トランプ政権と日本・アジア 2017

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日本に迫るインフラ危機 老朽化対策は大丈夫?

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(レインボープロムナード。出所はWIKI画像)

  産経ニュースで「インフラ再考」と題した連載記事が始まっています。

 最近、地震が増えているので、新聞記者たちも不安になったのかもしれません。最近は国民の間にも「地震が起きたらどうなるんだろう」という漠然とした不安が高まっているので、非常にタイムリーな内容だと言えます。

 今回は、この記事の概要を紹介しながら、インフラ老朽化等の問題について考えてみましょう。

インフラ危機が到来?:産経新聞社が警鐘

 該当の産経ニュース(2017.7.10)の題名は「【インフラ再考】迫りくる崩壊(1)老朽化「いずれ橋は落ちる」20年後、7割が建設50年超」です。
 まず、冒頭では「日本より30年早く1920~30年代に急速に道路や橋の整備が進んだ米国」では「十分な維持管理費が投入されなかった結果、耐用年数の目安とされる50年が経過した80年代には道路や橋の老朽化によって事故が相次ぐようになる」という話が紹介されています(※当時「崩壊するアメリカ」と言われていた)。

 これが、今後の日本で起きうる事態の未来図ではないかとほのめかしているわけです。

 その典型が山梨県の中央自動車道笹子(ささご)トンネル(1977年開通)の天井版崩落事件です。この事件では約140メートルの天井板が崩落し、車3台が下敷きになり、9人の犠牲者を生みました。

(※当時の読売社説(2012年12月3日付)では「同じ構造のトンネルが全国の高速道路に10か所以上」あり、「国交省によれば高速道路だけで補修を要するトンネルや高架橋などの損傷が2011年に約55万5千カ所で確認された(05年の10倍以上)」と指摘しています)

 これを受けて、26年4月に国交省の社会資本整備審議会道路分科会で「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」が出されました。

 産経が着目した提言では、以下のように書かれていました(当ブログは産経記事とは前書きの違う箇所を紹介しています)

道路構造物の老朽化は進行を続け、日本の橋梁の 70%を占める市町村が管理する橋梁では、通行止めや車両重量等の通行規制が約 2,000 箇所に及び、その箇所数はこの 5 年間で 2倍と増加し続けている。地方自治体の技術者の削減とあいまって点検すらままならないところも増えている。

  産経記事ではこのリスクを、前述の「崩壊するアメリカ」と対比しているわけです。

 笹子トンネルの事故後、国交省は26年以降、自治体等に5年に1度の定期点検を義務づけました。

「その結果、28年3月までに点検を終えたもののうちトンネルの46%、橋の12%で修繕が必要と判断された。建設50年を超える割合は、今から20年後にはトンネルが57%、橋が71%にまで達する」と産経記事は指摘しています。

 財政難によって、約6割の市町村がその補修は「不可能」だと答えたことを明かしています。

 日本では、極めてまずい事態が進行しているようなのです。

 この【インフラ再考】には続編(7/11)があり、そこでは、兵庫県北部にある豊岡市竹野町にある二つの橋の事例も紹介されていました(「迫りくる崩壊(2)地方から橋が消える日」)

 同市竹野町の山間部にある「491橋」(長さ15メートル、幅3メートル)と「滝山橋」(同7メートル、同2メートル)が建設されたのは戦前。いずれも木造で「床板などの腐食が判明」し、「判断を迫られた市は廃止が適切と判断」しました。この記事では「廃止議案は6月28日に市議会で了承され、市は管理から手を引くことに。2つの橋は通行止めのまま放置され、朽ち果てていくばかりだ」と憂慮しています。

「地方では慢性的な財政難や人材難から橋の新設どころか修繕さえあきらめざるを得ず、放棄も余儀なくされる事態に陥っている。インフラの危機は今、地方からひたひたと迫りつつある」そうなので、要注意です。

 国土交通省によれば「通行止めなどの規制をしている自治体管理の橋は全国で2357(平成27年4月時点)」あるとも報じていました。「インフラの修繕を国が代行するケース」もあるそうですが、その件数は少ないとも指摘されています。

