トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米露首脳会談 4つの議題

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(ロシア語使用者の分布を示す地図:出所はWIKI画像)

 G20の開催(ドイツ・ハンブルグ)に伴って米露首脳会談が注目されているので、今回は、その行方について考えてみます。

米露会談の議題①:北朝鮮問題

 それに先立ち、中露首脳会談が7月4日にロシアで行われました。産経BIZ(2017/7/5)が公開した記事(「中露首脳会談 米韓軍事演習に反対 北ミサイル発射は非難」)では、以下の内容が報じられています。

 訪露中の習近平主席とプーチン大統領が首脳会談を行い、朝鮮半島情勢において連携し、北朝鮮には核・ミサイル開発の凍結、米国と韓国に対しては、米韓軍事演習の停止を要求することで合意しました。
   北朝鮮のミサイル実験を国連安保理の制裁決議にも違反していると批判しながらも、北朝鮮の「正当な懸念」を尊重し、「武力による朝鮮半島問題の解決の可能性は除外されるべきだ」と表明しています。
   そして、「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備については「ロシア、中国を含む周辺国の戦略的安全保障上の利益に反する」と主張しているので、基本的には北朝鮮擁護というのが本音です。

 結局、トランプ氏が言う「中国に北朝鮮問題を解決させる」という路線はうまくいかなかったわけです。

 かくして、ロシアと中国は口裏を合わせ、7日のG20や米国との首脳会談に臨むことになります。

 G20でも米露、米中の首脳会談でも北朝鮮問題は話題にのぼるはずですが、現状ではさしたる期待がもてなさそうです。

米露会談の議題②:NATO対ロシア 

 トランプ大統領はドイツで開催されるG20首脳会議に出席するために、まず、ポーランドを訪問しました。

 そこで、G20と同時に開催される日露首脳会談に合わせて、いろいろな発言を続けています。

  • NATO(北大西洋条約機構)防衛義務について「責任を持つ」
  • NATO加盟国にGDP比2%比の防衛費拠出を要求
  • シリアやウクライナの危機について「地域を不安定化させる行動を止めるようロシアに要求する」

  これは産経ニュース(2017/7/6)に報じられた発言です〔トランプ氏、NATO防衛義務に「責任を持つ」 ロシア牽制も〕。

 ウクライナ問題も終わりが見えないのですが、これに関しては、国際政治学者のミアシャイマー氏が欧米系メディアの多数説とは違った観点を提示しています。

 同氏は、ロシアの高官たちはワシントンに何度も、ジョージア(グルジア)やウクライナを反ロシアの国にしたり、NATOを東方へと拡大させたりするのは受け入れらないと伝えたのに、欧米はウクライナをNATOに参加させた。そのため、プーチンが対抗してきたのだと述べています。つまり、アメリカが、キューバにソ連と軍事同盟を結ぶ権利があるとは考えなかったように、現在のロシアも、ウクライナが欧米との同盟関係に参加する権利があるとは考えていないというのです。

 日本人の多くは欧米寄りの報道ばかりを聞かされているので、意外に聞こえるかもしれません。

 しかし、現実の力関係を重視するリアリストの国際政治学者であるミアシャイマー氏に言わせると、ウクライナはNATOに加盟せず、EUとロシアの間の中立的な緩衝地域に位置する国となるべきだという落ちになります(ミアシャイマー氏の所論は『フォーリン・アフェアーズ・リポート(日本語版)2014年9月号』に掲載)。

 延々と欧米とロシアのつばぜり合いを続けていくと、結局は中露連携だけが深まっていきます。

 そのため、筆者は、こちらのほうがましな解答なのではないかと考えているのです。

米露会談の議題③:エネルギー問題

 ただ、筆者が気になったのは、東欧諸国に米国のガス購入を呼びかけるトランプ大統領の発言のほうでした。

 同氏は6日にワルシャワで「スリー・シーズ・イニシアチブ」(アドリア海とバルト海、黒海周辺12カ国が政治的・経済的に連携する会議)に参加し、ガス供給停止で近隣諸国を威嚇してきたロシアを念頭に置き、「あなたがたの1人がエネルギーを必要とするなら、われわれに電話してほしい」「米国はエネルギーを利用してあなたの国を抑圧することは決してしない。他の諸国がそうすることも認めない」と述べています。

 東欧諸国に対して、ロシアは約75%の燃料を供給しているといわれ、ポーランドは6月に米国産のLNGを初めて輸入したからです。

 今後はエネルギーを巡ってロシアとアメリカの経済競争が進むことになりそうです。

米露会談の議題④:シリア問題

 本年、米露関係に大きな影響を与えたのは、4月4日に行われたシリアへのミサイル攻撃です。

 シリア政府が北西部にあるイドリブ県で反政府勢力に向けて空から化学兵器(サリン)が投下されたと判断した米軍は、シリア爆撃機が発進した空軍基地に向けて、米軍は東地中海洋上の駆逐艦2隻(「ポーター」と「ロス」)から飛行場やその格納庫、武器庫、レーダーや防空システム、レーダー等を狙い、59発の巡航ミサイル(トマホーク)を発射しました。

