トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

北朝鮮のミサイル実験 高度は2500km超 ICBMか?

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(38度線近辺の風景。出所はWIKI画像)

 7月4日の9時39分頃、北朝鮮西岸から弾道ミサイルが発射され、約40分間飛んだ後、日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下しました。

 ブルームバーグ(7/4)によれば、北朝鮮の国営テレビはICBMが2800kmの高度を飛翔したと発表。日本の防衛省は高度が2500kmを大きく超えたと推定しました(「北朝鮮、大陸間弾道ミサイル発射に成功と発表」)

 17年5月14日の「火星12」は高度2000km超、16年6月の「ムスダン」が高度1000km超だったことを振り返ると、北朝鮮が着々と長距離弾道ミサイル開発能力を高めていることが伺えます。

 ミサイル発射実験は2017年に入ってから11回目の発射。2016年には20発以上の発射(核実験が2回)。

 毎日新聞(7/4)によれば、本日の警報はミサイル発射から12分後に出されました。防衛省から報道機関に最初の発表がなされたのは9時51分なので、ミサイルが日本海に落ちる約30分前に警報が流れたことになります。5月29日に北朝鮮がミサイルを発射した時、その飛行時間は約10分。警報が流れたのは35分後だったので、防衛省は警報の速度を速めたわけです(「北朝鮮ミサイル 発表、異例の速さ…防衛省 発射12分後」)

北朝鮮のミサイル実験 高度は2500km超

 過去のミサイル発射と比較した時、今回、注目すべきなのはその高度です。

  • 5月21日の中距離弾道ミサイル発射では高度560km(日本のEEZの外側に落下。飛行距離500km)
  • 2月12日に発射された弾道ミサイルは高度500km(日本のEEZの外側に落下。飛行距離500km)

 5月14日のミサイル発射は2000km超だったことが注目されたように、過去のミサイル発射で高度1000kmを超えた例はさほど多くありません。しかも、今回は2500kmを超えています。

 北朝鮮は4月には5日と16日、29日に三度ほどミサイルを発射しましたが、これはいずれも発射後に爆発。これは、米韓共同軍事演習中だったので、意図的に爆発するようにしたとも見られました。

 4月にはトランプ大統領が北朝鮮に圧力をかけましたが、最近の北朝鮮を見ると、結局、北朝鮮はもとに戻ってしまいました。そして、実験の高度を増し、大陸間弾道ミサイルの開発に向けて進んでいるわけです。

トランプ氏は中国に期待をかけるが、望み薄

 トランプ大統領は「北朝鮮はもう一つのミサイルを発射した。あの男(金正恩委員長)は、他にましなことはできないのか。韓国や日本がこれ以上、我慢するとは信じがたい。中国は北朝鮮に重い措置を取り、この無意味な行為を今回で終わらせてくれるはずだ」とツィートしています

”North Korea has just launched another missile. Does this guy have anything better to do with his life? Hard to believe that South Korea and Japan will put up with this much longer. Perhaps China will put a heavy move on North Korea and end this nonsense once and for all!”

 しかし、残念ながら、中国に期待できるとは思えません。

 中国の劉結(リウジエイ)国連大使は3日の記者会見で北朝鮮の核・ミサイル開発だけでなく、朝鮮半島周辺での米韓の軍事演習等を停止すべきだと主張しています。

    これでは、当てになりません。

日本を狙うミサイルはすでに完成?

 日米首脳会談後、2月13日付の読売新聞(夕刊1面)は、「北極星2型」は「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を地上配備型ミサイルに改良したものだ」と説明し、韓国軍は固体燃料を用いたミサイルだとみていることを紹介していました。

 弾道ミサイルには液体燃料を用いる場合と固体燃料を用いる場合の二通りがありますが、液体燃料推進方式のミサイルは発射までに時間がかかるのに対して、固体燃料推進方式のミサイルは短期間で発射が可能です。

 固体燃料を用いるミサイルは、液体を充填する時間だ要らないので、短時間で撃てるわけです。

 今までの北朝鮮の弾道ミサイルは、みな液体燃料推進方式でしたが、もはや、最近では固体燃料推進方式のミサイル実験が増えています。それが移動式発射台から撃てるようになれば、米国軍や韓国軍が北朝鮮がミサイル発射前に先制攻撃でそれを抑止することが難しくなるのです。

 その後、3月6日のミサイル発射では4発のうち3発が日本のEEZ内に落下し、もう一発も近くに落ちましたが、これに対して、元自衛官の佐藤正久参議院議員は「北朝鮮のミサイル技術と精度はかなり進展している」と評していました(『WILL 2017年6月号』P52)。

 ミサイル開発を見るポイントとしては、推進方式(液体燃料or固体燃料)や発射台(固定式or移動式)、命中精度などが大事ですが、このいずれにおいても、最近の北朝鮮は顕著な進歩を見せています。

 最近、高度の高いミサイル実験が延々と続いているのは、すでに日本を狙うミサイル開発は、ほぼ終わり、次の「標的」である米国に向けた実験へと移行し始めているためなのかもしれません。

 核ミサイルに核兵器を搭載する場合は、弾頭の小型化が必要ですが、これに関しては前回の核実験でかなり精度が上がったとされ、あとは、大気圏外に出た弾頭を大気圏内に再突入させる技術だけが課題として残っています。

 しかし、この「壁」が突破されるのも、時間の問題なのかもしれません。

日本を狙う北朝鮮のミサイルは最低200発?

