トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプVS文在寅 米韓首脳会談はどうなる

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(文氏が宿泊するブレアハウス近辺の図。出所はWIKI画像)

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領とアメリカのトランプ大統領は6月29日~30日にホワイトハウスで米韓首脳会談を行います。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や米韓同盟の強化、米韓の通商問題等が主な話題になりそうですが、今回の会談は、今後の米韓関係を占う重要行事として注目されています。

 しかし、文氏訪米に合わせて北朝鮮が弾道ミサイル試射などを行う可能性もあるので、会談は予断を許さない状況の中で進められます。

  今回は、訪米する文在寅大統領に焦点を当ててみます。

文在寅(ムン・ジェイン)氏へのインタビュー

 このたびの訪米に先立って、ロイター(2017/6/23)が文大統領にインタビューを行いました(「韓国文大統領インタビュー:中国に対北行動促す 慰安婦合意で日本批判も」)

 その要点を紹介してみます。

  • 中国は北朝鮮の核開発抑制に向けさらなる行動の余地がある
  • (中国に)新型迎撃ミサイルTHAAD(サード)配備への報復として韓国企業に講じた「あらゆる措置」の撤廃を求める(7月にドイツで開催されるG20首脳会議にて中韓首脳会談)
  • 北朝鮮は米国本土に届く核弾頭装備弾道ミサイル配備の技術を「そう遠くない将来」に獲得する
  • 北朝鮮が大陸間弾道弾(ICBM)発射や6度目の核実験を実施した場合、「強力な」制裁措置を講じるべきだ
  • 「中国は北朝鮮のさらなる挑発行動阻止に向けて努力している」。だが、「具体的な成果はない」「中国は北朝鮮の唯一の同盟国で、最大の経済支援国だ。中国の協力がなければ、制裁は何の効果もない」
  • 日本に関しては、歴史認識や領有権問題、防衛費拡大を問題視し、「確固たる姿勢で過去の歴史を反省し、二度と繰り返さないというメッセージを送れば、韓国だけでなく他の多くのアジア諸国との関係がさらに目覚ましい発展を遂げる」「日本は慰安婦問題を含め、2国間の歴史問題を解決するため十分な努力をしていない」と批判。

   日本に関しては、性懲りもなく、歴史認識問題を持ち出しています。北朝鮮が核開発に邁進するなかで日本の防衛費拡大が問題だというのも、おかしな話です。

 北朝鮮の核開発が問題だというのなら、韓米同盟強化や日米韓の連携を進めるべきなのに、文氏は謎の親北路線(2018年平昌冬季五輪での南北合同チームの結成等)を打ち出し、THAAD配備にも反対しています。

文在寅氏の「三大悪材料」 韓国紙は懸念

 産経ウェスト(2017/6/26)は朝鮮日報などの韓国紙が文大統領のつくりだす「悪材料」を懸念しています(「【米韓首脳会談】トランプ烈火に油“北朝鮮と五輪”提案…「4悪」目は文大統領自身か 「おとぎの国」住人との声も」)。

 その材料というのは、以下の三つです。

  • 統一外交安保特別補佐官の文正仁・延世大教授がワシントンで16日に開かれたセミナーで「北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結すれば、米国の韓半島(朝鮮半島)での戦略資産や米韓軍事訓練の縮小も可能だ」と発言。しかし、米国の合意なく、米軍の展開や訓練縮小は不可能。
  • THAAD配備の遅れをトランプ大統領は怒り、共和党マケイン上院議員の訪韓予定の消滅
  • 文氏による平昌五輪への北朝鮮参加提案。「平昌五輪に北朝鮮選手団が参加すれば、人類の和合と世界平和推進という五輪の価値を実現するのに大きく寄与する」

 アメリカでは北朝鮮に拘束された大学生(ワームビア氏)の死に対する怒りが沸騰する中での、文氏の発言は異様さが際立ってしまいます。

 産経は文氏そのものが「悪材料」ではないかと懸念しているわけです。

文在寅氏の経歴

 文在寅(ムン・ジェイン)氏は1953年1月に生まれました(現在64歳)。

 両親は朝鮮戦争の戦火を逃れ、1950年の終わりごろに、朝鮮半島の北東部から米軍艦艇に乗って釜山に近い巨済島の難民キャンプに逃れました。食糧にも事欠くなかで文在寅氏は苦学し、名門の慶南高校を卒業してソウルの慶煕大法学部に進学。大学生の頃に朴正煕政権に対抗する「民主化運動」に参加しました。朝鮮戦争が終結していない(今も停戦中)韓国では軍政の保守政権に、左派系の闘士が民主化運動を挑む構図が長らく続いていたので、文氏から見れば、そうした「革命運動」が、このたびの大統領選で朴槿恵政権崩壊に伴い、ようやく「実を結んだ」ことになるわけです。

 文氏は大学生時代から政治活動に邁進し、何度も逮捕されています。

 卒業後は弁護士になりましたが、司法試験の合格通知を受け取ったのは、なんと、留置場の中なのだそうです。紆余曲折の後、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の選挙活動を秘書として支え、その後、大統領府で秘書室長になります。

