トランプ政権と日本・アジア 2017

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【スティーブン・バノン辞任】更迭閣僚3人目 その人物像とは

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(出所はWIKI画像)

  トランプ政権で当選の立役者となったスティーブン・バノン氏(首席戦略官兼上級顧問)が8月18日に辞任しました。これはトランプ大統領の決定ですが、その背景には、政権内部での路線対立の激化があると報じられています。

 バノン氏は「メキシコの壁」等に代表されるトランプの過激政策の発信源となり、イスラム圏からの一時入国禁止措置、不法移民の取締り、「パリ協定」(地球温暖化防止の枠組み)離脱等を主導してきた人物です。

 バノン氏は、ウェブメディアの「ブライトバート・ニュース」を主宰し、米国内に広がる白人中間層の不満を代弁し、2016年の大統領選では「米国第一」を掲げるトランプ当選の原動力となりました。

 しかし、新政権成立後は、国際社会との協調を重視する勢力(「グローバリスト」)や元軍人たちの影響力が強くなり、約7か月後に閣外に追われたわけです。

 ホワイトハウス内で「グローバリスト」と見られているのは、トランプ氏の娘婿夫妻(クシュナー氏とイヴァンカ氏)、元ゴールドマンサックスのゲーリー・コーン氏(国家経済会議委員長)らです。

 また、元軍人閣僚としては、最近、大統領首席補佐官になったジョン・ケリー氏やマクマスター補佐官(安全保障担当)や、マティス国防長官らが影響力を強めています。

 バノン氏はいまだトランプを支持しており、辞任後は古巣の「ブライトバート・ニュース」にてホワイトハウスや議会、財界にいる「トランプの敵」と闘いを始めると見られています。

バノン氏が古巣帰り:「ポピュリストのヒーロー?」

 「ブライトバート・ニュース」ではバノン氏を「ポピュリスト・ヒーロー」と称し、以下のように述べています。

「ポピュリズムと国家主義運動は今日、今までよりも強くなった」(編集者兼主筆・アレックス・マロウ氏)

 (”‘Populist Hero’ Stephen K. Bannon Returns Home to Breitbart” 2017/8/18)

 そして、バノンは以下のように述べています。

  • 「我々が戦い、勝たせたトランプ大統領職は終わった」(「Trump presidency=トランプ大統領職/トランプ政権」に近い意味合いの言葉を用いている)
  • 「我々にはまだ大きな動きがある。我々はトランプ政権で何かを作り出す。しかし、この政権は終わった。それは別のものなるだろう」
  • 「共和党のエスタブリッシュメント(既得権益者)は、トランプが我々の主張を実現することには関心がない。彼らは民族主義者でもナショナリストでもない。トランプの計画には興味がまったくないのだ」

 (”‘It Was Great!’ — Donald Trump Thanks Steve Bannon for His Service” 2017/8/19)

バノン辞任の背景:外交問題と人種問題

 この辞任劇に影響を与えた事件は、幾つかありますが、その一つは外交問題です。

 ケリー氏やマクマスター氏、マティス氏らは北朝鮮への強硬路線を打ち出しましたが、米国が対外的に関与することに消極的なバノン氏は、北朝鮮に対する軍事的選択肢を否定しました。この路線の違いが解任の決定打になったと見られています。

 シリア、アフガニスタン等の中東と北朝鮮への対外的な関与に消極的なバノン氏がいなくなり、今後は前掲の3人の元軍人閣僚やティラーソン国務長官が外交を司り、その内容は共和党主流派に近い内容になると見られています。

 そのほか、最近、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義勢力と反対派が衝突した時、トランプ氏が双方に責任があるという趣旨の発言を行い、物議をかもしていました。

 14日にトランプ大統領は白人至上主義者を強く非難する声明を出していたのですが、ニューヨークの会見では、極左勢力が極右勢力に突撃したことをあげ、反対派にも責任があると述べたのです。

「じゃあ、オルト・ライトに(中略)突撃していったオルト・レフトはどうなんだ? あいつらに罪悪感のかけらもあるか? 手にこん棒を持って(中略)突撃してきたのはどうなんだ?」

(出所:BBC日本語版「トランプ米大統領、バージニア州での衝突は双方に責任と」2016/8/16)

 これが原因でトランプ氏への批判が強まった後に白人右派を代表するバノン氏が解任されたことには、世論対策も含まれていると見られています。

バノン、プリーバス、フリンの3閣僚がすでに退任

  トランプ政権は1月28日に発足してから、すでに5人の幹部が姿を消しています。

  • マイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)(2/14)
  • マイク・ダブキ広報部長(5/30)
  • ショーン・スパイサー報道官(7/21)
  • ラインス・プリーバス首席補佐官(7/28)
  • アンソニー・スカラムーチ広報部長(7/31)

