格差是正や弱者救済を掲げています。

 そのほか、文政権ではソフトウェア開発や第4次産業革命をリードする人材育成や、大企業中心から中小・ベンチャー企業を中心にした経済への転換等をうたっています。

 計画では任期を3期(革新期/跳躍期/安定期)にわけて5か年計画を掲げましたが、日本の各紙記者の関心を引かなかったのか、国内紙ではあまり紹介されていません。 

文在寅政権の外交政策

 文政権の外交政策の大きな眼目は「南北対話」でしたが、結局、空振りに終わっています。その過程は以下の通りです。

 文大統領はトランプ大統領との会談を終えた後、6月30日に米戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、「金正恩(キム・ジョンウン)委員長だけが核放棄を決定できる唯一の人物だ」「対話することも必要だ」等と表明しました(一応、金政権の挑発への対応は必要だとしている)。

 そして、7月3日に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とソウルで会談した折に、文大統領は「北朝鮮が平昌五輪に参加すれば朝鮮半島地域と世界の平和に役立つ」等と発言しました。 

 そして、7月6日にはハンブルクサミットのために訪問したベルリンにて、対北挑戦政策を表明しています。

 日経電子版(2017/7/7)によれば、その内容は以下の通りです(「韓国・文大統領、南北融和に執着 日米連携の不安材料に」)。

 【五大原則】

  1. 韓国は平和を追求
  2. 朝鮮半島の非核化追求と北朝鮮の体制を保障
  3. 平和協定締結を推進
  4. 朝鮮半島に新たな経済地図を描く
  5. 交流・協力事業を進める際には政治・軍事的な状況を切り離す

 【四提案】

  1. 南北対話の再開(韓国統一省が前述の南北赤十字実務会談や軍事実務会談の実施を準備)
  2. 朝鮮戦争休戦日(7月27日)に合わせ、軍事境界線から緊張をエスカレートさせる一切の敵対行為の中止
  3. 10月4日に南北離散家族再会事業の開催(双方の墓参りを含む)
  4. 2018年の平昌冬季五輪への北朝鮮の参加

 文氏は北朝鮮のICBM発射後も親北路線を出しています。ドイツでこれを明らかにしたのは、東西ドイツの統一に朝鮮半島の南北統一になぞらえるためでしょう。 

 しかし、非人道的な政治を続ける北朝鮮の体制をなにゆえに維持しなければいけないのか。そうした国と平和交流や協力事業を進めなければいけないのかーーその理由の説明は不十分です。

 日経電子版(2017/7/16)では、文大統領の安保構想を紹介していました(韓国大統領、「北東アジアの平和」訴え 8月15日に)。 

文大統領は北朝鮮との南北関係の進展や日中韓の3カ国協力とともに、日中韓とロシアに東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドを合流させる多国間の安保共同体構想を描いている

 しかし、その実現の道のりは不透明です。

 現在、機能している同盟は、日本と米国、韓国と米国、豪州と米国、英国と米国等と「二国間」のものが多いわけですが、加盟国が増えると国益の一致度が下がり、協力関係が緩くなりがちです。そのため、文氏がいうような多国間の安全保障協力が機能するかどうかは、疑問符をつけざるをえません。

 多国間条約のNATOが機能する背景には、1)仮想敵国(ロシア)が明確で、2)欧州各国の文化・価値観の共通性が高く、3)利害関係が一致しやすい、という要素が挙げられますが、文氏が挙げた、日中韓、ロシア、ASEAN、インドは仮想敵国は違い、価値観もバラバラ、利害関係もバラバラです。

 文氏がいう安保共同体なるものは、できたとしても、名ばかりで実体のない枠組みにしかならないでしょう。

 文氏は、戦時作戦権(有事の米韓同盟の指揮権)を韓国に返還することを米国に要望し、6月末の首脳会談でトランプ大統領の合意を得ましたが、これが実現すれば、米韓同盟は確実に弱体化します。

 米軍は他国軍の指揮下には入らないので、朝鮮有事の折に韓国軍の指揮には従いません。戦時作戦権が米軍から韓国軍に移管されれば、米軍は韓国軍に戦争を委ね、被害が最小限になる範囲でしか戦わなくなる可能性が高いのです(米軍はすでにソウル以北から、ソウルの南に拠点を移している)。

