トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

モスル陥落前に読むトランプの中東政策:IS打倒と各国外交の方針  

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(イラク:バグダット市街。出所はWIKI画像)

 トランプ大統領が就任演説でIS打倒を訴えてから5か月が経ち、モスルの戦いも最終局面に入りつつあります。

 「イスラム国」(IS)は指導者のバグダディが2014年に「国家樹立」を宣言した「ヌーリ・モスク」を自ら爆破し、その建物を反IS連合に渡すまいとしました。そのため、もともと45mあったモスクの尖塔は折れ、今は数mのコンクリートしか残っていません。

 モスルを占拠するISは最後の支配地域である旧市街で10万人の住民を「人間の盾」とし、抵抗を続けていますが、この地域が解放されるのも時間の問題だと見られています。

(なお、ロシア軍はミサイル攻撃でバグダディを倒したと発表しましたが、こちらは信憑性が疑われています)

 モスル旧市街にたてこもる500人のIS戦闘員は自爆攻撃と狙撃で抵抗していますが、ラッカの最終解放の日は近づいているのです。

 今後は、IS打倒後の未来がどうなるのかをもっと真剣に考えなければいけなくなるでしょう。

 もともとイスラム国の領域は統治不全地域なので、戦後に宗派・民族の違いを理由とした紛争が勃発する危険性が高いからです。

 地上部隊を担うイラク軍、クルド人部隊、イラン民兵が地域の統治を担うにしても、もとよりこの三勢力は犬猿の仲です。IS打倒後を睨んだ場合、その中心にいるアメリカがどのような中東政策を持っているのかを考えなければなりません。

 そのため、今回はトランプ政権の中東政策について考えてみます。同政権は各国に対して、何を考えているのでしょうか。

トランプ政権の中東政策(各国別)

 まずは各国別にその方針を見てみます。

シリア:当面は停戦? ロシアと勢力圏棲み分け?

 トランプ政権はシリア軍の化学兵器使用に対してトマホークミサイルの攻撃で応え、「レッドライン」を引きました。これは、オバマ政権との違いを明確化するための措置です。

 ティラーソン国務長官は4月9日にABCテレビのキャスターであるジョージ・ステファノポロス氏(元広報担当大統領補佐官)に「米国の最優先事項はIS打倒」であり、「ミサイル攻撃は国際法違反への警告」だと述べています(国務省HP4/9:Interview With George Stephanopoulos of ABC This Week)。

 この時、国務長官は「我々が対IS作戦を終わらせれば、アサド政権と対抗勢力に対して、停戦に関心を向けさせることができる」と述べたのです。

 その後、「トランプ米大統領とプーチン露大統領との電話会談(2017.5.2)」(ホワイトハウスHP)では、両大統領が「シリアでの苦しみはあまりにも長く続いており、全ての当事者が暴力を終わらせるために最善を尽くすことで合意しました」。

 ここでは、安全区域の設定などを議論しています。 

 どちらもIS打倒を目指していますが、今のトランプ政権はシリアに関してはロシアの権益を脅かさず、勢力均衡を図ろうとしています。これが実現すれば、イラクとシリアの関係は38度線で睨み合う韓国と北朝鮮と似た状況になるかもしれません。

イスラエル:同盟強化。しかしイスラム勢の刺激は避ける?

 ネタニヤフ首相は2月15日に訪米し、その後、トランプ大統領は訪問先のエルサレムで同首相と5月22日に首脳会談を行い、オバマ政権の頃からの政策転換を訴えました。

 2月15日の首脳会談でトランプ大統領は「米国とイスラエルは人間の生命の価値を尊ぶ二つの国家だ。これが、我々が不公正で一方的なイスラエルに対する国連の措置に反対し、ボイコットする理由だ。私の見解では、国際会議でイスラエルはとてもとても不公正に扱われている」とも述べています。

(出所:Joint Press Conference w/ Prime Minister Netanyahu )

  訪米した国にトランプ氏が返礼の訪問を行ったのイスラエルだけなので、肩入れぶりがよくわかります。トランプ大統領は、もともと以下の政策でトランプ時代のイスラエル外交から大転換を計る方針でした。

  • イスラエルとパレスチナの和平交渉の原則「二国家共存」にはこだわらない
  • パレスチナ自治区でのイスラエルの入植活動を容認
  • アメリカ大使館のエルサレム移転

 しかし、これを貫くとアラブ系の新米国の関係が悪化し、イスラム圏の反米感情が高まります。そのため、トランプ氏はその後、軟化しました。

 2月のネタニヤフ訪米時にトランプ大統領はパレスチナ問題に対して「2国家併存にとらわれない」と述べましたが、その後、ヘイリー国連大使を通じて「2国家併存」という従来の方針に戻る旨を伝えました。

