トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

ヨーロッパの政治日程 最大の争点はEU離脱 英総選挙以降はどうなるのか?  

f:id:minamiblog:20170609073246p:plain(出所はWIKI画像)

  EU離脱を推し進めるべく、イギリスのメイ首相が決断した下院選の投票が6月8日の午前7時(日本時間8日午後3時)に始まり、8日の午後10時(日本時間の9日午前6時)に終了しました。

 与党の保守党はEU離脱交渉を有利に進めるために政権基盤の安定の必要性を訴え、当初は大勝が予想されていましたが、高齢者の在宅介護の自己負担額に上限を設ける等の政策が国民の不興を買い、思ったほど支持が伸びませんでした。そのほか、テロが相次ぎ、保守党政権が警察官を減らしていたこともやり玉にあがってもいます。

 野党の労働党は、保守党が訴えるEU単一市場からの撤退がもたらす経済への打撃の大きさを指摘し、支持を広げました。

 以下、選挙前⇒選挙後の議席数変動(定数650)。

  • 保守党:330⇒318
  • 労働党:229⇒262
  • 自由民主党:54⇒35
  • スコットランド民族党:9⇒12
  • その他:28⇒23

 326議席で過半数となるが、英議会では正副議長4名(与野党各2名)は投票権を持ちません。さらに、北アイルランドのシンフェイン党(7議席)は登院を拒む戦術をとっているので、 議決に参加しません。この分を計算に入れると、実質的な過半数は322議席。保守党はやはり、過半数には届かないわけです。

 今日はイギリスの総選挙とフランス大統領選等を踏まえ、今後のヨーロッパの政治日程について考えてみます。

イギリスの政治日程の中心軸はEU離脱

メイ首相は下院解散でEU離脱の交渉力強化を図ったが・・・

 メイ首相はEU離脱投票後、辞任したキャメロン首相の後任なので、「選挙の洗礼を受けていない者がEU離脱を進めている」という批判の余地を残したまま、政治を司っていました。

 そこで、今回、総選挙に勝ち、国民の信任を背景にEU離脱のために交渉力強化を計りました。議会での基盤を強化し、離脱交渉を進めやすくすることを狙ったとも言えます。

 この時期に解散・総選挙を行ったのは、景気が堅調なうちに国民の信を問うことや、EU離脱交渉の期限と総選挙の時期をずらすためです。メイ首相は勝てると見たのですが、残念ながら、結果は与党側の議席減で終わりました。

 EU離脱を巡っては、人、モノ、資本、サービスが自由に移動でき、加盟国間の貿易に関税がかからないEU(ヨーロッパ連合)への単一市場に対してのスタンスが争点になっています。

 単一市場へのアクセスを断念してでも、移民の規制を優先させる「ハード・ブレグジット」なのか。

 欧州の単一市場へのアクセスを確保しながら移民の受け入れを制限する「ソフトブレグジット」なのか。

 保守党はハード路線。労働党はソフト路線ですが、EUの側は「人」の移動を制限しながら、市場にアクセスする「いいとこ取りは許さない」というスタンスなので、現実には、労働党の路線で交渉するのはかなりの困難を伴うはずです。

メイ氏は議会の信任を得てEU離脱の交渉力強化を狙った

 総選挙が行われた経緯を振り返ると、EU離脱に関して、議会政治発祥の地・イギリスで国民投票が行われたことの異例性が気になります。

 歴史的には、イギリスは「議会主権」と言われるほど、重大な政治判断が議会を通して決められる国でした。

 代議士を通じて政治の意思決定を行う仕組みを「間接民主制」と言いますが、EU離脱に関しては、国民が自ら投票するという、「直接民主制」に似た手法で意思決定がなされたのです。

 現代では国の人口が巨大化しているため、憲法改正や重大な政治決断を除いては、各国で国民投票を行う事例は珍しくなってきています。国民が直々に決めるというのは、古代アテネの民会(※当時、成人男子は3万人ほど)のように、人口が小さいからこそ成り立つ仕組みだからです。

 今回、議会でEU離脱が問われた背景には、やはり、イギリスは議会政治の国なので、ここを飛ばして国民投票だけで離脱を巡る案件を決めるわけにはいかない、という事情もあったのでしょう。

