トランプ政権と日本・アジア 2017

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「H2Aロケット」打上げ 日本の宇宙開発はどうなる

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 (H-IIAロケット。出所はWIKI画像)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業は8月19日に、日本政府の準天頂衛星「みちびき3号機」を搭載した「H2Aロケット」の35号機を打上げました。

 打上げは種子島宇宙センターにて14時29分(日本標準時)に行われ、打上げから約28分37秒後に「みちびき3号機」正常に分離しました。

 「みちびき3号機」はカーナビやスマホ等で広く使われているGPSの精度向上を目指すために用いられます(高度は赤道上空約36000キロ)。 

 今回は、日本の宇宙開発について考えてみます。

(※以下、JAXA公開動画)

www.youtube.com

日本の宇宙開発を読みとく3キーワード

 宇宙開発は分かりにくい言葉が多いので、まず、キーワードを整理しておきます。

順天頂衛星とは

 順天頂衛星は、日本のほぼ真上を通り、地球の周りを巡りながら、信号を送って移動中の船や航空機、自動車等に対して、正確に現在位置を教えます。

 人工衛星を用いて現在位置を計測する衛星測位システムの典型はGPSです。

 GPSでは複数衛星からの時刻信号を地上で受信し、電波のわずかな遅延の差を測り、地上の座標を測定するので、広範囲に多数の人工衛星が配置されると、測位の精度が上がります。そのため、政府は準天頂衛星「みちびき」を増やすことで、アメリカのGPS(全地球測位システム)を補完し、現在10m程度の誤差を数cmにまで縮めることを目指しています。

 「みちびき」は2010年9月に1号機が稼働しましたが、今回は3号機を打ち上げ、18年度から4基体制でGPSを運用する予定です。

 4基が揃えば、少なくとも1基はいつも日本上空にとどまることができるので、高精度な位置情報サービスを常時、利用可能になります(用途はカーナビやスマホの位置情報サービル、自動運転等が挙げられている)。

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 (H-IIAロケット。出所はWIKI画像)

 

 H-IIAロケット:液体燃料推進の主力ロケット

 今回、発射されるH-IIAロケットは、日本で用いられている主力ロケットです。このバージョンでは日本初の純国産ロケットであるH-IIロケットを改良し、低コスト化しました。

 設計を簡素化し、製造と打ち上げを効率化することで打ち上げコストを半分以下にし、重量の違う衛星に合わせて4形態のロケットから選べるようになっています

(※打ち上げ方式次第で変わるが、約85億円から120億円程度なので、H-IIロケットの費用〔140億円~190億円〕に比べると安い)

 大きさはH-IIA(標準型)の場合、全長53mで、4トンの衛星を打ち上げることができます。ロケットは289トンの質量を持ち、二段式のエンジンを備え(第1段エンジンがLE-7A、第2段エンジンがLE-5B)、2本の固体ロケットブースタ(SRB-A)を用いて飛びます。

  ロケットは液体燃料(液体水素と液体酸素が推進剤)で飛び、左右2基の固体ロケットブースタ(SRB-A)だけでなく、積載重量に合わせてSRB-Aや固体補助ロケット(SSB)を追加することも可能です。

  H-IIAロケットは2001年以来、17回の打ち上げ実績があるので、平均値で見ると、だいたい、年に一回程度は打ち上げているようです。

イプシロン:固体燃料推進の低コスト化ロケット

 いっぽう、イプシロンロケットは低コストでつくられた固体燃料式の3段式ロケットです(4段目も追加可能)。そのスペックは以下の通り。

  • 数百㎞の軌道に向けて、最大1.2トンの衛星を打ち上げ可能。
  • 大きさは24.4m(固体燃料ロケットは液体を入れる時間が要らないので、打上げ準備のまま待機でき、構造がシンプルになる)
  • 重さは91トン。先代のM5ロケット(140トン)よりも小型化が計られ、M5の3分の2の規模の衛星を打ち上げることができます(M5は1.8トンの衛星を打ち上げ可能)。
  • コストは約38億円(M5は約75億円)
  • 三段ロケットは既存パーツを転用。第一段はH2Aの下部にある固体補助ロケット、第二段、第三段はM5ロケットのエンジンから構成される。
  • 点検操作には人工知能が組み込まれ、作業の一部が自動化された