 パレスチナ問題の経緯を振り返ると、米国はイスラエル建国に際して住処を失ったパレスチナ人に自治区を与え、「二国家」を共存させることを目指していました(03年にアメリカ、EU、ロシア、国連が05年までの行程表を提案し、イスラエルとパレスチナの双方が合意するとされた)。しかし、その計画はうまくいかず、パレスチナ自治区ではテロが続き、イスラエル側がヨルダン川西岸地区と東エルサレムで入植活動を進め(現在、約60万人規模で居住)、自国の影響力を拡大しています。和平交渉は事実上、停止しましたが、アメリカの歴代政権は「二国家共存」の方針を維持してきたのです。

 また、米大使館のエルサレム移転(現在はテルアビブにある)に関しても、トランプ政権は延期しました。これが実行されればイスラム過激派が、アメリカがイスラム教の聖地に地歩を築いて戦いをしかけてきたと見て「反撃」をしかけてくるからです。

 トランプ大統領は5月のイスラエル訪問では中東和平の実現に意欲を見せましたが、同氏は前掲の政策で自ら火種をつくりだしています。

 トランプ氏が志向するイスラエル肩入れ政策に関しては、中東諸国との協調のために「やりたいけどできない」というのが現状だとも言えそうです。 

サウジアラビア:同盟復活。巨額の兵器売却

 トランプ大統領が初外遊先に選んだのはサウジアラビアを重視する路線の表れです。

 これは、イスラエルやサウジ等の同盟国に冷淡で、イラン核合意に力を注いだオバマ外交からの大幅転換を意味しています。これは伝統的な同盟国である、イスラエルとサウジアラビアを重視するという意思表示です。

 一方、サルマン国王は、イスラム諸国から50人以上のリーダーを集めてトランプ氏と会談し、サウジアラビアこそがイスラムの盟主であることを印象づけました。

 そして、ムハンマド皇太子は国防相を兼ねているので、米軍の再招致を狙っているともいわれています(2003年に米軍はサウジの軍事基地から撤退している)

 結局、5月20日のトランプ氏の訪問では、米国から1100億ドル(約12兆円)の巨額の兵器売却が決まりました。そこにはイランの攻撃に備えたミサイル防衛システム、艦艇等が含まれており、今後10年間では3500億ドル(今の為替で約39兆円相当)もの巨額の取引を約束しています。

 ただ、10年後の保障などできないので、トランプ政権は在任中に前倒しで大規模な武器売却を行うはずです。

トルコ:トランプとエルドアン間で関係改善

 オバマ政権の重要事項は「民主主義かどうか」なので、独裁化したエルドアン大統領との関係が悪化しましたが、トランプ大統領にとって大事なのは、「米国の国益にかなうかどうか」です。

 そのため、トルコが米国の国益上、必要と見て、関係改善のために一歩、二歩と踏み込みました。

 トルコでは四月の国民投票の結果、大統領に権限を集中する憲法改正がなされましたが、トランプ氏は17日にその結果に祝意を示しました。

 その後、トランプ大統領は5月16日に訪米したトルコのエルドアン大統領と会談しました。会談では、テロとの戦いで両国が協力することが決まったのです。

イラン:核合意破棄を狙うも実現は困難

  そして、トランプ政権はイランに対しては核合意破棄を狙っています。

 2月15日のネタニヤフ首相との会談でトランプ大統領は「イラン核合意は近年における最悪の取引の一つだ」「わが政権はすでにイランに新しい制裁を課している。私はイランのさらなる核開発を阻止する」とも述べています。

  4月19日にティラーソン国務長官は、核合意について、「イランのさまざまな深刻な脅威を完全に無視」したものであり、イランは「テロと暴力を輸出し、1度に複数の国家の存続を危うくしかねない警戒すべき挑発」を行っているとし、同国を野放しにすれば「北朝鮮と同じ道をたどる可能性がある」と危険視しました(出所:CNN.co.jp : トランプ政権、イラン核合意を再び非難 政治的ポーズの声も

 しかし、イラン核合意は多国間の取り決めなので、トランプ政権単独では見直せません。そのため、英仏独露中等の関係各国との交渉が必要になります。

 この合意では査察等で核開発を阻止しながらも、ウラン濃縮を一部容認し、イランへの経済制裁が解除されましたが、そのため、他の政策よりも難易度が高いと言えます(トランプ政権に肯定的なメイ英首相でも、2月6日時のネタニヤフ首相との会談で、核合意支持を表明している)。

