トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

「徴用工」強制連行 個人請求権を主張する文在寅に反論を

f:id:minamiblog:20170823050118j:plain

明治後期の端島(軍艦島)。出所はWIKI画像。

  韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は就任100日目の8月17日にソウルで記者会見し、大日本帝国が朝鮮半島を治めていた頃の「徴用工」(韓国側は日本本土に連行された朝鮮人労働者が強制労働を強いられたと考えている)について、個人の請求権が残っているという立場を明らかにしました。

 文大統領は、韓国最高裁が2012年に個人の請求権が消滅していないと判断したのを追認したわけですが、日本政府は、この問題は1965年の日韓請求権協定で完全に解決したと主張しているので、両者が紛糾するのは必至です。

 さらに、文大統領は日韓が2015年末に「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した慰安婦問題に関して、1965年の「韓日会談の当時には分かっていなかった」と主張したため、慰安婦合意のなし崩しをはかっています。

 今回は、文氏の発言にともなって再燃しつつある歴史認識問題について考えてみます。

「徴用工」を歴史カードに用いる文在寅大統領

 17日記者会見以前にも、文大統領は15日の光復節(韓国の独立回復の式典)でもこの問題について発言しました(産経ニュース「韓国の文在寅大統領が演説」2017/8/15)。

  • 15日の記念式典で徴用工等について「強制動員の苦痛は続いている」「被害規模の全ては明らかにされておらず、十分でない部分は政府と民間が協力し、解決せねばならない。今後、南北関係が改善すれば、南北共同での被害の実態調査を検討する」と述べた。
  • 日韓の協力を呼び掛けながらも「歴史問題にけじめをつけたときに両国間の信頼がより深まる」「歴史認識が日本国内の政治状況によって変わらないようにしなければならない」とした。
  • 慰安婦と徴用工に関して「解決には人類の普遍的価値や国民的合意の上での被害者の名誉回復と補償、真実究明と再発防止の約束という国際社会の原則がある」とし、「日本の指導者の勇気ある姿勢が必要だ」と訴えた。

 韓国では2012年に最高裁が「個人請求権は消滅せず」と判断して以来、新日鐵住金や三菱重工等に賠償命令が出されました。文大統領はこの歴史観を認め、賠償訴訟を後押しするかのような発言を行ったわけです。日本側は、徴用工問題という「賠償カード」が多くの訴訟を生み、日本企業に補償を迫ってくることを警戒しています。

 また、文氏は北朝鮮の核ミサイル開発が問題となっている最中に、北朝鮮との「共同調査」を持ち出したので、対北朝鮮外交の路線が疑われることになりました(演説では、北朝鮮問題について「韓国の同意なく対北軍事行動は決定できない」という、トランプ政権へのメッセージも出されています)。

  この問題に関して、藤岡信勝氏(拓殖大学客員教授)は産経新聞のインタビューに応じ、「韓国が作った『強制動員調査委員会報告書』の中には、徴用工問題で日本企業の名前が2000社ぐらい出ており、今後、訴えられる可能性がある。日本企業は唯々諾々として、不当な判決に応じるべきではなく、2000社は結束して不当な請求に対しては応じないという姿勢をはっきりと示すべきだ」と述べました。今後、日本企業は自己防衛のための対策を講じなければいけなくなったのです。(産経ニュース「韓国・文在寅大統領が“タカリ外交”宣言、徴用工問題で日本企業2000社標的」2017.8.22) 

「徴用工」をとりあげた映画「軍艦島」の「創作話」

 最近、韓国は、 戦前の日本が「強制動員」で朝鮮人の人権を侵害したという主張を声高に述べ立てています。

 この動きは2015年頃から強まっていました。

 韓国は、「日本植民地時代の朝鮮人強制動員被害記録」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に申請することを目指しています(2015年9月頃の韓国紙報道では申請候補のうち、強制動員の被害記録物に関する資料は33万件以上あるとされていた)。

 そして、2017年には長崎を舞台にした韓国映画「軍艦島」が上映されました。

 この映画では、朝鮮人が強制連行され、船や窓のない貨車で端島(軍艦島)に運ばれ、強制収容所で働かされたかのような描写がなされ、それを救うために、朝鮮人部隊「光復軍」のメンバーが朝鮮人救済のために端島に潜入したとされています(これは事実と異なるプロパンガンダ)。