 トランプ政権では、約7カ月で大統領首席補佐官、首席戦略官、国家安全保障担当補佐官という中核ポストの全員が入れ替わるという異例の事態が生じています。

 ここで、特に印象の強い4名の人物像をおさらいしてみます。

マイケル・フリン前大統領補佐官(安全保障担当)

 マイケル・トマス・フリン氏は元陸軍中将で2012年から2014年まで国防情報局長官を務めています。

 1958年、ロードアイランド州ミドルタウンに生まれ、銀行家の父と不動産業を務める母の子として生まれ、 1981年にロードアイランド大学経営学部を卒業。1981年にアメリカ陸軍に入隊し、情報畑を歩んできました。

 イラク戦争やアフガン戦争にも従軍し、イスラム教について「悪性のガンだ」と述べ、物議をかもしたことがあります。2016年大統領選ではトランプ氏の軍事顧問を務め、選挙後に補佐官になったのですが、ロシア疑惑で辞任を余儀なくされました。

ラインス・プリーバス前首席補佐官

 ラインス・プリーバス氏(Reince Priebus:44歳、1972年生)はウィスコンシン大を卒業後、フロリダ州のマイアミ大学法科大学院で博士号を取得。弁護士として活動後、2004年にウィスコンシン州で上院議員選挙に立候補するも落選。同州での共和党の組織づくりに大きく貢献し、2007年に共和党ウィスコンシン州委員長に就任(当時35歳)。

 大統領首席補佐官を務めたラインス・プリーバス氏はウィスコンシン大を卒業後、フロリダ州のマイアミ大学法科大学院で博士号を取得。弁護士となりました。

 2004年にウィスコンシン州上院選で落選。同州での共和党の組織づくりを推し進め、2007年に共和党ウィスコンシン州委員長に就任(当時35歳)。

 プリーバス氏はウィスコンシン州委員長の間に、上院選や知事選、連邦議会選で共和党に勝利をもたらしました。この勝利が評価され、2011年1月から共和党全国委員長(RNC:Republican Party Chairman)に就任します。

 3期連続でRNCを務め、オバマ政権下で、下院と上院の双方での共和党の優位を実現させました。

 プリーバス氏は組織運営のプロです。

 16年の大統領選では共和党内で離反が相次いだ際に結束を呼びかけ、勝利に大きく貢献しました(大統領選では有権者宅への訪問、電話がけ等の選挙活動の指揮を担当。これはトランプ氏の苦手な領域だった)。

 プリーバス氏はライアン下院議長等の共和党主流派とのパイプが太いため、トランプ氏は同氏に首席補佐官を任せ、党内の亀裂の修復と議会との連携による政権運営の安定化を図ることにしたのですが、その結果は、歴代最短の辞任という悲惨な結果に終わりました。

(プリーバス氏は「特別な機会をいただいたことで大統領に感謝する。引き続き大統領の政策の力強い支持者として奉仕する」との声明を出しています。こちらは「大人の対応」に徹しているようです) 

アンソニー・スカラムチ広報部長の経歴 

  以下の記事を参考にスカラムチ氏の人物像を整理してみます。

★出所1:ロイター(7/29):「米政権の新広報部長、最大94億円の多彩な資産

★出所2:BBC日本語版(7/24):「トランプ政権のスカラムーチ新広報部長とは

 その要旨は以下の通りです。 

  • ニューヨーク郊外ロングアイランドの肉体労働者出身と称している。ハーバード・ロー・スクールから投資銀行を経て、投資会社スカイブリッジ・キャピタルを創業
  • スカラムーチ氏はトランプ氏とは旧知の仲。共和党に高額献金を続け、トランプ政権移行チームの上級顧問
  • 新政権発足後、米政府の輸出信用機関、輸出入銀行の上級副総裁と主任戦略担当責任者に就任。
  • フォックス・ビジネスで「ウォール・ストリート・ウィーク」という金融番組の司会を務めてもいる。
  • フォックスニュースの常連としてトランプ氏を擁護してきた。
  • 資産総額:6100万─8500万ドル(約68─94億円)。その多くは不動産。
  • 不動産ローンや個人ローン等の負債額:690万─2580万ドル
  • 2016年初からの収入:1000万ドル以上(ほとんどはスカイブリッジ・キャピタルから所得)。その妻は昨年以降、スカイブリッジでの投資家向け広報業務で約26万ドルの所得を得ている。
  • 2005年に投資ファンド「スカイブリッジ・キャピタル」を創立。政権入りに伴い、売却手続き中。この企業の売却額は5000万ドル。
  • 保有株式は映画会社やマンハッタンの豪華なステーキハウス、栄養補助食品会社(米当局に15年に虚偽広告を指摘された)等。米大リーグのメッツ球団に100万から500万ドルを投資。球団側は、過去1年半で53000ドルを同氏に支払っている。
  • 映画「アメリカン・サイコ」や「ウォール・ストリート」を制作した映画会社に約5─10万ドルを投資。「ウォール街」の続編が2010年につくられた時、自分とスカイブリッジを映画に出すために10万ドルを払った。 

