トランプ政権と日本・アジア 2017

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米国で浮上する「北朝鮮の核保有容認論」 相次ぐミサイル発射に対策はあるのか

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(北朝鮮周辺地図。出所はWIKI画像)

  北朝鮮が26日に東部の江原道(カンウォンド)から3発の短距離弾道ミサイルを発射しました。

 CNNニュース(8/26)によれば、太平洋軍の報道官は、当初、「1発目と3発目は飛行に失敗した」と述べていますが、「その後北東方向に約250キロ飛行した」と発表を修正しています。「2発目の発射はほぼ直後に爆発したようだ」とも述べました。韓国軍合同参謀本部も「韓国軍は北朝鮮によるさらなる挑発がないか注視しており、監視・警戒態勢を強化したほか、即応態勢を維持している」と発表しています(「北朝鮮、短距離弾道ミサイル3発発射 米太平洋軍」)。

 これは前回の長距離弾道弾の発射から約1か月後に行われた挑発行為ですが、米韓軍事演習の最中なので、短距離弾道ミサイルの発射失敗という、米軍を刺激しない範囲の結果に収められました。

 わざと失敗してみせたかのような結果ですが、北朝鮮が米軍との戦争の危険を冒してまでミサイルを撃ち続けているのは、核兵器の保有を認めさせ、金政権の存続を保障するためです。

 ところが、この問題について、米国内では「北朝鮮の核保有を認めても構わない」という見当はずれの暴論が浮上してきています。

 今回は、その是非について考えてみます。

米国内で浮上する「北朝鮮の核容認論」

 米国内で「北朝鮮の核保有を認めても構わない」と言っているのは誰か。

 その典型例となる人物を挙げてみます。

 読売新聞オンライン(2017/8/15)では、「核なき世界」を唱えたオバマ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めていたスーザン・ライス氏の発言(NYT紙)を紹介しています。

「歴史的に見て、我々は北朝鮮の核兵器に耐えることができる。冷戦期に数千に及ぶソ連の核兵器という、より大きな脅威に耐えたように」「米国や同盟国に対する核兵器の使用は、北朝鮮の崩壊につながると明確にしておくことにより、伝統的な抑止力をあてにすることができる」

 こうした前提から、北朝鮮の核兵器保有を容認しても構わないと述べたわけです(北の核、米に容認論も…「抑止力で対応可能」)

 また、現在のトランプ政権の立場とライス氏の立場の中間ぐらいの位置づけにあたる提言がゲーツ元国防長官からも出されていました(WSJインタビュー2017/7/11)。米国は以下の三点を実施する用意があると伝えるべきだというのです(「ゲーツ元国防長官に聞く北朝鮮問題の解決策」)

  1. 旧ソ連とキューバ危機を解決したときと同様に、北朝鮮の体制を承認。体制転換を狙う政策の破棄を約束する
  2. 北朝鮮と平和条約を締結する
  3. 韓国内に配備している軍事力の変更を検討

 その見返りに、「米国は北朝鮮の核・ミサイル開発計画に対して強い制約、つまり基本的には現状での凍結を要求し、国際社会や中国自身が北朝鮮にこれを実施させることを求める」べきだとしています。

「北朝鮮に核兵器をあきらめさせることはできないと思う」「運搬手段(ミサイル)の射程をごく短距離にとどめさせることはできるかもしれない」(ゲーツ氏発言)

「北朝鮮はさらなる核兵器開発や発射能力の向上を目指していないことが分かるように立ち入り査察に合意しなければならない。その結果、北朝鮮が保有する核兵器は20数個程度に限定される可能性がある」

  ゲーツ氏はこの要求を受け入れられなければ、北朝鮮が発射次第、ミサイルをすべて撃墜すべきだと述べているので、ライス氏よりは北朝鮮抑止の意志が明確です。

 とはいえ、北朝鮮の核兵器とミサイル保有を認めることになるので、日本と韓国にとっては自国民を脅かす脅威が固定化されることになります。

 査察等が実施されても、全地域を見れるとは限らないので、どの程度、核開発を止められるのかは未知数です。 

 ゲーツ氏の主張は、米国に届く大陸間弾道弾の開発を止めることに主眼が置かれており、日本と韓国にとって賛成しかねる内容だとも言えます。

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(スカッドミサイルを載せた移動式発射台。出所はWIKI画像)

「核なき世界」論で「正義なき世界」が実現するという逆説

 このたび、スーザン・ライス氏の提言が公になったことで、オバマ政権が訴えた「核なき世界」論の中身が明らかになりました。

 要するに、それは、人気取りのために理想主義者のポーズを取り繕っていただけだ、ということです。

 スーザン・ライス氏の言う通りにしたら、「同盟国の日本や韓国は核兵器を持ってはならないが、非人道的な独裁を続ける北朝鮮が核兵器を持つことを認める」という馬鹿げた外交政策が実現するのです。

 同氏は人権の大切さを盛んに主張していましたが、この人の言うとおりにすると、「国民の人権侵害を続ける金正恩政権に核兵器を持たせ、その体制存続を容認する。そして、民主主義国の日本と韓国がその政権から守るために核兵器を持つことは認めない」という異様な未来図が展開してしまいます。

 これが「核なき世界」を目指したオバマ政権の大統領補佐官(国家安全保障担当)の政策です。

 その実態は「正義なき世界」の実現でしかありませんでした。

 ライス氏の主張には、米国の「核の傘」で日本と韓国の安全は保障されているという前提がありますが、オバマ政権は「米国はもう、世界の警察官ではない」とも述べていました。要するに、穴が開いた核の傘しかないわけです。

 ゲーツ氏の主張の場合は、一応、核の傘に信憑性を持たせる措置が伴います。

 しかし、それでも、前掲の2点の矛盾が発生するのは同じです。

トランプ政権に残された選択肢

 こうしてみると、トランプ政権が強硬な措置に意欲を見せ続けている理由が分かります。

 北朝鮮が核・ミサイル開発を進展させても、米国が何もできないのなら、米国の主張と同盟の信憑性が失われてしまうからです。

 マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は、前掲のライス氏のように、すでに北朝鮮は米国の軍事力で「抑止されている」とは考えていません。

「大量破壊兵器で米国を攻撃すると脅す政権に伝統的な抑止政策が通じるのであろうか」と述べています。

 そして、「米国に核の脅しは通用しない」「軍事的措置を含むあらゆる選択肢を用意している」という強硬姿勢を打ち出しました。

 ライス氏(核保有容認)とゲーツ氏(核保有容認+交渉+査察、抑止)以外の路線の選択肢は意外と少ないのが現実です(北朝鮮への制裁強化を前提としての話)。

 その一つは、北朝鮮の核・ミサイル発射施設への攻撃。

 もう一つは同盟国の抑止力強化です。

 前者は大規模戦争と数十万単位の犠牲者発生のリスクを伴います。

 後者は日本と韓国の防衛力を強化し、戦争の発生を止めるという選択肢です。

 具体的には米国の核部隊の配備(日本は非核三原則「持ち込ませず」の廃止が必要)や同盟国の敵基地攻撃能力の強化(巡航ミサイルの保有や爆撃能力の強化等)を伴います。

 トランプ氏は、大統領選の間に、日本や韓国に核兵器をもたせる可能性を示唆し、当選後に撤回しましたが、本年の動きを見ると、結局、強硬姿勢をちらつかせながらも、戦争はできない、という落ちになってきています。

 だとすれば、残された選択肢は、あきらめるか、核保有を認めない範囲で同盟国の抑止力を強化するか、当選前の主張に戻るか、のどれかにならざるをえないはずです。