トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

【ロシア疑惑】トランプ弾劾が難しい理由とは

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(ウォーターゲート事件の頃のニクソン大統領。出所はWIKI画像)

 「ロシアに機密情報を漏らしたのか?」

「ロシアについてコメントを」

 いわゆるロシア疑惑は、記者たちがトランプ大統領周辺をかぎつける姿が、どこか日本の「もり・かけ」問題(ソバになぞらえる、森友/加計の学園問題)に似ています。

 一応、簡単に復習しますと、この疑惑では、幾つかの論点で真偽が問われています。

  • 大統領選中にトランプ陣営がロシアに「選挙干渉」を通して支援をもちかけ、その見返りに対露制裁緩和を裏で協議したのか。
  • ロシア関連で怪しいカネの流れがあったのか。
  • ロシアに機密情報を漏らしたのか。
  • 5月のFBI長官(コミー氏)解任は司法妨害ではないのか。

 16年夏に民主党全国委員会へのサイバー攻撃で同委員会幹部らのメールが流出し、クリントン敗北後にオバマ氏がロシアはサイバー攻撃を行ったと断定しているので(根拠は情報機関の調査)、ある意味では、選挙で敗れた民主党とマスコミの報復にも見えなくもありません。

 このロシア疑惑は、トランプ政権とロシアとの怪しい関係を1970年代にニクソン大統領が対立候補を盗聴して辞任した「ウォーターゲート事件」になぞらえられています(「ロシアゲート」)。

ロシア疑惑の要点1:大統領選の結果に対する不満が鬱積

 こうしてみると、昨年の大統領選の是非そのものが問われているので、日本の「もり・かけ」問題よりも規模が大きいのは事実です。

 しかしながら、大騒ぎのわりには、意外と決定的な証拠が出てこないところは、森友学園や加計学園の問題と似ています。

 この疑惑で「被弾した」第一号は親露派のフリン前大統領補佐官(安保担当)で、被弾寸前に戦闘回避したのが、セッションズ司法長官。そして、現在、トランプ氏の息子やジャレッド・クシュナー大統領上級顧問(トランプ氏の娘婿)がやり玉にあがっているわけです。

「クシュナー氏って誰?」

 そう呟いた方でも、美人のイヴァンカ・トランプさんのイケメン夫(まだ36歳です)だといわれたら、思い出すかもしれません。

 若き日のトランプ氏に似たやり手の不動産家が政治の世界に進出したのですが、諸々の抵抗に直面しました。

 クシュナー氏はトランプ陣営の選挙の要職を務めていたので、この問題でやり玉に挙がったとも言えます。

 16年7月以降、クリントン陣営から大量にメール流出が起きましたが、この裏にトランプ陣営が絡んでいると疑われています。 

  • 7月24日:ウィキリークスが民主党全国委員長のメール約2万件を公開
  • 8~9月:ペロシ下院院内総務ら民主党関係者193人分の個人情報流出
  • 10月7日:ウィキリークスがクリントン氏の講演(自由貿易推進)を公開
  • 10月14日:ウィキリークスがクリントン氏の講演(ミサイル防衛推進)を公開

 産経新聞(2016/10/24:3面)では、米サイバーセキュリティ会社のクラウドストライクが7月以降の大統領選を揺るがすサイバー攻撃には、ロシア情報機関と関係が深い「コージーベア」と、ロシア軍参謀本部情報総局との関連が疑われる「ファンシーベア」という二つのハッカー集団が関わっていると指摘していました。

 そして、電子投票システムの脆弱性に関しても、フィナンシャルタイムズ(日経ビジネス翻訳:2016.10.17号 P106-107)が米国民の不安の高さを指摘しました。米サイバーセキュリティ企業(カーボン・ブラック社)が実施した調査ではアメリカの有権者の58%が電子投票機がハックされる可能性が高いと考えており、この機械で投票したくないと考えている有権者の数は1500万人にのぼりました。

 結局、このロシア疑惑の背景には、昨年の「大統領選」に対する鬱積した不満があるとも言えます。 

ロシア疑惑の要点2:クシュナー氏は潔白を主張

 クシュナー氏は24日に上院情報委員会で2時間半の証言を行っています。

 ロイター記事(2017/7/25)によれば、その要点は以下の通りです(「クシュナー氏が非公開の議会証言、ロシア政府との「共謀」を否定

  • (証言前に)「私はいかなる外国政府とも共謀しなかった」「選挙陣営内で共謀した人物も認識していない」と強調。「不適切な接触はなかった」「自分の事業のためにロシアの資金を融通したことはない」と主張。
  • 2016年4月、当時の駐米ロシア大使(セルゲイ・キスリャク氏)とワシントンで初会合。同年4月と11月の電話のやり取りに関しては記憶がなく、電話記録もない
  • ロシア国営の開発対外経済銀行(VEB:米の対露制裁の対象)のトップ(セルゲイ・ゴルゴフ氏)と会ったが政策協議等はない。
  • 2016年6月、トランプ・ジュニア氏とロシアの女性弁護士ナタリア・ベセルニツカヤ氏(ロシア政府と関連が深いとされる)による会合に同席したが、実りがないので10分で席を外した

