トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

【日欧EPA】関税廃止の一覧リスト 大枠合意のメリットとは

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(日欧EPAで安いモッツアレラチーズが食べられるようになるのか? 出所はWIKI画像)

  日欧EPA(経済連携協定)が7月6日に大枠合意で話がまとまり、その内容が各紙で様々に報じられていました。

 世界のGDPの3割を占める日本と欧州が自由貿易で合意したことは、今後の経済に大きな影響を与えるので、今回は、この問題について考えてみます。

※「幅広い経済関係の強化を目指して,貿易や投資の自由化・円滑化を進める」経済連携協定には、以下の二種類がある(出所は外務省HP「EPA・FTAとは」)

FTA:特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定
EPA:貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定 

 日欧EPAで関税はどうなる:廃止(or削減)一覧

 いろいろな論点はありますが、一番、大きな変化は関税の撤廃です。そのため、まずは、これを一覧リストにしてみたいと思います。 

【EU⇒日本】:日本から見たら「輸入」

★チーズは現状で29.8%の関税率。

シュレッドチーズやおろし・粉チーズは関税撤廃。カマンベールチーズやモッツァレラチーズ等は初年度2万トン(16年目は3.1万トンに拡大)に限り、関税を段階的に削減。16年目に関税ゼロとする。主に原材料として使われる熟成ハード系チーズ(チェダー,ゴーダ等)やクリームチーズ(乳脂肪45%以下)等の関税は16年目に撤廃。

  • 牛肉:38.5%⇒16年目に9%
  • 豚肉(低価格帯):1kgあたり最大482円⇒10年目に1kg50円
  • 鶏肉:最大11.9%⇒6年目もしくは11年目に撤廃
  • アジ、サバ、カタクチイワシ:10%⇒16年目に撤廃
  • 大西洋クロマグロ:3.5%⇒6年目に撤廃
  • 太平洋クロマグロ、メバチマグロ、ギンザケ:3.5%⇒11年目に撤廃
  • マカロニ、スパゲティ:1kgあたり30円⇒11年目に撤廃
  • チョコレート:10%⇒11年目に撤廃
  • キャンディー・砂糖菓子:25%⇒11年目に撤廃
  • ビスケット:15%⇒6~11年目
  • 塩:1kgあたり0.5円⇒11年目に撤廃
  • トマトケチャップorソース:最大29.8%⇒6年目~11年目に撤廃
  • 天然ハチミツ:25.5%⇒8年目に撤廃
  • オレンジ(6~11月):16%⇒6年目か8年目に撤廃
  • オレンジ(12~5月):32%⇒6年目か8年目に撤廃
  • リンゴ:17%⇒11年目に撤廃
  • ブドウ(3~10月):17%⇒即自撤廃
  • ブドウ(11~2月):7.8%⇒即自撤廃
  • ワイン:15%か1ℓあたり125円⇒即時撤廃
  • 清酒、焼酎等:11年目に撤廃。
  • 茶:17%⇒6年目に撤廃
  • 葉巻タバコ:16%⇒11年目に撤廃
  • 競争馬:1頭340万円⇒16年目に撤廃
  • SPF製材等の林産物10品目(住宅資材):4.8%⇒8年目に撤廃
  • 衣類:最大13.4%⇒即時撤廃
  • 革靴、革バッグ:最大30%⇒11年目か16年目に撤廃 

※出所は読売新聞朝刊(2017/7/8:7面),「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート」(外務省)等。