 これに対して、旧島民と子孫たちは、「真実の歴史を追求する端島島民の会」をつくり、この映画が事実に反するという抗議声明を出しています(産経ニュース「端島の旧島民らが韓国映画「軍艦島」に反論声明文」2017/8/19)

 映画は憲兵による朝鮮人への暴行を描くが、声明文は「警察官が2人ほど駐在していただけ」と反論。朝鮮人労働者には家族連れもおり、子供は日本人と一緒に学校で学び、「働かされていたということはない」と証言する。

 また、朝鮮人労働者が地下1000メートルの坑道での労働を強いられたとするが、同会は「坑道は地下710メートルを超えていたにとどまる。送風機が備えられており、坑道内は意外に過ごしやすく、水飲み場もあり、少なくとも灼熱の環境などではなかった」と説明する。

 このほか、多くの朝鮮人労働者が殺されたこともなく、米軍による空襲も昭和20年7月31日の1度だけで、発電所などの施設が空爆されたと反論した。

 韓国側は「軍艦島」という名前から新たな「ネタ」を思いついたようです。

 この映画に関しては、ニューズウィーク日本語版等のリベラル系のメディアからも、物語に出てくる朝鮮人労働者たちの大規模脱出シーンも創作にすぎない等との指摘がなされています(杉本あずみ「あの〈抗日〉映画「軍艦島」が思わぬ失速 韓国で非難された3つの理由」)

徴用工「強制連行」の真相とは?

 韓国側は公権力で朝鮮人労働者が日本本土に「強制連行」されたと述べています。

 しかし、これに対して、日本の保守派の歴史研究者たちは反論しています。

 例えば、近現代史の研究家である西岡力氏は、『日韓「歴史問題」の真実』で以下のように述べました。

  • 日本本土への渡航者の8割は自発的に来た「出稼ぎ労働者」だった。
  • 当時の人口統計では、1939年から42年までの間に約2万人の朝鮮人労働者が不正渡航者と見なされ、朝鮮半島に送り返された。
  • 33年から37年の5年間では108万人の朝鮮人労働者が日本への渡航出願をし、書類不備等の要因で65万人が不許可とされた。

 日本政府は本土にいる朝鮮人労働者を朝鮮半島に返し、6割近い渡航を不許可にしていたわけです。

 日本本土が人手不足であれば強制連行して労働者を増やさなければならないはずですが、戦争末期になるまでの日本はそこまでひっ迫していませんでした。

 その後、日本では1939年に国民徴用令にて労働者が動員されましたが、この頃、朝鮮では募集制で労働者が集められていました。徴用が朝鮮半島で開始されたのは1944年からなので、日本本土よりも緩やかな基準が適用されていました。朝鮮半島で徴用が行われたのは、日本列島より遅かったわけです。

 当時、戦時動員は、どこの国でも行っていた措置なので、いわゆる「戦争犯罪」とは違います。

 こうした経緯から見ると、1944年までに日本本土に来た朝鮮人労働者の多くは「出稼ぎ労働者」でした。当時は、日本列島から労働者を朝鮮半島に「強制送還」していたので、朝鮮半島から労働者を「強制連行」しなければいけない理由がなかったわけです(日本本土に来た方がもうかるから、朝鮮半島から日本列島に人が移動していただけ)。

 そして、朝鮮半島での戦時徴用は日本列島よりも遅れて実施されました。当時の朝鮮人は日本国民として本土の人々と同じように戦時労働に参加しただけなのです。

 この戦争に際しての賠償問題を個々人でやっていくと延々と終わらないので、日韓政府は戦後、あらゆる議論を俎上に載せ、国対国で全ての問題を「終わり」にしました。

 当時の韓国大統領は旧帝国軍人の朴正煕です。当時は戦前を知り、戦争を経験した人々が日韓の賠償問題の交渉をしていました。冷静に考えれば、当時の人々が慰安婦問題について分かっていなかったとは考えにくいのです。

 文大統領が述べているのは、きわめて怪しい話です。

 日本側はこれに対して、しっかりと反論しなければならないでしょう。