トランプ政権と日本・アジア 2017

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北朝鮮「ICBM」4つの疑問 専門家はどう見る

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(米国のICBM発射実験によりクェゼリン環礁に落下する再突入体。出所はWIKI画像)

  北朝鮮がいう「ICBM」発射実験から約1週間が過ぎ、様々な分析と米韓側の新たな動きが報じられているので、今日は、北朝鮮のICBMの分析と米韓側の動きをフォローしてみます。 

北朝鮮「ICBM」:専門家はどう見る

北ICBM技術は確立したのか

 北朝鮮が4日に撃った「火星14」に関して、国会情報委員会に出席した韓国議員が、国家情報院の情報をもとにして、まだ「大気圏再突入技術」(大気圏外に出たミサイルが圏内に戻っても機能するようにする技術)は未確立だと報告したことが報じられています(産経2017.7.11「ICBM技術は確立されず、大気圏再突入未確認 韓国情報機関」)。まだ誘導技術も未確立で、発射時に移動式発射台から固定式発射台に設置し直したことから、開発段階は初期にあると見ているようです。

 誘導技術は軍事目標に当たるかどうかが大きなポイントですが、核兵器の場合は領土内のどこかに落ちれば大惨事になるので、この技術がなくても脅威であることには変わりありません。

 発射台に関しては、移動式になると破壊が難しくなります(現在は固定式から移動式への移管期と見られる)。

北ICBM完成はいつごろ 

 北朝鮮報道でよく出てくる北朝鮮分析サイト「38ノース」(米ジョンズ・ホプキンズ大)が10日に「1~2年内に単発の核弾頭を搭載して米西海岸を射程に入れる可能性がある」が、「迎撃を困難にする『多弾頭化』は2030年までかかる」と発表しました。後者が2030年までかかるのは、米国が多弾頭技術(一つのミサイルから複数の弾頭が分かれて目標を攻撃する)を獲得するために15年を要したからです。

産経ニュース2017.7.11「1~2年で格搭載、北ICBMが米西海岸射程に 迎撃困難な「多弾頭化」は2030年までに 米大分析」)

 

 多弾頭化には迎撃を困難にするだけでなく、複数の核弾頭を落とすことで敵国を破壊する範囲を拡大する効果があります。最も恐ろしく、獲得困難な技術の一つです。

北ICBM「核の小型化」は目途がついた? 

 これに関しては、香田洋二氏(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)の見解が産経ニュース(2017.7.11)で報じられています。

 香田氏は、2016年から北朝鮮が飛行距離を短くし、高度を上げる「ロフテッド」軌道による実験を開始したことから、同国は「核弾頭の小型化」にメドをつけ、ICBM開発に力を入れ始めたと見ています。

 このロフテッド軌道の実験は、前掲の大気圏への「再突入技術」獲得のための過程で、北朝鮮近海にミサイルを落とすことで、大気圏再突入時のデータを取得する狙いがあると述べているのです(遠くになるとデータが取りにくい)

「ICBMは宇宙空間に上がった後、マッハ24の高速で大気圏内に再突入するため、弾頭が7000度超の高熱にさらされる」「地球は丸いため、一定以上の距離に落ちると、北朝鮮から落下状況の確認が難しくなる。例えば2500キロ先に発射した場合、大気圏内に再突入する高度100キロ以下の状況が確認できない」

  米国を刺激しないためであると同時に、ICBM開発のためにあまり遠くに撃たないほうがよいわけです。

 その意味では「一挙両得」です。北朝鮮の狡知はあなどれません。

北ICBM開発の最終目標は?

  こちらに関しては、武貞秀士氏(拓殖大大学院特任教授)が、2000年代後半から、「米国の介入を阻止し、南北朝鮮を統一するためだ」と何度も指摘しているのですが、日本のマスコミは「そんなことができるはずがない」と考えているせいか、あまり周知されていません。

 我々は意外と「北朝鮮の世界観」を知らないのです。

「北は現在も、韓国という国家は存在せず『米国の植民地下にある』と考えている。南北統一を実現すれば北朝鮮の究極目標を実現したことになり、正統性を証明することになる。それを米国に『邪魔』されたのが、朝鮮戦争だった」「米首都に届くミサイルを開発すれば、米国は朝鮮半島への軍事介入を回避する。米朝不可侵協定を締結して在韓米軍を撤退させ、核保有国として有利な立場で韓国との統一交渉に臨むことができる、というのが北朝鮮の計算だ」

  核の脅しで米国を朝鮮から立ち退かせ、韓国に白旗をあげさせることが狙いです。昔はファンタジーにしか聞こえませんでしたが、最近、勝手に「白旗」をあげそうな文大統領が出てきたので、17年に入り、にわかに危険度が上がってきました。

 武貞氏はトランプ米大統領が北朝鮮と直接の「ディール(取引)」を始める可能性に警戒すべきだとも述べています。

北「ICBM」発射後の米韓両国の動き 

  北「ICBM」発射の後、米韓側にも幾つかのリアクションが起きています。

文大統領:北ICBMを「解決する力」がないと弱音

 一番情けないのは、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が11日の閣議で述べたとされる発言です。

「痛切に感じなければならないのは、われわれに最も切迫している朝鮮半島問題にもかかわらず、われわれには解決する力も合意を導く力もないことだ」

産経ニュース 2017.7.11「北朝鮮問題「われわれに解決する力ない」 文在寅氏、外交デビューで「現実」知る」)

