トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

【香港返還20周年】民衆は習近平を抗議デモでお出迎え・・・

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(香港で抗議活動を行う若者。2014年の雨傘革命の一コマ。出所はWIKI画像。ボイスオブアメリカが提供)

  都議選投票日の前日(7/1)は、ちょうど、香港がイギリスから返還されて20周年でした。

 この日には習近平主席が訪問し、中国当局はそれを祝いましたが、本土からの圧力強化に反発した香港の民衆が6万人規模のデモを行ったことが報じられています。

 香港の人口は730万人なので、参加者はその0.8%です。

 東京の人口(1371万7000人)で同じ比率の参加者がいたとすると、11万2千人になります。発表通りの人数であれば、相当、大きなデモです(※デモの人数は、たいてい、サバ読みではありますが)。

 同じアジアの大都市を比べると、東京は都議選で大騒ぎで、香港は習主席の強権政治と中国式の”選挙”への抗議活動が起きました。

 筆者は今回の都議選の結果が素晴らしいとは考えていませんが、それでも普通選挙が行えるわけですから、東京は香港に比べると、政治的には、はるかに自由で素晴らしい環境に置かれています。

 香港は習主席の方針のもと、「一国二制度」のうち、「一国」が大事であることが周知され、「愛国主義教育」に力を入れることになりました。今や自由の存続が危ぶまれているのです。

(※「一国二制度」:英国が香港を返還した時、中国は香港を自国領としながらも、そこで独自の法体系、複数政党が活動する限定的な民主政治、集会や表現の自由等を保証した。二制度下で香港は高度な自治が可能であるとした)

 香港の民衆の間で反感が高まっているため、今後、雨傘革命の第二波が起きる可能性もありそうです。

 今回は、アジアの未来を占う重要な出来事として、香港返還20周年での「当局」と「民衆」のバトルについて考えてみます。

香港返還20周年①:習氏演説

 香港返還の記念式典に合わせて香港にやってきた習近平主席は演説を通して独立派を威嚇しています。

 日経電子版(2017/7/1)は「習氏、香港独立論許さず 治安立法・愛国教育要求も 」と題した記事を公開していました。

  • 「中央の権力に対するいかなる挑戦も絶対に許さない」
  • (抗議デモ等について)「越えてはならない一線に触れる行為だ。絶対に許さない」
  • (「一国二制度」は)「国家統一を維持するためにある」として、あくまで「一国」が基本だと強調。
  • 香港の青少年に中国への愛国心を植え付ける「愛国教育」の強化も求めた。

 この発言は、”国家分裂”を図る政治活動を禁止する「国家安全条例」の早期制定を香港政府に促したとも見られています。

 これに対して、民主派が自由の侵害を恐れていることが各紙で報じられていました。特に、「愛国教育」は、過去に抗議活動が大規模に行われているので、今後、注意が必要でしょう。

香港返還20周年②:厳戒態勢の中でデモ

 この日、返還20周年式典では、香港で林鄭月娥(キャリー・ラム)氏の行政長官就任式が行われています(任期は2022年まで)。

 習氏到着(29日)以降の香港の状況に関しては、BBC(6/29)が以下のように報じていました(「習近平中国国家主席、香港を初訪問 返還20周年」)

「市内各地には厳重警備が敷かれており、複数の幹線道路が通行止めになっている。習主席の移動ルートをはじめ、市内各地に数千人の警官が配備されている。習氏の訪問に先駆けて28日には、民主化運動の学生指導者ジョシュア・ウォン(黄之鋒)さんなど著名活動家が数人拘束された」

 そのほか、同時期に中国空母ワリャーグが寄港したのも重要な出来事です(これも独立派への威嚇)。

 これに対して、香港の民主派勢力はデモ活動で抗っています。

 6万人が抗議活動に参加し、香港島中心部のビクトリア公園から香港政府本庁舎まで(約3km)行進したことが各紙で報じられました(ただし、昨年のデモ時は11万人なので、参加者は半減)。

 毎日新聞(7/1)は民衆が「民主的な選挙制度の実現や『高度な自治』の堅持」を訴え、当局が「全警官の約3分の1に当たる約1万人を警備に投入」したと報じています。ノーベル平和賞受賞者の劉暁波(りゅうぎょうは)氏の解放も合わせて訴えられたようです(「香港返還20年式典 6万人抗議デモ 習氏、独立派けん制」)

 時事通信(7/1)では、デモ参加者の声が紹介されています(「香港民主派が大規模デモ=中国の圧力に反発」)。

  • 女性会社員(27歳):「習氏は香港人をだまそうとしている」
  • 元教師(62歳):習氏訪問を評価しつつも、「市民の声を聴くチャンスを逸した」と指摘

 ややありきたりですが、各紙はかつての産経新聞のように記者を追放されたくないので、この種のニュースに関しては、後者のように、やや当局の顔を立てたコメントを併記しているのかもしれません。

