トランプ政権と日本・アジア 2017

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小池都知事 豊洲・築地併用で市場移転問題を解決?

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(東京都中央卸売市場 葛西市場:出所はWIKI画像

  都議選を前に都民ファーストの会代表に就任した小池都知事が延々と論争が続いた築地市場の移転問題に結論を出すことになりました。

 自民党からは「決められない知事」と批判され、共産党からは都民ファーストの会が市場移転問題についての結論がないことを「白紙委任を求めている」と批判されたせいか、小池都知事は、選挙告示日一週間前に、ようやく重い腰を上げたわけです。

 そして、その結論は「豊洲・築地併用」だとも言われています。

 しかし、そのプランは合理的な内容なのでしょうか。

※小池知事記者会見(6/20)の動画はこちら(毎日新聞社)

「豊洲・築地併用」プランが出てきた経緯

 まず13日に流れた報道を見てみます。

 ZAKZAKニュース(6/13)にやや詳しめに書かれていました(小池知事、豊洲・築地併用か 都議選にらみ6・16にも判断、まだ続く「劇場型政治」)

 この記事では、まず、都の「専門家会議」の提言の内容を紹介しています。

  • (環境基準超の地下水に関して)「地下空間の床を特殊シートやコンクリートで補強し、換気も実施する案を審議し「妥当」と結論付けた。
  • 契約から工事完了まで8カ月~1年10カ月
  • 将来の維持管理費を含めた総費用は40億~95億円
  • 地下水管理システムを強化し、汚染水の浄化を図る案(工費20億~25億円)も有効とした。
  • 約6000億円もの総事業費をかけた豊洲を活用する

 これに対して都の「市場問題プロジェクトチーム」(PT)は6月5日に「築地市場の再整備案と、豊洲移転の両案に加え、両市場をどちらも活用する案」を提言しています。こちらでは、築地は「食のテーマパーク」に、豊洲は「物流センター」(ITで商品管理)にするとされています。

 従来は築地再整備に肯定的なPTは、都議選前になって、「豊洲も築地も使います」といういいとこ取りのような「第三の案」を出してきたわけです。

「第三の案」って何?

 PTの報告書は、卸売市場を斜陽産業とみなし、豊洲市場をオープンした場合には「100億~150億円の赤字」になるから「税金に依存しない自立した産業への改革が必要だ」と述べています。 

 その概要は産経ニュース(6/5)でも報じられていました(東京都の市場問題PT、「築地活用」色濃い報告書)

  • 豊洲は高速かつ衛生的な取引を行う「物流センター」として商品をIT管理
  • 移転後の築地跡地に、民間協力で魚市場を新設する
  • ブランド力を生かして観光地化することで収益確保を狙う「食のテーマパーク」化を提案。
  • 改修案では新たに民間企業主導案を盛り込み、工期は3年半~15年、工費は約800億~1388億円の4案をまとめた。

 従来、移転後の築地市場跡地は売り払い、豊洲市場整備の財源を確保する方針でした。しかし、このPTの報告を受け、小池知事は築地市場も一定の機能を残しつつも、移転部分の跡地を民間に貸出し、お金を稼ぐ方針に転換しています。「築地ブランド」を維持し、観光やショッピング等のにぎわいの場として活用する意向なのです。

豊洲はコスト高、築地はコスト安というのは本当か

 しかし、もともと市場の収入と費用がどう見積もられているのでしょうか。

 これが分からないと、結局、結論は出せません。そこで、各種報道等で、その数字を押さえてみます。

 まず、日経電子版(2017/1/26)から(「豊洲、年98億円の赤字 都が試算公表 経費は築地の4倍 」※都の発表は1/25)。

  • 豊洲市場開場(2018年想定)は年間98億円の赤字になる
  • 使用料などの収入が68億円。経費は166億円。減価償却を除くと経費95億円
  • 都は築地市場跡地が約4300億円で売却できるため、中央卸売市場会計は「10年以上持続できる」との見方を示した。
  • 豊洲市場は低温管理施設や空調設備を備えるため、吹きさらしの築地市場の経費(44億円)の約4倍になる
  • (※前掲記事には記述がないが、築地の収入は50億円程度といわれている)

  これだけを見ると、豊洲市場だけが異様にコスト高に見えますが、豊洲は築地よりも整備を充実させ、品質管理に力を入れています。

 21世紀の市場競争を考えると、食品規格HACCP(ハサップ)やISO22000(品質管理システム)等は不可避なので、これにはいたしかたない面もあります(HACCP非対応だとEU圏への輸出ができない等のデメリットがある)。

 筆者は20代前半の頃に、神奈川県の中小企業の工場でアルバイトをしていたのですが、そこでもHACCPに入っていましたし、自動車工場等でもISO22000には入っていたので、築地が未だにHACCPにもISO22000にも入っていないと知って驚きました。

 そのため、築地を豊洲並みに整備したら、前掲の豊洲はコスト高、築地はコスト安という話は成り立たなくなります。

 豊洲市場移転を薦める『WEDGE 2017年5月号』(P22~23)では、採算について、以下のように書かれていました。

  • 豊洲整備の費用は「保有資金等(1628億)」+国庫交付金(208億)+「都債(築地市場跡地売却と保有資金等で返却:4048億円)で累計が5684億円
  • 1年のランニングコストは豊洲が75億円、築地が15億円だが、築地市場に豊洲と同じ機能を整備すると1460億~1780億円かかる(工事は11~17年ほど)。
  • 築地に必要な整備内容は食品鮮度保持のためのコールドチェーン、ISO22000、HACCP等。築地は吹きさらしなので、小動物が中に入るなどの問題もあり。

 築地活用は結局、再整備が必要になるので、結局、追加費用がかかります。

 都PTは過剰なコールドチェーンは要らないとして、その費用を抑える予定でいますが、再整備費用の負担は無視できないのです。

 そのため、筆者は、都PTが出した「豊洲はコスト高、築地はコスト安」という見立てが信じられないでします。さらに、築地再整備費用がかかるので、追加費用が上乗せされます。その上、二つの市場を維持したら、人件費や維持費も二倍になります。

 「豊洲・築地併用」プランというのは、かなり無理があるように思えてなりません。

 なお、都PTは報告書で「営業収入147億円、使用料収入110億円の卸売市場が、5884億円の新規投資をして、ペイするのか?」と述べていますが、ここでいう5884億円はすでに使われてしまったお金(サンクコスト)なので、新規投資というのは妥当ではありません。むしろ新規投資が発生するのは、築地を再整備をした場合にかかる費用のほうだと言えます。

現場からは「併用は無理」との声も

 昨年の日刊ゲンダイ記事(2016/10/13)では、現場の声が取りあげられていました(「解除できるのか 豊洲“時限爆弾”豊洲開場&築地存続…急浮上「W市場」体制の仰天プラン」)「東京中央市場労組」の中澤誠執行委員長が併用は無理と断じたことを報じています。

「事業者がバラバラになると、荷物のやりとりができなくなってしまいますし、買い付けにくるお客さんも、効率よく買い物をすることができなくなってしまう。それに、築地に残れるのなら、多くの事業者が『残留』を選択すると思います。長年、慣れ親しんでいる上、都心からも近いので、配送するのにも効率がいい。豊洲への移転を希望する事業者はほとんどいないのではないか。いたとしても数えるほど。少数の事業者の施設使用料では、豊洲の維持費すら賄えません。費用の面からいっても、不可能でしょう」

 果たして、小池知事と都PTは、こうした現場の声に、どう答えるのでしょうか。