トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

日露共同経済活動 外務次官級協議で実現は近づくのか

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(出所:北方領土問題とは? | 外務省

 北方四島を巡る共同経済活動の交渉を巡って、モスクワで日本とロシアの間で外務次官級協議が8月17日に行われました。この日程は河野太郎外相は7日にマニラでロシアのラブロフ外相と会談した時に決まったものです。

 そこでは、双方が早期に実施する事業の絞り込み等について議論。

 日本側は、北方四島周辺でのクルーズ船による洋上観光を提起。8月末の元島民の歯舞群島への墓参で臨時の追加的な出入域地点を設けることや、航空機での墓参を9月下旬に実施することでも一致しました。
 協議後に、秋葉剛男外務審議官は「未来志向のアプローチで4島の未来像を建設的に話し合うことで、平和条約の締結という両国共通の目標に向け前進したい」と述べています(ロシア側はモルグロフ外務次官が出席)。

 今回は、この問題について考えてみます。

日露共同経済活動に向けて調査が進展

 北方四島での共同経済活動に関しては、政府調査団が5月30日(午後7時頃)にロシア極東にあるサハリン州に到着。

 調査団長は長谷川総理大臣補佐官で、そこには漁業、医療、観光などの各分野の民間専門家を含めた約30人が含まれました。31日にはサハリン州のコジェミャコ知事らと会談し、共同経済活動での各分野の分科会で詳細な打ち合わせを行っています。

 コジェミャコ知事は日本側が道路等のインフラや医療、漁業の関連施設等を見れるように準備し、岸田外相(当時)は現地調査が充実し、日露協議が意義ある意見交換となることに対して期待の意を述べました。 

 その後、7月1日には、同経済活動を巡る官民合同調査団が現地調査を終えています(日経電子版「日ロ経済活動、漁業・観光など軸 北方領土調査団が帰還」7/2)。 

  • 調査団には関係省庁や北海道庁、民間事業者など約70人が参加。4グループに分かれて、国後、択捉、色丹島のサケ・マスふ化場や地熱発電所、港湾施設、ホテル建設地、病院などを訪問した。
  • 日本政府は9月の訪ロまでに観光や漁業等、実施可能な事業を絞り込み、両国の法的な立場を損なわない「特別な制度」の中身を検討する(税制や警察権などの調整が必要)。
  • 長谷川栄一首相補佐官は「共同経済活動の展開に大きな可能性を感じている」と強調。色丹島に関して「観光的に開発すれば磨きが出る」と指摘。
  • コンビニ「セイコーマート」を運営するセコマの丸谷智保社長は「日本の食料品への期待は大きい」と述べた。しょうゆやカップ麺が日本の2~3倍の価格で販売されていた(そのためには日本との物流網の整備が必要)。

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(出所はWIKI画像。北方領土の境界線の変遷 1855年⇒1945年)

日露共同経済活動の中身

 日露共同経済活動では、60件以上の事業で総額3000億円規模の経済協力が行われ、日露双方のビザ発給緩和がなされる予定です。

 その案件については先端医療を用いたリハビリセンターや液化天然ガス(LNG)開発等が対象だとも言われています。経済協力の主な中身には以下の8項目が含まれます。

  • 健康長寿:極東地域に日本型病院
  • 都市づくり:ウラジオストクなどをモデル都市に
  • 中小企業交流:セミナーなどでビジネスマッチング
  • エネルギー:極東ワニノ港に石炭搬出ターミナル
  • 産業多角化:企業診断で経営指導
  • 極東産業振興:ハバロフスクの空港整備
  • 先端技術:原発廃炉に向けた共同事業
  • 人的交流:ビジネスマンに向けビザ緩和

 ビザに関しては、ロシア国民(一般旅券所持者)に対する短期滞在ビザの発給要件の緩和。新たに数次ビザ(有効期間:3年,滞在期間:最長30日)。

 従来の商用ビザや文化人・知識人に対する短期滞在ビザの発給対象者の範囲を拡大し、有効期間を現行の3年から5年に延長することが2016年12月に決まっています。

日露共同経済活動の障害

 日露共同経済活動に関して、ロシアには産業に乏しい北方領土の経済発展を促す狙いがあり、日本には北方領土での活動や人的往来を広げ、領土交渉を進展させることを狙いがあります。

