トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米国のパリ協定離脱 トランプ声名で露わになったCO2削減目標の問題点

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(出所はWIKI画像)

  トランプ大統領が地球温暖化対策のための「パリ協定」から離脱することを決め、また、世界に一騒動が起きています。
 マクロン仏大統領をはじめとした、世界主要国の指導者がトランプ氏を批判。
 日本では麻生副総理が、アメリカが国際連盟を訴えながらも、結局、加盟しなかった歴史に今回の判断をなぞらえ、「その程度の国だと思っています」と酷評しました。
 要するに、シェールガスで儲けたいだけではないか、という見方もありますが、そもそも、各国のCO2排出の現状は、どうなっているのでしょうか。
 今回は、世界に吹き荒れた「パリ協定」離脱騒動の背景について考えてみます。

トランプ大統領のパリ協定離脱声名

 日経電子版(2017/6/2)を見ると、トランプ大統領の声名の要旨が以下のように報じられています(「トランプ大統領の声明要旨 パリ協定離脱」)。

  • 米国と米国民を守る任務を果たすため、パリ協定から離れる
  • 米国にとってより公正な協定に変えたうえで、再加入するか、全く新しい枠組みをつくる交渉を始める
  • (米国に不利なのに)他の国々が利益を得て、私の愛する労働者がコストを負担させられている。そして職を失い、賃金が下がり、工場が閉鎖させられている。
  • 大きな負担だった緑の気候基金への拠出もやめる(※30億ドル=3300億円相当)
  • (パリ協定は)環境保護という当初の目的も果たしていない。
  • 汚染に加担する国々を規制せず、保護が進んでいる米国を罰するような枠組みを支持できない。
  • 中国は温暖化ガスの排出を増やし続けることができる。インドは石炭生産を倍増できる。
  • 米国が環境問題のリーダーの立場を維持するよう努める。それはあくまで公正で、負担や責任が世界のどの国も同じになるような条件でのみだ。

 翻訳はあくまでも「要旨」なので、何となくトランプ氏の言いたいことが分かるものの、その政策判断の背景までは教えてくれません。

 そこで、ホワイトハウスHPに掲載された原文の一部を見てみます。

ホワイトハウスの声名を英和対訳(抜粋)

 この政策判断を行うにあたり、トランプ氏はどんなデータをみていたのでしょうか。

 (出所:Statement by President Trump on the Paris Climate Accord | whitehouse.gov

ーーー
パリ協定とそれがもたらす厄介なエネルギー規制を守れば、全米経済研究アソシエイツによると2025年までに270万人の失業が発生する可能性がある。

Compliance with the terms of the Paris Accord and the onerous energy restrictions it has placed on the United States could cost America as much as 2.7 million lost jobs by 2025 according to the National Economic Research Associates.

ここには44万以下の製造業(自動車を含む)の雇用が含まれる。これは我々が必要とするものではない。これは無数のコミュニティが拠って立つ重要なアメリカ産業のさらなる淘汰をもたらすのだ。

This includes 440,000 fewer manufacturing jobs -- not what we need -- believe me, this is not what we need -- including automobile jobs, and the further decimation of vital American industries on which countless communities rely.

(略)

同じ調査によれば、前政権の約束を守った場合、2040年までに以下のセクターの生産が削減されてしまう。

According to this same study, by 2040, compliance with the commitments put into place by the previous administration would cut production for the following sectors

  • 製紙(paper):-12%
  • セメント(cement):-23%
  • 鉄鋼(iron and steel):-38%
  • 炭鉱(coal):-86%
  • 天然ガス(natural gas):-31%

現時点で経済に及ぶコスト(※今日までの累計額と思われる)は3兆ドルのGDPと650万ドル相当の雇用の喪失。そして、世帯の所得が7000ドルほど失われている。多くの場合、これより悪い結果だ。

The cost to the economy at this time would be close to $3 trillion in lost GDP and 6.5 million industrial jobs, while households would have $7,000 less income and, in many cases, much worse than that.

この取引は我らの市民に過酷な経済的制限を課しているだけではない。環境保護の理想にも沿わないのだ。

Not only does this deal subject our citizens to harsh economic restrictions, it fails to live up to our environmental ideals.

(略)

環境保護の世界的なリーダーであるアメリカを罰し、世界で汚染を続けるほかの国に意味ある規制を課さない取引を、私の良心は支持できない。

I cannot in good conscience support a deal that punishes the United States -- which is what it does -– the world’s leader in environmental protection, while imposing no meaningful obligations on the world’s leading polluters.

例えば、この協定下で、中国はCO2排出量を驚異的な年数で増やせる。それは13年にわたる。

For example, under the agreement, China will be able to increase these emissions by a staggering number of years -- 13.

(略)

インドは、先進国から数十億ドルの対外援助を受ける条件で参加している。
(※数十億ドルが三回連呼されているのは強調のためか?)

India makes its participation contingent on receiving billions and billions and billions of dollars in foreign aid from developed countries.

(略)

結局、パリ合意は最高度に米国に対して不公正なのだ。

But the bottom line is that the Paris Accord is very unfair, at the highest level, to the United States.

