トランプ政権と日本・アジア 2017

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【北朝鮮ICBM】弾道ミサイルがEEZ内に 日本の対策とは

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(NASAが見た日本海近辺。出所はWIKI画像)

  北朝鮮が弾道ミサイルを28日の午後11時頃に発射しました。

 約45分をかけて1000kmの距離を飛び、そのミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと見られています。

 これに対して、安倍首相は厳重に抗議しました。

「国際社会の強い抗議、警告を無視して、北朝鮮がまたも弾道ミサイルの発射を強行し、わが国のEEZ内に着弾させた。先般の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の発射に続いて、わが国の安全に対する脅威が重大かつ現実のものとなったことを明確に示すものだ。
 北朝鮮に対し厳重に抗議し、最も強い言葉で非難する。北朝鮮がこのような挑発行動を続ける限り、米国、韓国をはじめ、中国、ロシアなど国際社会と緊密に連携し、さらに圧力を強化していくほかない」

(出所:時事ドットコム「安倍首相発言全文=北朝鮮ミサイル発射受け」7/29)

(※長距離弾道ミサイル=大陸間弾道弾〔ICBM〕:5500km以上の飛距離を持つミサイルがICBMとされる)

 また、米国防総省のデービス報道官は「このミサイルは予想通り、大陸間弾道ミサイルだったと分析している」と述べました。舞坪里から発射され、1000キロ飛行した後に日本海に着水したとの見方を示しています。ロシア国防省は「中距離弾道ミサイルの特徴」が確認されたとし、高度681キロ、飛距離732キロとしています。

(出所:AFP通信「北朝鮮、ICBMを発射 飛距離1000キロ、米国防総省が発表」7/29)

 今まで、北朝鮮にとって朝鮮戦争の”戦勝日”にあたる7月27日に長距離弾道ミサイル(大陸間弾道弾=ICBM)の発射実験をするのではないかと疑われていましたが、発表日は28日になりました。

北「ICBM」について安倍首相が記者会見(追記)

 安倍首相は29日の記者会見で日米韓の連携を訴え、北朝鮮に抗議しています。

 総理は、北朝鮮による弾道ミサイル発射事案について次のように述べました(以下、要旨)。

  • 日米、日韓において外相レベルの電話会談を行い、NSC(国家安全保障局)の谷内局長と米国のマクマスター大統領補佐官とで電話会談を行った。
  • 今回のミサイル発射で日米双方にとって北朝鮮の脅威拡大が現実化した
  • 日米韓において国連安保理における対応も含めて圧力を強化し、中国に対する働き掛けを更に強めていくことが極めて重要であることを共有した。

 そして、「先般のICBM級ミサイルの発射に続いて、我が国の安全に対する脅威が重大かつ現実のものとなったことを明確に示す」ものと位置づけ、「北朝鮮に対し厳重に抗議し、最も強い言葉で非難します」強固な日米同盟の下、高度の警戒態勢を維持し国民の安全確保に万全を期してまいります」と訴えました。

(出所:北朝鮮による弾道ミサイル発射事案についての会見【1】【2】) 

 そして、31日に安倍総理はトランプ大統領との電話会談の内容を公表しています。

  •  日米の平和的解決に向けた努力を北朝鮮は踏みにじった
  • こうした厳然たる事実を中国、ロシア、国際社会は重く受け止め、圧力を高めていかなければならない
  • 私たちも更なる行動をとっていかなければならないとの認識でトランプ大統領と完全に一致した
  • 同盟国を守るため全ての必要な措置をとるとのトランプ大統領のコミットメントを高く評価する

 (出所:トランプ米国大統領との電話会談についての会見(北朝鮮による弾道ミサイル発射事案)

  いつもながらの対応ではありますが、これで金正恩を止められるのでしょうか。

北朝鮮は2018年にICBMを実戦配備できる?

