トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

【トランプ対金正恩】核の小型化と北朝鮮攻撃計画について

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(韓国の自由公園に立つマッカーサー像。出所はWIKI画像)

  日本の各紙で北朝鮮が核弾頭の小型化に成功し、それを長距離弾道ミサイルに搭載できるようになったという米国防情報局(DIA)の分析(7/28)が報じられています。このニュースはワシントンポストに書かれた記事をが元で、7月時点で北朝鮮が保有する核爆弾の数も最大60発にまで上方修正されました。

    核兵器は小型化されて始めて、核弾頭としてミサイルに搭載できるようになります(小型化されなければ爆撃機でしか運べないので、脅威としては数段下がる)。

   そして、小型化によって一つのミサイルに複数の核弾頭を搭載できる可能性が出てくるので、このニュースは米国が北朝鮮の核を本格的な脅威と見なし始めたことを示しています。

 16年9月頃の米国では「実際に核弾頭を小型化するには数年を要すると推測する見方が主流」でしたが最近は北朝鮮の核開発は予想以上に進んでいるという認識が共有されてきました。

 日本の防衛白書も、北朝鮮の核については「計画が相当に進み、小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる」と述べています。従来よりも強く進展を懸念する書き方になったわけです。

  トランプ大統領はこれに関して、8月8日に金正恩に警告しました(出所:「これ以上脅すと炎と怒りに直面」トランプ氏 : 国際 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE))。

「北朝鮮はこれ以上、米国を脅さない方がいい。彼らはこれまで世界が見たこともないような炎と怒りに直面することになるだろう。彼(金正恩)は通常にも増して非常に威嚇的に振る舞ってきた。すでに述べた通り、彼らはこの世界が一度も見たことのないような炎、怒り、そして率直に言えば、力に直面することになるだろう」

 その数時間後には北朝鮮の国営通信が米領グアムとその周辺に向けて中長距離弾道ミサイル(火星12号)発射を検討していることを発表しています。

  核の小型化を巡る分析を契機に、米朝間の緊張関係が再び深まってきましたが、米国側の攻撃計画とは、どのようなものがあるのでしょうか。

※各紙参照のワシントンポスト記事はこちら。

www.washingtonpost.com

米軍の北朝鮮攻撃シナリオとは?

 4月時点で安倍政権はトランプ政権に軍事行動開始時には事前協議をしてほしいと要望し、米国側もそれを受入れています。そうしないと、米国が軍事行動を起こす前に在韓邦人が退避する時間を確保できないからです。 

 米紙ウォールストリート・ジャーナルと経済専門サイトのビジネスインサイダー(BI)に書かれた有事シナリオの概略が産経WEST(2017.4.2)でまとめられていましたが、そこでは、以下のようなシナリオが想定されています(「北朝鮮をめぐる“危険” 米は武力行使まで言及も「日本も無傷では済まない」 内部崩壊の可能性も」)。

  • 米軍が北朝鮮の核兵器破壊や金正恩“除去”に踏み出すには絶対的な制空権が必要。
  • 空戦では米韓軍が圧倒的に優勢。
  • 核施設攻撃ではB2ステルス爆撃機から地下施設破壊用の「バンカーバスター」を投下。
  • ステルス機(F22戦闘機とF35戦闘攻撃機)で山岳地帯の移動式ミサイル発射台を狙う。
  • 護衛艦や潜水艦等から多数のトマホークミサイルが発射される。
  • ただ、移動式ミサイル発射台の全ては破壊し切れない。北朝鮮は残ったミサイルで反撃
  • ノドンやスカッド等の弾道ミサイルは北朝鮮全域で200発以上ある。
  • 開戦すれば北朝鮮はソウルを火砲で攻撃可能。
  • 38度線の非武装地帯(DMZ)近辺からソウルまでの距離は約50キロ。
  • 北朝鮮軍は山間部の横穴に隠したロケット砲を大量発射
  • 防空壕にソウル市民は退避するが、都市機能に大規模の被害が発生
  • 北朝鮮軍はDMZ地下の「南侵トンネル」を使って韓国に侵入。DMZ近辺が米韓軍の戦場となる。
  • 弾道ミサイルは日本にも発射され、我が国にも被害者は発生
  • ミサイルには化学兵器を搭載した弾頭が含まれる危険性がある

 ここには書いてありませんが、北朝鮮には10数万人の特殊部隊があります。その人員は韓国にも日本にも多数潜伏しているので、有事となれば、北朝鮮工作員が日本や韓国でテロ活動を開始することにも注意しなければなりません。戦争自体は、米韓軍の勝利に終わるはずですが、問題は、その時に韓国と日本で発生する被害の規模です。

 90年代に米軍が朝鮮半島で軍事行動を検討した際には、北朝鮮側の反撃で韓国に50万人~100万人の死傷者が出ると見積もられ、結局、その計画は中止されることになりました。ソウルが国境に近すぎるので、北朝鮮は旧型兵器でも韓国に大打撃を与えることが可能なのです(通常兵器による「相互確証破壊」)。

(そのほか、中国軍が北朝鮮になだれこみ、戦争が大規模化する危険性もある)

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(F16戦闘攻撃機とA10攻撃機。出所はWIKI画像)

米韓連合軍の代表的な作戦計画

 現在、世に知られている米韓軍の連合作戦の中で有名なのは、以下の作戦です。

作戦計画5027:全面戦争計画①

 4月には米韓連合軍の「作戦計画5027」が北朝鮮のサイバー攻撃によって流出しました。

 産経ニュース(2017/4/4)は、韓国KBSテレビが3日に朝鮮戦争が全面的に再開された場合の米韓軍の「作戦計画5027」が流出したと報じています。ハッキングは16年9月に行われ、12月に発覚したのですが、この作戦は「北朝鮮の朝鮮人民軍の南侵による朝鮮戦争再開を想定し、1970年代から改定が重ねられてきた」最高機密です。