 米国側の意図は、国務省HP(4/9)に掲示された、ABCテレビのキャスターであるジョージ・ステファノポロス氏(元広報担当大統領補佐官)が行ったティラーソン国務長官へのインタビューで明かされていました。

(出所:Interview With George Stephanopoulos of ABC This Week

 その内容は主に、以下の3点です。

  1. 米国の最優先事項はIS打倒
  2. ミサイル攻撃は国際法違反への警告
  3. 同時に北朝鮮への重大な警告を行った

 その後、IS打倒作戦が終盤に近づきました。

 前掲のインタビューの中で、米国務長官は「我々が対IS作戦を終わらせれば、我々はアサド政権とその対抗勢力の双方に対して、停戦に関心を向けさせることができる」「我々は、シリアにおいて地域の安定化に影響力を行使し、ジュネーブ条約による政治的な過程を生み出すために、ロシアとも共同できるという希望を持っている。その過程において、我々はシリア国民が最終的にアサドの運命を決めることができると信じている」とも述べています。

 過去の発言から見ると、前掲のウクライナ問題やエネルギー貿易だけでなく、今回の米露首脳会談では対ISやシリア問題が大きな議題になりそうです。

 ティラーソン氏は同時期にCBSからもインタビューを受け、「米国の政策の優先事項は彼(アサド)を権力の座から追放することなのか」と問われ、「我々のシリアでの優先事項は体制変革ではない。トランプ大統領の姿勢は明確だ。第一に、我々はISを打倒しなければならない」と答えていました(出所:Interview With John Dickerson of CBS Face the Nation)。

 そして、その後、5月2日には米露の電話首脳会談が行われました。

 そこでは、両者が停戦に向けて歩み寄ることで合意し、ホワイトハウスHPには以下のような文言が掲載されたのです。

「トランプ大統領とプーチン大統領は、シリアでの苦しみはあまりにも長く続いており、全ての当事者が暴力を終わらせるために最善を尽くすことで合意した」

「会談は非常によい結果に終わった。そこには、安全区域や人道的な目的のために永続的な平和を達成するための安全区域や(軍事的)エスカレーションを防ぐための区域設定の議論が含まれる」

「トランプ米大統領とプーチン露大統領との会談(2017.5.2)」 Readout of President Donald J. Trump’s Call with President Vladimir Putin of the Russian Federation、May 02, 2017)

米露会談はスパイマスターVS”ディールの達人”の勝負?

  ロシアは4月にトランプ政権に「一撃」を食らいましたが、そのあとは意外と抑制的に反応しています。もっと激しい反発をあっても不思議ではないのですが、そうしないのは、米国からの経済制裁解除を期待しているからなのでしょう。

 世界銀行のデータで見ると、原油安や欧米からの経済制裁を受け、ロシアは名目GDPが2兆2306億ドル(2013年)から1兆3260億ドル(2015年)にまで激減しています。

 これは石油や天然ガスなどの資源に依存しすぎた経済の弊害です。

 ウクライナやシリア等では強気なロシアですが、経済面では青色吐息です。

 ウクライナ危機以降のロシアは、政治面では影響力を増し、攻勢に出たものの、国内経済はひっ迫し、これも欧米が下りるか、ロシアが下りるかというチキンゲームが続いていました。

 ロシア側にも、どこかの段階でゲームを「手打ち」にしなければいけない事情があるように見えます。

 ただ、米国内に反露勢力は根強く、「ロシアゲート」を巡る大騒ぎが続いているので、そう簡単に米ロ和解ができるような情勢ではなさそうです。

 とりあえず、今回の米露首脳会談は顔を合わせるだけでも意味がある、ということなのかもしれません。

  米国側では、周到な準備をして会談に臨む元KGBのプーチン氏に、自分の”天才的直観”を頼りにするトランプ大統領が対抗できるのかどうかを危ぶみ、会談の時間は短ければ短いほどよい、等という声もあるようです。

 ブルームバーグ(7/5)では「トランプ大統領、米ロ首脳会談に不安-「元スパイ」は一枚上手の恐れ」と題した記事が掲載されています。

プーチン氏は十分な準備をし自身の目指す結果を見失うことのない巧みな戦術家だ。トランプ氏は目の前にいる人間から読み取る能力に強い自信を持ち、準備をするよりも直感で動く。しかし相手のプーチン氏は偽装はお手の物だ。特に、トランプ氏をおだてる手に出られれば真意を読み取るのは難しいだろう。

  なお、原題は「Trump-Putin Talks Raise Anxiety Ex-Spymaster Will Get Upper Hand」なので、上記邦訳の「元スパイ」は適切ではありません。正確には「元スパイマスター」です。スパイマスターというのはスパイを各国に送る親分格なので、「スパイ」とは違います。

 毎日新聞(7/5)で「米メディアはホワイトハウス高官の「大統領とプーチン氏に長々と話し込んでほしくない。立ち話程度が理想」との声を報じた。会談の大半は北朝鮮問題やシリア内戦、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦への対応など「協調可能な分野」(マクマスター米大統領補佐官)に割かれる見通しだ」とも報じています(「7日に初顔合わせ 注目の二国間関係」)。

 元スパイマスターとディールの天才(自称ですが)の決戦の行方はどうなるのでしょうか。