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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

株価急落対策? トランプ政権が明かした1兆ドルのインフラ投資の中身とは

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(ミシガン州ワイオミングの国道131号線。出所はWIKI画像)

  ロシアによる大統領選介入や情報漏洩についてトランプ陣営の関与が疑われ、減税政策やインフラ投資の実現性が疑問視された結果、5月18日の日経平均株価やダウ工業株平均は下落。そして、安全資産とされる円買いが進みました。 

 リスクオフのムードが強まったことを懸念したのか、トランプ政権は19日にインフラ投資のプランを公表しました。各紙報道によれば米行政管理予算局(OMB)の高官が、23日に発表する予算教書では今後10年で2000億ドルを政府が支出。民間から8000億ドル規模のインフラ投資を促すことを明かしました。

 道路、橋、空港、配電網、水道等の近代化のために10年間で1兆ドルのインフラ投資を行うという公約の中身を詰め、市場の期待をつなぎとめたいと考えていると思われます。なお、この予算教書では、国防費増額や各省予算削減の詳細も明かされる見通しです。

 民間にインフラ投資をどう促すのか、という疑問は残りますが、選挙期間中の提言では、トランプ氏のブレーンであるピーター・ナヴァロ氏とウィルバー・ロス氏が、税額控除を利用した民間のインフラ投資の活性化を提案していました。1兆ドルのインフラ投資に関して民間企業に1370億ドルの税額控除を与え、その仕事を担ってもらい、その税額控除分をプロジェクトに携わる労働者や企業から得られる税収で回収しようと考えたのです。

インフラ投資の施策は何?

 気になるインフラ投資の方法に関しては、ブルームバーグ記事(2017/5/19)で説明が出ています(「米予算教書、インフラ支出10年間で2000億ドルを提案へ-関係者」)

  • 交通インフラ資金調達・革新法(TIFIA)の融資プログラム(各州や地方自治体のために連邦資金を活用)
  • 投資促進を目的に連邦補助金や融資の活用を検討
  • 資産リサイクリング:連邦政府が州や地方自治体に民間部門への公有資産リースを促すインセンティブを提供し、リースと引き換えに州などが受け取る前払い金を資金不足の他のプロジェクトに活用する

 これらの政策に関して、OMB高官は「米国内のインフラの大半は州や地方自治体、民間が所有するか、これらの管理下にある。トランプ大統領の計画には、州などが連邦政府に頼らずに自前で資金を確保するよう促す狙いがある」と述べたことが報じられています。

 現在、行政管理予算局(OMB)が米国政府が行うインフラ投資の規模の大枠を決めているわけですが、この金額に関しては4月20日にマルバニー局長が述べた数字と同じです。同日にマルバニー氏はこの計画が結実するのは今年の秋以降になるとも述べたので、かなりの長期戦になりそうです。

 しかし、市場はわりと短気なので、秋まで気長に待てるのかどうかが不安ではあります。昨今のロシアに関わる疑惑の浮上など、大きな負のニュースが続けば、トランプ政権への期待は持たなくなるかもしれません。

トランプ政権に「抵抗勢力」への対策はあるのか?

 トランプ大統領は3月2日の議会演説で、以下のように述べていました。

「共和党のアイゼンハウアー大統領は、真に偉大なインフラ計画を始動させた。州を超えた高速鉄道の建設を始めたのだ。当時は、国家の再建計画が必要な時期だった。アメリカは中東で6兆ドルを費やしながらも、我が国のインフラを老朽化させてしまった。6兆ドルは、我が国を再建できるお金の規模の二倍に相当する。我々が他国と競争できる水準に達するには、その三倍が必要だ。国家の再建を開始する。私は議会に対して、国内に1兆ドル規模のインフラ投資を生む立法の承認を求める。官民双方の資金を生かし、何百万もの雇用を生むために。これは「アメリカ製品を買え」「アメリカ人を雇え」という、二つの原則に導かれるべきだ」

 しかし、インフラ投資に関しては「言うは易く、行うは難し」という一面もあるようです。

 こちらに関しては、ニューズウィーク日本語版(2017/5/2)がその内実を書いています(2017/5/2「トランプ大統領のインフラ計画 「準備完了」でも未着工の理由」※出元はロイターの模様) 

 プロジェクトの中には「準備改良」とされても、すぐに開始できない案件が多いようなのです。

 北米建設労働組合(NABTU)は、1月23日にショーン・マクガービー会長がトランプ大統領に面会した後、同組合は橋梁、パイプライン、水道など計26件のプロジェクトのリストを提出。政権移行を支援したオハイオ州のデベロッパー、ダン・スレイン氏がまとめたもう1つのリストには、内陸水路や港湾からFBIの新本部に至るまで、あらゆる分野のプロジェクト51件が含まれている。

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 米国は「合衆国」なので、大統領の裁量範囲だけではどうにもならず、インフラ事業には州の認可が必要になることが多く、なかなか進まないことが多いわけです。

 そのため、トランプ政権は実行速度を上げる道を模索しています。

「大統領のインフラ整備計画の大半は、規制や認可の合理化によって実行可能なすべてのプロジェクトを迅速に推進させることに重きを置いている」とホワイトハウスの報道官の1人は語る。「こうした改革は個別プロジェクトが直面する障壁に対応するというより、プロセス全体における確実性を高めるものだ」

 ニューズウィーク誌が着目した事例はポセイドン・ウォーター社が提案した、カリフォルニア州ハンチントンビーチに海水脱塩プラントを建設する計画の遅延です。

 このプランが最初に提案されたのは1990年代末。認可取得へのプロセスが開始したのは2000年代初め。

 しかし、このプロジェクトを2006年に承認したハンチントンビーチ市は、複数の州機関から24もの許可を得る必要がありました(汚染物質排出防止システムに関するサンタアナ地域水質管理委員会の認可など。そのほか、州海岸管理委員会や州土地委員会、カリフォルニア海岸管理委員会からの認可も必要とされた)。 

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 こうしてみると、やはり、アメリカでも許認可行政があるわけです。

  日本でも道路を開通しようとする時に、県が担当する領域と市が担当する領域の二つがあって両者の意向が合わないことがあります(片方がOKでも片方がダメだと道路が開通しなくなる)。

 米国は「合衆国」であるため、州にも大きな権限があります。

 米国憲法の判例でも、中央政府の権限と、州政府の権限をめぐって絶えず争いが繰り広げられてきました。

 この連邦行政の難しさを踏まえると、インフラ投資の実現にはまだ長い道のりが残されているとも言えます。