  フランスでルペン氏が当選したら米仏がイラン核合意から脱却したはずですが、マクロン氏が当選したので、核合意破棄は難しそうです。

 IS打倒のためには、イラン民兵も「敵の敵は味方」という関係が成り立ちますが、IS打倒後は「単なる敵」になってしまうのかもしれません。

トランプ中東政策の中心~IS打倒/反テロ~

 IS打倒に関しては、選挙前⇒就任演説⇒就任後で、最優先事項に位置付けられています。

 これに関しては、政権発足時の「アメリカ第一の外交政策」(America First Foreign Policy)という文書と「IS打倒のための覚え書き」にも明記されていました。

 最後にこの二つを確認して今回の記事を終わります。

「米国第一の外交政策」 

The Trump Administration is committed to a foreign policy focused on American interests and American national security.

トランプ政権は米国の国益と安全に特化した外交政策を公約している。

Peace through strength will be at the center of that foreign policy.

力を通じての平和が外交政策の中心となる。

This principle will make possible a stable, more peaceful world with less conflict and more common ground.

この原理は争いを減らし、(相互理解の)共通の基盤をもたらすことで、世界をもっと安定し、平和にする。

Defeating ISIS and other radical Islamic terror groups will be our highest priority.

ISIS(イスラム国)や他のイスラムテロ集団を打倒することは我々の最優先事項である。

To defeat and destroy these groups, we will pursue aggressive joint and coalition military operations when necessary.

それらの集団を倒し、滅ぼすために、我々は必要とあらば攻撃的な連合作戦をも行う。

In addition, the Trump Administration will work with international partners to cut off funding for terrorist groups, to expand intelligence sharing, and to engage in cyberwarfare to disrupt and disable propaganda and recruiting.

その上、トランプ政権は国際的な協調国とともにテロ集団の資金源を断ち、諜報の共有を拡大し、過激派集団の宣伝と人材確保を妨害するためのサイバー空間での活動を行う。

Next, we will rebuild the American military.

次に、我々は米軍を再建する。

Our Navy has shrunk from more than 500 ships in 1991 to 275 in 2016.

我々の海軍は1991年には500隻以上あったが、2016年には275隻にまで縮小した。

Our Air Force is roughly one third smaller than in 1991.

今の我々の空軍は1991年の時の約3分の1の規模である。

President Trump is committed to reversing this trend, because he knows that our military dominance must be unquestioned.

トランプ大統領はこの流れを反転させる。彼は我々の軍の優勢が疑いないものでなければならないことを理解しているからだ。

Finally, in pursuing a foreign policy based on American interests, we will embrace diplomacy.

最後に、国益に基づいた対外政策を追求する中で、我々は外交活動を押し進める。

The world must know that we do not go abroad in search of enemies, that we are always happy when old enemies become friends, and when old friends become allies.

米国は敵を探すために海外で活動するのではなく、我々は古い敵を友とし、古い友を同盟国とすることを喜びにしていることを、世界は知らなければならない。

The world will be more peaceful and more prosperous with a stronger and more respected America.

米国がより強く、より尊敬される国となることで、世界はもっと平和で繁栄になるだろう。

 ※以下、”Trade Deals Working For All Americans”が続くが、これは中東政策とはあまり関係ないので省略。

イスラム国打倒のための覚書

 (出所はホワイトハウスHP:"Presidential Memorandum Plan to Defeat the Islamic State of Iraq and Syria | whitehouse.gov"2017/1/28)

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SUBJECT: Plan to Defeat the Islamic State of Iraq and Syria

課題:イラクとシリアの「イスラム国」打倒計画

The Islamic State of Iraq and Syria, or ISIS, is not the only threat from radical Islamic terrorism that the United States faces, but it is among the most vicious and aggressive.

イラクとシリアの「イスラム国」もしくはISISは、アメリカが直面した単なるイスラム過激派のテロリズムに由来する脅威ではない。 それは最も凶悪で攻撃的な存在だ。

It is also attempting to create its own state, which ISIS claims as a "caliphate."

それはカリフ国を自称する独自の国をつくろうと試みている。 

But there can be no accommodation or negotiation with it.

それと交渉できる余地はない。

For those reasons I am directing my Administration to develop a comprehensive plan to defeat ISIS.

そうした理由から私は政権に包括的なIS打倒計画の作成を指示した。

ISIS is responsible for the violent murder of American citizens in the Middle East, including the beheadings of James Foley, Steven Sotloff, and Peter Abdul-Rahman Kassig, as well as the death of Kayla Mueller. In addition, ISIS has inspired attacks in the United States, including the December 2015 attack in San Bernardino, California, and the June 2016 attack in Orlando, Florida.