 詳細は不明ですが、韓国海軍で特殊部隊に在籍していたコウヨンチョル氏はこの計画について、米軍は「海軍・空軍戦力による爆撃を集中し」、「韓国軍は地上軍を投入して軍事分界線を越えて北朝鮮を攻め、北朝鮮を占領して統治する」と説明していました(『北朝鮮特殊部隊白頭山3号作戦』)

作戦計画5015:全面戦争計画②

 これは、北朝鮮が核攻撃もしくは核威嚇を行うことが確実になった時に、米軍がそれを破壊する「予防攻撃」と、金正恩への直接攻撃(断首作戦)を含んだ全面戦争計画です(予防攻撃も断首作戦も全面戦争を招来するので、この二つだけが単独で作戦計画5015を構成しているとは考えにくい)。

 この「5015」に関して、古森義久氏(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)は『月刊Hanada 2017年6月号』にて「米韓軍による北朝鮮の国家指導部への奇襲攻撃や通信ネットワークの破壊攻撃、さらには北朝鮮全土に点在する主要軍事拠点への攻撃をも含む」(P64)と説明していました。これは2015年に米韓連合軍に承認され、従来の「5027計画」に替わる有事の戦略方針として採用されたとも述べています。

 こちらのほうが米軍の攻撃計画の中で「本命」にあたるのかもしれません。

作戦計画5026:限定攻撃計画

 それ以外にも、限定的な攻撃計画として「5026計画」があるといわれています。

 これは「寧辺核施設をはじめ弾道ミサイル基地および生物化学兵器施設をピンポイントで空爆する」計画です。「国家の指揮・通信施設や空軍基地や防空基地も集中爆撃して、全面戦争を回避する」ことを意図したものです。この中には北朝鮮の指導者の排除を狙ったピンポイント攻撃も含まれています(『北朝鮮特殊部隊白頭山3号作戦』)。

作戦計画5029:北朝鮮側の異変に対応

 これに関しては、国家基本問題研究所が政策提言「北朝鮮に対する政策提言:新政権は北朝鮮急変事態に備えよ」(2009/9/11)の中で紹介していました。

 その中身に関して、「北朝鮮における、①クーデター、住民暴動、金正日死去などで内戦が発生、②反乱軍が核、化学兵器など大量破壊兵器を奪取、③住民の大量脱出、④韓国人人質事件の発生、⑤大規模な自然災害の発生-とされている。作戦計画では兵力や装備の配備・運用まで具体的に定めている」と述べています。

 これは状況の変化に対して、順次対応するための計画です。

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(米軍が核実験時に撮影。見るからに地獄絵図。出所はWIKI画像) 

北朝鮮危機は杞憂に終わるのか?  それとも・・・

  どれも恐るべきシナリオですが、現状では、それ以外に北朝鮮の核開発を止める有効な手段が存在していません。

  戦争が起きなくても、金正恩政権が延命し、これからも核開発やミサイル実験を進めていくだけなので、未来に危機が先送りされる構図になります。

 どちらでも危機であるのは同じです。

 そのため、17年に入り、在韓米軍に再び核兵器を配備すべきだ、という案が米政府内で浮上したことが報じられています。

 元を辿れば、ソ連崩壊の後、90年代初めに米軍は朝鮮半島から核兵器を撤去しました。その後、北朝鮮が核開発とミサイル開発を本格化させ、結局、ゲームは振り出しに戻ってしまったのです。

 冷戦時代を振り返れば、沖縄返還前には、沖縄の基地に米軍の核部隊が展開していました。日本は「核抜き」で沖縄返還をすると決め、非核三原則を定めたわけですが、もはや「持ち込ませず」の原則は時代に合わなくなってきたのかもしれません。

 冷戦期は、結局、米ソ両国が核兵器でにらみ合うことで、両国が戦争できない状態を維持していました。西ヨーロッパや朝鮮半島などでは核兵器を配備し、抑止力強化を図っていたわけです。

 冷戦期の戦略を用いるならば、結局、北朝鮮の核に対して、在韓米軍が核配備し、日本は在日米軍の「核持ち込み」を公認するしかなくなってきます。話し合いが利かない相手の場合、結局、「核には核で」という形で抑止力を強化し、暴走を止めるしかなくなるからです。

 話し合いや交渉で北朝鮮の核兵器を放棄できなかったここ20数年を振返ると、結局、残された対策としては、日本の「敵基地攻撃能力の保有」(トマホークミサイルの配備等)や非核三原則の「持ち込ませず」の緩和(米軍の核兵器持ち込みによる抑止力強化)が有力候補として浮上してきます。

 結局、話し合いで解決の道が見えないのならば、米軍も韓国も日本も、さらに高度な抑止力が必要になり、結局、今までの「タブー」を破らざるをえなくなりそうなのです。

 このうち、政府は「敵基地攻撃能力の保有」については議論を開始しましたが、その答えが出るのは18年夏で、これが認められれば、その内容が既存の18年以降の防衛大綱の中に盛り込まれる予定になっています。仮に保有が決められても、実施は2年以上先の話なので、北朝鮮危機の進展に比べると、日本政府は呑気な議論をしています。

  本当は、そうした悠長な体質にこそ問題があるのかもしれませんが・・・。