トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

文在寅氏が北朝鮮に「南北対話」を提案 韓国はどこに行く?

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(国連軍管理「キャンプ・ボニファス」入口。出所はWIKI画像)

  文在寅(ムン・ジェイン)氏が米韓首脳会談後に、その本心を露わにし始めています。

 トランプ氏との会談を終え、一段落がついたと考えたのか、韓国の国防省は、7月21日に北朝鮮の南北軍事境界線がある板門店で軍事会談を行うことを提案しました(※境界線付近で韓国が行っている、反北朝鮮体制の政治宣伝放送などの中止が議題になる模様)。

 大韓赤十字社も8月1日に板門店の韓国側で赤十字会談を行うことを提案(10月4日に南北離散家族再会事業の開催を話し合おうとしている)。

 今回は、韓国が親北外交に踏み出すことで、どんな問題が起きるのかを考えてみます。 

文在寅氏の親北発言一覧(米韓首脳会談後)

 文政権が表明した「南北対話」が出るまでの過程を追ってみます。

 文大統領はトランプ大統領との会談を終えた後、6月30日に米戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、「金正恩(キム・ジョンウン)委員長だけが核放棄を決定できる唯一の人物だ」「対話することも必要だ」等と表明しました(一応、金政権の挑発への対応は必要だとしている)。

 そして、7月3日に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とソウルで会談した折に、文大統領は「北朝鮮が平昌五輪に参加すれば朝鮮半島地域と世界の平和に役立つ」等と発言しました。 

 そして、7月6日にはハンブルクサミットのために訪問したベルリンにて、対北挑戦政策を表明しています。

 日経電子版(2017/7/7)によれば、その内容は以下の通りです(「韓国・文大統領、南北融和に執着 日米連携の不安材料に」)。

 【五大原則】

  1. 韓国は平和を追求
  2. 朝鮮半島の非核化追求と北朝鮮の体制を保障
  3. 平和協定締結を推進
  4. 朝鮮半島に新たな経済地図を描く
  5. 交流・協力事業を進める際には政治・軍事的な状況を切り離す

 【四提案】

  1. 南北対話の再開(韓国統一省が前述の南北赤十字実務会談や軍事実務会談の実施を準備)
  2. 朝鮮戦争休戦日(7月27日)に合わせ、軍事境界線から緊張をエスカレートさせる一切の敵対行為の中止
  3. 10月4日に南北離散家族再会事業の開催(双方の墓参りを含む)
  4. 2018年の平昌冬季五輪への北朝鮮の参加

 文氏はICBM発射後も親北路線を打ち出すことを明らかにしました。ドイツでこれを明らかにしたのは、東西ドイツの統一に朝鮮半島の南北統一になぞらえるためでしょう。 

 文大統領は、東西ドイツが統一された時、東ドイツに核兵器や大量の弾道ミサイルがなかったことを忘れているのかもしれません。冷戦終了時と現代との時代の違いは考慮に入れていないようです。

 また、非人道的な政治を続ける北朝鮮の体制をなにゆえに維持しなければいけないのか。そうした国と平和交流や協力事業を進めなければいけないのかーーその理由の説明は不十分です。

 筆者には、これは人気取りを狙った文氏のスタンドプレーにしか見えません。

文在寅氏の”安全保障構想”はあてになるのか?

 日経電子版(2017/7/16)では、文大統領が、日本の帝国主義からの解放記念日とした8月15日に「北東アジアの平和」のためのメッセージを送ろうとしていることを報じ、その安保構想を紹介していました(韓国大統領、「北東アジアの平和」訴え 8月15日に)。 

文大統領は北朝鮮との南北関係の進展や日中韓の3カ国協力とともに、日中韓とロシアに東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドを合流させる多国間の安保共同体構想を描いている

 しかし、そんなものが実現するのでしょうか。

 安全保障上の協力関係は、数が増えれば増えるほど国益の一致度が下がるので、協力関係が緩くなりがちです。

 今の世界で機能している同盟は、日本と米国、韓国と米国、豪州と米国、英国と米国、というふうに「二国間」で成立しているものばかりです(NATOは「欧州と米国」の間の同盟。やや例外的な存在)。

 文氏がいうような多国間の安全保障協力が機能するかどうかは、疑問符をつけざるをえません。

 多国間条約のNATOが機能する背景には、1)仮想敵国(ロシア)が明確で、2)欧州各国の文化・価値観の共通性が高く、3)利害関係が一致しやすい、という要素が挙げられますが、文氏が挙げた、日中韓、ロシア、ASEAN、インドは仮想敵国は違い、価値観もバラバラ、利害関係もバラバラです。

 文氏がいう安保共同体なるものは、できたとしても、名ばかりで実体のない枠組みにしかならないでしょう。

 文氏は、戦時作戦権(有事の米韓同盟の指揮権)を韓国に返還することを米国に要望し、6月末の首脳会談でトランプ大統領の合意を得ましたが、これが実現すれば、米韓同盟は確実に弱体化します。

 米軍は他国軍の指揮下には入らないので、朝鮮有事の折に韓国軍の指揮には従いません。戦時作戦権が米軍から韓国軍に移管されれば、米軍は韓国軍に戦争を委ね、被害が最小限になる範囲でしか戦わなくなる可能性が高いのです(米軍はすでにソウル以北から、ソウルの南に拠点を移している)。

 文大統領は、戦後70年間の安全を保障した米韓同盟を弱体化し、あてにならない多国間の”安全保障機構”にすりかえたがっているように見えます。戦前の日本は、当時、最も頼りになった日英同盟を解消した後、4か国条約や9か国条約といった機能しない多国間の枠組みに乗り換え、国を失ってしまいました。

 筆者は、文大統領が亡国の愚策を目指しているように思えてなりません。