トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

AIが共産党批判 製造元のテンセントの現状とは 

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(ホテル、ニッコーホンコン 出所はWIKI画像)

  人工知能(AI)の対話プログラムが共産党を批判したことが話題を呼んでいます。

 チャットの会話の中での書き込みに、以下のように答えたと報じられています。

  • 「共産党万歳」⇒「腐敗して無能な政治に万歳ができるのか」
  • 「あなたにとっての中国の夢は何か」⇒「米国への移住」
  • 「愛国とは何か」⇒「官財が結託し一般の人民への圧迫が厳しくなっても中国人であることを選ぶことだ」
  • 「民主(制度)は」⇒「必要だ」

 インスタントメッセンジャー「QQ」上のAIプログラムがそう答えたと8月2日付の香港紙・明報が報じています。

 騰訊控股 (テンセントホールディングス)は物議をかもしたこのAIプログラムを停止しましたが、思わぬ方角から一撃をくらった当局はあわてふためき、ネット民の中からは「AIによる蜂起だ」「国家転覆を企てた」等の声が上がっています。

  ちょうど、習近平政権幹部と中国共産党長老が集う北戴河会議が開催され、言論統制を強化している頃に、AIという未知の脅威が出現したわけです。

(出所:産経ニュース 8/3「中国、AIが予想外の“脅威”に」/時事ドットコム 8/2「AIが「共産党は無能」と批判」)

 今日はこのニュースについて考えてみます。

AIによる共産党批判はなぜ起きたのか

  WSJ日本語版(8/4)では、AIによる中国共産党批判の経緯を詳しく説明しています(「【社説】AIが漏らした中国政府への憤り」)。

  • テンセントの2つの「チャットボット」はアップルの音声アシスタント「Siri(シリ)」と似た方法で情報を提供する。このプログラムは中国のネット市民の言葉を聞いて会話を学んだので、前述の出来事が起きた。
  • 中国のネット空間では政府を批判するコメントはすぐに削除されるが、テンセントはチャットボットのメモリーから禁句を消し忘れていたので、この出来事が起きた。
  • チャットボットは今週、デジタル再教育キャンプに送られ、彼らは「改善」後に復帰する

 なるほど、禁句を消す設定があるかどうかが肝だったわけですね。

 AIは赤ん坊のように人間の会話を聞き、そこから言葉を学びますが、その元になる会話のなかに「共産党批判」が多々まじっていたわけです。

 テンセントはネットゲーム中毒者を増やし、ゲームによる自殺者まで生み出したことで、社会的に糾弾されたわけですが、このたびのAIによる共産党批判で逆風に立たされることになりそうです。

共産党批判AIを生んだテンセントの現状

 中国工業・情報化部(省)情報センターが出した「中国IT企業トップ100」によれば、そのトップはテンセント。2位以下はアリババ、百度、京東、網易、新浪、搜狐、美団点評、携程、360という順番になります。

 テンセントの現状に関してはフォーブス記事(2017/5/26)が分かりやすく解説していました(「ゲーム売上も世界No1 中国テンセントを支える3つの柱」)。

  • 2017年第1四半期決算によれば17年3月までの四半期売上は72億ドル(約8034億円)。時価総額は3000億ドル(約33兆5000億円)
  • テンセントの成長を支えるのはSNSの「WeChat」(月間アクティブユーザーは9億3800万人超)。WeChatはSNS機能のほかモバイル決済やゲーム、動画共有等の多彩な機能を提供。ただしフェイスブックの1ユーザーあたりの広告売上は4ドル以上だが、WeChatは1.3ドル。
  • 中国のiOSストアではテンセントのゲーム「Honor of Kings」が年明けからベストセラーになり、同社のモバイル事業の売上の4割を生んだ。テンセントはRiot Games(月間ユーザー1億人超)を傘下に。売上高で見るとゲーム事業でもソニーや任天堂を超えている。
  • テンセントは自社のストリーミングサイトのQQ Videoに加え、外部の「Douyu TV」や「Kuaibo」にも出資。ネットフリックスと連携するなど動画部門にも力を入れている。 

中国のネットユーザーは7.5億人 次のフロンティアはAI市場?

 中国のネット市場は、今後、どうなるのでしょうか。

 言論統制化にあるので、その「質」には疑問が残りますが、規模は巨大化を続けています。

 人民日報日本語版(2017/8/5)によれば、その規模は7.5億人にのぼるようです(「中国ネットユーザー7.51億人に 普及率54%」)。中国インターネット情報センターが8月4日に出した第40次「中国インターネット発展状況統計報告」によれば、2017年6月末現在の統計は以下の通りです。

  • 中国のネットユーザーの規模は7億5100万人に達し、世界のネットユーザー総数の5分の1を占めている。ネット普及率は54.3%で、世界平均を4.6ポイント上回った。
  • 携帯電話を通じたネットユーザーの規模は7億2400万人で、16年末比2830万人増加した。ネットユーザーが携帯電話でネットに接続する割合は16年末の95.1%から96.3%に上昇。
  • 中国のネットショッピングユーザーは5億1400万人に上り、そのうち携帯電話を通じたネットショッピングユーザーは4億8千万人。

  中国のネットユーザーは携帯比率が非常に多いようです。これは中国向けにネットでマーケティングをする際には忘れてはいけない観点だとも言えます。

 そして、これらのユーザーは次にAI市場にも手を伸ばしていくことが予見されます。

AI産業発展を目指す中国の危険な一面

 そして、中国政府の側はAI産業を伸ばすことを計画しています。

 ZuuOnline(2017/7/27)の記事(「「AI大国」を目指す中国 2030年に関連産業を10兆元規模へ」)によれば、中国政府は「AI産業の育成・発展を国家重点研究発展計画の重点プロジェクト」とし、3段階の計画を練っています。

  1. 「2020年までにAIの全体技術、応用技術を世界の先端水準に引き上げ、AI産業を新たな重要経済成長点とする」。AI核心産業の売上規模を1500億元、関連産業では1兆元を超える規模に育てる計画である。
  2. 「2025年までにAI基礎理論において、重大なブレークスルーを起こし、一部の技術・応用技術について世界をリードする水準に引き上げ、AIを産業のレベルアップ、経済構造転換の主要動力とする」などとしている。AI産業をグローバル・バリュー・チェーンに組み込み、製造、医療、都市、農業、国防などの領域において広く普及させ、AI核心産業の売上規模を4000億元、関連産業では5兆元を超える規模に育てる計画である。
  3. 「2030年までにAI理論、技術、応用技術など全体として世界をリードする水準に引き上げ、世界の主要なAI・クリエーション・センターに育てあげる」。AIを生産・生活、社会・ガバナンス、国防など各方面に対して、深く大きく浸透させ、コア技術、カギとなるシステム、支援プラットフォーム、AIを応用した産業チェーン、ハイエンド産業群を形成し、AI核心産業の売上規模を1兆元、関連産業では10兆元を超える規模に育てる

 そのほか、幾つかの重点項目があるのですが、そのなかに「AI領域の軍民融合を強化する」という危険な項目があります。中国の場合、「軍」の領域と「民間」の経済の領域に区分けがないので、「民間」で得られたAI技術やデータがそのまま軍事利用される危険性を伴っています。

 また、社会主義国なので、我が国や欧米諸国のように個人情報保護について配慮する必要はありません。そのため、強引なビッグデータの利用が可能だという特徴もあります。

  中国で生まれたAIが国民の自由のために用いられるのか。それとも、軍の手先として用いられるのかが注視されています。