ISISは中東でのアメリカ人の暴力的な殺人に責任を負っている。ジェームズ・フォーレイ、スティーブン・ソットロフ、ピーター・アブドゥル・ラフマン・カシーグやカイラ・ミュラーほかに関して(※被害者の名を挙げている)。また、サンフランシスコのサンベルナルド(2015年12月)、フロリダのオルランド(2016年6月)のテロ攻撃に関してもそうだ。

ISIS is complicit in a number of terrorist attacks on our allies in which Americans have been wounded or killed, such as the November 2015 attack in Paris, France, the March 2016 attack in Brussels, Belgium, the July 2016 attack in Nice, France, and the December 2016 attack in Berlin, Germany.

ISISは我々の同盟国への数多くのテロ攻撃を共謀している。フランス・パリでの攻撃(2015年11月)、ベルギー・ブリュッセルでの攻撃(2016年3月)、フランス・ニースでの攻撃(2016年7月)、ドイツ・ベルリンでの攻撃(2016年12月)では、多数のアメリカ人の死傷者が出ている。

ISIS has engaged in a systematic campaign of persecution and extermination in those territories it enters or controls.

ISISは彼らの支配する領域での迫害と絶滅の体系的なキャンペーンに関わっている。

If ISIS is left in power, the threat that it poses will only grow.

もしISISをその力の中に止めておくのならば、それはただ大きくなるのみだ。 

We know it has attempted to develop chemical weapons capability.

我々は、それが化学兵器の能力を発達させようと試みていることを知っている。

It continues to radicalize our own citizens, and its attacks against our allies and partners continue to mount.

我が市民の中に過激化するものが出続ければ、我々の同盟と仲間を傷つけることになろう(※ホームグラウンドテロを言っていると思われる)。

The United States must take decisive action to defeat ISIS.

アメリカはISISを打倒するために決定的な行動を取らなければならない。

Sec. 1. Policy. It is the policy of the United States that ISIS be defeated.

1:それはISISを打倒するための政策である。

Sec. 2. Policy Coordination.

2:政策の調整

Policy coordination, guidance, dispute resolution, and periodic in-progress reviews for the functions and programs described and assigned in this memorandum shall be provided through the interagency process established in National Security Presidential Memorandum – 2 of January 28, 2017 (Organization of the National Security Council and the Homeland Security Council), or any successor.

政策の調整、指導、混乱の解決、この覚書に書かれ、指示された機能と計画に関する定期的に進行中のレビューは省庁の垣根を越えて実行過程に移される。それは2017年1月28日の国防のための覚書2に基づく。 

(i) Development of a new plan to defeat ISIS (the Plan) shall commence immediately.

 ISIS打倒のための新計画の発展はすぐに開始されるべきだ。

(ii) Within 30 days, a preliminary draft of the Plan to defeat ISIS shall be submitted to the President by the Secretary of Defense.

30日以内に、ISISの打倒計画の予備文書は国防総省によって大統領に提出される。

(iii) The Plan shall include:

その計画は以下の内容を含む

(A) a comprehensive strategy and plans for the defeat of ISIS;

ISISを打倒するための包括的な計画

(B) recommended changes to any United States rules of engagement and other United States policy restrictions that exceed the requirements of international law regarding the use of force against ISIS;

ISISに対抗するための武力行使に関わる国際法の要件を上回る合衆国の法と政策上の規制を変えることを勧める。

(※国際法以上に厳格な国内のルールを緩和し、武力を行使しやすくするという意味)

(C) public diplomacy, information operations, and cyber strategies to isolate and delegitimize ISIS and its radical Islamist ideology;

ISISと過激なイスラムイデオロギーの非正当化と孤立化のためのサイバー戦略と情報工作、国際広報活動

(D) identification of new coalition partners in the fight against ISIS and policies to empower coalition partners to fight ISIS and its affiliates;

ISISに戦う仲間と新しい連合を形成し、ISISとその仲間と戦い、力づけるための政策

(E) mechanisms to cut off or seize ISIS's financial support, including financial transfers, money laundering, oil revenue, human trafficking, sales of looted art and historical artifacts, and other revenue sources; and

ISISの財政支援、金融資産の移転、マネーロンダリング、石油収入、人さらい、歴史的な工芸品と美術の販売、他の収入資源を断絶すること。

(F) a detailed strategy to robustly fund the Plan.

その計画を資金面で活性化するための詳細な戦略

(b) Participants.

参加者

(※以下略)