トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米中貿易交渉100日経過・・・今後を占う三つの視点

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(米中会談が行われたバームビーチの風景。出所はWIKI画像)

  7月16日で米中首脳会談以降の「100日間」の貿易交渉が終わることになっていました。

 しかし、現在、明確な交渉の結果が出てきたわけではありません。 

 過去の経緯を見ると、中国は市場開放のために一歩を進めたものの、大きな成果が出たわけではなく、北朝鮮問題も解決していないからです。

  • 中国は米国産牛肉の輸入を解禁。米金融機関に絡む規制緩和
  • 外国のソフトウエア企業締め出しにつながるサイバーセキュリティー法を強化
  • 中国の対米黒字は5月に220億ドル(約2.5兆円)となった。
  • 中国は北朝鮮に追加的制裁(石炭輸入禁止等)を科したが、効果は薄い
  • 北朝鮮は米独立記念日の4日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を実験
  • トランプ大統領は14億ドル相当の台湾向け武器売却計画を公表。
  • 北朝鮮と取引する中国の個人や銀行に対する制裁を発表
  • 米国は国家安全保障上の理由で鉄鋼輸入への新たな関税を検討
  • 米海軍は「航行の自由」作戦を再開。南シナ海に艦船を派遣した

 この経緯を見ると、結局、トランプ政権は中国の対応に納得できず、厳格な措置に踏み込もうとしています。

 米中貿易交渉は、もともと100日で終わるはずがありませんが、それにしても、妙に静かなのが気になります。

 これは嵐の前の静けさなのか。それとも「大山鳴動して鼠一匹」だったのか。

 交渉の結果については、今後、何らかのコメントが米中双方から出るはずですが、ここで、2017年の米中関係を理解する上で、大事な3つのポイントを整理してみたいと思います。

米中関係①:トランプはなぜ習近平に北朝鮮問題解決を期待する?

「めんどくさいからでしょ」

「自分がやりたくないからじゃないの」

「何かしているふりを見せるためでは」

 この疑問にはもろもろの感想が出てきそうです。

 しかし、米国が「中国頼み」になる理由は明確に存在します。

 まず、その背景を押さえておきましょう。

 いろいろな見方はありえましょうが、筆者は、そうなるのは、朝鮮戦争再開に伴う被害規模が大きすぎるからだと思います。

 ソウルから北朝鮮国境までは40kmしかないので、北朝鮮軍は旧式部隊(77万人程度)でもソウルを火の海にできます。そして、ソウルが火の海になり、朝鮮戦争が再開されれば、在韓米国人20万人、在韓邦人38000人にも被害が及びます。

 このあたりの難しさを踏まえ、ウォールストリートジャーナル(2017/7/11)がゲーツ元国防長官へのインタビューを掲載していました(「ゲーツ元国防長官に聞く北朝鮮問題の解決策」)。

 ブッシュ政権とオバマ政権で国防長官を務めたゲーツ氏は「北朝鮮に核兵器をあきらめさせることはできないと思う」と、悲観的なコメントを発表しています。

 その要点は、以下のようなものです。

  1. 「北朝鮮を攻撃する純粋に軍事的な優れた選択肢はない」「全面戦争という危険性およびそれががもたらす多大な破壊を考えると、この計画は成り立たない」
  2. (そのため)「どう見ても中国が依然として鍵である」「中国は事態を動かすほどの影響力を北朝鮮に対して握っている唯一の国である」
  3. 「外交的要素と軍事的要素の両方を含む総合的な戦略を中国首脳部に説明することが必要だ」

 ゲーツ氏の提言は、日本としては、あまり有り難くない内容でした。

米国は中国に対し、1)旧ソ連とキューバ危機を解決したときと同様に、北朝鮮の体制を承認し、体制の転換を狙う政策の破棄を約束する用意がある、2)北朝鮮と平和条約を締結する用意がある、3)韓国内に配備している軍事力の変更を検討してもいい

 北朝鮮に対して、立ち入り査察に合意させなければいけないが、北朝鮮が保有する核兵器は20数個程度に限定される(=20数個までは持てる)ようにするとしています。

 今後、この種の選択肢が俎上にのぼる可能性があることに、日本は注意しなければいけません。

(米中間で合意がなされない場合は、日韓にミサイル防衛システムを売りまくるのだという)

 なぜかと言えば、ゲーツ氏は、トランプ氏が国務長官を誰にすべきかで迷っていた頃、現在、国務長官を務めるティラーソン氏を推薦した人物だからです。 

米中関係②:なぜトランプ政権は貿易政策で強硬なのか?