  再突入技術(ミサイルが大気圏に出た後、圏内に再突入する時の高熱から核弾頭を守る技術)を完成させれば、北朝鮮は大陸間弾道弾の完成段階に近づいてくるとも言われています。

 日本の新聞やニュースでは、25日付のワシントン・ポスト記事がまとめた米国防総省に属する国防情報局(DIA)の機密報告の内容が報じられていました。

  そこでは従来の「20年頃」との予測を裏切り、「北朝鮮が核弾頭を搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を2018年にも実戦配備できる」とされ、北朝鮮は来年までにICBMを試作から量産に移せるとされていたので、米国や日本に衝撃が広がっています(産経ニュース「【北ミサイル】来年にもICBM実戦配備」2017.7.26)。

 北朝鮮は2017年に実験を繰り返し、その能力を確実に伸ばしてきました。

 今までは日本のEEZの外側に落下してきましたが、7月28日のミサイルはEEZの内側を狙って発射されています。

  • 2月12日に発射された弾道ミサイルは高度500km
  • 5月14日のミサイル発射は高度2000km超
  • 5月21日の中距離弾道ミサイル発射では高度560km

(北朝鮮は4月には5日と16日、29日に三度ほどミサイルを発射しましたが、これはいずれも発射後に爆発。これは、米韓共同軍事演習中だったので、意図的に爆発するようにしたとも見られている)

 7月4日には、北朝鮮西岸から弾道ミサイルが発射され、日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下しました。

によれば、北朝鮮の国営テレビはICBMが2800kmの高度を飛翔したと発表。日本の防衛省は高度が2500kmを大きく超えたと推定しました(「北朝鮮、大陸間弾道ミサイル発射に成功と発表」)

 17年5月14日の「火星12」は高度2000km超、16年6月の「ムスダン」が高度1000km超だったことを振り返ると、北朝鮮が着々と長距離弾道ミサイル開発能力を高めていることが伺えます。

 ミサイル発射実験は2017年に入ってから11回目の発射。2016年には20発以上の発射(核実験が2回)。

 まるで、北朝鮮を止めるものは何もないかのようです。

 金正恩は「米韓軍事演習が続く限り核戦力を中心とした自衛的国防力と先制攻撃能力を引き続き強化する」(火星14号は)「大型重量の核弾頭の装着が可能」「米国の心臓部を打撃できる核攻撃能力を世界に示した」等と主張し、 労働新聞は「朝中人民がつくった友誼と親善の伝統的な歴史は、米国が無礼非道に狂奔しても消えはしない」と、北朝鮮・中国の間の同盟の強固さを強調しました(産経ニュース「強気の北「米韓演習続く限り核強化」と恫喝」2017.7.23)

 4月の米中首脳会談以降、トランプ政権は中国が北朝鮮の核・ミサイル開発に対して圧力をかけることを期待していましたが、結局、中国は大した制裁をせず、北朝鮮はその間にミサイル開発を推し進めました。

 現在、中国と北朝鮮の関係はよくないのですが、それでも、中国は北朝鮮を延命させているので、「血の友誼」ともいわれた両国の同盟はまだ死んでいないのかもしれません。

北朝鮮のICBM開発は制裁強化だけで止められない

 日本と各国は結局、制裁強化という落ちで終わりそうですが、過去、硬軟合わせた方策はいずれも成果なしで終わっています。

 90年代の核開発に関して、我が国は1995年~2000年までに累計108万トンのコメ援助を行い、核開発停止を要求しましたが、その返答は1998年のテポドンミサイル発射実験でした。

 2000年代の六カ国協議(03年~08年/日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮)が行われても、結局、2009年の北朝鮮核実験と長距離ミサイル発射実験によって裏切られました。

 日本は14年に一時期、制裁緩和に踏み込みましたが、拉致問題への返答はなく、16年に核実験とミサイル実験という、いつもながらの「返答」で終わったのです。

 制裁の中身は、北朝鮮国籍者の入国禁止、北朝鮮船の入港禁止、北朝鮮への輸出禁止、北朝鮮から輸入禁止などですが、この種の方策は核ミサイル開発の歯止めにならないことが実証されました。 

  今後の日程を見ると、7月から9月頃には軍にまつわる重要日程が並んでいるので、今後、北朝鮮は、さらに「もう一歩」を踏み込んで来そうです。

  • 8月15日:祖国解放記念日(韓国では光復節と呼ぶ。日本の朝鮮支配の終了日) 
  • 8月25日:先軍節(金正日総書記が軍政を開始) 
  • 9月9日:建国記念日 
  • 10月10日:朝鮮労働党創立記念日 
  • 12月27日:憲法記念日(国民の人権を守らない北朝鮮憲法の誕生日)

