トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

ドッド・フランク法はどう変わる 法案と大統領令の概略

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(出所はWIKI画像。撮影者はBeyond My Ken氏。シティバンク)

 米国下院では6月に入り、金融規制改革法(ドッド・フランク法)を見直す法案が8日に可決(賛成233/反対186)されています。

 ドッド・フランク法というのは、リーマン・ショック後、2010年に民主党政権下で定められた金融機関への規制強化法で、金融安定監視評議会の設置、金融機関の破綻処理のルール決めや銀行によるハイリスク取引の規制(ボルカー・ルール)等が主な内容になっています(立法に携わった議員の名にちなみ、「ドッド・フランク法」とも呼ばれている)。

 この法律の見直しは選挙中にトランプ政権が公約した重要政策の一つです。

 トランプ大統領は2月3日にドッドフランク法を見直す大統領令に署名し、その後、ムニューチン財務相が上院で承認され、正式に就任。約4か月後に法案が下院を通過したわけです。

 しかし、ウォールストリートジャーナル紙は、上院では可決に必要な賛成票が集まらないという悲観的な見通しを幾つかの記事で明かしています。時事通信社の報道も似たような論調でした。

 その後、6月12日には米財務省が見直しのための報告書を公にしているので、その要点等も踏まえながら、トランプ政権が目指す金融規制改革について考えてみます。

ドッド・フランク法とは

 ドッド・フランク法では、大規模な金融機関の破たんが生む経済危機の再発を防ぐため、金融機関に説明責任を課し、透明性の向上を目指しています。

 破たん後の影響が「大きくてつぶせない」金融機関の監視を強化したのは、リーマンショック後のような救済措置が繰り返されないようにするためです。

 具体的な措置として、FRB(連邦準備制度理事会)での消費者金融保護局の設置、金融機関の監視強化、経営者報酬への監視強化、連銀法の修正などが導入されました。

 この改革で、総資産500億ドル以上の金融機関は資本と流動性の確保が義務付けられ、一年ごとのFRB(連邦準備制度理事会)によるストレステストが要請されました・

 この法律の目玉になるのは銀行の市場取引を規制する「ボルカー・ルール」です。

 このルールでは、銀行や銀行持ち株会社が自社の資産運用のために、自社の資金でリスクを取って金融商品の購入や売却、取得や処分を行うことを禁止します。アメリカの銀行がデリバティブ取引、商品先物取引、ヘッジファンドへの出資、未公開株ファンド等に出資することを制限したのです(ただし、顧客のリスク回避が目的とした場合、ヘッジ取引や、値付け取引、国債、政府機関債、地方債等の取引は規制対象外となる)。

 包括的な監査は連邦金融監督者と州規制監督者、金融安定監視評議会(FSOC:大統領が任命する保険専門家で構成される)が担うことも定められました。

ドッドフランク法についてのトランプ政権の考え方

 ドッド・フランク法に関しては規制が厳しすぎること、監査等に対応するためのコストが高すぎること、経営に負担がかかりすぎること、政府機関の肥大化、金融機関の貸し出しの低迷等を問題視する見方が根強くありました。

 トランプ政権はこの規制を緩和することで、金融の活性化が図れると考えています。 

 ウォールストリートジャーナル紙のインタビューによれば、米国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長は、この改革で、毎年数千億ドルにわたる銀行の規制コストが軽減され、銀行は消費者のために効率的・効果的な価格設定を行えるようになると述べ、金融安定監視評議会(FSOC)や、銀行以外の大手金融機関への監視のあり方を変えていく方針を示唆しました(WSJ日本語版「トランプ氏、ドッド・フランク法撤回の大統領令に署名へ」2017/2/3)

 トランプ大統領が金融規制改革の大統領令に署名する前に説明を求めた部下(ワグナー氏)は「我々がやろうとしていることは、中・下流の所得の投資家、退職金を管理している退職者といった、アメリカの民衆のためになる行為です」とも述べていました。

(出所:Remarks by President Trump at Signing of Executive Order on Fiduciary Rule | whitehouse.gov

  2月3日にトランプ大統領は以下のように述べています。

「我々はドッド・フランク法を断ち切ってしまいたい。率直に言えば、私の友人も含めて、あまりにも多くの人々が素晴らしいビジネスをしているのにお金を借りられなくなっているからだ。お金が得られないのは、銀行がお金を貸さないからで、その原因はドッド・フランク法のルールと規制にある」

(出所:Remarks by President Trump in Strategy and Policy Forum

 ドッド・フランク法の厳格な規制のためにお金の流れが悪くなっている、というのがトランプ大統領の基本的な認識です。

 しかし、金融規制改革法を成立させた民主党議員やリベラル色のマスコミは改革に反対しています。

ドッドフランク法をどう変えるのか?