【日本⇒EU】:日本から見たら「輸出」

  • 乗用車:10%⇒8年目に撤廃
  • ギヤボックス:3~4.5%⇒即時撤廃
  • 乗用車タイヤ:4.5%⇒即時撤廃
  • エンジン関連部品:2.7%⇒即時撤廃
  • カラーテレビ:14%⇒6年目に撤廃
  • 醤油、みそ: 7.7%⇒ 即時撤廃
  • ほたて貝(冷凍):8%(冷凍)⇒8年目に撤廃
  • ぶり:5%(冷凍フィレ)⇒即時撤廃
  • 水産練り製品(竹輪等):20%⇒即時撤廃
  • 牛肉:12.8%+100kgあたり最大304ユーロ ⇒即時撤廃
  • 豚肉: 46.7~86.9 ユーロ/100 ㎏ ⇒即時撤廃
  • 鶏肉: 6.4%もしくは18.7~102.4 ユーロ/100 ㎏ ⇒即時撤廃
  • 鶏卵(粉卵等含む):16.7~142.3 ユーロ/100kg⇒即時撤廃
  • 脱脂粉乳: 118.8 ユーロ/100kg 等⇒即時撤廃
  • バター:189.6 ユーロ/100kg 等⇒即時撤廃
  • ミョウガや大葉:12.8%⇒即時撤廃
  • 緑茶:3.2%(3kg 以下の小口用)⇒ 即時撤廃
  • 清涼飲料水(牛乳を含まず):9.6%⇒即時撤廃
  • 青果物:12.8%(かんきつ(ゆず等)、9.5 ユーロ/100kg(ながいも)⇒即時撤廃
  • 梅干し:最大20.8%⇒即時撤廃
  • 氷菓:9%以上⇒即時撤廃
  • 林産物:6%~10%(合板等)⇒即時撤廃
  • 植木:8.3%⇒即時撤廃
  • 盆栽・鉢もの: 6.5%⇒即時撤廃
  • 切り花:8.5% ⇒即時撤廃

※出所は読売新聞朝刊(2017/7/8:7面),「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート」(外務省)等。

日欧EPAの政治的・経済的インパクト

 日欧EPAの大枠合意の後、G20では各国が「全ての不公正な貿易慣行を含む保護主義と引き続き闘う」ことを宣言。トランプ政権への配慮のために自由貿易を維持・推進と書けないせいか、「相互的かつ互恵的な貿易及び投資の枠組み並びに無差別の原則の重要性に留意しつつ,開かれた市場を維持」等という分かりにくい外交的言辞が用いられることになりました。

 日欧間で自由貿易圏ができれば、そこに入らなかったアメリカや英国(EU離脱のため)は、日本とヨーロッパへ輸出した場合、関税がかかるので、欧州に比べて不利になります。そうならないためには、米英両国は、日本と米国/欧州と米国、日本と英国/欧州と英国、等と個々にEPAを結ばなければなりません。

 日本と欧州が先んじてEPAをまとめれば、両地域が飲める交渉条件が確定するので、その後、米国が経済規模を盾にとって一方的な条件を押し付けにくくなります。日本と欧州間で定まった貿易の条件に比べて、米国が一方的に有利な条件を出してきても、日本と欧州がそれを拒んで共闘するという選択肢が生まれるからです。

 これに関して、WSJ日本語版(2017/7/7)の社説「日欧EPAは米国に対する警鐘」は警戒感を露わにしています(以下、要旨)。

  • 米国がTPPを離脱しなければ米農家や輸出業者は日本への販売が増加した可能性があるが、そのチャンスが欧州に与えられた。(トランプ政権の報復関税は)米輸出業者への報復関税やWTO提訴を招きかねず、外国市場を米国製品に開放させるのが一段と難しくなる可能性がある。
  • (その結果)米輸出業者は資材コストが増加し、海外では競合他社よりも高い障壁に直面する。米消費者にとっては物価が上昇する。
  • 米国抜きの多国間の自由貿易圏ができると他国企業はその恩恵を受ける。しかし、多くの国と二国間協定の妥結を目指した米国は無数の協定の乱立によるルールの複雑化に対処しなければいけない。
  • 特定品目への特恵関税を適用するには、輸出業者は特定の割合の構成が該当国でつくられたことを証明する必要がある。この手続きが官僚的で複雑なので多くの企業が二国間協定が提供するメリットの適用申請さえしない可能性がある。世界に顧客を持つ米企業は競争力維持のために工場を米国から他国に移す可能性もあるる。
  • ほとんどの消費財の構成部品を取引する複雑なサプライチェーンの形成には多国間協定がカギを握る。日本とEUの二者間のEPAは、米国を除外したさらなる協定の基礎になりうる。

 ウィルバー・ロス米商務長官は、朝日新聞のインタビューにて「我々の希望は、最終的に日米の自由貿易協定(FTA)を結ぶことだ」と述べ、それはNAFTA再交渉と「並行も可能だ」と答えていました(朝日朝刊:2017/5/21 1面/3面)。米国側は経済規模の大きさを活かして日本に対して有利な交渉ができると見ているわけですが、日本側は、自由貿易圏を先に固めるという対策を講じているわけです。

 日欧EPAを先に固め、さらにTPPを11カ国で発効させ、そのうえで米国とのFTA交渉に臨む、というのが、安倍政権の考えなのかもしれません。

日欧EPAのメリット:関税がなくなるとどうなる?