※トランプ氏は「中国は数百の石炭工場をさらに建設できる。インドは2020年までに石炭生産量を倍増できる。ヨーロッパでさえ、石炭工場の建設を続けることができる」と話を続け、声名で不公正をなじりました(米国は規制のために追加建設が難しい模様)。

(China will be allowed to build hundreds of additional coal plants. So we can’t build the plants, but they can, according to this agreement. India will be allowed to double its coal production by 2020. (略)Even Europe is allowed to continue construction of coal plants.)

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温暖化防止交渉は、実は「経済戦争」?

 メディアはトランプ氏を総スカンで批判していますが、こうしたデータを見ると、離脱したくなる理由は分かります。
 実際のところ、「先進国」とされた米国は規制が厳しくなり、「途上国」とされる中国やインドには緩い仕組みなのは間違いないからです。

 産経(2017/6/3)の社説を見ると、米国を「不誠実だ」と批判しながらも、この協定には難しい一面があることを指摘していました(「米のパリ協定離脱 日本は傍観で済ますのか」)。

 離脱の理由として同氏(※トランプ大統領)は、パリ協定が米国にとって不利益をもたらすことを挙げた。露骨な「米国第一主義」の表れと言えばそれまでだが、実は地球温暖化問題の本質の一部を鋭く突いている。
 温暖化防止をめぐる国際交渉の現実は、CO2を弾丸とする経済戦争でもあることを如実に物語る対応なのだ。

中国に有利な現状のCO2排出目標

 基本的には、経済成長率とエネルギー消費量は連動するので、CO2規制が厳格化すればたいていは経済成長に負の影響が出てきます。

 日本は温室効果ガス(CO2等)排出量を2013年度比で2030年までに26%削減することを目標にしていますが、中国の場合は、そもそも基準となる年度が違います。
 中国は2005年比で2030年までに60~65%ほど削減する目標を立てているのです。

 ただ、日本(26%削減)やEU(40%削減)は排出されるCO2の総量を減らす目標ですが、中国の削減目標はGDP当たりの排出量の引き下げを意味しています。

 これだと、分母のGDPが経済成長で大きくなったら、分子のCO2排出で許される規模の数字も大きくなるので、6割という数字を立てても、削減の効果は薄くなります。

 経産省資料(「温室効果ガス排出量の現状等について」平成27年1月23日)によれば、中国の排出量は2010年時点で108億トン(05年比33%増)。逆算すると中国の05年比排出量は約80億トン程度です。

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(経産省資料(「温室効果ガス排出量の現状等について」平成27年1月23日)

 

 しかし、日本のようにCO2削減を総量ベースで考えていないので、6割と言っても、48億トンが削減され、32億トンの排出量にはならないわけです。

 日本は2012年時点で13.4億トンで、例年、あまり規模は変わりません。ここから26%削減すると、だいたい3.4億トンが減り、10億トン程度になります。

 そうだとすると、確かに、この仕組みはもともと、途上国に有利な仕組みになっています。そのため、トランプ氏の主張にもあたっている面はあるわけです。

PM2.5の国が環境問題対策で大きな顔をするのは理不尽

  中国はCO2削減に努力するはずだ、と言う方もいますが、PM2.5は相変わらず近隣諸国に猛威を振るっています。果たして、国際社会は、CO2削減に関して中国の善意をあてにしてよいのでしょうか。

 レコードチャイナ(2017/5/3)では「韓国の小学校がPM2.5で運動会を続々中止に、全員マスク姿で強行する学校も=「残念な国」「この国にしてこの学校あり」という記事が公開されていました。ソウル近郊の京畿道(キョンギド)では、5月1日にPM2.5のために、道内の複数の小学校が運動会の開催場所を屋内に変更したそうです。

 英科学誌「ネイチャー」ウェブ版では「大気汚染と国際貿易の国境を越えた影響」という論文が2017年3月29日に掲載され、PM2.5の被害規模が推定されました。

(調査したのは、中国・清華大学の張強教授、米カリフォルニア大学アーバイン校のスティーブン・ジェームズ教授など22名の研究者)

「PM2.5」が原因で、日本・韓国などの「中国以外の東アジア」の3万人以上が早期に死亡しているという研究結果が発表された。PM2.5にさらされると、肺がんや不整脈など、呼吸器疾患や心血管系疾患の症状が出やすくなるとされている。

(J-CASTニュース:中国発PM2.5で近隣国に「早期死亡」 被害「3万人」に「迷惑千万」2017/4/ 2)

 

 中国外務省の華春瑩報道官は、米国のパリ協定離脱に関して「パリ協定の成果を各国は守るべきだ」と批判し、中国が気候変動に積極的に対応することをPRしています。

 米国離脱後に中国のプレゼンスを拡大しようとしたのは、17年1月のダボス会議の構図と同じです(この時、習主席が保護主義に反対を表明)。

 米国の離脱発表の際に李克強首相が訪欧していたので、中国がプレゼンス拡大の好機を捉えたわけです。

 現在のパリ協定の枠組みも問題だらけではありますので、トランプ政権誕生に伴い、地球環境問題の取組みがどうあるべきかを、もう一度、考え直さなければいけなくなったとも言えます。