トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

テロで緊迫する欧州にトランプ氏が訪問 NATO首脳会議に参加

f:id:minamiblog:20170525024046j:plain

(NATOサミット、2002年。出所:WIKI画像)

 トランプ大統領が中東歴訪を終え、欧州歴訪に入っています。5月24日にはヴァチカン市国を訪問し、ローマ法王と初会談を行いました。昨年以来、この二人の指導者の軋轢も報じられましたが、今回の訪問で両者の関係は修復されたようです。

 大統領選初期の2016年2月に、トランプ氏が「メキシコの壁」を建設すると宣言した時、フランシスコ法王は、橋を築くのではなく、壁をつくることだけを考えている人は、キリスト教徒ではないと批判しました。そして、トランプ大統領は宗教指導者が個人の信仰の中身を批判したことに怒り、「バチカンがISに攻撃された時、ローマ法王はトランプが大統領だったら良かったのにと嘆くに違いない」と反論していたのです。その後、トランプ氏が大統領に就任し、イスラム6か国の入国制限を行おうとした時も、ローマ法王は批判しています。

 今回の会談では、ローマ法王はトランプ氏の訪問に謝意を示し、ローマ法王は自筆の文書や平和の象徴(オリーブ)を形作ったメダルを寄贈し、トランプ大統領はキング牧師の著書を渡し、両者の関係改善が図られたわけです。

 これに続き、25日にはNATO首脳会談が行われるので、今回はその後の展開について考えてみます。 

テロで緊迫する欧州にトランプ氏が訪問

 5月22日にはイギリスのマンチェスターにあるコンサート会場で起きた自爆テロで22人が犠牲になり、同国は23日にテロに対する警戒を最高レベルにまで引き上げました。

 現在、実行犯はマンチェスター出身のリビア系男性だと報じられ、ISがネット上で犯行声明を出していますが、容疑者との関係の有無についての詳細はまだ明らかになっていません。

 BBCニュース日本語版(2017/5/24)では、警戒が最高レベルに引き上げられたことは2006年以降、二回しかないことや、同社のドミニク・カシアーニ記者が、英国の治安当局が次の攻撃について「切迫している」と言明するのは極めて異例だと指摘したことを報じています(「英政府、テロ警戒水準を最高に 攻撃「切迫」のおそれと」) 

 そして、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開催されるベルギーのブリュッセルでは、テロに対して厳戒態勢を敷いています。警官が大量動員されただけでなく、小型無人機(ドローン)を爪でつかんで引き下ろす訓練を行った多数のワシを待機させ、空からの攻撃にまで目を光らせています。

  こうした物騒な世相の中に「炎上」の発信源になりやすいトランプ氏がやってくるわけです。

NATO首脳会議の話題は何?

 NATO首脳会議の話題は、IS打倒のための連携拡大や、各国の国防費の支出拡大、ロシアとの関係等です。

 今回の会議には、強権発動で鼻つまみ者扱いにされつつあるトルコのエルドアン大統領も参加し、対IS問題等を巡って協議を行います。

 NATOのストルテンベルグ事務総長は24日の記者会見で、国防予算の増加に関して各国別の計画を策定し、合意できる見通しがあるとし、対IS有志連合にNATOが正式参加する議論を行っていると述べました(これは、現在、NATO加盟28か国が個別に有志連合に加わる形から、NATO全体として参加する形に変わるということ)。

  トランプ政権は政権発足以来、NATO加盟国の軍事費負担の少なさに関して、再三、、問題視していましたので、今回も、これが主たる話題に上る可能性が高いと言えるでしょう。

今回の訪問は、トランプ政権の対NATO政策の見直しの仕上げ?