 北朝鮮のミサイルは隠されているため、正確な数は不明ですが、中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程1300キロ)は日本全域を攻撃可能です。過去の報道から、その保有数等を推測してみます。

  • 2009年4月2日に、産経新聞は「ノドン」が最大で320基に上る可能性があるとした国際研究機関「インターナショナル・クライシス・グループ」の報告書の記述を紹介。
  • 北村淳氏(米海兵隊アドバイザー)は、ノドンだけでなく、北朝鮮南部から大阪、阪神、長崎までが射程に入る「スカッドER」(射程距離800~1000km)の危険性を指摘。(1000kmで計算した場合は西側の日本のほぼ半分と小樽以南の日本海沿岸全域が射程に入る)北村氏は「ノドン」200発、「スカッドER」350発の550発が日本を狙えるミサイルだと見なした。(JB PRESS 2012.12.25)
  • 長距離ミサイル「テポドン」とは違い、この二種類は移動式発射台から撃てるので、発射前に隠されたミサイルを全て破壊するのは難しい。
  • 2014年3月の米国防省報告書によればスカッド用の発射台は最大100両、ノドン用の発射台は最大50両、新型ミサイル「ムスダン」(グアム等を狙う)用の発射台最大50両を保有しているとされる。(防衛白書2014)
  • 2012年のジェーンズ・インフォーメーション・グループの報告書によれば、北朝鮮はスカッドを約600基、ノドンを約200基、その他の中・長距離ミサイルを約50~150基保有しているとみられている。(防衛白書2014)

北朝鮮のミサイルが狙うのは嘉手納、佐世保、岩国?

 佐藤正久氏は前掲の『WILL』にて「照準は嘉手納、佐世保、岩国」と題した記事を公開しています。

 この記事で、同氏が特に警戒を促している地域は、三沢(青森県)、横須賀(神奈川県)、嘉手納(沖縄県)、東京、名古屋、大阪、各地の原発などです。そして、地下や洞窟に隠してどこからでも発射できる車載式のスカッド、ノドンを事前に先制攻撃で破壊するのは米軍でも難しいことや、迎撃ミサイル(SM-3とPAC)で落とせる数には限界があること、日本も「盾」だけでなく、敵を抑止する「矛」に相当する兵器を持たなければいけないこと等を主張しています(P53~55)

文政権発足後に「軟化」したトランプ政権

 トランプ政権は20数年で何も解決しなかった北朝鮮問題の解決に意欲を見せましたが、韓国のムンジェンイン新大統領は宥和外交路線を打ち出しています。

 そのため、5月以降は、トランプ政権はやや様子見モードに移りました。

 米軍といえども、韓国軍の協力なしに単独で北朝鮮に攻撃をしかけるのは割が合いません。米軍だけで北朝鮮を滅ぼすことは可能ですが、その場合、一歩的にリスクを背負い込み、韓国側からは何の感謝もされないわけですから、割が合わないわけです。

 もともと、トランプ氏は2016年の前半に「凶暴な指導者を阻止するため、2万6千人の在韓米軍兵士が北朝鮮と韓国の間の休戦ライン付近に配置されているが、我々はこれによって何かを得られているのか。金を無駄にしているだけだ。我々は韓国を守っているが、税金を払う米国民に返ってくるものはない」と述べていました(産経ウェスト「韓国守る必要なし」トランプ氏に喝采送る米有権者、かつて「敵前逃亡」した韓国軍に“根深い”不信 2016.4.26 )

 トランプ氏は同盟重視に舵を切りましたが、もとの出発点がこれなので、韓国側が北朝鮮に対決する姿勢を持たない時に、米国が単独で北朝鮮と対峙することは難しいでしょう。その場合は180度逆の政策転換になってしまい、支持者の離反を招きかねないからです。 

北朝鮮問題は長期化。今後の重要行事に注目。

 北朝鮮問題が長期化するのは、シリアのミサイル攻撃等とは難易度のレベルが違うからです。

 北朝鮮側も弾道ミサイルのみならず、ソウルを火の海にできる反撃能力があるので、いざ実戦となれば、在韓米国人にも被害が及ぶ可能性が高いからです。

 前掲の佐藤正久氏の記事では、以下のように、その難しさが説明されています。

  • ソウルから北朝鮮の最短距離は40km
  • 北朝鮮にはソウルを火の海にできる実力がある
  • 北朝鮮の陸上戦力77万人(総数100万人)がソウル攻撃のために韓国との国境沿いに集結
  • 韓国の人口は約5100万人だが、その半分の2500万人がソウルとインチョンまでの間の数十kmに暮らしている
  • ここが火の海になれば数十万~百万人規模の避難民が出る恐れがある

 朝鮮戦争が再開されれば、在韓米国人20万人、在韓邦人38000人にも被害が及びます。

 このリスクを冒すのは、トランプ政権といえども、容易ではありません。

 北朝鮮問題は長期化する可能性が高いので、今後のアジアの行方を見るうえでは、北朝鮮の重要行事をしっかりと押さえておく必要があります。

 北朝鮮にとって、7月から9月頃には第二次世界大戦にまつわる重要日程等が並んでいます。

 北朝鮮が、このあたりで大胆に「もう一歩」を踏み込んで来る可能性もあるのです。

  • 7月27日:祖国解放戦争勝利記念日(朝鮮戦争の休戦日のこと) 
  • 8月15日:祖国解放記念日(韓国では光復節と呼ぶ。日本の朝鮮支配の終了日) 
  • 8月25日:先軍節(金正日総書記が軍政を開始) 
  • 9月9日:建国記念日 
  • 10月10日:朝鮮労働党創立記念日 
  • 12月27日:憲法記念日(国民の人権を守らない北朝鮮憲法の誕生日)

 迷惑な話ですが、日本はこれを機会に、自国防衛の体制を可能な限り強化するしかないでしょう。ー