 2012年の大統領選挙では朴槿恵氏に4%差で敗れましたが、朴氏のその後の体たらくをみて、「やはり、文氏のほうがよかった」という「民意」が台頭。「共に民主党」から出馬した文在寅氏は北朝鮮に対する融和政策等を掲げ、17年の大統領選で1342万3800票(41.08%)を得て、当選しました。

(※「共に民主党」というのは、金大中元大統領を中心にした民主化運動の流れをくんだ政党であり、全羅道地域を地盤とする民主党と、文在寅氏を中心にした市民統合党が統合し、そこに安哲秀氏の新政治連合が加わってできた最大野党です)

 親北外交、反日、反米外交の三点セットが揃う廬武鉉大統領の頃に秘書官(日本で言えば官房長官に相当)をしていた文氏が当選することで、同じ悲喜劇が繰り返されるのかどうかが注目されています。 

文在寅氏の外交路線 三つの懸念

 文氏は「盧武鉉の影法師」とも呼ばれていました。日本の保守派は親北、反日、反米という不安定要素を抱えた文氏の外交スタンスを警戒しています。

 注目された過去のアクションを並べてみましょう。

  • 2005年:旧政権時代には「親日派財産没収法」の成立を主導
  • 2007年:国連での北朝鮮人権決議案採択時の韓国棄権で影響力を発揮
  • 2016年:慰安婦合意反対。日本総領事館前の慰安婦像撤去反対。
  • 2016年7月:竹島に上陸して反日アピール。
  • 2016年11月:日本と締結した秘密情報保護協定(GSOMIA)に反対。

THAADミサイル配備問題

 そして、米国との関係に緊張をもたらしているのが、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の配備問題です。

(※ミサイル軌道の中で、加速しながら上昇する過程を「ブースト段階」、最高高度を描く頂点付近の過程を「ミッドコース段階」、重力の加速を受けて陸地に迫る過程を「ターミナル段階」と呼ぶ。THAADミサイルは「ターミナル段階」のミサイルを高高度で迎撃する装備)

 文氏は、当初、高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の配備に反対。しかし、米朝関係の緊張と世論の風向きを見て、挑発を続けるならばTHAAD配備は不可避になると政策を転換しました。

 その後、トランプ氏がその費用負担(10億ドル)を韓国に求めたことから、再び否定的なトーンに戻りました。

 「私が知らない理由で配備が早くなった」と朴槿恵前大統領に責任転嫁し、「環境影響評価」がTHAADの完全配備を遅らせたことは「配備の先送りや中断ではない」と言い訳しています。

親北路線

 新北路線は、韓国との協力事業である開城(ケソン)工業団地と金剛山(クングンサン)観光の再開(これは北朝鮮にとって年間1億ドルの収入源になっていた)や北朝鮮に対する2018年平昌冬季五輪での南北合同チームの結成と南北合同入場行進の提案等に端的に表れています。

 欧米メディアとのインタビューでは、文大統領は北朝鮮との対話は、「条件が合えば」「適切な条件の下で」行われるため、無条件での対話ではないと主張しています。

 しかし、現在の議席数(計299)では、国会で文氏の思う通りに政策を実現するのは難しいので、議会との協調のために、政権発足初期は、穏健路線をとるとも言われています。

 現在の議会構成は以下の通り。

  • 共に民主党(中道左派):120人
  • 国民の党(中道左派):40人
  • 正義党(保守系):6人
  • 無所属ほか:7人
  • 正しい政党(保守系):20人
  • 自由韓国党(保守系):106人

 ニューズウィーク日本語版(2017/5/16 ※発売は9日)のコラムニスト(ロバート・E・ケリー釜山大教授)は、韓国政治の現状について、以下のように述べていました。

「韓国国会では中道左派が過半数の議席を占めており、文はリベラルな政治を推し進めることができるだろう。ただし、社会主義や左派路線に踏み込むことは不可能だ。文の得票率は40%にとどまる見込みで、急進的な姿勢をむき出しにはできない」(P23)

  中道左派のあたりに狙いをつけ、文氏は少しずつ政策を実現していくことが予想されています。

米韓FTAはどうなる

 米韓首脳会談では、トランプ政権が出した米韓FTA見直しの方針も、大きな対立点になりそうです。

  トランプ政権下でUSTRは「2017年の通商政策の目標と2016年の年次報告」(2017 Trade Policy Agenda and 2016 Annual Report)と題した文書を公開し、米韓FTAを問題視しています。

「オバマ政権でなされた最大の貿易取引ーー韓国に対する自由貿易協定ーーその締結に伴って我が国の貿易赤字が劇的に上昇した」「2011年(米韓FTA発効前の最後の年)から2016年、米国の韓国への輸出総額は12億ドル減少したが、韓国の輸入品のほうは130億ドル以上も増えた」(筆者訳)

 首脳会談では米韓FTA等も議題に上ると見られています。

  他国の話ではありますが、今回の米韓首脳会談を通じて、韓米同盟が強化され、朝鮮半島の安定が実現することを祈念したいものです。