トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米通商法301条に基づく調査が始まる トランプ政権が対中制裁へ

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(アメリカ・ニュージャージー州・ポートエリザベスの港の風景。出所はWIKI画像)

 トランプ大統領が中国に経済制裁を行うために、8月14日に通商法301条に基づいた調査を行う見通しです。

 米政権は中国が知的財産の侵害や外国企業に対する技術移転の強要を行っていないかどうかを調べます。通商法301条では他国の不公正な取引慣行に対する制裁が定められているので、米国は交渉しても不正が続く場合は、関税の引上げ等を行うことができます。産経ニュース(2017/8/2)は、11日の政治専門サイト「ポリティコ」がトランプ政権高官がそう述べたことを紹介しました(米、対中制裁みすえ通商法301条調査へ 14日発表と報道 知財侵害など問題視

 米通商法301条は、90年代半ばに日米貿易交渉で発動されかけたこともあります。米国の貿易上の最大のライバルが日本から中国に移行していることが伺えるニュースです(日本も301条のやり玉にあがる可能性がありますが)

 米国は北朝鮮問題で中国が動かないことに業を煮やし、新たな圧力をかけようと試みているわけです。

 国連安全保障理事会は8月5日に北朝鮮制裁決議を採択しました。

 その内容には、北朝鮮との石炭貿易禁止や北朝鮮労働者の雇用禁止、北朝鮮との合弁会社設立を禁止等が含まれ、米側は、この制裁で北朝鮮の外貨収入の3分の1(10億ドル)程度を削減できると見なしています。

 しかし、制裁には「北朝鮮への石油の禁輸」が決議に盛り込まれず、決定打を欠いており、中国の北朝鮮貿易は今年上半期に10.5%増加しているのが現状です。 

 このたびの通商法の措置は、トランプ政権は、従来の貿易交渉では成果が見込めず、国連安保理の制裁でも不十分だと見ているからなのでしょう。

米中貿易交渉の成果は乏しかった

 過去を振り返ると、7月16日で米中首脳会談以降の「100日間」の貿易交渉が終わりましたが、大した成果はありませんでした。

 その後、7月19日には閣僚間の米中経済対話が行われましたが、両国の主張は一致せず、終了後には記者会見も行われませんでした。4月の米中首脳会談後、両国間に続いていた蜜月関係が終わったわけです。

 米国側はロス商務長官、ムニューシン財務長官、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長、中国側は汪洋副首相などが出席し、経済人の間では、ジャック・マー氏(アリババ・グループ・ホールディング会長)やシュワルツマン氏(ブラックストーン・グループ会長)も意見交換がなされました。

 経緯を振り返ると、もともと、トランプ氏は大統領選中に「中国を為替操作国に指定する。中国製品には45%の報復関税をかける」等と主張しましたが、米中両国は5月11日に経済協力で合意。

 中国側が農業や金融で米国に市場を開放し、米国側が中国の「一帯一路」に協力する意向を表明。この時、中国側はBSE(牛海綿状脳症)問題で止まった米国産牛肉の輸入再開や格付け業務や債券引受業務等の解禁を明らかにし、米国側は中国のLNG(液化天然ガス)調達を支援することが決まりました。

 米国側は牛肉とLNG対中輸出だけでは年3000億ドル超の対中貿易赤字はたいして減らせないので、中国製鉄鋼の不当廉売対策などを盛り込むべく、追加協議が行われたわけです。

 全体的に見ると、中国は多少の市場開放(米国産牛肉の輸入を解禁。米金融機関に絡む規制緩和等)を行いましたが、対米黒字は5月に220億ドル(約2.5兆円)へと拡大し、中国が行った北朝鮮への制裁(石炭輸入禁止等)も大した効果を生んでいません。

 その「成果」の内容を WSJ日本語版(2017/7/18)を参考に振り返ると、特筆されているのは電子決済サービスの規制緩和と市場の一部開放等です(米中「100日計画」、成果はうわべだけ)。

 金融面では電子決済サービスの規制緩和などが注目されました。

  • 中国は電子決済サービスの免許申請(ビザやマスターカードに影響)を認めることに合意。
  • しかし、外国のクレジットカード会社が免許を申請できるようになったが、中国市場で事業を始められるわけではない
  • 中国の銀行がビザやマスターカードのネットワークで決済できるクレジットカードを広く発行するまでにはまだ何年もかかる可能性が高い
  • 新規則には、中国でのデータセンター設置義務など、外国企業の参入を阻む障壁が幾つも盛り込まれている
  • 格付け業務もさほど開放はされていない
  • ムーディーズやS&Pグローバル、フィッチ・レーティングスが得た「勝利も部分的なものにとどまった」。
  • 5月に100%外資が中国で信用格付けサービスを行うことを認めた中国政府は7月に同サービスの外資規制を撤廃。だが、格付け発行に必要な認可を得るプロセスや時期ははっきりしない。

  そして、中国の牛肉市場の開放に関しても、同紙は悲観的です。

  • ただ、米国で一般的な成長促進ホルモンの投与を禁止するなど、中国の安全食品基準は厳しいため、米国の牛肉業界にとって中国は当面、ニッチ市場にとどまる可能性が高い。
  • 米牛肉生産第3位の穀物メジャー、カーギルのマーセル・スミッツ最高財務責任者(CFO)は「条件を満たす米国の牛の数は限られる。目先、目立った変化はないだろう」と語った。 

