トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

AI(人工知能)導入の実例一覧 問題点は何? 世界がどう変わる? 

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(チェス駒と盤:IBMのディープ・ブルーVSカスパロフのチェス決戦以来、人工知能の能力は注目されてきた。出所はWIKI画像)

  AI導入で社会はどう変わるのか。

 身近な例で言えば、グーグル翻訳にもAIが生かされ、その水準が格段の進歩を遂げました。筆者も、最近の水準は「自分の英語力よりも上ではないか」としばしば驚かされています。

    大きな例を挙げると、日経記事(2017/4/17:夕刊1面)は日本政府が2020年のオリンピックまでに高精度の人工知能を用いた同時通訳システムの開発を目指すことを報じています。人工知能で来日する多数の外国人を「おもてなし」するプランが進行しているわけです。

 また、日経電子版(2017/7/6)は厚生労働省が診療報酬の審査をAIに任せる方針を明かしたと報じました(「診療報酬、AIが審査で効率化 厚労省」)。

 現在、医療機関からの報酬請求が書かれた明細書は「社会保険診療報酬支払基金」の職員が審査しています。しかし、これをAIに代替するシステムを2020年度までに完成させ、22年までに審査の9割をコンピューターで処理することを目指しているのです。AIでは難しい審査は職員が行いますが、これに伴って新規採用を抑制し、職員数は全体の約2割(約800人)が削減されます 。

 最近、AIを巡るニュースが増えてきました。

 『週刊東洋経済(2017/7/8)』の最新号でも、期待と幻想が交錯する人工知能に関して、「ビジネスのための使えるAI」と題した特集記事を掲載しています。

 そこでは、AI導入の実例がいろいろと紹介されていました。今回は、その実例を紹介しつつ、これからの世界がAIでどう変わるのかを考えてみます。

AI導入の実例

 前掲記事の実例には、技術の説明や効果が出た理由等が分かりにくいものもあるので、そこから、分かりやすい例を選んでみます。

AIでDMの精度向上(はるやま商事)

 筆者は、はるやま商事でよく衣類を買っています。確かに、最近、はるやま商事からダイレクトメールがよく来るようになったので、取り上げてみました。

(当記事公開から2日後に来たはるやまDMを見たら、筆者がここ3カ月ぐらいに買った商品の同型異種の商品が並んでいました。今までは筆者の嗜好に当たっているとまでは言い難いものが多かったのですが、最近はレベルアップしたようです)

 はるやま商事の2ブランドはAIに過去3年間での2万人の購入履歴を用いて商品情報と顧客情報を学ばせ、若者向けスーツショップ(P.S.FA)で16年6月以降、7回ほど送った結果、来客数は18%増、客単価は8%伸びたそうです。

 送られるDMは2万通りにまで多様化し、顧客に適した商品の選択が「一瞬」でなされるようになりました。

 人間でDMをつくるといくつかのテンプレートで終わりますが、AIを活かすと組み合わせがどんどん多様化するというメリットがあります。さらに、AIであれば、人のように悩まないので、商品選択も即断即決になるわけです。

AIで検品を開始(キューピー)

 ベビーフードを製造している鳥栖工場(佐賀県)にて、原料検査を人間の目視ではなくAIで行うシステムに変えました。30~40人が目視で1日4トンもの製品を検品するのは大変なので、グーグル社のオープンソースAIプラットフォーム「テンソルフロー」を用いることにしたのです。

 筆者も20代の頃に検品のバイトをしたことがありますが、夜中にコンベアに流れてくるキャップを一人で検品する場合、いつのまにか寝ている人が出てきます。数人で見ても、夜には朦朧とした状態で仕事をする人は出てきます。別に眠くなくても、人間の仕事の場合、悩み事があったり、別のことに気をとられていたりすると、その間はチェックが留守になります。間抜けな話ですが、10年前に筆者がいた工場ではこの種の事例がよくあったのです。

 AIは眠くならないので、24時間検品ができます。検品作業はAIに非常に適した仕事だと言えます。

AIが決算短信を自動執筆(日本経済新聞ほか各社)

 今までは人が書いていた企業の決算短信のデータをAIが書くようになりました。会話文のように複雑な推論を要する記事はまだ難しいようですが、事実関係を列挙する短信記事ならば、わずか10秒でAIが書いてくれるのだそうです。開発元はベンチャーのSpectee。SNSなどの投稿文をもとに事件記事等の執筆も可能。すでに報道機関100社が導入とのこと。 

 なお、この「人間対AI」の決算短信バトルに関しては、当ブログでも3月20日記事(「人工知能(AI)VS人間の結果一覧」)で取り上げています。

   最近は野球記事など、スポーツの結果報道にもAIが導入されています。

AIによる顔認証・入場システムの導入(NEC)