 インフラ危機について国土交通省はどう考えているのか

 前掲記事で取り上げられた「道路:道路の老朽化対策の本格実施に関する提言 - 国土交通省」の中身をざっと紹介してみます。

 まず、国交省の現状認識はどうなっているのでしょうか。

  • 道路橋は全国に約 70 万橋、道路トンネルは約1万本
  • 70 万橋の橋梁のうち、約 50 万橋(7割以上)が市町村道にあり、大部分は地方自治体が管理している
  • (10年後)建設後 50 年経過する橋梁の割合 :18%(2013年)→43%(2023年)
  • (10年後)建設後 50 年経過するトンネルの割合:20%(2013年)→34%(2023年)
  • 適切な補修・補強が行われ、建設後 80 年を経ても大きな損傷なく使われている橋梁も多い。
  • 地方自治体が管理する橋梁では、老朽化等のために通行止めや車両重量等の通行規制を実施している橋梁数が、最近5年間で2倍以上に増加〔977 橋(2008年)→2104 橋(2013年)〕
  • 鉄・コンクリートでの橋の整備が本格化したのは昭和 30 年前後。当時は「永久橋」と呼ばれ、鋼橋は塗装の塗り替えのみで良く、メンテナンス・フリーと考えられ、維持管理の必要性が認識されていなかった。
  • 直轄国道の維持修繕予算は、国の公共事業予算の減少に合わせて、最近 10 年間で約2割減少(2004年度当初予算:3202 億円→ 2013年度当初予算:2515 億円)。
  • 町の約5割、村の約7割で橋梁保全業務に携わっている土木技術者がいない。
  • 約8割の地方公共団体が遠望目視による点検を行っており、その質には課題がある
  • 地方公共団体は予算不足・人不足・技術力不足なので、インフラ補修は対応可能な範囲でしかできなかった

 そして、主たる課題として以下の二点を挙げています。

 「①メンテナンスに関する最低限のルール・基準が確立していない」

「法令に道路構造物の点検頻度や方法等の定めがない等、維持修繕・更新に関するルール・基準が未確立」なので、「地方公共団体においては、点検方法として技術的に問題のある点検基準を定めている例」が見られる。そして、「点検結果や修繕履歴等の記録・保存が徹底されず、計画的な維持修繕・更新となっていない」。

 「②メンテナンスサイクルを回す仕組みがない」

 前掲の予算不足・人不足・技術力不足のために「点検・診断・措置・記録のメンテナンスサイクルを回すことが困
難」。「点検業務や修繕・更新工事の発注(歩掛の設定、変更契約)、監督(成果品の確認)が困難であったり、技術的に高度な対応が必要とされる大規模な構造物等の修繕・更新を実施できない場合が想定」される。 

 結論としては、道路管理者の義務を明確化し、メンテナンスサイクルを確定することと、予算・人員・技術面からメンテナンスサイクルを持続的に回す仕組みを構築すべきだとしています。

※長いので、一枚ものの「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言 概要」を見るのが、一番わかりやすい 

インフラ危機に、今の公共事業関係費で対応できるのか

 2017(平成29)年度予算では公共事業関係費は約6兆円程度。過去の予算額を見ると「コンクリートから人へ」をうたった民主党政権の頃は減額になっています。(出所は「平成29年度国土交通省・公共事業関係予算のポイント」)

  • 2009年:7兆701億円
  • 2010年:5兆7731億円
  • 2011年:4兆9734億円
  • 2012年:4兆5734億円
  • 2013年:5兆2467億円
  • 2014年:5兆3518億円
  • 2015年:5兆9711億円
  • 2016年:5兆9737億円
  • 2017年:5兆9763億円

 第二次安倍政権になってから公共事業関係費が増えてきました。

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(出所は国土交通省HP)https://www.mlit.go.jp/common/001116547.pdf

 一応、もっと昔の年次の数字を参考値であげると、2000年で9.4兆円程度、1990年で7.3兆円程度です。バブル期が意外と少ないのは、不況期の財政出動が要らなかったからでしょう。また、小泉政権の頃は財政再建のために公共投資は削減されています。

 今後、日本も米国のようにインフラ投資のプランを練り直さなければいけないはずです。

インフラ危機をAIで解決?

