トランプ政権と日本・アジア 2017

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エネルギー基本計画に原発新増設を明記? 選挙対策で世耕経産相は否定するが・・・

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(出所はWIKI画像)

 経済産業省が「エネルギー基本計画」に原発新増設を明記すると日経朝刊(6/9:1面)が報じ、世耕経産相は9日に「事実無根だ」と慌てて火消しに入りました。

「現時点では、新増設、リプレイスということは全く考えていない」(世耕氏)

 筆者は日本のエネルギー自給率の低さと火力依存度の高さを考えれば、それは悪い話ではないのではないかと思ったのですが、衆院選を控えた自民党にとって、それは表に出したくない話だったのでしょう。 

 安倍首相訪米時と同じく、経済産業省の「情報」(真偽不明)を日経が流すことが繰り返され、世耕氏による経産省内の情報管制はさらに厳しくなりそうです。

 今回は、この原発新設の話題を取り上げてみます。

エネルギー基本計画と日印原子力協定承認

 日経電子版に出ている該当記事(「エネ基本計画、経産省が提案 30年度電源構成は維持」2017/6/9付)を見てみます(無料ですが、登録しないと読めない記事でした)。 

  • 原子力は、運転コストが安く、昼夜を問わず安定的に発電できる「重要なベースロード電源」との位置づけを維持する
  • 有識者会議を立ち上げ、長期的な観点から原発の新増設や建て替えについて議論
  • 具体的な課題は、原発の運転期間40年規制
  • 原発依存度を低減させる方針は堅持
  • しかし、パリ協定でのCO2削減目標達成のために原発新増設が必要になる
  • 長期的な電力の安定供給や技術や人材確保のために最低限の原発は不可欠

 だいたい、こんな内容です。

 そして、経産省が2015年につくった2030年度の電源構成は、原子力20~22%、再エネ22~24%、火力56%となっており、これは現状維持とするようです。

 原発40年規制に関しては、筆者は無意味なルールだと考えています。

 なぜかというと、原発では大部分の設備が年々、新品に置き換えられるため、全体としての経年劣化が起きるわけではないからです(家に譬えれば、個々の部屋や設備が次々と新しい資材や品物に置き換えられ、改修がどんどん進められていくのと同じだとも言えます)。

 そのため、一律に40年規制の枠をはめることに大した意味はないわけです。

 これが今週のトピックの一つですが、原子力にまつわるニュースはもう一個あり、インドに原子力技術の輸出を可能にする「日印原子力協定」が6月7日に参院本会議で承認されました。

 核拡散防止条約(NPT)の非加盟国であるインドに核物質や技術移転ができるようになります。しかし、東芝がウェスティングハウスの原発事業から撤退するのに、これえをどう実現するのでしょうか。

 経済成長中のインドは電力不足が深刻で、2016年6月に米印両政府がウエスチングハウスがインドで原子炉6基を建設するプランに合意したのですが、東芝危機に伴い、こちらも前途が危ぶまれているわけです。 

原発ゼロにしたら火力発電依存が常態化する

 民進党の蓮舫代表は衆院選の目玉政策として「2030年代に原発ゼロ」を根回しなしに掲げようと試み、最大の支持団体である「連合」(日本労働組合総連合会)とぶつかったので、原発は政治問題の一つになっています。、

 そして「連合」の神津里季生(こうず・りきお)会長は2月16日に原発ゼロには「2030“年代”でも相当に高いハードルだ」と答えました。

 日本は原発ゼロになったら、あとはひたすら火力に依存することになりますので、結局、あれこれ言っても原発維持が必要になります。

 原発ゼロ論は東日本大震災以来、日本では根強いわけですが、原発問題を考える上では、まず、日本の発電量を占める電源の比率を見なければいけません。

 電気事業連合会によれば、2015年度の発電電力量の割合は、LNG(液化天然ガス)が44%、石炭が31.6%、石油等が9%、水力が9.6%、地熱・新エネルギーが4.7%、原子力が1.1%になっています(16年5月20日発表)。 

 このデータで見る限り、原発をゼロにしなくとも、火力依存度は84.6%に達しているわけです。

 原発には、オイルショック以降「火力依存では資源が途絶えたらこの国は終わりだ」という危機意識から開発が進められてきた経緯があるので、原発をゼロにした場合、この問題ともう一度直面しなければいけなくなります。