 入場ゲートのカメラに顔を向けると、AIが事前登録した顔写真情報と照合し、年間パスのユーザーかどうかを判断します。そのためにかかる時間はわずか1秒。人間の目では見間違えるような濃いメイクをつけても、目と鼻、口の位置をもとに照合できそうです(実際に使うのはユニバーサル・スタジオ・ジャパン)。

 ※警察が交通機関等に配っている犯人の顔写真等は、基本的に手書きです。筆者は、指名手配の似顔絵のデジタル化を目指した話を聞いたことがありますが、結局、なぜか、手書きのほうが見つかる確率は高かったというオチでした。やはり、手書きでないと「捕まえてやる」という執念が乗らないのかもしれません。

AIで面談記録をチェック(横浜銀行)

 金融商品の販売に伴う横浜銀行の膨大な面談記録(一件あたり1000文字、一日1000~1200件ほど)は、各支店で課長⇒副支店長⇒支店長がチェックし、承認されています。従来は人がチェックしていた内容をAIが見て、不正な取引の有無をAIにチェックさせることになりました。

※日経記事(2017/4/14:朝刊7面)では、横浜銀行と千葉銀行等の地方銀行4社が中小零細企業(売上1億円未満)や個人事業主への融資の判断にAIを用いることが報じられています。200~300万人規模で年間金利5~10%の融資を行う模様。AIの審査に伴い、従来は融資を拒まれていた事業でも融資を受けられる可能性が出てくると言われています。

AIでコールセンターの会話を解析⇒FAQ作成(三井住友海上火災保険)

 2014年にIBMの人工知能ワトソンを導入し、文字情報での3年分の対話記録を学習させました。異常な出来事が起きた時、顧客の会話の中で頻出する単語に注目し、それに合わせたFAQを作成するようにしたのです。

 AIの情報に合わせたFAQが公開されると、それを見て問題を解決する人が増えるので、電話の件数が減ります。その結果、「お話中です」と言われてオペレーターにつながらない顧客が減るわけです。

 入電予測システムも導入し、その結果、80%台後半の応答率が10ポイント近く上昇したそうです。

※日経記事(2017/4/16:朝刊7面)によればIBMのワトソンが年1兆円規模の売上高。例えば、H&Rブロック社は確定申告へのアドバイス業務にAIを導入。カウンセラーの業務の精度が向上し、導入4週間で顧客満足度が2%ほど上昇。IBMはワトソンの売り上げ規模を2兆円にまで拡大することを目指している。 

AI導入に伴う問題

 しかし、AI導入については、難しい問題が伴っています。その例を『週刊東洋経済』の特集記事等から挙げてみます。どんなことが起きるのでしょうか。

倫理的問題

 例えば、AIによる自動運転を行う際に、目の前に歩行者がおり、ハンドルを切れば右側でも左側でも必ず車にぶつかる場合、複雑な問題が発生します。

 この場合、AIによって以下の3つの選択肢が決められた場合、倫理的な問題が発生します。

  1. 損害賠償額を低くするために、高級車ではなく、必ず中・低所得者の車にぶつけることを選ぶ
  2. エアバッグ搭載車と未搭載車の二つであれば、エアバッグ搭載車にぶつけることを選ぶ
  3. シートベルト着用車と非着用車であれば、着用者にぶつけることを選ぶ

 人工知能が前掲のプログラムを設定した場合、高級車の事故率が上がったり、事故回避のために努力した車で事故が起きやすくなるという、おかしな現象が起きます。 

過失責任

 AIが在庫量に応じて自動で資材を発注するシステムを工場等に導入した場合、計算を誤って必要な数量を大きく超えた発注がなされた時の過失責任はどうなるのでしょうか。

 人間の意思決定に重大な瑕疵がある時は、民法に基づいて契約を無効にできる可能性があります。

 しかし、AIは民法上の契約主体にはなれません。そのため、取引先にあらかじめAIの判断で発注がなされることを伝え、錯誤が起きた時に取引無効等を主張できるようにする必要があるというのです。

 AIの利用規模が拡大すればするほど、AIが過失を引き起こす事例も増えていくので、対策が必要になります。

 なお、日本の法律の多くはAIの出現以前につくられているので、AI導入に伴う法的問題は増え続けることになるでしょう。週刊東洋経済の前掲記事によれば、AI社会の出現に伴い、民法、著作権法、特許法、製造物責任法、個人情報保護法、不正競争防止法、独占禁止法、下請法、道路交通法、労働法、特定商取引法、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、医師法、医薬品医療機器等法などが新事態に対応できるかどうかが問われるそうです。 