 トランプ政権の大統領令と下院を通過した法案の内容は分かりにくいのですが、その要点を紹介してみます。

 2月の大統領令では、七つほどの中核原理を定め、それに合わない法令の改革を命じました。

  • 米国民が十分な情報を提供され、金融において独立した意思決定ができ、退職後の貯蓄を管理し、個人資産の形成ができるようにする。
  • 納税者負担での金融機関救済措置を避ける
  • 「市場の失敗」(情報の非対称性等)を解決する規制を導入し、活発な経済活動を促進する
  • 米企業の競争力向上(国内と海外市場)
  • 金融規制を交渉する国際的会合で米国の国益を追求
  • 金融規制を効率的で効果的なものに変える
  • 連邦の金融規制機関の信用回復。規制の枠組みを合理化

 そして、下院を通過した法案では、以下の改革案が入っています。

  • 連邦保険公社の「整然清算権限」を廃止。この権限は、破綻したら金融システムの安定を脅かすような機関が潰れた時、株主や債権者の負担での破綻処理と経営者の退陣を求める仕組みのことです。破綻した金融機関への公的資金注入を防ぎ、モラルハザードを避けることを目指しています。
  • 「ボルカー・ルール」を廃止。銀行や銀行持ち株会社がリスク性のある金融商品を購入・売却したり、取得・処分したりできるようになります。
  • ダービン修正条項(デビットカード処理のために小売業者に請求される手数料の規制)を廃止。
  • 一定の要件を満たした金融機関に対して、自己資本比率規制などの適用免除を認めるようにもします。
  • 金融機関の監査体制を緩和するために規制当局の機構を変革する

 ただ、この法案はかなり強硬な内容なので、財務省が6月12日に公表した報告書では、もう一段、緩和した改革構想が描かれています。ムニューチン財務長官はインタビューで100以上の項目のうち、8割は大統領令と規制当局で実現可能であり、残りの2割を議会の法制定で実施したいとも述べていました。

 各紙報道では以下のような改革項目が挙げられています。

  • 消費者金融保護局(CFPB)の権限縮小(要法案制定)
  • 資産が100億ドル未満の小規模銀行はボルカー・ルールから適用除外(要法案制定)
  • ストレステスト(健全性審査)の負担軽減
  • 金融安定監督評議会(FSOC :議長はムニューシン氏)の権限拡大
  • 銀行の国際資本基準の見直し

    それでも主要項目に関しては議会を通す必要性が残るようです。

    この報告書は4回ほど出されるものの第一分冊なので、今後も改革案の提出は続きます。

ドッドフランク法改正のための大統領令 

 概略を踏まえた上で大統領令と法案を見てみます。

 2月3日に署名された大統領令「米国の金融制度を規制する中心原理に関する大統領令」(Presidential Executive Order on Core Principles for Regulating the United States Financial System)の主な内容は以下の通りです。

ーーーー

(略)

1節:政策
Section 1. Policy.

私の政権において、アメリカの金融制度への規制は、以下の中核原理に従うべきだ。

It shall be the policy of my Administration to regulate the United States financial system in a manner consistent with the following principles of regulation, which shall be known as the Core Principles:

アメリカ人の金融における意思決定の独立を助ける。各人が退職後に資産を形成するために、市場における選択に必要な情報が知らされるべきだ。

(a) empower Americans to make independent financial decisions and informed choices in the marketplace, save for retirement, and build individual wealth;

納税者の資金での金融機関の救済を阻止する

(b) prevent taxpayer-funded bailouts;

システミックリスクと「市場の失敗」(モラルハザードと情報の非対称性等によってもたらされる)を分析する厳格な規制を通して活発な金融市場での経済成長を促す

(c) foster economic growth and vibrant financial markets through more rigorous regulatory impact analysis that addresses systemic risk and market failures, such as moral hazard and information asymmetry;

アメリカ企業が米国内と海外の市場で外国企業との競争を可能にする

(d) enable American companies to be competitive with foreign firms in domestic and foreign markets;

金融規制における国際的な交渉や国際的な会合でアメリカの国益を促進する

(e) advance American interests in international financial regulatory negotiations and meetings;

連邦の金融規制に関わる省庁の公的な説明責任を再確立する。連邦の金融規制の仕組みを理に適ったものにする。

(g) restore public accountability within Federal financial regulatory agencies and rationalize the Federal financial regulatory framework.

