トランプ政権と日本・アジア 2017

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中国共産党大会で習近平は「党主席」に 権力集中で三選狙い

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(中国・中南海の紫光閣)

  中国では、共産党大会の議案を審議する七中全会(第18期中央委員会第7回全体会議)を10月11日に開催し、10月18日に中国共産党第19回党代表大会を開始します。

 今までの慣行通りでならば、ここで第二期習近平政権のメンバーや次の指導者が決まりますが、習氏が慣例を破って三期目の政権を狙う可能性が強まっています。

 2017年の党大会はアジアの未来を占う大きな行事なので、今回は、この党大会を読み解くための基礎知識の整理に挑戦してみます。

中国共産党大会でチャイナセブンはどうなる?

 7月末から8月中旬頃に開催される「北戴河会議」(河北省の海辺で開催される中国共産党幹部と長老の秘密会議)で次の政権の方針の大筋が決まり、それが秋の共産党大会で公にされるというのが、中国政治の常道でした。

 本当の意思決定はチャイナセブン(共産党政治局常務委員7人)と長老(胡錦濤や江沢民等の前任者と、両氏政権の頃の常務委員等)でなされ、党大会はそれを拍手で追認する場となるーーそんな政治がずっと繰り返されてきたのです。

 しかし、本年春頃から、日本の各紙は、この党大会で習近平への権力集中がなされると報じてきました。

 現在は、習近平を含む7人の政治局常務委員会で最高指導部をつくっています(「集団指導体制」)。これを、党主席と数人の副主席からなる毛沢東時代に似た仕組みに改編しようとする動きがあると報じられているのです。

 ※現在の中国共産党政治局常務委員

  1. 習近平(63):総書記、国家主席、中央軍事委主席
  2. 李克強(61):首相
  3. 張徳江(70):全国人民代表大会常務委員長
  4. 兪正声(72):中国人民政治協商会議主席
  5. 劉雲山(69):党書記局書記
  6. 王岐山(68):党中央規律検査委書記
  7. 張高麗(70):筆頭副首相

中国共産党大会はなぜ重要? 

 現在、中国共産党の党員は8876万人(2015年末)程度です。

 そして、2017年10月~11月に開かれる共産党大会(5年に1度開催)にて全国から選ばれた約2000人の大会代議員が集まり、次の5年間の党幹部人事を決定します。

 その過程は以下の通りです。

  1. 代議員の中から中央委員(約200人)と中央候補委員(約170人)が選ばれる。
  2. 中央委員会第七回総会(七中全会)にて、党総書記、党政治局常務委員(総書記を含めて7人)、政治局員(常務委員を含めて25人)の顔ぶれが決まる。
  3. 党の力の根源である人民解放軍を動かす「中央軍事委員会委員」が決まる。

 なぜか新聞では「党中央軍事委員会」についての解説が少ないのですが、ここは非常に重要な組織です。結局、ここを押さえた者が人民解放軍を動かせるからです。

 鄧小平には、表向き国家や党の要職を退いたように見せながら、「党中央軍事委員会主席」として中国全土を動かしていた時代がありました。

 表向き「国家主席」がついているだけでは国を動かせないのが中国政治の重要な特徴なのです。

(※江沢民が党中央軍事委員会主席の地位を鄧小平から継いだのは総書記就任から五カ月後。胡錦濤が中央軍事委員会主席となったのは総書記就任から2年後)

 これが従来の中国政治の枠組みでしたが、昨今の報道では、前掲【2】であげた最高指導部の構成が変わる可能性が指摘されています。

共産党大会で「党主席」が復活? 

 例えば、産経新聞では、3月8日付の記事で矢板明夫氏が情勢を分析していました(ネット版はこちら〈毛沢東時代に先祖返りか 共産党主席復活の組織改革案〉)

 第19回共産党大会で、1980年代に廃止された党主席制の復活を含む党組織改革を検討していることが7日までにわかった。複数の共産党筋が明らかにした。

 7人で構成する政治局常務委員会による集団指導体制を実質的に廃止し、習近平国家主席個人への権力集中をはかることが狙いだ。しかし、この改革案に対し党長老を中心に反対意見も多くあり、夏に河北省の避暑地で行われる党の重要会議、北戴河会議が推進派と反対派の攻防の山場になりそうだ。 