 フォーブス日本語版(2017/9/18)は〔日本の課題を克服する「インフラ保全AI」への期待〕と題した記事を公開しています。

 そこでは、前掲のメンテナンス要員の不足をAI(人工知能)で埋めるプランが説明されていました。これは前掲の予算不足を埋める案でもあります。

  • (※パナソニックシステムソリューションズジャパンでは)「AIは主に、ウェアラブルカメラやドローンなどにより撮影された画像を解析・判定するのに使用される。つまり、インフラのひび割れやさびなど異常を検知した際に、関連データを自動的にユーザーに提供する」
  • 「広範囲に渡る護岸コンクリートの点検には人間の目が必須だった。しかしそれには、膨大な手間やコストがかかる上に、現場の担当者レベルで劣化判断基準が揺れる」「そのため、劣化の判断をAIで自動化しようというのが同社の狙いだ」
  • 「八千代エンジニヤリングが導入したシステムは、今年6月の段階で“人目”による検査と同じような精度で劣化を検知できているそうだ」
  • 「ゼネコン企業・日本国土開発とIT企業・開学情報システムズは、インフラの材料となるコンクリートの「表層品質評価」をAIで代替しようという試みも始めている」

 なるほど、これだったら「人手」は要らない・・・。しかし、その精度はどの程度なのかが気になる所です。時間をかければ人間に勝る精度になっていくのでしょうが・・・。

インフラ危機の日本に南海トラフ大地震が迫る?

 インフラ危機を憂う声が強まりつつある中、我が国では、南海トラフ大地震が近づいていることも危険視されています。

 静岡県沖から九州沖の海底にある南海トラフ(水深4200mにある巨大な溝)で巨大地震が起きる危険性があると言われているのです。

 日本は地震大国なので、インフラ補修計画は震災対策も視野に入れたものでなければいけないでしょう。

 これに関して、2013年の5月28日に有識者会議がまとめた報告書(「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)【別添資料2】」)では以下の被害が想定され、四地方別の家屋被害と死者数が試算されました(前掲資料P4)。

地方別の被災想定

① 東海地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約95万4千棟~約238万2千棟
死者数:約8万人~約32万3千人
② 近畿地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約95万1千棟~約237万1千棟
死者数:約5万人~約27万5千人
③ 四国地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約94万棟~約 236万4千棟
死者数:約3万2千人~約 22万6千人
④ 九州地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:約 96万5千棟~約 238万6千棟
死者数:約3万2千人~約22万9千人 

被害額の推計

 そして「被害額の推計結果」も見積もられています(P13)。これは「モデル検討会で検討された地震動 5 ケースのうち『基本ケース』と揺れによる被害が最大となると想定される『陸側ケース』」のタイプ別の試算です(※陸側で大きな被害が出るという想定が「陸側ケース」)。

○資産等への被害【被災地】

【基本ケース 】97.6兆円

・民間部門 83.4兆円 ・準公共部門(電気・ガス・通信、鉄道) 0.6兆円 ・公共部門 13.6兆円 経済活動への影響【全国】 ・生産・サービス低下に起因するもの 30.2兆円 ・交通寸断に起因するもの(上記とは別の独立した推計) 道路、鉄道の寸断 4.9兆円 《参考》港湾被害 (10.8兆円)

【陸側ケース】169.5兆円

・民間部門 148.4兆円
・準公共部門(電気・ガス・通信、鉄道) 0.9兆円
・公共部門  20.2兆円
経済活動への影響【全国】
・生産・サービス低下に起因するもの  44.7兆円
・交通寸断に起因するもの(上記とは別の独立した推計)道路、鉄道の寸断  6.1兆円
《参考》港湾被害  (16.9兆円)