「中国式」の”普通選挙”の問題点

 香港行政長官選は3月に行われました。しかし、この仕組みは諸外国の普通選挙とは違います。その概要は以下の通りです。

  • 香港市民が選べるのは1200人の投票人
  • 1200人の投票で行政長官を選出(間接選挙)。
  • この投票人には中国当局に有利な親中派を割り当てる仕組みが設計されている。親中派が多い業種(金融や不動産、教育等)に枠が設けられる仕組み。

 昨年12月の段階で、確定済みの166人を除いた1034ポストに1553人が出馬し、このうち400人程度が民主派に近い人物だと言われていました。比率的に、もともと、民主派が勝てないようになっているわけです。

 7月に就任した林鄭氏は雨傘革命の時、政府代表としてデモ隊と交渉し、要求を拒んだことで中国側の評価を獲得した人物です。行政長官はいわば「出来レース」で決まっているので、香港市民には、小池都知事を普通選挙で選べる東京都民のような政治的自由がないのです。

2014年の雨傘革命とは何だったのか?

 「雨傘革命」 と呼ばれる香港での抗議活動は、北京政府の約束違反から始まりました。

 2017年以降、行政長官選で一人一票の「普通選挙」が導入される予定だったのに、北京政府が候補者は指名委員会から過半数の支持を得た数名に限定したからです。先述のような出来レースの制限選挙が行われることを知った若者たちはこれに納得せず、催涙弾に雨傘で対抗しながらデモを行う抗議活動を続けました。

 雨傘革命が盛り上がったのは14年9月下旬~11月頃です。最盛期には10万人~20万人規模のデモが続き、総人数では120万人が参加しましたが、14年11月下旬頃には当局に抑え込まれていきます。

 例えば、11月21日には香港高等法院は、九竜地区の繁華街(モンコック)の一部の道路への占拠禁止命令に対する異議申立てを却下し、バリケードなど障害物の撤去を命じました。そして、12月5日には街頭占拠を呼びかけた香港大法学部准教授の戴耀廷氏ら発起人3人が警察に自首し、抗議活動から退いています。

 この抗議運動には、外国の要人からの支援もありました。

 11月下旬には、英国統治時代に最後の香港総督を務めたクリス・パッテン氏(オックスフォード大学総長)は、香港学生の要求は国際社会に十分に伝わったとして、街頭占拠の解除を呼びかけています。そして、同氏は「世界の国々は民主主義と人権で中国に対抗することを恐れてはいけない」とビデオメッセージで訴えたのです。

 この頃、パッテン氏は貿易への打撃を恐れて中国政府に弱腰だった英国政府を批判しましたが、日本の安倍首相も「対話が実現し、それを通じて事態が平和裏に収束することを望んでいる」(10月8日、参院予算委)等と、あまりやる気のないメッセージを出していたのです。

  12月11日には、民主化デモの最大拠点である香港島中心部、アドミラリティ(金鐘)の幹線道路にて、警官隊約7千人がデモ隊のバリケードやテント等を撤去しました。学生指導者の周永康氏ら約150人が逮捕され、このデモは終わりました。

 雨傘革命は香港の自由を守るための重要な抗議活動でしたが、金融都市に必要な政情の安定が脅かされたので、次第に香港市民の心が離れていきました。金融街や繁華街、幹線道路の占拠によって経済活動に被害が生じ、次第に香港市民の賛同を得られなくなったという面があるのです。

 これに関して、チャイナウォッチャーの遠藤誉氏は、金融街占拠ではなく、政府総部ビルだけを標的に運動すれば、市民の賛同を得、一定の成功を収めることができたはずだと述べています(『香港バリケード』)。

 ただ、今後、中国当局が香港への圧力を強めた時、また、同じような大規模抗議運動が始まる可能性があります。

なぜ香港の自由が重要なのか

  なぜ香港の政治的自由がアジアにとって大事なのかというと、ここが今、自由主義と社会主義のぶつかり合う境目になっているからです。

 中国は香港だけでなく、台湾まで中国領とみなし、併合を目指しています。香港で一国二制度を導入したのは、台湾も「一国二制度」を条件として併合するためでした(中国は香港を未来の台湾のモデルケースだと考えている)。

 冷戦時代には、東西に分かれたベルリン市が「冷戦の象徴」となっていましたが、香港は同じように「アジアの冷戦」を象徴する位置にあるように見えるのです。

 そのため、筆者は、この都市で「自由の旗が翻るか」「市民が恐怖政治の支配に下るか」は、今後、アジアの運命を占う上で非常に大事だと考えています。

 香港市民に比べれば、都知事と都議会議員を選べる東京都民は幸せです。

 自由の大切さは、空気と同じように、失われた時に初めてわかるものだとも言われています。

 政治的自由の意義を、香港市民の戦いを通して、考え続けていきたいものです。