 夏は国威発揚の季節なので、何もしなければ、今後もICBMの開発実験が続くでしょう。

北朝鮮はICBMではなく、ノドン等で日本を狙う

 北朝鮮が2月に「北極星2型」を発射した時、韓国軍は「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を地上配備型ミサイルに改良したものだ」とみなし、固体燃料を用いたミサイルだと推定していました。

 弾道ミサイルには液体燃料を用いる場合と固体燃料を用いる場合の二通りがありますが、液体燃料推進方式のミサイルは発射までに時間がかかるのに対して、固体燃料推進方式のミサイルは短期間で発射が可能です。

 固体燃料を用いるミサイルは、液体を充填する時間だ要らないので、短時間で撃てるわけです。

 今までの北朝鮮の弾道ミサイルは、みな液体燃料推進方式でしたが、もはや、最近では固体燃料推進方式のミサイル実験が増えています。それが移動式発射台から撃てるようになれば、米国軍や韓国軍が北朝鮮がミサイル発射前に先制攻撃でそれを抑止することが難しくなるのです。

 その後、3月6日のミサイル発射では4発のうち3発が日本のEEZ内に落下し、もう一発も近くに落ちましたが、これに対して、元自衛官の佐藤正久参議院議員は「北朝鮮のミサイル技術と精度はかなり進展している」と評していました(『WILL 2017年6月号「照準は嘉手納、佐世保、岩国」』P52)。

 そして、同氏は、三沢(青森県)、横須賀(神奈川県)、嘉手納(沖縄県)、東京、名古屋、大阪、各地の原発などに警戒を促しました。地下や洞窟に隠してどこからでも発射できる車載式のスカッド、ノドンを事前に先制攻撃で破壊するのは米軍でも難しいことや、迎撃ミサイル(SM-3とPAC)で落とせる数には限界があること、日本も「盾」だけでなく、敵を抑止する「矛」に相当する兵器を持たなければいけないこと等を主張しています(P53~55)

 ミサイル開発を見るポイントとしては、推進方式(液体燃料or固体燃料)や発射台(固定式or移動式)、命中精度などが大事ですが、このいずれにおいても、最近の北朝鮮は顕著な進歩を見せています。

 最近、高度の高いミサイル実験が延々と続いているのは、すでに日本を狙うミサイル開発は、ほぼ終わり、次の「標的」である米国に向けた実験へと移行したと見るべきなのかもしれません。 

アメリカは北朝鮮のICBM開発を阻止できるのか

 トランプ政権は米中首脳会談後、北朝鮮問題の解決に意欲を見せましたが、韓国のムンジェンイン新大統領は宥和外交路線を打ち出しています。

 そのため、5月以降のトランプ政権はやや様子見モードに移りました。

 米軍といえども、韓国軍の協力なしに単独で北朝鮮に攻撃をしかけるのは割が合いません。米軍だけで北朝鮮を滅ぼすことは可能ですが、その場合、一歩的にリスクを背負い込み、韓国側からは何の感謝もされないわけですから、割が合わないわけです。

 北朝鮮問題が長期化するのは、シリアのミサイル攻撃等とは難易度のレベルが違うからです。

 27日には、米陸軍のミリー参謀総長がワシントンでの講演の中で、現状認識を公にしました。

  • 北朝鮮に外交・経済的圧力をかけて核放棄を迫る取り組みは「時間切れに近づきつつある」
  • 北朝鮮との戦争に突入すれば「米軍と韓国軍は北朝鮮軍を全滅させることができるが、人命や社会基盤、経済にも甚大な被害が出る」
  • 「朝鮮半島での戦争は悲惨だが、ロサンゼルスで(北朝鮮の)核兵器が爆発するのも悲惨だ」
  • 北朝鮮の核保有容認でも、北朝鮮との軍事衝突でも、「良い結果を生む選択肢は何一つない」
  • 「非常に重大な結果を引き起こすことになるが、熟慮の末の決断を下さなくてはならない」と述べ、今後の展開次第では北朝鮮の核の無力化に向けた軍事攻撃の選択肢もあり得ることを強く示唆した。

