トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

第二期習近平政権は「政治」「経済」「言論」の自由の抑圧に向かう

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(出所はWIKI画像)

 香港島中心部で8月20日に大規模デモが起きたことが各紙で報じられています。

 2014年に民主化を求めて「雨傘革命」を主導した黄之鋒氏ら3人に実刑判決(違法な集会に参加した罪で禁錮6か月~8か月)を下した高等法院(高裁に相当)に抗議し、数千人の市民が中心部の公園から終審法院(最高裁に相当)までデモを繰り広げたのです。

 市民の声が8月20日に産経ニュースとNHKニュースWEBで紹介されていました。

  • 「理想に燃えた青年を監獄に入れるのは不公平な判決だ。大陸のように香港にも『政治犯』が現れるとは思いもしなかった」(産経)
  • 「彼らのように先頭に立つ勇気はないけれど、みんなのために苦難を背負った3人に支持を表明したくて参加した」(産経)
  •  「香港では、民主化や言論の自由を求める声が政府によって抑圧されています。私たちは、実刑判決を受けた3人が罪を犯していないと訴え続けます」(NHK)

 香港では抗議運動が続いていますが、中国共産党は、7月下旬から8月中旬まで北戴河会議(現役幹部と長老が集い、国政の方針を決める秘密会議)を開催し、第二期習政権の方針を固めています。

 その内容は秘密ですが、7月から8月までの中国共産党の動きを見る限りでは、今後、自由の抑圧が強化されると見たほうがよさそうです。

 中国で起きた出来事を振り返り、第二期習政権が現在、以下の三つの自由の抑圧を進めていることに注意を喚起したいと思います。

政治参加の自由の抑圧

 8月20日のデモは7月1日のデモの続きのようにも見えます。

香港市民VS習近平の構図

 7月1日は香港がイギリスから返還されて20周年なので、習近平主席が訪問しましたが、その時にも本土からの圧力強化に反発した香港の民衆が6万人規模のデモを行いました(香港の人口は730万人のため参加者は0.8%)。

 この時、林鄭月娥(キャリー・ラム)氏の行政長官就任式が行われたのですが、抗議する市民は香港島中心部のビクトリア公園から香港政府本庁舎まで(約3km)行進したのです。

 これに対して、習近平主席は演説を通して独立派を威嚇しています(日経電子版(2017/7/1)「習氏、香港独立論許さず 治安立法・愛国教育要求も 」)

  • 「中央の権力に対するいかなる挑戦も絶対に許さない」
  • (抗議デモ等について)「越えてはならない一線に触れる行為だ。絶対に許さない」
  • (「一国二制度」は)「国家統一を維持するためにある」として、あくまで「一国」が基本だと強調。
  • 香港の青少年に中国への愛国心を植え付ける「愛国教育」の強化も求めた。

 この発言は、”国家分裂”を図る政治活動を禁止する「国家安全条例」の早期制定を香港政府に促したとも見られています。

(※「一国二制度」:英国が香港を返還した時、中国は香港を自国領としながらも、そこで独自の法体系、複数政党が活動する限定的な民主政治、集会や表現の自由等を保証した。二制度下で香港は高度な自治が可能であるとした)

 香港の民衆の間で反感が高まっているため、今後、雨傘革命の第二波が起きる可能性もありそうです。

2014年の雨傘革命とは何だったのか?

 香港行政長官選は、制度上、以下のような問題を抱えています。

  • 香港市民が選べるのは1200人の投票人
  • 1200人の投票で行政長官を選出(間接選挙)。
  • この投票人には中国当局に有利な親中派を割り当てる仕組みが設計されている。親中派が多い業種(金融や不動産、教育等)に枠が設けられる仕組み。

 昨年12月の段階で、確定済みの166人を除いた1034ポストに1553人が出馬し、このうち400人程度が民主派に近い人物だと言われていました。比率的に、もともと、民主派が勝てないようになっているわけです。

 こうした制度に抗議し、世界標準の普通選挙を求める運動が起きました。

 2017年以降、行政長官選で一人一票の「普通選挙」が導入される予定だったのに、北京政府が候補者は指名委員会から過半数の支持を得た数名に限定したからです。これに憤った若者たちが催涙弾に雨傘で対抗しながらデモを続けました。

 雨傘革命が盛り上がったのは14年9月下旬~11月頃です。最盛期には10万人~20万人規模のデモが続き、総人数では120万人が参加しましたが、14年11月下旬頃には当局に抑え込まれていきます。

 そして、12月11日には民主化デモの最大拠点である香港島中心部、アドミラリティ(金鐘)の幹線道路にて、警官隊約7千人がデモ隊のバリケードやテント等を撤去しました。学生指導者の周永康氏ら約150人が逮捕され、このデモは終わりました。