2節:財務長官からの指示

Sec. 2. Directive to the Secretary of the Treasury.

(以下略)⇒120日以内に規制緩和のための報告書提出を財務長官に命じる

3節:一般的な条文

Sec. 3. General Provisions.

(以下略)

(c) この条例は、潜在的にも、手続き的にも、法執行上の強制力においても、いかなる特権や便益を創造しない。アメリカ合衆国の省庁、機関、高官、公務員などに対して、どの党派も平等に扱われるべきだ。

(c) This order is not intended to, and does not, create any right or benefit, substantive or procedural, enforceable at law or in equity by any party against the United States, its departments, agencies, or entities, its officers, employees, or agents, or any other person.

ーーーーーーー 

  この大統領令は前掲の中核原理に合わない法令や規制を見直しを命じています。

ドッドフランク法の改革法案の内容とは

  下院を通過した2017年金融選択法案(Financial CHOICE Act of 2017)の要旨は以下の通り。

 とにかく専門用語が多くて難しいのですが、ボルカー規則の制限撤廃、金融機関の倒産処理のルール変更、金融安定監視評議会の権限廃止、金融機関の監視体制の改革などが主な内容になっています。

ーーーー

この法案はドッドフランク法(ウォールストリート改革と消費者保護のための法律)と他の法律を改正する。

This bill amends the Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act, among other Acts, to:

銀行による特定の投機的投資に関するボルカー規則の制限を撤廃する。

repeal Volcker Rule restrictions on certain speculative investments by banks;

倒産銀行に関しては、連邦預金保険公社の整然清算権限を廃止し、金融機関の破産に関する新規定を設ける。

with respect to winding down failing banks, eliminate the Federal Deposit Insurance Corporation's orderly liquidation authority and establish new provisions regarding financial institution bankruptcy;

そしてダービン修正条項を廃止(※ダービン修正条項はデビットカード処理のために小売業者に請求される手数料の規制のこと)

and repeal Durbin Amendment limitations on fees that may be charged to retailers for debit card processing.

特定の銀行は総資産に対する一定の資本比率を維持し、ある要件を満たす場合は銀行への特定基準を免除できる。

(※一定の要件を満たした場合は自己資本比率規制などの適用免除が認められるようにする)

Certain banks may exempt themselves from specified regulatory standards if they maintain a certain ratio of capital to total assets and meet other specified requirements.

この法案は、非銀行金融機関や公的な金融機関を「システム的に重要」(大きすぎてつぶせないケース)と指定する金融安定監視評議会の権限を廃止する。

The bill removes the Financial Stability Oversight Council's authority to designate non-bank financial institutions and financial market utilities as "systemically important" (also known as "too big to fail").

現行の法律では、そう指定された機関は追加の規制を適用される。

Under current law, entities so designated are subject to additional regulatory restrictions.

以前の指定は遡及して廃止される。

Designations made previously are retroactively repealed.

法案はまた、2010年の消費者金融保護法を以下のように改正する

The bill also amends the Consumer Financial Protection Act of 2010 to:

金融消費者保護局を消費者法執行庁に変更する。

(※これで長官の解任がしやすくなる)

convert the Consumer Financial Protection Bureau into a consumer law enforcement agency;

その機関に議会の歳出プロセス、拡大された司法監査、議会の追加監視を依頼する。

subject the agency to the congressional appropriations process, expanded judicial review, and additional congressional oversight;

金融機関に対する監督権限を廃止する。

eliminate supervisory authority over financial institutions;

そして、その機関が企業に対して乱用されて発動する監督権限を制限する。

and limit the agency's authority to take action against entities for abusive practices.
In addition, the bill:

さらに、証券取引委員会の管理構造と執行機関に関する規定を変更する。

modifies provisions related to the Securities and Exchange Commission's managerial structure and enforcement authority;

財務省の財務調査室を廃止する。

eliminates the Office of Financial Research within the Department of the Treasury;

そして、資本形成、保険規制、証券法違反への民事罰、地域金融機関への規定を改正する。

and revises provisions related to capital formation, insurance regulation, civil penalties for securities laws violations, and community financial institutions.