トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプのNAFTA再交渉 米国VSカナダ、メキシコの行方

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(出所はWIKI画像)

 NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉がワシントンで8月16日夜から20日まで(日本時間)行われます。日本の自動車産業もメキシコ経由で多くの商品を輸出しているので、その再交渉の行方が注目されています。

 アメリカ、カナダ、メキシコの3国(域内人口は4.8億人、域内のGDPは約20兆ドル)が相互に市場を開放するNAFTA(北米自由貿易協定)は1994年1月に発効し、2008年に関税が撤廃されました。

 NAFTAによって、人件費が安く、規制が緩いメキシコへの産業移転が進み、メキシコの経済発展を促しましたが、トランプ政権は、これが米国内での製造業衰退と賃金の伸び悩みを引き起こしたと見て、再交渉に向けた活動を進めています。

 この交渉では「原産地規則」が焦点の一つになっています。

 原産地規則は3か国でつくられた部品を一定の割合よりも多く使っていれば、北米産の製品と見なして関税をゼロとするルールです。

 この規則が変われば、もっと多くの部品を域内(米国、メキシコ、カナダ)で調達することが要求されます。自動車の場合、部品の62.5%以上を域内で調達することが条件とされているので、日本企業がその交渉の行方に注目しています。

 NAFTAはEUを超える巨大なGDPの規模を持ち、日本の自動車企業の多くがメキシコに進出しているからです(2016年の日本メーカーの生産台数は139万台。メキシコに進出する日本企業は2016年10月時点で1046社に上る)。

 今回は、このNAFTA再交渉について考えてみます。

NAFTA再交渉の課題とは

 WSJ日本語版(2017/8/15)では、この問題について「NAFTA再交渉、立ちはだかる8つの難題 農業、貿易、移民制度が主なテーマ」と題した記事を公開していました。

 原産地規則のほか、7つのテーマがあることを指摘しています。

  • タイミング:2018年には米中間選挙とメキシコ大統領選が控えているため、トランプ大統領は来年早々にも再交渉を終わらせたいと側近らは話している。
  • 貿易赤字減少:米国からメキシコへの製造業流出を食い止められるかどうか。
  • 紛争仲裁条項:その一つはISDS条項(NAFTA加盟国で権利が侵害されたと域内の投資家が判断した場合、賠償金を求めて国際仲裁裁判所に申し立てできる制度)。また、もう一つは、ダンピングや補助金措置の疑いに対して相殺関税が課せられた際、相手国に抗議できる制度(NAFTA19章内の項目)。米政府当局者は19章の廃止を提案。カナダは現状維持を要望。
  • 労働と環境保全:トランプ政権当局者は、3カ国がメキシコの環境保全や労働に関する規則を厳密化することに同意。メキシコ政府も労働改革を押し進めている(これはコスト増につながる)
  • 農業と林業:米国の主要農業部門は今のNAFTAの枠組みに満足し、輸出品の免税措置やメキシコとカナダ市場に制限なく参入できる現状を維持したがっている。しかし、これは製造業とは立場を異にする。また、カナダから輸出される材木への関税や上限設定も交渉対象となる。
  • 為替操作:米議員や一部輸出業者は、貿易協定の中に為替操作への罰則を求めているが、その規則が国の金融政策の選択肢を制限する可能性があるとも危惧されている。
  • 移民制度:トランプは不法移民を中心にしてメキシコからの移民の数を減らそうと試みている。

 これに原産地規制を加えた8つが交渉の課題とされています。 

 このNAFTA再交渉にどのような姿勢で臨むのか。これは日本や中国への交渉への前哨戦となるとも見られているわけです。

 WSJ紙(2017/7/18)はこの記事の一ヶ月前に、関連する論点についての課題を指摘していました(「米NAFTA再交渉、気になる7つのこと ロードマップ発表、衝突不可避の提案も」)。

  • TPPで交渉済みの項目(国営企業やEコマース、そして金融サービス業に関する規則など)に関しては、比較的、容易に話が進む
  • 米政府は環境や労働に関して紛争が生じた場合、仲裁委員会に解決を委ねる制度を導入したいとしている。この場合、違反行為と認定されれば懲罰的な関税が課される可能性がある⇒3カ国のいずれの経済界も反対
  • 米政府はNAFTAを、「為替操作」の有無を監視できる米国初の貿易協定にしたい
  • カナダやメキシコによる貿易制裁の回避を容易にしている19章(参加国間の紛争解決メカニズムを定めている)の廃止を求める
  • 投資家が「反ビジネス」とみなす国の政策について仲裁委員会に訴えることを可能にする条項の扱い ⇒見通しは不透明。
  • トランプ政権は、特に「農家や牧場主」が「切望していた市場へのアクセス」を勝ち取れたとし、成果を生んでいる条項に手を加えるべきではないと訴えてきた共和党議員らの主張を尊重。
  • 一方、製造業のアウトソーシングによる工場閉鎖など、米国労働者に”不利な内容”は見直しを求める

  WSJ紙は、全体的には、ゲーリー・コーン氏(国家経済会議委員長で経済担当大統領補佐官)の影響が強く、従来のトランプ政権の過激な路線が薄められていると見ています。

メキシコとカナダが取りうる対抗措置とは

 NHKニュースWEB(8/16)には、メキシコとカナダの動向が取りあげられていました(「NAFTA再交渉開始へ 日本の自動車産業も注目」)。メキシコとカナダのスタンスは以下の通りです。