注目される中国鉄鋼製品の輸入抑制措置 

  ホワイトハウスは中国に厳しい措置に踏み込み始めています。

  • 北朝鮮の金融取引を助ける中国の銀行と2人の個人に経済制裁
  • 人身売買に関して中国を最も悪質な違反国のカテゴリーに分類
  • 台湾に14億ドル規模の武器を売却
  • 香港の自由拡大を認めるよう求めた
  • 南シナ海の南沙諸島付近で「航行の自由」作戦を実行
  • 米国は国家安全保障上の理由で鉄鋼輸入への新たな関税を検討

 そのうち、特に注目を浴びたのは、中国一国だけでなく、幅広い国に影響が及ぶ鉄鋼製品の輸入抑制措置です。中国製鉄鋼は第三国を経由して米国に入ってきているからです。

 産経BIZ(2017.7.20)では「世界貿易紛争の危険性も 米の鉄鋼制裁を示唆、日本にも火の粉」と題した記事を公開していました。 

  • トランプ政権は鉄鋼の大量輸入で米鉄鋼メーカーの生産力が奪われることで、戦闘機や軍艦などの製造にも支障が出る恐れがある
  • 輸入製品が安全保障上の脅威になる場合、大統領が是正策を取れると定めた米通商拡大法232条に基づき高関税と輸入割り当ての同時適用を検討する。
  • 米国の鉄鋼製品の輸入量に占める中国製の割合は、オバマ政権時代から続く反ダンピング(不当廉売)税などの影響で3%未満まで落ち込んでいる。
  • トランプ政権は、課税を避けるため中国製品がアジアなど第三国市場を経由して流入しているとみており、日本を含む中国以外の国も制裁対象になる恐れがある。
  • 政府はトランプ政権に対し、中国製鉄鋼が日本を経由して米国に輸出されることはないと理解を求めているが、免れる保証はない。

  欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は、米国が制裁を発動した場合、「わずかな日数で対抗措置を取る」と警告。各国がWTO提訴等の措置に踏み込めば、世界的な貿易上のバトルが始まる可能性が高いわけです。

 この制裁措置の根拠は、50年以上前に成立した米通商拡大法の232条です。この法律では、米商務省が安全保障に悪影響を及ぼすと判断した時に、大統領が輸入を制限できることになっています。

 そして、具体的なデータとしては、「米国の鉄鋼消費に占める輸入の比率は3割程度にとどまる。主要な調達先もカナダ、韓国、メキシコなど友好国が大宗を占める。国防上必要な鉄鋼が供給できなくなる事態は中期的に見ても想定できない」等と指摘されています(日経電子版「安保を理由に鉄鋼輸入を抑えれば問題だ」2017/6/18)。

 この記事では「反ダンピング関税に加えて、安保を理由に鉄鋼輸入が制限されるようなことになれば、海外の輸出メーカーが大きな損害をこうむるのはもちろんだが、鉄鋼を使って製品をつくっている米国内の企業や消費者にも悪影響が及ぶ」との懸念が表明されていました。 

今後、トランプ政権の貿易政策は強硬化する?

 これに関して、WSJ日本語版(2017/6/20)がトランプ大統領とロス商務長官の見解を比較しながら、この政権の考え方を説明しています(「トランプ氏の貿易戦争論、冷静に説く商務長官」)

トランプ大統領は、国際貿易体制に対して建物破壊用の鉄球をぶつけたいと思っているかのような物言いをする。あまりに好戦的な雰囲気を醸し出すことが多いため、人々は貿易戦争が起きるのではと懸念を抱く。トランプ氏は、米国が巨額の赤字を計上している貿易相手国との間で「貿易戦争が発生しても気にしない」と発言。 

  いわば「過激派」がトランプ大統領で、その主張を理論的に、冷静に説明する役割を務めているのがロス氏だというのです。WSJ紙は自社主催のCFOネットワーク会議で、ロス氏が述べた言葉を紹介しています。 

「第2次大戦後は戦災国の復興支援がわが国の政策上の重要課題だった」とロス氏は述べた。その時点で米国は抜きんでた経済大国であり、共産主義の伸長を阻止するために欧州の同盟国と日本の経済再建を助けることが米国の利益にかなっていた。米国は貿易関係で寛大になれるだけの余裕があったし、寛大であることが米国の大きな国益にかなっていたという。

 しかし、戦後、同盟国は発展し、経済面での競争相手になります。

ロス氏は「米国の政策は全く変わらなかった。そのため、われわれは今ではひどい構造問題に直面しており、実際に自由貿易を阻害している」と論じた。

 ロス氏は、米国の欧州車の輸入関税が2.5%。欧州の米国車の関税は10%だと指摘し、中国との間で貿易不均衡が拡大したことを強調しました。

(WSJ紙によれば、鉄道に関して米国は欧州車両に14%の関税を課し、EU側の関税は1.7%) 

 こうしたロス氏の主張には、民主党議員等でも賛同する者が少なからずいることをWSJは指摘していました。この記事は、TPPが共和党、民主党双方で反対されたことを思い出させます。

 昨今の通商法301条に関わるニュースは、米国の貿易政策が新たな段階に入ったことを意味しているのかもしれません。