EU離脱に向けたメイ首相の歩み

 当ブログ読者は9割以上が日本人なのですが、一応、思考実験のために、メイ首相のスタンスなどを振り返ってみます。過去の動向を見ると、メイ首相が就任したことは、市場にとって安定材料と評価されていたようです。

 時系列でイギリスの動きと為替の推移を整理してみます。()内は1ユーロ=円

  • 16年6月23日:英国でEU離脱の国民投票(117.96円)
  • 16年7月8日:ユーロ円が谷底(111.11円)
  • 16年7月13日:テリーザ・メイ氏が首相就任(115.87円)
  • 16年11月3日:高等法院がEU離脱通告には議会採決が必要だと判断(114.37円)
  • 17年1月15日:メイ首相がEU単一市場離脱を宣言(1/17:120.65円)
  • 17年1月24日:最高裁がEU離脱には議会承認が必要と判断(122.11円)
  • 17年1月27日:メイ首相が訪米。トランプ大統領と会談(123.13円)
  • 17年3月29日:イギリス政府がEUに離脱通知(119.54円)
  • 17年6月8日:総選挙で保守党が議席減(123.39円)

 就任当初のメイ首相は「EU離脱の堅持」(国民投票の結果を尊重)、「英国の分裂阻止」(スコットランド独立を牽制)、「国民みんなのための政治」(脱エリート路線)という三つの決意を明らかにしました。

 そして、1月17日のメイ首相の演説では以下の論点が訴えられていました。

  • EU単一市場から離脱。EUへの部分的な残留はしない。EUへの拠出金も廃止。
  • 2年間の離脱交渉期限後に段階的な移行措置を設ける
  • EUとは野心的な新しい自由貿易協定(FTA)を締結
  • 欧州からの移動の自由が出入国管理を妨げているので、移民規制が必要
  • EUとの最終合意には上下両院の投票による承認が必要。

 メイ首相は結局、「ハードブレグジット」を選びました。ノルウェーやスイスはEU非加盟のまま単一市場へのアクセスを確保していますが、この路線は拒否されたわけです。

 15年にはEUからイギリスへの移民が18万人に達したのを重く見たのか、メイ首相は「移民の数は、記録的な水準に達し教育や住宅、インフラなど公的サービスに負担となり、労働者の賃金を押し下げてきた。ヨーロッパからの移動の自由があるかぎり、出入国管理はできない」(NHKニュースWEB「メイ首相演説 6つの主なポイント」1月18日)と述べています。移民に関して厳格な路線が取られそうですが、一応、「イギリスは寛容で開かれた国で、特に有能な移民は常に受け入れる」という留保はつけています。

※英EU離脱の優先事項(日経電子版「英メイ首相の演説要旨 EU単一市場から離脱表明」1/18)

 (1)交渉の確実性確保→EU法を英国法に置換え、離脱前と同じ法を適用
 (2)英国法の独立→法の支配を回復。EU司法裁判所の英国での裁判権を終わらせる。
 (3)地域連携の強化→連合王国の維持
 (4)往来自由の維持→EU加盟国のアイルランドとの往来の自由を維持
 (5)移民流入の管理→就業や勉学の地としての英国を維持しつつEUからの移民数を制限。
 (6)市民の権利保障→英国在住のEU市民とEU在住の英国人の権利を保障
 (7)労働者の権利の保護→EU法を国内法に置き換え、労働者の権利を守る
 (8)欧州市場との自由貿易→可能な限りEU市場へのアクセスを維持
 (9)EU域外国との新たな貿易→米国、豪州、インド、中国、湾岸諸国などと協議
 (10)科学や技術革新にとっての最適地を目指す
 (12)円滑で秩序だったEU離脱

英EU離脱に直結する欧州の政治主要行事

 そして、今後の展開を見ると、EUの主要会議の中で、欧州理事会やEU外相理事会等でもこのEU離脱が取りあげられることになりそうです。

  • ブリュッセルで行われる欧州理事会は、3/9~10、6/22~23、10/19~20、12/14~15。
  • EU外相理事会はブリュッセル開催が5/11、5/15、5/18~19。ルクセンブルク開催が4/3と6/19。

 今のままだと、イギリスのEU離脱は2019年になる見込みですが、その交渉中の2018年秋から2019年春にスコットランド独立の是非を問う住民投票が行われる可能性があるとも言われています。