 蓮舫氏は、こうしたエネルギー政策の基本を無視して、数字的な裏付け抜きに「原発ゼロ」を掲げたので、連合の会長から手痛い反撃をくらいました。

日本のエネルギー事情は複雑

▼火力発電の資源は外国からの輸入に依存

 問題なのは、84.6%を占める火力発電に使う資源のほとんどが輸入に依存しているところです。2016年度のエネルギー白書には、その数字が生々しく書かれています。

 輸入の割合は、原油が99.7%、LNGが97.8%、石炭が99.3%。日本の発電の8割以上を担う火力発電は外国の資源に依存しているわけです。

※なお、日本のエネルギー消費(18兆円)の構成は以下の通り(出所:資源エネルギー庁

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 次節では原油・LNG・石炭の輸入元の比率を見ていきますが、そのデータの出所はいずれも2016年度のエネルギー白書です。

▼原油の輸入元

 原油の82.7%は中東から輸入しており、他に目につく国は8.4%のロシアぐらいです。輸入元ベスト5を上げると、中東の国ばかりです。

  1. サウジアラビア:32.5%
  2. アラブ首長国連邦:24.9%
  3. カタール:9.6%
  4. クウェート:6.9%
  5. イラン:5.2%

 ▼LNG(液化天然ガス)の輸入元

 こちらは中東からの輸入比率は29.4%です。ベスト8の輸入元を見ると、かなり地域が分かれているので、リスク分散がなされています。

  1. オーストラリア:20.6%
  2. カタール:18.5%
  3. マレーシア:17.2%
  4. ロシア:9.6% 
  5. アラブ首長国連邦:6.4%
  6. インドネシア:5.8%
  7. ナイジェリア:5.7%
  8. ブルネイ:5.0%

 ▼石炭の輸入元

 石炭には製鉄用の原料炭と火力発電用の一般炭がありますが、一般炭の輸入は、オーストラリア(74.3%)、インドネシア(12.9%)、ロシア(8.7%)で大部分が占められています。豪州依存ですが、石油ほどの高水準ではなく、政情が安定しているので、石油に比べると供給不安は心配されていないようです。 

火力依存は、外国から資源が来なくなったらヤバい

 こうして見ると、火力発電に依存するのは、日本の発電を外国資源に依存するのと同じです。火力発電には、資源を運ぶ航海路が地域紛争などで閉ざされた場合、エネルギー危機になる、という怖さもあるのです。

  JOGMECによれば、日本に原油の備蓄は、政府と民間を足した総量で197日分です(2015年3月時点)。半年の間に同盟国のアメリカ等が助けてくれるかもしれませんが、その間は、みんなでケチケチ生活をしなければいけません。やはり、火力発電依存のリスクというものは、無視しがたいものがあります。 

火力発電所の負担は重くなっている

 火力依存度が高まると、発電所の負荷の限界という問題も出てきます。例えば、『VOICE』の平成24年度12月号では、夏目幸明氏(ジャーナリスト)が火力発電所の状況を以下のようにレポートしていました。

  • 原発停止で火力発電所の稼働率が上がり、老朽化が進んだ火力発電所での災害発生のリスクも上がった。
  • 例えば、関西電力海南火力発電所の施設は全て昭和40年代(65~74)に操業開始。愛知県田原市にある渥美火力発電所の施設は、71年(1基)と81年(2基)に操業開始。
  • 脱原発によりこうした古い機械までもフル稼働させるようになった。その結果、海南発電所では9月5日に電流検出器の不調により、一時、発電が緊急停止されている。また、渥美発電所では9月18日に熱水管に10数ミリの亀裂が生じた。
  • これらは現場作業員の努力により、課題の即時解決・発電復旧がなされたが、原発停止でこれ以上火力発電所の負担を上げれば、大規模災害が起きかねない

  こうした現場を支える発電所スタッフの頑張りによって、日本の電力は途絶えずに回っています。

 安全性は最大限に高めなければいけませんが、電気料金の上昇は中小企業にとっては大きな痛手になりますし、今の資源価格の低下がいつまで続くかもよく分かりません。

 そのため、筆者は、安全性が確認された原発は再稼働する、という路線は不可避であり、結局、老朽原発を廃炉するなら、新増設は不可避だと考えています。