メキシコ

  • メキシコ政府は自由貿易に逆行する関税や貿易障壁を設けることに反対。
  • NAFTA見直しには応じるが「貿易赤字の削減」や「原産地規則」については言及せず、アメリカにのみ有利になる仕組みの設定には反対。
  • ビデガライ外相は自由貿易を守る立場を明かし、「3か国にとって利するものにすべきだ。なぜメキシコにとって不利なものに参加しなければならないのか」と述べ、結果次第ではNAFTA離脱も辞さないと述べた。
  • 米国が関税引き上げ等を打ち出した場合、メキシコが農業分野で対抗措置を講じ、関税合戦が始まる可能性がある。

カナダ

  • カナダは米国最大の輸出先。16年には米国の輸出全体の約18%を占めた。
  • 米国はカナダから木材や乳製品を輸入し、カナダに対する米国の貿易赤字は16年に162億ドル(メキシコは705億ドルなのでカナダの方が小規模)。
  • 米国は4月、カナダからの輸入木材について不公正な取引だとして制裁関税を適用する方針を発表。「カナダのせいでアメリカの酪農家がひどい目に遭っている」とツィートしたので、NAFTA再交渉を前にカナダ政府は懸念を強めた。
  • 米国は反ダンピング関税などの発動が妥当かどうかを審査する紛争解決制度の撤廃を求めたが、これにカナダの産業界は反発。トルドー首相は「カナダにとって紛争解決制度は不可欠だ」と述べている。

米USTR代表の立場とは

 ロイター記事(2017/8/16)では、USTR代表の発言が掲載されています(「NAFTA再交渉、最初から「野心的」に進める=米USTR高官」)。

 USTR高官は15日に「我々は第1回目の協議でかなり野心的になるだろう」と述べ、米国の目標は「米国民の高賃金の雇用を支え、米国経済を成長させる、よりバランスの取れた互恵的な通商合意」を得ることだと説明しました。そのほか、関税ゼロの恩恵が加盟国に及ぶよう原産地規則を見直すことは再交渉の主な目的だと指摘しています。

 しかし、WSJ日本語版(2017/4/28)では「メキシコの米国製品への関税はほぼゼロ、米大統領は知っているのか?」と問いかけています(「【社説】NAFTAとトランプ氏の空想世界」)。

米国の農産物に対するメキシコの輸入関税はゼロに近く、他の大半の製品についても同様だ。米国の農業の3大輸出市場は中国、カナダ、メキシコだ。NAFTAのパートナー国に輸出する米国の他の業界も同様に、極めて低い関税の恩恵を受けている。だからこそ全米肉牛生産者協会(NCBA)は26日、NAFTAの撤廃は「わが国にとって現時点で最も危険な動きの一つだ」と述べたのだ。

  米通商代表部(USTR)は「米国の恒常的な貿易不均衡に対処する。貿易障壁を打ち破り、米国人に輸出を伸ばす新たな機会を与える」とNAFTA再交渉の目的を7月17日に議会に通知しました。 

 しかし、その目的は実現されるのでしょうか。

雇用を得られなければNAFTA終了?

 トランプ大統領は「雇用を得られなければNAFTAは終了」とも述べています。これは7月7日のトランプ大統領の演説です(出所:”President Donald J. Trump’s Weekly Address” July 07, 2017)。

  • ここホワイトハウスでは、7月を我らが愛する3つの言葉に捧げた。それは、MADE IN AMERICAだ。 2世紀以上にわたり、この3つの美しい言葉は、品質、職人技、卓越性の世界標準となっている。
  • 大統領である私の最優先事項の1つは米製造業を立て直すことだ。
  • 何十年もの間、我々のコミュニティから雇用が切り取られ、産業や町が剥奪された。コミュニティが根絶やしにされ、放置されました。外国の米国の負担で豊かになり、大規模な米国の富の盗難によって利益を得た者がいる。
  • 我々の政府は就任宣誓以来、新たな哲学を採用している。アメリカファースト。経済的降伏の時代は終わった。新しい国の誇りが我々の土地を席巻している。あなたも、私も、我々も、それを見るのだ。
  • 産業の信頼は今までの最高水準まで上昇した。
  • 私の最初の行為の1つは、全ての連邦政府機関に2つの単純なルールを命じることだった。アメリカの商品を買い、アメリカ人を雇えということだ。我々は、アメリカの労働者とともに、アメリカの鉄やアルミニウム、スチールをつくりたい。
  • 我々は国内経済のあらゆる可能性を切り開き、経済の完全な力を発揮したい。アメリカ人はついに我々の足の真下にあり、海岸の下にある膨大なエネルギーの富を利用できるようになるのだ。
  • 我々はまた、他の国々が我々をもう一度利用することを許さない、という明確なメッセージを世界に送ってきた。
  • だからこそ私はパリ気候協定から脱退した。私を信じてほしい。それは一方的な内容で、我が国に有利ではなかったからだ。そして、雇用を殺すTPPからも離脱した。これはNAFTAの全面的な再交渉を追求している理由でもある。我々が雇用を得られないのなら、それを終わりにする。NAFTAは永遠に終了するのだ。
  • 地球上の他のすべての国家は、自分の利益を保護している。アメリカも同じようにしているのだ。

   NAFTA終焉の可能性も秘めた再交渉が8月に始まるわけです。