 要するに、潔白を主張しました。クシュナー氏は25日に下院でも証言を行う予定です。

ロシア疑惑の要点3:開き直ったトランプ・ジュニア氏

 このロシア疑惑にちなんで、少し前には、トランプ・ジュニア氏のメールも公開されています。

 トランプ・ジュニア氏は7月11日にナタリア氏(前掲のロシア人弁護士)と16年6月に面会するまでの経緯が分かるメールを公表しました。

 そこでは、トランプ大統領の知人であるロブ・ゴールドストーン氏(音楽プロデューサー)からクリントン氏に不利な情報をロシア側が提供することが提案され、トランプジュニア氏が”I love it"等と答えていました。

  このメールでは、トランプタワー建設で提携しようとした資産家のアラス・アガラロフ氏やその息子(エミン氏)の名もあげられています。

 その後、ナタリア弁護士とこの三名と、トランプ・ジュニア氏とクシュナー氏との面会が実現したので、その後、クシュナー氏にも飛び火したわけです。

  トランプジュニア氏のメールを見ると、まさに「飛んで火に入る夏の虫」といった感じがします。

 これは、ありきたりな情報屋の「怪しい話」を聞いてしまった、ということなのでしょう。

 同席したクシュナー氏が10分で席を外したのは、すぐに内容のレベルが分かり、「ドラ息子のバカ騒ぎには付き合いきれぬ」と判断したからなのかもしれません。

ロシア疑惑の要点4:コミー前FBI証言も決定打にならず

  さて、このロシア疑惑のページをめくると、トランプ大統領がコミーFBI前長官に「忠誠心を期待している」
「フリンはいい奴だ」「見逃してやってくれ」「国のためのディール(取引)が妨害されている」等と述べたこともやり玉にあげられました。

 その前には、フリン前大統領補佐官(安保担当)が新政権発足前に民間人でありながら、ロシア勢と外交協議をしてしまったとの疑惑で辞職に追いやられています。

 いろいろと怪しい話は続いていますが、それでもまだ議会は「トランプ弾劾」を行っていません。

 それは、まだ、トランプ氏を追い詰めるに足る決定的な材料が足りないからです。

 もろもろの話は「ロシア関係者と会った」「(うさんくさい話に)それは素晴らしいと言ってしまった」「圧力をかけられたと指摘する者がいる(第三者の証言や反対尋問の検証はまだない段階。法的には水掛け論的段階)」というレベルの話なので、まだ共和党議員が民主党議員からの弾劾に同意することは考え難いとも言えます。

 そのため、米マスコミも、安倍首相の粗探しに励む日本のマスコミのように、必死にトランプ政権の失点を捜しているとも言えます。

 ニクソン辞任の際には「録音テープ」という決定的な材料があったのですが、「ロシアゲート」ではそこまでの資料がないわけです。

(ニクソンは大統領の任務のために情報保持ができる「執行特権」を理由にテープ提出を拒否して辞任した)

ロシア疑惑の要点5:トランプ弾劾には両院の3分の2の賛成が必要

 トランプ弾劾が難しいのは、もともと、大統領弾劾の手続きが厳しいからです。

 米議会で、大統領や副大統領を含むすべての文官を弾劾する際には、下院と上院で出席議員の3分の2の賛成が必要となります。

 今の下院の定数は435。議員数は共和党が240名、民主党が193名、欠員が2名なので、トランプ氏を弾劾しても過半数を取るのは困難です。

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 また、上院の定数は100.共和党が52名、民主党が46名、無所属が2名なので、こちらは下院以上にハードルが高くなっています。

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 米国建国以来、弾劾裁判が始まっても、たいていは下院で終わっていますが、トランプ弾劾は、下院さえ通らない可能性が濃厚なのです。

 過去、クリントン大統領、ジョンソン大統領、チュース最高裁判官は下院で弾劾されたものの、上院で有罪にはなりませんでした。弾劾裁判で大統領をクビにするのは、それだけ難しいのです(有罪になったのは、下級審の裁判官ぐらいで、大統領や副大統領、連邦最高裁判事などが有罪とされた先例はない)。

  これは、それだけ、米国民が「大統領選」の結果を重視しているからでもあります。

 ただ、その大事な大統領選で疑惑が起きたからこそ、今回、トランプ氏が追及されているとも言えるわけです。