 雨傘革命は香港の自由を守るための抗議活動でしたが、金融都市に必要な政情の安定が脅かされたので、次第に香港市民の心が離れ、次第に賛同を得られなくなったという面があります。

(※チャイナウォッチャーの遠藤誉氏は、金融街占拠ではなく、政府総部ビルだけを標的に運動すれば、市民の賛同を得、一定の成功を収めることができたはずだと述べています(『香港バリケード』)。

経済活動の自由の抑圧

 中国では普通選挙が行われず、欧米諸国のような政治参加の自由がないことは周知の事実ですが、最近は企業にまで共産党の統制が強化されてきています(産経ニュース〔中国企業に広がる「共産党支配」 3200社へ明文化を要求〕2017.8.18)。

 上海のニュースサイト澎湃新聞が18日までに伝えたところによると、共産党は3178社に対し「党組織を社内に設置し、経営判断は組織の見解を優先する」との項目を、年内に株主総会などの手続きを経て定款(会社の規則)に盛り込むよう要求した。102社が採用済みという。

 中国の大企業は国有が中心だが、大半は外国企業との合弁事業を手がけているほか、上海や深セン、香港の証券取引所に上場したり、社債を発行したりして海外の投資家との関係を深めている。「党の支配が明文化されると、習近平指導部の意向が色濃く反映されるようになる。国有企業が関係する取引には消極的にならざるを得ない」(市場関係者)と困惑も広がる。

 「よくもまあ、ここまでやるもんだ・・・」

 筆者はニュースを見て嘆息しましたが、中国経済の「改革・開放」が今、違った姿に替わりつつあります。

 WSJ日本語版(2017/8/15)でもこの問題が取り上げられていました(「中国の香港上場企業にも伸びる共産党の手」)。

「香港株式市場に上場する中国の国有企業またはその子会社のうち少なくとも32社が2016年以降、取締役会への助言を行う党委員会を設置するために会社組織の変更を提案している。ここ数カ月、こうした提案が相次いでおり、市場参加者の間では、これらの企業の支配権は誰が握るのか、投資家の利益のために運営されるのかなどの疑問が生じている」

 中国政府は世界の投資家から資金を調達するために香港で国有企業の株式と債券を上場してきました。WSJ日本語版では「取締役会が党委員会の指導下にある企業」の「合計時価総額は9兆7000億香港ドル(約137兆円)と、同市場全体の約3分の1を占める」と懸念しています。

 どんな企業なのかというと、「銀行最大手の 中国工商銀行 、証券最大手の中信証券、石油・ガス大手の中国石油化工( シノペック )など」が範囲に入るそうですから、これはかなり由々しき問題です。

 ある意味では、中国はもとの社会主義に帰り、建前を捨てて本音をむき出しにしているだけなのかもしれません。ここまで露骨にやれば海外企業に嫌がられるはずですが、体制維持のためには、それさえも厭わないということなのでしょう。

言論の自由の抑圧

 政治・経済の自由が抑圧されているわけですが、この両者の基盤には「言論の自由」があります。

 この自由の抑圧を象徴しているものが、7月の劉暁波氏死去の際の中国共産党の動きです。

 ノーベル賞を受賞した中国の民主活動家・劉暁波氏は7月13日に逝去しましたが、その折に、中国当局は残虐なスタンスを崩しませんでした。

 劉氏は共産党による一党独裁の廃止などを求め、2008年12月「08憲章」を起草した後、「国家政権転覆扇動罪」に問われ、服役(懲役11年)中に2010年にノーベル賞を受賞しました。その後、末期ガンで瀋陽市にある中国医科大付属第一病院に入院し、61歳で死去したのです。

(※「08憲章」は共産党による政治、経済、社会の資源の独占を批判。憲法改正や司法の独立、普通選挙の実施等を求めました)

 欧州の国々は劉氏の最後の間際に、同氏の海外への解放を要望しましたが、中国当局は残虐なスタンスを崩しませんでした。

 中国外務省の耿爽(グォンシュアン)副報道局長は海外諸国首脳の発言に反発し、「法を犯した者は誰でも処罰を受けなければならない」(各国首脳の発言は)「内政干渉だ」「強烈な不満と断固たる反対を表明した」「無責任な批評や雑音は、国際社会を代表し得ない」等と述べています(読売オンライン 2017/7/14 中国、対応批判に「内政干渉だ」…劉暁波氏死去)

 ここまで中国が暴走してしまったのは、欧米諸国が人権問題の批判のトーンを弱めてきたせいでもあります。

 ・・・

 ここ数か月の中国共産党のアクションは、「自由の抑圧強化」に向かっています。

 第二期習政権が発足した時、それがさらに強化される可能性に、注意を喚起しなければいけないと思います。