トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

プーチン大統領と国民との直接対話(2017)注目の主要発言

f:id:minamiblog:20170616060302j:plain(モスクワシティの風景:出所はWIKI画像)

 

 プーチン大統領が6月15日に、ロシア恒例の一大イベントである、「国民との直接対話」(プーチン・ホットライン)を行いました。

 これはプーチンが、直接、国民からの質問に答える恒例のテレビ生中継番組です。例年3時間以上の長時間出演ですが、17年では4時間の長時間出演をこなしました。

 昨年末にも長時間の記者会見(3時間47分)をこなし、直接に記者の質問に答えています。プーチンが当意即妙のやり取りを見せるので、非常に面白い企画ではあります。

 安倍首相、トランプ米大統領、メイ英首相、メルケル独首相などの指導者も、プーチンのように4時間にわたって国民の質問に答えたりはしていないので、国民や記者との直接対話は異例の試みです。これはKGB時代から鍛えられたプーチン氏の明敏な頭脳の賜物だとも言われています。

 プーチンは「独裁者」として批判されますが、一応、選挙で選ばれていますし、こうした機会を通して、国民や記者の質問に答えているのも事実です。その意味では、民主主義的な過程を経た指導者だとは言えます。

 このあたりが、金正恩や習近平との大きな違いになっているわけです。

 むろん、これは国内のガス抜きの一つではありますが、生中継の面白さがあるので、今回は、その質疑の見所を紹介してみます。

2017年のプーチン「国民との直接対話」の主要発言

 注目したポイントの違いを見ると、各紙の関心のありかが分かります。

 産経ニュース(2017.6.16)は北方領土をめぐる発言に注目しました(「プーチン氏露大統領が国民対話 北方領土「日米安保が障害」」)

 日露が合意した北方領土での共同経済活動については、領土問題解決への「環境づくり」に資すると指摘。その一方、同活動に向けては「地域の安全保障」や「日本の同盟国に対する責務」が問題になるとし、綿密な検討が必要だと述べた。

  毎日新聞(2017.6.15)は対露制裁への反応と経済成長に着目しています(「対露制裁「重大ではない」 国民との対話」)

  • 日米欧の対露制裁⇒「ロシア経済に影響はあったが、重大ではない」
  • 米上院が14日に可決した対露制裁強化法案⇒「根拠がない。米国内の政争が続いているということだ」
  • 今年1月~4月までの成長率が前年同期比0・7%増⇒「ロシアは経済停滞期を克服し、成長期に入った」

 日経電子版(2017.6.15)では米露改善に期待を寄せたのか、関係改善を望む発言を紹介しました(「プーチン氏、米国に協力呼び掛け 『建設的対話を』)

(プーチンは)米ロが協力できる分野としては大量破壊兵器の拡散防止、イランの核開発問題やウクライナ問題を列挙。トランプ米大統領が離脱を表明した地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」については「この分野で米国抜きで何かを合意するのは意味がない」と再交渉に応じる考えを示し、トランプ氏への配慮を見せた。

 米大統領選へのロシアの介入疑惑に関するコミー前米連邦捜査局(FBI)長官の証言には「コミー氏は全く証拠を示さなかった」と強調。米国こそ過去のロシアの選挙に介入しようとしてきた、と批判した。

 シリア内戦を巡ってアサド政権を支援することなどが語られています。

 ロシアメディアのスプートニク(2017.6.15)では、後継者についての質疑も取り上げられていました(「プーチン大統領、後継者に関する質問に答える」)

(後継者は誰かという質問に関して)「第一に、私はまだ働いている。二つ目に、私が言いたいのは、これは有権者、ロシア国民が決めるべきことであるいうことだ」と述べた。

「私はもちろん、いつかは(自分の考えを)はっきりさせ、私の考えはこうで、このように形作られていると述べるのを全く恥ずべきことだとは思っていないが、最終的に、我々は、有権者、ロシア国民、彼らのみが、地域、具体的な地区、都市、地方あるいは国を誰が率いるのかを決めることができることを忘れてはならない」

 他の記事では、二人の娘はモスクワで普通に暮らしていることなどが明かされていました。

 こうしてみると、プーチン氏は、けっこう、率直に政治の現状を国民に語っています。

 同氏には独裁的な傾向が根強いのですが、それでも、一応、国民への説明責任や「投票」という民主主義的な過程を無視しているわけではありません。プーチン大統領は、民主主義的な「独裁者」という、現代の世界では異例のリーダーだと言えます。

2016年の年末大記者会見の内容は?