 これに関して、同じくWSJ紙(2017/6/20)がトランプ大統領とロス商務長官の見解を比較しながら、この政権の考え方を説明しています(「トランプ氏の貿易戦争論、冷静に説く商務長官」)

トランプ大統領は、国際貿易体制に対して建物破壊用の鉄球をぶつけたいと思っているかのような物言いをする。あまりに好戦的な雰囲気を醸し出すことが多いため、人々は貿易戦争が起きるのではと懸念を抱く。トランプ氏は、米国が巨額の赤字を計上している貿易相手国との間で「貿易戦争が発生しても気にしない」と発言。 

  いわば「過激派」がトランプ大統領で、その主張を理論的に、冷静に説明する役割を務めているのがロス氏だというのです。WSJ紙は自社主催のCFOネットワーク会議で、ロス氏が述べた言葉を紹介しています。 

「第2次大戦後は戦災国の復興支援がわが国の政策上の重要課題だった」とロス氏は述べた。その時点で米国は抜きんでた経済大国であり、共産主義の伸長を阻止するために欧州の同盟国と日本の経済再建を助けることが米国の利益にかなっていた。米国は貿易関係で寛大になれるだけの余裕があったし、寛大であることが米国の大きな国益にかなっていたという。

 しかし、戦後、同盟国は発展し、経済面での競争相手になります。

ロス氏は「米国の政策は全く変わらなかった。そのため、われわれは今ではひどい構造問題に直面しており、実際に自由貿易を阻害している」と論じた。

 ロス氏は、米国の欧州車の輸入関税が2.5%。欧州の米国車の関税は10%だと指摘し、中国との間で貿易不均衡が拡大したことを強調しました。

(ただ、WSJ紙によれば、鉄道に関して米国は欧州車両に14%の関税を課し、EU側の関税は1.7%だそうです。お互い様ですね) 

 こうしたロス氏の主張には、民主党議員等でも賛同する者が少なからずいることをWSJは指摘していました。

 TPPが共和党、民主党双方で反対されたことを思い出させる記事ではあります。

米中関係③:両国は「トゥキディディスの罠」に落ちる?

 WSJ紙(2017/6/21)は「米中戦争は不可避か? 歴史の教訓を探る」と題した記事を公開しています。

 この記事では「トゥキディディスの罠」に落ちて米中戦争が起きる可能性を危惧していました。「トゥキディディスの罠」というのは、国際政治学の用語です。

 古代ギリシャの歴史家トゥキディディスは、地中海で大戦争を繰り広げたアテナイとスパルタの歴史を研究し、戦争発生の要因を「利益」「名誉」「恐怖」の三つに帰しました。覇権国家(当時はアテナイ)と挑戦する大国(当時はスパルタ)の両者が、この三つの要因に突き動かされて戦争したのですが、これを踏まえ、国際政治学者アリソン(ハーバード大教授)は「過去500年間に生じた同様の対立16件のうち12件が戦争になった」ことを指摘しました。要するに、三分の二の確率で、近代の覇権国と挑戦国も、古代アテナイとスパルタと同じパターンを繰り返したので、中国と米国とが同じく戦争関係に陥る可能性が高いと恐れられているわけです。 

 前掲のWSJ紙では、アリソン氏の警鐘を取り上げていました。

アリソン氏が「Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?(戦争になる運命:米中はトゥキディデスの罠から逃れられるか?)」で、貿易問題や南シナ海問題、サイバー空間をめぐる米中の対立がいかにして制御不能になるかを論じた。「米国と中国の兵士が互いを殺し合うシナリオに発展するのは恐ろしいほど簡単だ」としている。

 アリソン氏に対しては、中国はもっと賢明に動くとの異論を出す学者もいます。

(WSJ紙は中国史を専門とするペンシルベニア大学のアーサー・ウォルドロン教授が「中国の指導者は何だかんだ言っても愚かではない」と述べたことを紹介している)

  しかし、過去、第一次世界大戦も第二次世界大戦も「起きるはずがない」とされながら、実際に起きてしまったので、指導者や国家は必ずしも「賢明」だったわけではありません。

 その意味では、米中戦争勃発の危険性は否定できないとも言えます。