 これがいつ起きるかは、まだ予断を許さない状況が続いています。

 スコットランド議会は住民投票の開催の是非をスタージョン氏に交渉する権限を与え、メイ氏の側は、住民投票を認めない方針なので、EU離脱交渉を巡っては、イギリス内部でも分裂の危機が生じているとも言えます。

※3月27日にはメイ首相が北部スコットランドにてスタージョン行政府首相と会談。英連合王国の維持を訴えたことが昨日に報じられました。前掲の18年秋~19年春という住民投票の可能性は、スタージョン氏の意向とも関わるので、このたびのメイ氏のスコットランド訪問は、それを抑止するための試みだったわけです。

フランスの政治日程

 まず、そのスケジュールを見てみます(欧州時間なので日本では1日ずれでカウントが必要)。

フランスの選挙スケジュール(大統領+議会)

  • 4月23日(日):仏大統領選・第一回投票
  • 5月7日(日):仏大統領選・第二回投票(マクロン氏が勝利)
  • 5月11日(木):第二回投票後の当選者発表
  • 6月11日(日):仏国民議会(下院)選挙(第一回投票)
  • 6月18日(日):仏国民議会(下院)選挙(第二回投票)
  • 9月24日(日):仏元老院(上院)議会選挙

 大統領選の投票時間は8時から18時まで(大都市では20時まで)。仏領諸島などでは4月22日(土)と5月6日(土)に実施。第2回投票の4日後(5/11)、憲法院は最終結果を公表し、新大統領の選出を宣言します。

仏大統領選の仕組みとは

 大統領選の仕組みは以下の通りです。

立候補と投票の資格

  • 18歳以上のフランス国民は立候補でき、投票できる。
  • 投票には外国居住者も、拘留者も参加可能(ただし前年12月31日までに市町村選挙人名簿に要登録)
  • 民事・刑事上の権利喪失者は投票不能

ややこしい「二回投票制」

  • 大統領選では有効投票総数の過半数(50%+1票)を得る候補者が出れば第一回投票で終了。
  • 出ない場合は、上位2人の候補者で第二回投票を行う。第二回投票の票数で勝った者が大統領になる。

候補者の義務(候補者過多を避けるための措置)

  • 30県以上で有力者500人の推薦人を確保(欧州議会議員、国会議員、地方議員、市町村長等)
  • 資産状況申告書を憲法院に提出。
  • 選挙運動費用収支報告書の提出を確約(投票後2カ月以内)

実際の選挙の流れ

  • マスコミを通じて立候補の意志は前年からでも表明可能
  • しかし、実際の選挙運動期間は30日程度。
  • 推薦人500人の名簿が第1回投票の3週間前の金曜日までに官報で公表される。
  • 第1回投票の選挙活動期間(4/10~21)2週前の月曜日~投票日前日午前0時。
  • 第2回投票は1回目の上位2候補の発表日からに再開⇒5/6に終了。
  • 全候補者は平等な扱いを受ける(国が公約の送付、最小限のポスター掲示とメディア放送の機会確保を保障。
  • 選挙期間中は、ラジオ・テレビでの発言・放送時間も候補者にとって平等かつ公平かどうかが視聴覚高等評議会(CSA)で監視されている。
  • ただ、テレビ討論会は主要候補のみ出演している。
  • ネットでの発言は自由。
  • 選挙資金の個人献金には上限がある(4600ユーロまで)

仏上下院選挙の規定

 フランスは下院(国民議員)と上院(元老院)の二院制を取っている。

【下院選のルール】

 小選挙区制を用いた二回投票制。第一回投票では有権者は多様な候補者の中から自分の意に沿った候補者に投票。二回目に上位名のいずれかに投票する。任期は5年で定数577。18歳以上で立候補と投票が可能。

【上院選のルール】

 各県を選挙区として「投票人」を選ぶ間接投票制。投票人は各県市町村の現職議員なので、人口比で見た投票人の数の差が選挙の動向に大きな影響を与える。任期6年、定数は348で3年ごとに半数改選。立候補できるのは30歳以上の国民のみ。

 こうした予備知識を踏まえて、ヨーロッパの政治日程を最後に見てみましょう。

2017年:ヨーロッパの政治日程(経済行事含む)