※傍線筆者

  被害想定には最小値~最大値まで大きな幅がありますが、これに関する各紙報道では、基本的に最大値が強調されています。

南海トラフ被害想定の最終報告の内容

 日経記事(2013年5月29日:朝刊37面)の記事では、以下の想定が紹介されていますが、これは最大規模の被害が出た時の数字です。

【M9.1南海トラフ巨大地震被害想定】

  • 津波高は最大34m
  • 被害総額220兆円(民間148兆、公共+準公共21兆、経済活動の停滞分51兆)
  • 死者32万人、全壊・焼失棟数238万">棟、避難者数(一週間後の最大値)950万人、
  • 断水3440万人、停電2710万人
  • 食料不足3200万食、飲料不足4800万リットル(食料と飲料は震災後3日間合計)
  • 帰宅困難者 大阪圏660万人、名古屋圏400万人、
  • 対応困難な患者数 入院15万人、外来14万人

 途方もない規模の想定ですが、前掲の【基本ケース】は【陸上ケース】の58%程度の被害想定なので、基本ケースであっても、被害総額は130兆円、死者数は20万人近くの想定となると思われます。

 何しろM9.1の想定(※M9の発生確率は低いとされる)なので、まるで日本終末を思わせるような恐ろしい数字のオンパレードになっています。

 これだけ見ると希望はもうないかのようにも見えますが、この報告書では対策次第では被害は減らせることも指摘していました(以下、概要版を参照)。

 その一つは「事前防災」で、これは「津波防災対策、建築物の耐震化、火災対策、土砂災害・液状化対策、ライフライン・インフラの確保対策、教育・訓練、ボランティア活動、総合的な防災の向上」等を含んでいます。

 二つ目は「災害発生時対応とそれへの備え」であり、「救助・救命、消火活動、緊急輸送活動、物資調達、避難者・帰宅困難者対応、ライフライン・インフラの復旧、防災情報対策、広域連携・支援体制」などを通して被災時の被害を減らすことが可能です。

 対策次第で死者数は32万3千人から6万1千人にまで減るといわれているのです。

災害対策で何をしたらいいのか?

 前掲の二つの対策は政府の側にやるべきことがたくさんありますが、企業と個人にも求められる対策があります。

 企業の対策はインフラ復旧への協力や自前の燃料備蓄、資源調達先分散などですが、個人の場合では、特に生き延びるための食料や飲料の備蓄が大事です。

 読売新聞(2013/5/19:朝刊3面)では、一週間分の備蓄例を紹介しています。

  • 飲料水21リットル(1人1日当たり3リットル)
  • 缶詰やクラッカーなどの非常食
  • カセットコンロ、コンロ用ボンベ14本
  • 簡易トイレ
  • ラジオ、乾電池
  • 携帯電話の電池式充電器

 非常事態では他人を助ける余裕がなくなってくるので、各自が自衛しなければいけなくなります。上記の備品のほか、折たたみ傘や雨合羽、カイロなども必要でしょう。

 前掲の被害想定によれば全員が避難所に入れないと見られているので、その場合でも雨露や寒さをしのがなければいけないからです。野宿になっても耐え忍べる準備が必要になります。

 震災直後の『日経ビジネス』(2011/3/21:P20~21)は、「ローソンでは東北地方と茨城県にある913店舗のうち3月13日時点で半数を超える524店が営業している」とコンビニの強靭さを紹介しながらも、当時は「ダイエー目当てに1km以上の行列」ができたことを紹介しています。

 物資のひっ迫が起きるので、可能な限り、備えておかなければいけません。

 また、安否確認サービスも含めて携帯電話が機能しなくなったので、前掲の日経ビジネス記事(P21~22)では、ネット上でツィッター等を通しての安否確認や情報収集が盛んにおこなわれたとも指摘しています。

 ただ、SNS上ではデマも飛び交うので、情報を注意深く見極めなければなりません。

 最後に一言、付け加えるならば、東京湾にも2.5mの津波が来ると想定されています。そのため、地震発生時に海辺に近づくのは禁物です。

 恐ろしい話ではありますが、対策次第で被害は減らせると信じて、時間のある間に備えを固めておきたいものです。