 文大統領は、戦後70年間の安全を保障した米韓同盟を弱体化し、あてにならない多国間の”安全保障機構”にすりかえたがっているようです。

(※文大統領の歴史認識問題についての主張は、当ブログ関連記事【「徴用工」強制連行 個人請求権を主張する文在寅に反論を】を参照)

文在寅の経歴

 最後に、文在寅の経歴を振返ってみます。

 文在寅は1953年1月に生まれました(現在64歳)。

 両親は朝鮮戦争の戦火を逃れ、1950年の終わりごろに、朝鮮半島の北東部から米軍艦艇に乗って釜山に近い巨済島の難民キャンプに逃れました。食糧にも事欠くなかで文在寅氏は苦学し、名門の慶南高校を卒業してソウルの慶煕大法学部に進学。大学生の頃に朴正煕政権に対抗する「民主化運動」に参加しました。朝鮮戦争が終結していない(今も停戦中)韓国では軍政の保守政権に、左派系の闘士が民主化運動を挑む構図が長らく続いていたので、文氏から見れば、そうした「革命運動」が、このたびの大統領選で朴槿恵政権崩壊に伴い、ようやく「実を結んだ」ことになるわけです。

 文氏は大学生時代から政治活動に邁進し、何度も逮捕されています。

 卒業後は弁護士になりましたが、司法試験の合格通知を受け取ったのは、なんと、留置場の中なのだそうです。紆余曲折の後、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の選挙活動を秘書として支え、その後、大統領府で秘書室長になります。

 2012年の大統領選挙では朴槿恵氏に4%差で敗れましたが、朴氏のその後の体たらくをみて、「やはり、文氏のほうがよかった」という「民意」が台頭。「共に民主党」から出馬した文在寅氏は北朝鮮に対する融和政策等を掲げ、17年の大統領選で1342万3800票(41.08%)を得て、当選しました。

(※「共に民主党」というのは、金大中元大統領を中心にした民主化運動の流れをくんだ政党であり、全羅道地域を地盤とする民主党と、文在寅氏を中心にした市民統合党が統合し、そこに安哲秀氏の新政治連合が加わってできた最大野党です)

 文氏は「盧武鉉の影法師」とも呼ばれていました。日本の保守派は親北、反日、反米という不安定要素を警戒しています。

 注目された過去のアクションは以下の通り。

  • 2005年:旧政権時代には「親日派財産没収法」の成立を主導
  • 2007年:国連での北朝鮮人権決議案採択時の韓国棄権で影響力を発揮
  • 2016年:慰安婦合意反対。日本総領事館前の慰安婦像撤去反対。
  • 2016年7月:竹島に上陸して反日アピール。
  • 2016年11月:日本と締結した秘密情報保護協定(GSOMIA)に反対。

 そして、米国との関係に緊張をもたらしているのが、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の配備問題です。

(※ミサイル軌道の中で、加速しながら上昇する過程を「ブースト段階」、最高高度を描く頂点付近の過程を「ミッドコース段階」、重力の加速を受けて陸地に迫る過程を「ターミナル段階」と呼ぶ。THAADミサイルは「ターミナル段階」のミサイルを高高度で迎撃する装備)

 文氏は、当初、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の配備に反対。しかし、米朝関係の緊張と世論の風向きを見て、挑発を続けるならばTHAAD配備は不可避になると政策を転換しました。

 その後、トランプ氏がその費用負担(10億ドル)を韓国に求めたことでもめましたが、北朝鮮のICBM配備以降は、容認路線に戻っています。

 さらに、注目されるのが新北路線です。

 これは、韓国との協力事業である開城(ケソン)工業団地と金剛山(クングンサン)観光の再開(これは北朝鮮にとって年間1億ドルの収入源になっていた)や北朝鮮に対する2018年平昌冬季五輪での南北合同チームの結成と南北合同入場行進の提案等に端的に表れています。

 欧米メディアとのインタビューでは、文大統領は北朝鮮との対話は、「条件が合えば」「適切な条件の下で」行われるため、無条件での対話ではないと主張していました。

 北朝鮮の核ミサイル開発に日米韓連携で対処すべき時に、こんな主張を持ち出してくるのは「抜け駆け」を狙っているためなのでしょうか。