※イプシロン強化型ではコンパクト化と運用性の改善が図られた。「打ち上げ能力の向上(試験機に比べて30%向上)」と「搭載可能な衛星サイズの拡大」(推進薬量は約1.4倍に増加。推進薬は10.7トンから15トンに増えた)

日本になぜ宇宙開発が必要なのか

 日本は衛星情報に関しては米国のGPSに大部分を依存しており、これを国産化する構想がありません。

 本年に北朝鮮は何度も弾道ミサイルを日本海に向けて発射しましたが、この種の情報の多くを米軍に依存しているので、もし、ある日、ある時に「アメリカが日本に情報を流さない」と決めたら、その時から、重要な軍事情報が断絶してしまうわけです。

 そう考えると、本来、日本は、長い時間がかかったとしても、独自のGPSシステムを持つ必要があります。

 中国では「北斗」計画(※中国版の衛星情報網建設計画)があり、EUには「ガリレオ」計画(※こちらも衛星情報網建設計画)があるのは、やはり、自国を守るためにも軍事情報を自前で取得する必要があるからです。 

 また、宇宙開発は先進技術なので、国際競争力維持のために、各国がしのぎを削っているとも言えます。

日本の宇宙開発予算は約3000億円

 日本の宇宙予算はだいたい3000億円ぐらいです。市場規模で言えば「宇宙機器産業(衛星、ロケット、地上施設等)は3160億円」ほどだと言われています。そして「世界主要国の宇宙開発予算の30~70%は軍事関係」(米・英は72%。仏は33%、独は31%、日本は5%)であり、「 軍事関係の実績が商用に転用される欧米に対して我が国は国際競争において劣勢」だとも指摘されていました。(日本の宇宙産業の現状と今後の展望

 予算額としては他国よりも少ないわけではありませんが、各国は軍事技術開発の成果を商用に転用してくるので、競争相手としては手強いわけです。そして、日本の宇宙開発は、一回打ち上げに失敗したら、予算が打ち切られかねない状況の中で進められてきました。

日本と中国の宇宙開発を比較する

 宇宙開発に関して、中国は、20年単位での長期計画を持った戦略的発展を目指しているとも言われています。(日経BPnet 松浦晋也の「宇宙開発を読む」第19回 2007年10月26日)そこには、以下のようなスケジュールがありました。

  • 2004年:月探査を目指し、「ジョウガ一号」の開発を決定
  • 2007年:「ジョウガ一号」の打ち上げの成功(月の周回軌道に乗せる)
  • 2010年:「ジョウガ二号」(月着陸機)の打ち上げを予定
  • 2012年:無人着陸機の月に降下させる
  • 2017年:月の土壌を持ち帰る
  • 2020年代半ば:有人月探査の実施(有人月探査は「ジョウガ三号」を使う)

 松浦氏は、中国の宇宙開発は、長期の見通しに基づいて探査計画を連続的に立ち上げる「プログラム的探査」と呼ばれる方式を用いていると指摘していますが、この方式には、次のようなメリットがあります。

  1. 短期的失敗に関わらず予算を確保し、開発を継続できる
  2. 計画的に探査に必要な人材を確保できる
  3. 長期計画の信頼性により開発に参加する企業をつなぎとめることが可能

 日本では、打ち上げに失敗すると予算削減圧力がかかりますが、中国は軍事拡張計画とも絡んでいるので、成功しても失敗しても、ひたすら押しまくるだけです。

 日本では旧民主党政権成立時に「はやぶさ2」の開発予算が削減され、2010年に「はやぶさ」が無事帰還すると、国民の歓迎の声に応えて増額されるという猿芝居が演じられました(当時は蓮舫氏のスパコンに関する「NO2」発言など、将来に必要な科学技術に関しての見識がない予算カットが行われていた時代)。

 安倍政権では、そうした姿勢が改められつつあるようです。

 2014年には「はやぶさ2」の打上げに成功しましたが、この時は小惑星から物質を持ち帰るという限定戦で技術力の高さを世界に実証しようとしました。

 宇宙開発は多くのスピンオフを伴うので、他の産業にも大きな恩恵が及びます。

 衛星放送、天気予報、GPS、車のエアバック、船を守る断熱技術など、宇宙開発から生まれた技術やサービスが様々な方面で生かされているのです。

 すぐに成果が出るわけではありませんが、宇宙開発に遅れを取ると、世界の先進国との競争に劣後してしまうので、日本は、もっと宇宙開発に力を注ぐべきだとも言えるでしょう。