トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプ予算教書 10年間で400兆円の歳出削減で軍事費、インフラ投資等を賄う 減税実現はなるか

f:id:minamiblog:20170317152115j:plain

(米議会。出所はWIKI画像)

  トランプ大統領は外遊中ですが、その間にアメリカでは議会で予算教書が提出されています。

 その中身は10年間で約400兆円の歳出削減や軍事費拡大、インフラ投資等が主な内容ですが、低所得者層への経済援助の打ち切り等が特に注目されました。

 今回は、この教書の内容についての各紙報道を比較してみます。

経済状況の想定:3%成長が続く?

 予算教書の作成を主導するのは、米行政管理予算局(OMB)のマルバニー局長です。同氏はアメリカ経済の前途を悲観視する見方を否定し、23日に2021年度には経済成長率が3%にまで高まると訴えました。

 日経電子版(2017/5/24)では「税制改革、規制緩和、通商政策、エネルギー政策、すべてが3%成長のカギとなる」とした同氏の発言に具体策が伴わないことを問題視し、議会の独立機関の見方を対比しています(「米トランプ政権、予算教書を議会提出」)

米議会予算局(CBO)は米経済の巡航速度である潜在成長率を1.8%程度とみる。労働力人口の伸びが0.5%、生産性の向上が1.3%との計算だ。トランプ政権が経済成長率を3%に高めるには、労働力を増やすか生産性を高めるしか手段はない。

 また、トランプ政権は個人所得税の減税、相続税廃止、法人税減税(35%⇒15%)等を掲げています。

 この路線と「歴代大統領で最大規模の歳出削減策」(10年間で3.6兆ドル=約400兆円 マルバニー氏)を計り、27年度には財政を黒字転換する未来図との整合性にも同記事は疑問を呈しています。

 民間調査機関はトランプ大統領が公約通りに減税すれば10年間で5兆ドル規模の税収減になると試算する。だが予算教書では成長率の引き上げで2兆ドルの税収増を見込み、税制改革後の税収を「中立」に据え置いた。楽観的な予測には議会の反論を招きそうだ。

 減税分の減収と、経済成長の増収の両者の想定が共に楽観的すぎるのではないか、というわけです。

 実際のところ、やってみないとわかりませんが、民主党だけでなく、共和党内から異論が噴出した場合、年内に税制改革法案を実現するというトランプ政権の狙いどおりにいかなくなる可能性もあります。

 議会審議の停滞によって減税の実現が遠のけば、政策実現能力が危ぶまれ、株価等にも影響が出てくるでしょう。 

WSJ、ロイター、ブルームバーグは低所得者向け支援削減に注目

  この三紙は低所得者向け支援削減に注目していました。その見出しを並べてみます。

  1. WSJ:トランプ氏の予算教書、低所得者向け支援を大幅削減(5/24)
  2. ロイター:米予算教書、メディケイドなど低所得層支援を大幅削減(5/23)
  3. ブルームバーグ:米予算教書:400兆円の歳出削減求める-トランプ氏の支持者に大打撃(5/23)

 【1】では「身内の共和党でさえも対外援助、農業補助金、低所得世帯向け医療支援制度といった分野での予算削減に難色を示している」と前途の厳しさを指摘。そして、トランプ氏が公約に掲げていない「メディケイド予算の8000億ドル超の圧縮を歳出削減の主な源泉とした」とも述べています。10年間で3兆6000億ドルの歳出削減のうち、メディケイド予算削減が8000億ドルを占めているので、その比率は22%程度になります。つまり、公約にない政策でこれだけの巨額削減を行うとしているわけです。 

 【2】には削減項目と歳出項目の中身が説明されていました。

  •  まず、下院を通過した医療保険制度改革(オバマケア)改廃法案に盛り込まれたメディケイドの削減が上院で承認されるかどうかが見えない。
  • 食糧配給券を配るプログラムに関して、子供がいない成人がより多く働くことが必要とされ、州政府の負担が増えるよう、変更する計画が示された。
  • 食肉加工工場検査の財源確保のため、年間6億6000万ドルの利用者手数料を徴収
  • 予算教書ではまた、10年間で農業支援を380億ドル削減する
  • 10年間で米郵政公社(USPS)の支出を460億ドル削減
  • 戦略石油備蓄の半分を売却して165億ドルを調達する
  • 250億ドルを支出し、子供の誕生か養子縁組後の両親に対し6週間の有給休暇を提供する
  • 州・地方政府に対して道路や橋、空港などインフラ建設を奨励するために2000億ドルを使う
  • メキシコ国境沿いの壁建設費用として来年度に16億ドルの割り当てを求める。

 かなりシビアな内容が盛り込まれているのと、懲りずにメキシコの壁予算が入っているのとが目につきます。

 メキシコの壁以外には変な政策はありませんが、有権者受けはしなさそうな歳出削減策が並んでいるので、次の議会選挙の結果に響きそうです。

 【3】では共和党内の異論を紹介していました。 

  マルバニー局長は「納税者第一の予算だ」「思いやりを測る目安として、われわれは支援プログラムの数や、これらプログラムへの支出額を用いることをやめる」とし、補助を受ける人たちの労働力復帰を後押しすることが政策の目的だと説明しました。

 しかし、これに対する異論が共和党内からも出ているのです。

 マコネル上院院内総務は、同党が多数派を占める議会は予算案を大方無視するとし、初期の予算案が「必ずしも共和党のもの」ではない優先事項を反映していると発言したことを紹介しています。

(※院内総務は議会の日程や運営を司る要職)

 また、非政府組織(NGO)「責任ある連邦予算委員会」のマヤ・マクギネス委員長が「トランプ大統領の税制案が歳入中立であり、経済成長を促すことで税収が2兆-2兆6000億ドル増えるとのホワイトハウスの2つの主張は共に現実的でないと指摘」したことも取り上げています。

 財政論としては、こうした見方に同調する人も多いのではないかと思います。

 WSJやブルームバーグ等は別にアンチ共和党のメディアではありませんが、そうしたところからも、結局、未来の見通しがおめでたいと言われているわけです。

 共和党内にも建国以来の伝統に忠実に、厳格に「小さな政府」と「低税率」の実現を求める「保守派」と、ある程度、リベラル陣営への妥協を見せる「主流派」の違いがあります。

 どちらかと言えば、前掲メディアの見方は共和党主流派に近いので、今後、共和党内での異論噴出に耐え、予算を実現できるのかどうかが見所になりそうです(審議が滞れば、秋にはまた政府停止のリスクがある)。