 筆者はこの発言をもって、「痛切に感じなければならない」のは、文大統領には「問題を解決する意欲がない」ことだと理解しました。

 最初からこれでは、北朝鮮はつけあがるばかりです。

 確かに、外交的手段で北朝鮮を止めるのは難しいのですが、韓国の場合は「米軍の核兵器持ち込み」を認めることで抑止力を高めることができます。反核感情が薄く、非核三原則もなく、朝鮮戦争は「休戦中」なので、大統領が決断し、トランプ政権に話をもちかければ、これはできる可能性があるのです。

(日本も理論的には可能。非核三原則の「持ち込ませず」を廃止する、という困難な作業を伴いますが)

 しかし、文氏は防衛用のサード配備にさえ難色を示しているのが現状です。

米軍はTHAAD迎撃実験に成功

 米軍は11日にTHAAD迎撃実験を行っています。

 ハワイ北方上空で米空軍のC17輸送機が撃った標的(中距離弾道ミサイルを模している。ミサイルそのものではないらしい)をアラスカのTHAADシステムが撃ち落としたようです。14回目の実験は今回も含めて全部成功したそうですが、これは防衛系大手の宣伝も兼ねているはずなので、実戦で同じように行くとは考えない方がよさそうです。

在韓米軍第8軍司令部がソウル南方に移転

 そして、最も注目すべきニュースは在韓米軍第8軍司令部がソウル南方に移転を完了したことです。

産経ニュース2017.7.11「在韓米軍主力、第8軍司令部がソウル南方へ移転 「戦闘準備態勢も向上」とバンダル司令官」)

「陸軍第8軍司令部のソウル南方、京畿道平沢への移転がほぼ完了し、平沢のキャンプ・ハンフリーで11日、同司令部新庁舎の開館式が行われた」

(これは)「盧武鉉政権が2003年に米側と合意した在韓米軍の各部隊を平沢に移転・集約する再編計画の一環。第8軍はソウル中心部の竜山基地から移転した。韓国国防省によると、来年中にも在韓米軍の大部分の移転が完了する予定」

 従来、在韓米軍がソウル市やソウル以北に展開していたのは、第一撃を受けてでも米軍は戦い、朝鮮半島を防衛するという「抑止」の強固は意思表示を北朝鮮に示すためでした。

 これはトリップワイヤー(導火線)と呼ばれ、38度線近辺に米軍がいることで、朝鮮半島に必ず米軍が介入することを示す陣容でした。

 しかし、2000年代に廬武鉉政権(ムンジェンイン氏は当時、大統領府の秘書官)とブッシュ政権で確執が生じ、米軍は国境近辺に展開する部隊をソウルより南に動かし始めるのです。

参考:米軍がソウル以北から移転を始めた経緯

  裵淵広著『中朝国境をゆく』(P186~196)ではその経緯が以下のように書かれています。

廬武鉉氏が「反米」を売りに当選

「盧武鉉大統領が、02年末の大統領選挙で当選した最大の要因は、訓練中の米軍の車両が二人の韓国人女子中学生を轢き殺した事件にあった。この事件を機に、若い世代に蔓延していた反米感情に火がつくと、『反米でどこが悪い』などと扇情的な言動で人気を高め、番狂わせの当選を果たした」

戦時作戦権返還をめぐって一悶着

 廬武鉉氏は米韓同盟の根幹をなす戦時作戦統制権(戦作権:有事に米韓同盟軍を指揮する権限)を韓国側に返還させようと試み、当時の韓国軍の現状を知る当時の軍人たちに反対されました。

「歴代国防長官ら軍長老の15人が集まり、韓国軍の戦作権単独行使は米韓連合司令部の解体につながるだけでなく、結果的に在韓米軍の撤退につながるとして、尹長官に戦作権返還要求の中止を求めた」(※06年8月2日。軍長老は盧武鉉大統領と尹光雄国防長官に反対)

米国は戦作権を返し、米軍を撤退させるぞと息巻く。

「米国防長官は8月7日の記者会見で、『韓国が戦作権を単独行使する場合、在韓米軍は支援兵力のうちの一部をさらに減らす可能性がある』と語ったうえで、『韓国は2012年の戦作権の移譲を提案しているが、米国は09年を希望している』と明らかにし、韓国の軍事関係者を動揺させた」「米韓連合司令部が解体されて韓国軍に戦作権が委譲されると、米軍が韓国軍の指揮下に入ることはありえない」

 当時、盧武鉉氏は「今、返還されても戦作権を行使できる」と述べましたが、これは強がりにすぎません。

 ソウル市が国境に近すぎるため、北朝鮮は国境周辺から火砲等でソウル市を火の海にできます。核や化学兵器での攻撃も可能なので、韓国軍だけで北朝鮮と戦うのは大変なのです。

 廬武鉉氏が騒ぎ立てた戦作権返還の話は、その後、イミョンバク政権、パククネ政権で延期を重ね、平時のみ韓国軍主導、有事は米軍主導という形になっています。

米韓首脳会談にて韓国への戦作権移管に合意

 しかし、文大統領とトランプ大統領は先の米韓首脳会談で戦時作戦統制権の移管に合意しました。

 朝鮮日報は「韓米首脳会談:戦時作戦統制権の早期移管に合意=共同声明」(2017/7/2)と題した記事を公開しています。

 この合意は文大統領が公約通り任期中の2022年までに移管することが可能にするものです。

 現状を総括すると、表向き、トランプ氏と文氏は仲良くしているように見えますが、「軍」の動きを見ると、在韓米軍は韓国人を守り、そのために犠牲者を出すことを嫌がっています。

 サードミサイルを配備しようとしても、文氏は環境問題を理由にそれを送らせようとしています(沖縄知事に似た作戦です)。

「表向きは麗しく装っているが、内面はヒビが入りはじめている」というのが米韓関係の現状だと言えるのかもしれません。