トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

北方領土に政府調査団を派遣 日露共同経済活動は進展するのか?

f:id:minamiblog:20161205102758p:plain

(出所はWIKI画像)

 北方領土四島での共同経済活動に関して、政府調査団が5月30日(午後7時頃)にロシア極東にあるサハリン州に到着しました。

 サハリン州では6月後半に行われる四島での現地調査の日程と内容をロシアと協議します。

 調査団の団長は長谷川総理大臣補佐官で、そこには漁業、医療、観光などの各分野の民間専門家を含めた約30人が含まれます。31日にはサハリン州のコジェミャコ知事らと会談し、共同経済活動での各分野の分科会で詳細な打ち合わせを行います(協議は日本時間で31日午前7時半ごろから行われる予定)。

 コジェミャコ知事は日本側が道路等のインフラや医療、漁業の関連施設等を見れるように準備していますが、その背景には、ロシア側が北方領土予算を削減していることが挙げられています。

 岸田外務大臣は現地調査が充実し、日露協議が意義ある意見交換となることに対して期待の意を述べました。 

日露共同経済活動の中身とは?

 日露共同経済活動では、60件以上の事業で総額3000億円規模の経済協力が行われ、日露双方のビザ発給緩和がなされる予定です。

 その案件については、先端医療を用いたリハビリセンターや液化天然ガス(LNG)開発等が対象だとも言われています。経済協力の主な中身には以下の8項目が含まれます。

  • 健康長寿:極東地域に日本型病院
  • 都市づくり:ウラジオストクなどをモデル都市に
  • 中小企業交流:セミナーなどでビジネスマッチング
  • エネルギー:極東ワニノ港に石炭搬出ターミナル
  • 産業多角化:企業診断で経営指導
  • 極東産業振興:ハバロフスクの空港整備
  • 先端技術:原発廃炉に向けた共同事業
  • 人的交流:ビジネスマンに向けビザ緩和

 ビザに関しては、ロシア国民(一般旅券所持者)に対する短期滞在ビザの発給要件の緩和。新たに数次ビザ(有効期間:3年,滞在期間:最長30日)。

 従来、発給している商用ビザや文化人・知識人に対する短期滞在ビザの発給対象者の範囲を拡大し、有効期間を現行の3年から5年に延長することが昨年12月に決まっています。

日露共同経済活動の障害は破られるのか?

 日露共同経済活動に関して、ロシアには産業に乏しい北方領土の経済発展を促す狙いがあり、日本には北方領土での活動や人的往来を広げ、領土交渉を進展させることを狙いがあります。

 しかし、そこには「裁判管轄権」という大きなハードルがあります。

 現地で日本人や企業が何かトラブルに巻き込まれた場合、日本の法律に則って解決するのか、ロシアの法律に則って解決するのか、という問題です。

 裁判管轄権が結局、ロシアにあるのなら、四島はロシアの国家主権下にあることを認めてしまうことになります。

 共同経済活動は、完全にロシア法、日本法が適用されない「特別な制度」で進めることになりましたが、これもまた、現時点では、中身がよく分かりません。

 紙版の読売夕刊(12/16:1面)では「想定される事態は多岐にわたり、検討を要する法令は膨大になる」という外務省幹部の声が紹介されていました。

 例えば、日露の企業が共同経済活動に参加した場合、税金はどのように課税され、どちらの政府に入るのでしょうか。法人税や所得税のかけ方は、ロシア法に基づくのか、日本法に基づくのか。ロシアは経済難なので「税収はこちらに入れてくれ」と要求してくるはずですが、それを呑むべきなのでしょうか。

 頭の体操として日露折半の議論はできますが、これは仕組みが複雑になるので経済活動促進という元来の趣旨とは合いません。煩雑な租税制度はビジネスの敵だからです。

 これに関しては、読売朝刊(12/18:朝刊9面)では、モスクワ大のドミトリー・ストレリツォフ氏のシビアな見方が紹介されていました。

「新たな法制度を考案するのは非現実的だ。ロシアが統治している現状を考慮すると、『主権』という言葉を使うかどうかは別にしてロシアの法制度で行うしかない。事務レベルで制度設計するというが、この点は日本側が譲らなければ進まない」

 今後の実現案をそれぞれの実務担当者に指示することになっていますが、ロシア官僚がプーチンほど親日的であるとは考えにくいので、この種の「俺たちの国なんだから、俺たちのルールでやるのは当然だ」という反応になるはずです。

早く「裁判管轄権」の議論を

 そして、これは「国対国」の法律の問題なので、サハリン州知事と話し合ってもどうにもなりません。

 各分野の分科会で細部の打ち合わせを行うとも言われていますが、その中で特に注意しなければいけないのは、前掲の「裁判管轄権」の問題です。

 毎日新聞電子版(12/11)では、過去、参考になる事例として、日露漁業協定を紹介しています。

「北方領土周辺の日本漁船の操業を認める一方、ロシア当局による違法操業の取り締まりは盛り込まず、管轄権をあいまいにした。ただ、共同経済活動は用地取得やロシア側との取引など複雑な上、長期間に及ぶ。ビジネス関係者が犯罪に巻き込まれた場合の司法管轄権も考慮する必要があり、「管轄権の棚上げ」だけでは難しい」

 最近(毎日電子版5/21)でも「漁業やエコツアークルーズなどの海上活動は、管轄権をあいまいにした1998年の安全操業協定の応用でクリアできる」可能性があるが、「用地取得やロシア側との取引など手続きが複雑な陸上活動」ではそうはいかない、と懸念していました。同記事によれば、日本側は「利益の出る活動にすべきだ」(外務省幹部)としているのですが、ロシア側は「住民の住宅改修やゴミ処理、医療提供など」といった「支援めいた要望」を出すといった食い違いもあるようなのです。

(出所「一筆半歩 慎重な見極めを=田所柳子」)

 昨年以来、この議論は大して進展していないので、事実上の引き延ばしが続いています。

 結論を出すのは難しいのですが、日本もロシアも政府のメンツがあるので「交渉中」としておき、何かをしているポーズができれば、政治的なメリットがあるのかもしれません。

 次の大統領選を控えたプーチンは領土問題でやすやすと譲歩できず、成果がみこめないため、安倍政権は「共同経済活動」という名の時間の引き延ばし作戦に出たようにも見えます。

 しかし、本当にこの議論を進めたいなら、本丸を攻略しなければどうにもなりません。

 現地調査も大事ですが、それよりも早く「裁判管轄権」の協議が進むことを期待したいものです。