 トランプ大統領は16年の大統領選ではNATOは時代遅れと激しく批判しましたが、当選後はNATO支持に政策を転換。そして、NATO加盟国にはGDP比2%以上の防衛費の負担を要望しています。

 GDP比2%以上の防衛費負担に関しては、2014年時点で、NATO加盟国は24年までの実現と国防費の2割以上を装備品購入や研究開発等に充てることに合意しており、これはオバマ政権の頃からあった話なのですが、トランプ政権になってから、一層強く実現が要請されるようになりました。

「安全はタダではない」と言って対価を求めるのが、トランプ政権のスタンスだからです。米新政権は発足後、同じ主張を繰り返しています。

  • 1月28日:トランプ氏とメルケル首相が電話会談。NATO支持を表明
  • 2月15日~16日:NATO国防相理事会にマティス国防長官が出席
  • 2月16日~17日:20カ国・地域(G20)外相会合にティラーソン国務長官が出席
  • 2月17日~19日:安全保障会議にペンス副大統領が出席
  • 3月17日:メルケル独首相が訪米。米独首脳会談
  • 3月31日:ティラーソン米国務長官がNATO外相理事会(於ブリュッセル)に初参加

 結局、首脳会談や三名の閣僚の訪欧を通して、「NATOは時代遅れだ」というトランプ氏の選挙中の発言がもたらした不安を鎮静化したわけです。

 その総仕上げとして、今回、トランプ氏が初訪欧すると見ることができます。

過去の要人発言からトランプ氏のNATOへの要望を推測する

 過去の要人の発言を見ると、2月15日にマティス氏は GDP比2%の支出を行ったエストニア、ギリシャ、ポーランド、イギリス等の国々に対して、「これらの国々は、真の犠牲を払ったよい見本だ」と評価しています。

(我々は)「民主主義への脅威に対して団結し、これらの脅威の成長に対処すべく、強固な同盟を築くことを私は決意した」「我らが国家のコミュニティは、NATO周辺と辺境における不安定の弧の脅威の下にある」。

(マティスは)ロシアが「この地球上のすべての成熟した国家と同じように、国際法に則ってふるまうべきだ」と述べた。アメリカとロシアは「軍事的に協力できるレベルの状況にはない」が、「我々の政治指導者はロシアに対して、立場を共有できる点を模索している。そして、NATOとの協力関係を戻したいと考えている」

(出所:Mattis: NATO is Evolving in Response to New Strategic Reality(U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE)

  もともとはロシアへの警戒心の強いマティス氏も、トランプ氏の対露政策に合わせて、対露政策の変更の可能性をにおわせる論調になっています。

 そして、もう一つ、力点が置かれているのはIS打倒作戦です。 

「これはすぐに終わるようなものではない。しかし、我々は戦いを加速してゆく。それが私がここにいる理由の一つだ。これを同盟国(あなたがた)のためにつくろうとしているのだ」とマティスは述べた。

(出所:U.S., NATO to Accelerate Counter-ISIS Fight, Mattis Says (U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE)

 その後、3月31日には、ティラーソン米国務長官がNATO外相理事会に初出席し、ティラーソン氏は以下の3点を主張しています(出所:NATO Foreign Ministerial Intervention Remarks

  1. 米新政権はNATOを支持
  2. 加盟国に2024年までにGDP比2%へ防衛費増額計画の作成を求める
  3. テロとの戦いにおいて米国はNATOと連携(特にアフガニスタン)、

  そして、「テロとの戦いに関しては、NATOはもっとできることとなすべきことがある。テロとの戦いは米国にとって安全保障上の最優先事項だ。それは我々すべてにとっても同じだ」と述べました。

 アフガニスタンでのNATOの貢献に謝意を表明しつつ、IS打倒やイスラム過激派対策での連携を呼び掛けているわけです。 

 訪欧した閣僚はいずれも老練な人材なので、トランプ氏の「暴言」(「NATOは時代遅れだ」という発言)を利用してNATO加盟国に要求をつきつけたのかもしれません。

  トランプ氏も紆余曲折を経て、当選後は軟化しているので、今回の訪欧では、過去の諍いを終わらせ、もう少し、合理的に防衛費負担等をNATO各国に求めるものと推測されます。

 日本が注視すべきは、やはり、米国のNATOへの防衛費負担増の要求と、IS打倒作戦(イスラム過激派対策)への協力へ強い要請が一貫している点です。

 今後、日本も北朝鮮問題等をめぐって、大幅な防衛費負担の増加が求められる時代も来る可能性があると見なければいけないのではないでしょうか。