 しかし、そこには「裁判管轄権」という大きなハードルがあります。

 現地で日本人や企業が何かトラブルに巻き込まれた場合、「日本の法律に則って解決するのか、ロシアの法律に則って解決するのか」という問題です。

 裁判管轄権が結局、ロシアにあるのなら、四島はロシアの国家主権下にあることを認めてしまうことになります。

 共同経済活動は、完全にロシア法、日本法が適用されず、双方の立場が損なわれない「特別な制度」で進めることになり、ここが大きな争点になっています。17日の協議では、日本側は上陸を想定しないクルーズ船観光は早期実現が可能と見、ここを協議の突破口にしようと考えました。

 しかし、その中身はまだ、現時点では明確化されていません。

 紙版の読売夕刊(12/16:1面)では「想定される事態は多岐にわたり、検討を要する法令は膨大になる」という外務省幹部の声が紹介されていました。

 例えば、日露の企業が共同経済活動に参加した場合、税金はどのように課税され、どちらの政府に入るのか。

 法人税や所得税のかけ方は、ロシア法に基づくのか、日本法に基づくのか。

 ロシアは経済難なので「税収はこちらに入れてくれ」と要求しそうですが、それを呑むべきなのか。

 頭の体操として日露折半の議論はできますが、これは仕組みが複雑になるので経済活動促進という元来の趣旨とは合いません。煩雑な租税制度はビジネスの敵だからです。

 これに関しては、読売朝刊(12/18:朝刊9面)では、モスクワ大のドミトリー・ストレリツォフ氏のシビアな見方が紹介されていました。

「新たな法制度を考案するのは非現実的だ。ロシアが統治している現状を考慮すると、『主権』という言葉を使うかどうかは別にしてロシアの法制度で行うしかない。事務レベルで制度設計するというが、この点は日本側が譲らなければ進まない」

 今後の実現案をそれぞれの実務担当者に指示することになっていますが、ロシア官僚がプーチンほど親日的であるとは考えにくいので、この種の「俺たちの国なんだから、俺たちのルールでやるのは当然だ」という反応になるはずです。

 そして、これは「国対国」の法律の問題なので、サハリン州知事と話し合ってもどうにもなりません。

 そのため、日露双方の分科会で細部の打ち合わせを行いますが、その中で特に注意しなければいけないのは、前掲の「裁判管轄権」の問題です。

 毎日新聞電子版(12/11)では、過去の参考事例として、日露漁業協定を紹介しています。

「北方領土周辺の日本漁船の操業を認める一方、ロシア当局による違法操業の取り締まりは盛り込まず、管轄権をあいまいにした。ただ、共同経済活動は用地取得やロシア側との取引など複雑な上、長期間に及ぶ。ビジネス関係者が犯罪に巻き込まれた場合の司法管轄権も考慮する必要があり、「管轄権の棚上げ」だけでは難しい」

 関連記事を( 毎日電子版5/21「一筆半歩 慎重な見極めを=田所柳子」では以下のように書かれていました。

  • 「漁業やエコツアークルーズなどの海上活動は、管轄権をあいまいにした1998年の安全操業協定の応用でクリアできる」可能性があるが、「用地取得やロシア側との取引など手続きが複雑な陸上活動」ではそうはいかない。
  • 日本側は「利益の出る活動にすべきだ」(外務省幹部)としているが、ロシア側は「住民の住宅改修やゴミ処理、医療提供など」といった「支援めいた要望」を出すといった食い違いがある。

 解決は難しいのですが、日本もロシアも政府のメンツがあるので「交渉中」としておき、何かをしているポーズを取り、時間を稼ぎたいのかもしれません。

 次の大統領選を控えたプーチンは領土問題で譲歩できず、成果がみこめないため、安倍政権は「共同経済活動」という名の時間の引き延ばし作戦に出たようにも見えます。

 しかし、本当にこの議論を進めたいなら、本丸を攻略しなければいけないでしょう。