  その改革案の中身はどうなるのでしょうか。

  • 党組織の頂点に「中央委員会主席」(党主席)を新設。党中央委と党直属の中央機関を統括する。人事と政策などを決める最高責任者となる。
  • 党主席の下に補佐役として数人の副主席を置く。
  • 現在、最高指導者とされる総書記は存続するが、実務担当部門の中央書記処をまとめる責任者に格下げ(名前は残るが権限は縮小)。
  • 政治局常務委員会の名前は残るが、無力化される

 この通りになれば、毛沢東的な独裁体制を防ぐために生まれた「集団指導体制」党主席ポスト廃止と政治局常務委員への権限分散からなる)は崩壊します。

 現体制では、総書記を含む7人の常務委員が「一票」を投じて重要事項を決定していますが、新体制だと、習氏の一存で決まるようになるのです。

 もっとも、この集団指導体制の裏側には「中央軍事委員会主席」が最大のパワーを持つという前提があったので、毛沢東以後も、鄧小平のように強大な権力者がでてきました(その後に出てきた江沢民や胡錦涛は鄧小平の子分格)。

 

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(毛沢東の旗。出所はWIKI画像)

 ただ、今回の制度変更がなされれば、習近平には鄧小平や毛沢東に匹敵する権力者になれる可能性が出てきます。

 今回、改革案が作られた背景には、習氏自身が主導した政策が現場で骨抜きにされることなどへの不満があり、党主席に就くことで自らの権威を高めたい思惑があるとみられる。また、現在の政治局常務委員には68歳定年制が導入されており、習氏は2022年の第20回党大会の時に引退することになっている。しかし、党主席になれば、この定年制に従う必要がなくなり、3期目や4期目など長期政権を狙う可能性も出てくる。

 習近平のもう一つの狙いは年齢制限枠の廃止です。三期目の政権を率いることを狙っているわけです。

 そして、矢板氏は、共産党関係者の声として「習近平氏が党主席」「李克強首相と王岐山・中央規律検査委員会書記が党副主席」になる可能性を指摘していました。

 昨年秋の中央委員会で党の「核心」になった習近平が「党主席」になれるかどうかが、今、問われています。

 習氏に権力を奪われる側から見れば、これは「ありえない話」ですから、今後、権力を巡るバトルは深刻化していくでしょう。

共産党大会で習近平「三期目」のための制度改革? 

 習氏への権力集中に注目しているのは産経新聞だけではありません。

 日経電子版(2017/7/30)も、ほぼ、同じような見方です〈「習氏、「党主席」復活提案へ 長期政権へ布石 35年ぶり、毛沢東時代の威光〉。

  • (北戴河会議の)「今年の主要議題は党大会で刷新する最高指導部(政治局常務委員)の人事。党関係者は「党中央委員会主席(党主席)を新設する組織改革案が取り上げられる」と日本経済新聞に語った」
  • 「党主席の復活案は長期政権に布石を打つ色彩が濃い。国家主席の任期は憲法で「2期まで」との規定がある。総書記も党の暫定規定に「連続2期まで」との文言がある。党主席の新ポストは、2012年に総書記に就いた習氏にとって2期目を終える22年の党大会以降も最高指導者の地位にとどまることを可能にする」
  • 「党関係者によると党主席は昨年も議題となり、一部の長老から賛同を取り付けたが、結論は先送りされていた
  • 「秋の党大会で党規約を変更し、来春の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に憲法改正案を提出する日程を描く。今年の北戴河会議で意見を集約できるかどうかが、習氏の求心力を測る試金石にもなりそうだ」