 スカラムチ氏は就任後、プリーバス大統領首席補佐官とバノン首席戦略官兼上級顧問を激しく批判し、その後、プリーバス氏が解任されましたが、その後、後任となったケリー氏(現首席補佐官)に混乱要因とみなされ、辞任を余儀なくされました。

スティーブン・バノン前首席戦略官兼上級顧問

(※バノン氏は8月18日に辞任)

 保守系のニュースサイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」会長を務めたスティーブン・バノン氏(Stephen Bannon:62歳、1953年)は、選挙戦で見放された白人中間層の怒りを吸い上げるために、「メキシコ国境に壁をつくる」「イスラム教徒の入国を拒否せよ」等の過激な主張を選挙戦略に取り込んだ人物です。

 米マスコミからは「白人至上主義者」「反ユダヤ主義者」等と批判されていますが、2016年の大統領選で選対本部長を務めた功績を買われ、首席戦略官兼上級顧問に指名されました。

 しかし、トランプ氏のメディア戦略を司った手腕が評価され、側近として大統領府入りしました。

 近年、大統領はメディア戦に力を入れざるを得ず、オバマ大統領も自分の言動や政策判断が世論調査の支持率増減にどの程度影響を与えるかを、毎日、一生懸命に見ていたとも言われています。結局、選挙に勝った後でも情報発信の問題と付き合わざるをえないのが現状だからです。

 バノン氏の経歴は以下の通りです。

 バージニア州出身で、実家の両親は民主党を支持する労働者でした。

 バージニア工科大学⇒ジョージタウン大学(修士課程:安全保障論)⇒ハーバード・ビジネス・スクール(経営学修士)と学歴を積み、米海軍では太平洋艦隊の水上戦将校やペンタゴン海軍作戦部長・特別補佐官を務めました。

 退役後はゴールドマン・サックスで勤務しているので、職業経験の中で安保と金融に関して見識を磨いています。いろいろと悪く言われますが、一定の支持を獲得するメディアを作るためには、やはり、学問と仕事の両面の蓄積が必要だったのでしょう。

 トランプ政権発足後、28日の大統領令で国家安全保障会議(NSC)に入りし、イスラム圏七か国からの入国制限に関しても、バノン氏は強い影響力を発揮したことが日経朝刊(2017/2/1:3面)でも報じられていました。

 当初、「難民やイスラム圏の市民の入国制限は当初、永住権(グリーンカード)保持者は入国可能にするはずだった」のですが、「バノン氏はミラー大統領補佐官と組み、関係者とほとんど協議せず大統領令をまとめた」といわれています。司法省の事前審査を拒み、違憲と疑われる大統領令が出され、「結局、永住権保持者の入国は原則認められることになったが、空港では混乱が広がった」わけです。

 バノン氏は各国首脳との電話協議の場に同席し、トランプ政権を動かす黒幕(ダースベーダ―と呼ばれた)と見られていました。

 しかし、マクマスター氏が大統領補佐官となって以降、軍高官出身者の閣僚が強い影響力を持ち始め、4月5日にNSCからバノン氏は外されました。バノン氏に替わり、NSCではダンフォード統合参謀本部議長とコーツ国家情報長官が常任委員に入っています。

 なお、同氏は対中強硬派としても知られていますが、4月以降はやや対中宥和的なクシュナー氏の影響力が強まり、トランプ政権の対中外交は硬軟併用となりました。

 8月18日に辞任しましたが、バノン氏はトランプ政権の黒幕(ダースベーダ―と呼ばれた)と見られていたので、これを歓迎する声もあるようです。

 とはいえ、政権の不安定感は続いているので、政権が乱気流の中に墜落するのか、浮上するのかを見定めたいところです。