(出所:【トランプ政権】北朝鮮への軍事攻撃も選択肢 外交・経済圧力は「時間切れ近い」「ロスでの核兵器爆発」は阻止 米陸軍参謀総長が警告 - 産経ニュース

 北朝鮮側もソウルを火の海にできる反撃能力があるので、いざ実戦となれば、在韓米国人にも被害が及ぶ可能性があるので、米軍にとっても戦争のリスクは高くつきます。

 前掲の佐藤正久氏の記事では、以下のように、その難しさが説明されていました。

  • ソウルから北朝鮮の最短距離は40km
  • 北朝鮮にはソウルを火の海にできる実力がある
  • 北朝鮮の陸上戦力77万人(総数100万人)がソウル攻撃のために韓国との国境沿いに集結
  • 韓国の人口は約5100万人だが、その半分の2500万人がソウルとインチョンまでの間の数十kmに暮らしている
  • ここが火の海になれば数十万~百万人規模の避難民が出る恐れがある

 朝鮮戦争が再開されれば、在韓米国人20万人、在韓邦人38000人にも被害が及びます。このリスクを冒すのは、トランプ政権といえども、容易ではありません。

 トランプ政権は、「重大な結果」を引き起こしてでも軍事的な選択肢を行使するのでしょうか。

  その可能性もありますが、現状では、オバマケアの代替法案否決などでもめており、国内問題に追われているようにも見えます。 

北朝鮮のICBMへの対抗策:日本は抑止力を強化するしかない

  結局、日本に残された選択肢は、自国の抑止力強化しかありません。

 ミサイル防衛システムを強化しても、多方面に百発以上のミサイルが飛んで来たら防衛の限界をあっさり超えてしまうので、結局は、反撃能力を確保して「撃たせない」ようにするぐらいしか選択肢は残っていないでしょう。

 そのため、筆者は、当ブログで、米海軍アドバイザーの北村淳氏が薦める、1000億円で800発の巡航ミサイル(トマホーク)を米国から買う、というプランを採るべきだと主張しています。

(※他国の例を見ると、攻撃的な国を抑止するミサイル戦力としては、だいたい1000発ぐらいは必要なようです。例えば、イスラエルはイランの核開発抑止のためにオルメルト首相時代に「1000発のミサイルを撃つぞ」と威嚇したことがあります。800発というのは1000億円に合わせた数字にすぎず、1ドル100円時代に、北村氏は1000発保有を薦めていました)

 ミサイル防衛システムで日本を完全に守ろうとしたら数兆円もの予算が必要になりますが、巡航ミサイルは一発100万ドル程度なので、限られた予算で国を守るためには、反撃能力を確保したほうが合理的だからです。

(詳細は北村淳著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』を参照)

※関連記事:日本も巡航ミサイル保有を検討 北朝鮮危機を前に防衛政策の大転換はなるか - トランプ政権と日本・アジア 2017

 あと一つ、付け加えるとすれば、日本が憲法九条を改正し、自衛隊を「軍隊」として正式に位置付ければ「防衛法制上、決めたことしかできない」という機能不全の自衛隊ではなくなります。

 諸外国の軍隊は、国際法と国内の国防法、ROE(交戦規則)等で禁じられたこと以外は機動的に動けるようにしているので、日本も普通の国のように、いつでも反撃できることが明確であれば、抑止力がもう一段、強化されるからです。

 さらに、非核三原則のうち「持ち込ませず」の原則をなくせば、米国が日本を守るために核を持ち込むこともありえる体制に変わるので、北朝鮮に対する抑止力強化になります。日本人の核アレルギーは根強いのですが、結局、北朝鮮の核に対抗しているのは、米軍の核抑止力なので、もうそろそろ、日本もこの措置に踏み込まざるをえません。

 もはや抗議しても制裁しても、北朝鮮のやることは一緒なので、日本も、もはや「最終手段」に踏み込むしか国を守る道はないのではないでしょうか。