  昨年末に、プーチンは記者向けに約4時間の質疑応答をこなしています。

 その要点はsputnik日本語版の記事(「プーチン大統領の年次記者会見【動画・写真】」/ Alexei Druzhinin、2016/12/23)に出ていました。

  • 「ロシアのGDPは昨年3.7%縮小した。今年も多少の縮小し、おそらく0.5%から0.6%落ちる」
  • 「農業支援には2160億ルーブルが拠出される」(※ロシア穀物は豊作。コメ自給国になり、1億2千万トンのうち4千万トンが輸出される)
  • 「昨年、我々はGDPの2.7%を国防に費やした。今年、この割合は4.7%となり、来年は3.3%、その先は2.7%になる」
  • 「米国共和党員がロシア大統領に親愛の情を示していることを私は、彼らの抱く世界構造や価値観のイメージが我々のそれと一致しているサインだと受け取っている」
  • ウクライナと欧州間のビザなし渡航体制について諸手を挙げて支持する!
  • スホイ24機がトルコ政権の命令もなく撃墜されたというデーターを懐疑的に受け止めていたが、今回の大使暗殺で見解を変えざるをえなくなった(※トルコ国境付近でロシアのSu24が墜落している)
  • プーチン大統領は原油価格は上がると予想している。 プーチン大統領は、ロシアは引き続きOPECと協力していくと強調。
  • (クルド人独立に関して)プーチン大統領はクルド人は国際法の枠内で行動すべきとの見解を示し、「我々はイラクの内政に干渉するつもりはない」と語った

  • プーチン大統領はロシアと中国の関係レベルを「極めて高い」と性格づけた(※これは日本は中国を参考にすべきだという趣旨)

  プーチンは「経済は厳しい」としながらも、平均値でGDPの3%を国防費に回すと述べています。いつのまにかロシアが農業輸出国になっていたのが、筆者には意外でした。

ロシアの強大な軍事力 日米同盟は手放せず

 日本のメディアでは、この中の核戦力強化の発言などが紹介されています(産経ニュース:プーチン露大統領、核戦力の近代化を強調 トランプ発言を牽制「米より効果的」12/24)

プーチン氏は、戦略爆撃機や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など陸海空の「核の3本柱」の近代化を進める考えを強調。「われわれのシステムは、(米国主導の)MDよりはるかに効果的だ」と強調した。

 アメリカとロシアは、核戦力に関して、長距離爆撃機(爆弾及び巡航ミサイル)、原子力潜水艦(長距離弾道ミサイル)、陸上発射型長距離弾道ミサイルの三種類で牽制し合う関係になっています。

 これは旧ソ連時代から変わりません。

 ソ連崩壊後、ロシア軍も一時期弱体化したのですが、プーチン氏は資源景気をてこにロシアを再建し、そのお金でロシア軍の近代化を進めました。近年では、陸海空の三種で新式の核戦力が整いつつあります。

 米露関係を規定する条約の中で「中距離核戦力全廃条約」はとりわけ重要ですが、ロシア軍はイスラム国攻撃でKh-101という巡航ミサイルを発射しました。これは射程3000~5000キロの高性能ミサイルなので、前掲の条約に抵触するとも言われましたが、プーチン氏は意に介していません。

 戦闘機並みの速度で飛べる高速爆撃機ブラックジャックからこれを撃てるため、ロシア空軍の核戦力は中国とは桁違いです。ロシア軍は原潜運用に関してもソ連時代の蓄積があるので、中国軍よりも進んだ技術を持っています。

 産経新聞は、プーチンが2017年の「国民との直接対話」で、北方領土交渉では「日米安保が障害」だと述べたことを報じましたが、ロシアの軍事力を見ると、日本が米国との同盟を捨てられないことがよくわかります。

 日本には通常兵器しかないので、自国を守る上では、日米同盟を維持しながら、中露双方を敵に回さないようにしなければいけないでしょう。