 関税廃止が消費者に恩恵をもたらすことは、経済学的には明らかです。一応、そのカラクリを整理しておきます。

 学生の頃に習った需要と供給のグラフを思い出してみましょう(十分にご存知の方は読み飛ばしてください)。

 一個あたりの商品がもたらす満足度は、二個目、三個目になると下がっていきます。

 夏にかき氷を200円で食べる時に、一杯目はおいしく感じても、二杯目、三杯目になると満足度が下がります(経済学では、この満足度を「効用」という言葉で表現する)。

 売店のお兄さんが「二杯目はどう?」と聞いてきても、割引きでもしてもらわないと、二杯目、三杯目まで食べる気はしません。仮に二杯目を一割引き、三杯目を二割引きと仮定すると、消費者の一単位ごとの満足度(効用)を表す需要曲線は右肩下がりになっていきます(※「直線じゃないか!」という文句もあろうかと思いますが、経済学では「曲線」という言葉を用います)。 

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 一方、生産者側のほうを見ると、逆の構図が出てきます。

 大量のお客が集まる海の家でかき氷を出しているケースで考えると、作り手を増やせば生産量は増えますが、必要な作り手の数には上限があります。働ける場のスペースに限りがある場合、2人、3人・・・10人と増やしても、最後は無駄な人員の投下になってしまうので、人数が増えた時に一人当たりの生産性は下がります。費用は増加しても、生産は伸び悩む構図になるので、この場合、供給増に合わせて一個あたりの費用が増加しています。

 そのため、供給曲線のほうは需要曲線とは逆の右肩上がりの形になります。

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 そして、需要と供給が均衡します。これは日本国内での需給関係を現すグラフです。

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 日本国内で需要と供給が均衡した時、最適な商品の価格と数量(均衡取引量)が定まります。

 この時、均衡価格から原価を引いた時に描かれる黄緑の三角形が生産者のメリットを表します(経済学では生産者余剰という)。

  また、消費者の効用から均衡価格を引いた時に描かれる青い三角形が消費者のメリットを表します(こちらは消費者余剰)。

 国内市場で見た場合、均衡点で生産者余剰も消費者余剰も最大になります。

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 しかし、現代の経済では、外国との輸出入があるので、貿易まで含めて需給を考えてみます。

 日本国内の需給が均衡する価格よりも国際価格のほうが低いケースが多いわけですが、その場合、生産者のメリット(生産者余剰)が減り、消費者のメリット(余剰)が増えます(国内需要の足りない分を外国からの輸入で補う構図になる)。

 前掲の日欧EPAで考えれば、ヨーロッパから日本よりも安い農産物が入ってきた場合、日本の消費者は安い商品を買えるので得をし、市場を奪われる日本の生産者(農家)は利益額が減少します。

 貿易は相互性があるので、欧州の側から見ると、日本の自動車や工業製品が入ってきて、消費者が喜び、生産者が苦悩するケースも起こり得るわけです。

 しかし、それでも、全体としては双方の消費者にとってメリット増になるので、貿易は有益である、と考え、日欧EPAは進められています。

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  しかし、諸外国を見ても、関税のない国はありません。どの国も自国産業を保護するために何らかの関税を設けています。

 関税を設けた場合、前掲の需給図はどう変わるのでしょうか。

 関税がかかると、まず、商品の値段が上がります。生産者余剰が増えますが、その反面、消費者余剰は減ります。また、値段が上がる分、国内の需要量が減り、輸入量も下がります。

 消費者余剰が関税収入に変わっているのは、結局、関税分を消費者が負担しているからです(関税によって、本来、消費者が享受できた余剰が失われる)。政府は関税収入分を国民に還元することはできますが、その全てを賄えるわけではありません。

 そのため、上図のように、黒く染まった部分が、国全体で見た時の損失分(死荷重)となります。

 ということは、結局、日欧EPAでは、関税を撤廃することで死荷重を減らし、消費者余剰を増やすことを目指していたわけです。

 また、関税撤廃に伴って生産者(農家等)が脅かされるので、生産者余剰の減少に対して、何らかの支援が必要だという議論が浮上してきています。

 単純に言えば、日欧EPAで日本人は欧州の農産物や乳製品などを安く買えるようになり、欧州では日本の自動車や工業製品を安く買えるようになるわけですが、そのカラクリは意外とややこしいのです。