  • 1月24日:英国最高裁がEU離脱の議会承認が必要と判断(地方議会承認は不要)
  • 1月27日:イギリスのメイ首相が訪米
  • 2月12日:ドイツ大統領選(※ドイツの実権は首相にあるので象徴的行事)
  • 3月15日:オランダ下院選 
  • 3月17日:G20財相・中央銀行総裁会議でムニューチン米財務相が外交デビュー
  • 3月17日:メルケル独首相とトランプ米大統領が首脳会談
  • 3月19~21日:安倍首相、仏独訪問(その後、伊も訪問)
  • 3月29日:イギリス政府が欧州連合(EU)に離脱を通知
  • 4月20-21日:G20財務大臣・中央銀行総裁会議(ワシントン開催)
  • 4月22日:国際通貨金融委員会(IMFC)/世銀・IMF合同開発委員会(ワシントン開催)
  • 4月23日:フランス大統領選・第一回投票
  • 5月7日:フランス大統領選・第二回投票(マクロン大統領誕生)
  • 5月10~11日:第26回EBRD(欧州復興開発銀行)年次総会 ニコシア(キプロス)
  • 5月11~13日:G7財務大臣・中央銀行総裁会議バーリ(イタリア)
  • 5月20~27日:トランプ氏が中東と欧州を歴訪
  • 5月24日:バチカン市国を訪問。ローマ教皇と会談。
  • 5月26~27日:G7首脳会議(シチリア・サミット)トランプ氏が参加。
  • 6月1日:メルケル独首相と中国の李克強首相がベルリンで会談。
  • 6月2日:ブリュッセルで李克強首相が中国・欧州連合(EU)首脳会談に出席。
  • 6月6~7日:OECDフォーラム(パリ)
  • 6月8日:イギリス総選挙(保守党過半数ならず)
  • 6月11日:フランス下院選第1回投票(「共和国前進」優勢)
  • 6月18日:フランス下院選第2回投票(「共和国前進」勝利)
  • 6月18日:アルバニア議会選挙
  • 6月19日:イギリスのEU離脱交渉が正式開始
  • 7月1日:エストニアがEU議長国に就任
  • 7月6日:日本とEUがEPA協定で大枠合意
  • 7月7~8日:G20首脳会議(ハンブルグサミット。米露首脳会談/米中首脳会談ほか)
  • 7月14日:トランプ大統領がフランス革命記念日祝賀式典に出席
  • 8月14日以降:英国が離脱方針(国境管理等)の詳述文書を提出
  • 8月15日:ドイツが第2四半期の実質GDP成長率を発表
  • 8月28日頃?:英国とEUの第3回離脱交渉
  • 8月30日~9月1日:メイ英首相が訪日
  • 9月11日:ノルウェー総選挙
  • 9月13~17日:国際オリンピック委員会総会(20年以降の2開催地を決定)
  • 9月18日頃?:英国とEUの第4回離脱交渉
  • 9月12~25日:国連総会(開催地:ニューヨーク)
  • 9月24日:フランス上院議会選挙
  • 9月24日?:ドイツ連邦議会選挙
  • 9月24~27日:イギリス労働党大会
  • 9月26~28日:WTOパブリックフォーラム(ジュネーブ開催)
  • 10月1~4日:イギリス保守党大会
  • 10月9日頃?:英国とEUの第5回離脱交渉
  • 10月12~13日 G20財務相・中央銀行総裁会合
  • 10月13~15日:世銀・IMF年次総会(ワシントン開催)
  • 10月15日:オーストリア下院議会選挙
  • 10月20~21日:チェコ下院選
  • 10月25日:イギリス第3四半期実質GDP成長率発表(速報値)
  • 10月31日:フランス第3四半期実質GDP成長率発表(速報値)
  • 11月:スロベニア大統領選
  • 11月:COP23(国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議)
  • 12月6日:スイス大統領選
  • 12月10日:ノーベル賞授賞式
  • 12月?:トランプ大統領が英国訪問

 こうしてみると、重大行事が目白押しです。

 そして、金融政策に関わるECB理事会は1月19日、3月9日、4月27日、7月20日、9月7日、10月26日、12月14日に予定されています。

 今後のヨーロッパの行方はまだまだ予断を許さない状況が続きそうです。