判断の根拠を説明不能

 身近な例で言えば、アマゾンのアレクサに「どうしてこの曲を選んだの?」と聞いても答えは返ってきません。判断の根拠を明らかにする仕組みにはなっていないからです。

 人間対人間のやり取りでは「判断の根拠」が重視されますが、人工知能ではここが明かされないので、AIを用いて人事判断を行った時に場合にややこしい問題が発生します。

 例えば、「評価が不当だ。判断の理由を示せ」と言われても「AIのディープラーニングの結果だ」等としか答えられません。

 根拠がブラックボックスの中に隠されてしまっているからです。

 判断の理由が説明できない場合は、労働契約法上の「信義に従い、誠実に義務を履行しなければならない」(3条4項)という規定に違反する可能性が指摘されています。

失職の増加

 これは聞き飽きた話ではありますが、週刊東洋経済(P60)では、新井紀子氏(国立情報学研究所教授)のコメントを紹介しています。新井氏は、日本ではデータ処理の簡単な問題文もまともに読めない若者が増えており、そうした若者の能力は、AIと大差ない。企業は、そうした若者を受け入れてITエンジニアや記者、銀行員などに育成するぐらいなら、AIに任せたほうがましだと考えるだろうと述べています(AIは24時間働けるというメリットもある)。その結果、人手不足が生じるというのです。

 確かに、昨今では技術の進化に伴い、人間の技術は劣化しています。筆者は、大学に勤務する知人から、最近はスマホとタブレットが多様されるので新入大学生の中でブラインドタッチができない若者が増えているとも聞きました。PCとスマホの普及に伴い、本屋で領収書を頼むと難しい漢字が書けない人がやたらと増えたとも感じています。

 機械技術が進歩すると、人間のほうが劣化してくるのかもしれません。

『ニューズウィーク日本語版(2017.7.18)』では8年以内に全トラックの3分の1が自動運転車になるというマッキンゼーの予測や5年以内にAIが医療の画像診断や司法の判例調査で人間をしのぐというスリア・ダングリ氏(スタンフォード大教授)の予想を紹介しています(P22)。

軍事利用に伴う倫理問題

 この話は週刊東洋経済には書かれていませんが、日経記事(4月12日:朝刊1面)は、すでに韓国軍が国境防衛のために機関銃を持ったロボットを配備したことを報じています。

 そのロボットは北朝鮮に接する軍事境界線周辺の非武装地帯(半径900㎡)に置かれ、人間が傷つくリスクを減らせるメリットが指摘されますが、敵と味方、戦闘員と民間人の識別に関して、人工知能がいつも正しい判断を下せる保障はありません。誤判断が生じれば戦争が勃発する危険性もあるわけです。

 戦場における人工知能の投入に関しては、誤認が投降者や民間人への攻撃を生みかねないことが、指摘され続けています。悪意ある国家や非国家主体(巨大化したテロ組織等)が敵味方と民間人/軍人の識別システムを入れない人工知能を軍事利用した場合、無差別攻撃が甚大な被害を生む危険性もあるわけです。

「AI民主化」を目指すIT大手

 週刊東洋経済誌では、AI研究に力を注ぐIT大手(ガリバー企業)の思惑を解説しています。

 例えば、グーグル社は「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスでき、使えるようにする」という理念の実現を目指してきました。同社は、検索システム(情報整理)とモバイル端末のアンドロイド(情報アクセス)で経営理念を具体化してきましたが、今度はAIを誰でも使えるようにすることで、最後の詰めを完成させようとしているわけです。

 すでにグーグル社はネット検索では独走状態ですが、AIのプラットフォームは新しい市場での競争になるため、アマゾンやマイクロソフト等のライバルとしのぎを削らなければなりません。

 誰でも使えるAIのプラットフォームをつくり、そこでシェアを固めてしまえば、莫大な利益が約束されるからです。

 グーグル社は「計算能力とアルゴリズム、大量のデータ」で優位に立っているとも言われていますが、アマゾンはアシスタントAIのアレクサを搭載した端末「エコー」の販売で先手を取っています。

 各社が21世紀の情報優位をめぐったバトルを展開していますが、注目されるAIスピーカーの販売計画は以下の通りになっています(日経夕刊1面:2017/7/1)。

  • アマゾン「エコー」:米国で15年7月発売。日本での発売計画は未定
  • グーグル「グーグルホーム」:米国で16年11月発売。日本では17年内発売
  • アップル「ホームポッド」:米国で17年12月発売。日本では18年以降
  • LINE「ウェーブ」:17年夏に日本で先行販売(LINEメッセージ等が読み上げられる)

 同記事では、シャープが人間と会話できるAIを搭載したロボット「ホームアシスタント」を発売しようとしていることを紹介していました(嗜好データから見たい番組をアドバイスしてくれたり、出勤時間を教えてくれたりするそうです)。

 ドラえもんを連想させる丸みをおびた形が印象的で、魅力的な出材ではありましたが、記事には製品の性能の説明に終始していました。

 しかし、問題は、日本企業にAIプラットホームのシェアを獲得する戦略はあるのかどうかです。

 今後、熾烈になるAIプラットフォームにおけるシェア争奪戦の行方を注視していきたいと思います。