  習近平政権を3期以降も続けようとしています。

 この路線が実現すると、15年、20年続く体制になるため、欧米諸国からは、中国は「改革・開放」路線から後退し、古い社会主義体制に戻りつつあるとみなされるでしょう。

 しかし、習近平に言わせれば、これは、「もはや、そんなことにはかまっちゃいられないんだ!」ということなのかもしれません。

※東京新聞も社説(2017/8/16)で習氏独裁を懸念(「中国の秘密会議 個人崇拝への道を懸念」。

  • 「北戴河会議は開催の有無や結果も公表されない。引退した長老まで参加し、秘密会議で次期指導部の構想を練るのは非民主的であり、時代遅れでもある」
  • (党大会の)「前哨戦となる北戴河会議を前に権力闘争が激しくなっているのが気がかりだ」(※重慶市トップの孫政才氏解任などをあげている)
  • 「習氏は北京での軍創設記念式典では「党の絶対的な指導」を強調したが、「党の核心」という称号を得た自身への絶対忠誠を指示したとも読み解ける」
  • 「中国は独裁的な毛沢東時代を反省し、一党独裁であっても個人崇拝は許さない集団指導体制を採用した。習氏はその教訓を胸に刻むべきであろう」

  東京新聞は自民の一強体制には批判的なのに、中国の「一党独裁」には妙に寛容です。一人の独裁を批判していますが、「一党独裁が悪い」という批判はしていないのです。社会主義国の諸悪の根源は「一党独裁」に起因するので、これでは根本的な批判にはなっていないと思います。

共産党大会に向けて習近平は実績固め

 習近平氏は共産党大会に向けて、必死に”実績”を固めています。 

 毎日新聞の電子版記事(2017/6/2)で、そのイベントの例が紹介されていました(<共産党大会まで半年 「核心」習氏、権威固め 軍事・外交、成果を強調>)

  • 河北省にて新都市「雄安新区」建設を進める。河北省は習近平が勤務した地。
  • 中国軍の「悲願」だった国産空母が遼寧省大連で進水(4/26)。
  • 一帯一路サミットにプーチンら29カ国の首脳級を集めた(5/14)。
  • 香港返還20周年で習氏が現地入り(7/1)。
  • 建軍90周年で8月1日に大規模軍事パレード(8/1)
  • 9月には福建省アモイ市で新興5カ国(BRICS)首脳会議を開催予定(習近平はアモイで副市長をしていた)

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(アモイの風景)

  しかし、この記事は習近平氏のアキレス健は「経済」だとも述べています。

 習氏は中国経済が新しい段階に移行したことを「新常態」という言葉で認めました。

 これは「輸出主導の高度経済成長期を抜け、国内市場を基盤にした安定成長に産業構造を転換する移行期」を意味しています。

 ただ、これを本格化させた場合は、構造改革という痛みを伴うので、従来の高成長路線とは矛盾が生じてきます。

 中国政府は今年、「6・5%前後」の経済成長率目標を掲げた。党大会で習氏の実績をアピールするためにも目標割れは許されない。政府は目標達成に向け大規模な経済対策を相次ぎ打ち出し、景気を底上げしているのが実態で、構造改革という「宿題」は積み残されたままだ。

 習近平氏は成長率を確保しなければいけないのですが、同時に、水増しを行った省の統計に介入し始めています。

 つい最近には、日経電子版(2017/8/22)で「習氏の一喝でGDP修正 遼寧省、統計水増し 名目マイナス20%に急減」という驚きの記事が公開されていました。

1~6月期の遼寧省の名目GDPは1兆297億元(約17兆円)で、前年同期比マイナス19.6%だった。一方、実質成長率はプラス2.1%。1~6月期の消費者物価や卸売物価はともにプラスで推移しており、物価が上がっているなら名目成長率は実質を上回らないと辻つまが合わない。

 3月の全人代で習氏が遼寧省分科会に出席し、「公明正大な数字こそ見栄えがよい」と述べた後、そうなったことが説明されていました。

 名目GDPが-19.6%で、実質成長率が+2.1%ならば、物価は-21.7%でなければおかしいのですが、前掲記事によれば、物価は+なのだそうです。

 もはや、経済統計としては終わっています。

 毎日記事と日経記事では真逆の話になっていますが、一応、両者の動きが起きる理由は推測できないわけではありません。

 中国の場合、トップの人事評価をよくするために各省がどこも大幅に水増しを行うので、各省が申告した成長率を全部足すと、中央政府が計ったGDP成長率を大幅に上回ってしまうのだそうです。

 ですから、全省累計にしたら上振れしてしまう分を調整するために、幾つかの省のGDP成長率を無理やり削ることは可能なはずです。

 恐らく、経済成長率は十分に確保されたので、上振れ分を削ることになったのでしょう。