読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

文在寅VSトランプの火種 THAADミサイルって何だ? 中国や北朝鮮は何を警戒?

f:id:minamiblog:20170517061324p:plain

(サードミサイル。強面ですが防衛用です・・・。出所はWIKI画像)

  トランプ大統領が韓国に費用負担(約10億ドル)を求め、韓国大統領選で争点にもなったTHAADミサイル。

 4月30日の韓国大統領府の声明では、米国のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が米国の費用負担を認めたことが明かされましたが、同日にマクマスター氏はフォックスニュースとのインタビューでその発言を否定。

 それは再交渉を行い、協定が成立するまでの「当面の費用負担」でしかなく、以前の発言を撤回したわけではないと主張しています。韓国側はTHAADの費用負担の再交渉に否定的なので、これは、今後、文在寅政権とトランプ政権がぶつかる火種となりそうです。

 中国がTHAADミサイルの配備に反対していることもよく報道されますが、そもそも、このミサイルには、どんな機能があるのでしょうか。

 今回は、分かったようで分かりにくい「終末高高度地域防衛」ミサイルの性能にスポットライトを当ててみます。

米国の迎撃ミサイルの中でのTHAADの位置づけ

 弾道ミサイルは宇宙ロケットと同じ推進方式で、放物線を描いて飛びます。

 その放物線の中で、加速しながら上昇する過程を「ブースト段階」、最高高度を描く頂点付近の過程を「ミッドコース段階」、重力の加速を受けて陸地に迫る過程を「ターミナル段階」と呼んでいます。

 これに対して、米軍は何段階もの迎撃ミサイルを用意しており、THAADミサイルは「ターミナル段階」のミサイルを高高度で迎撃する装備として位置づけられています。

 すでに、日本に配備されている迎撃ミサイルを例に挙げると、イージス艦のSM3ミサイル(射程500km)は「ミッドコース段階」での迎撃、陸上車両から発射されるPAC3ミサイル(射程20km)は「ターミナル段階」の最後の迎撃を担います。多くの段階を持つ米国のミサイル網のうち、2つだけが今の日本に配備されているわけです。

 米国の迎撃ミサイルを段階別に見ると、以下の通りになります。

  • ブースト段階:SM3-ブロック1A(射程1200km)※今の主力
  • ブースト段階:SM3-ブロック2A(射程2000km)※開発中
  • ミッドコース段階:SM3(射程500km)※イージス艦等から発射
  • ミッドコース段階:GBIミサイル(射程2000~5000km)※大気圏外迎撃用
  • ターミナル段階:THAADミサイル(射程250km)
  • ターミナル段階:PAC3ミサイル(射程20km)※いわゆるペトリオットミサイル

 GBIミサイルの飛距離の長さが目を引きますが、このミサイルは大陸間弾道弾を迎撃するためのものです。これは大気圏外にまで出て迎撃するために、異様に長い射程距離が必要になっています。

 日本を狙うのは射程千数百kmである中国の東風21号や北朝鮮のノドンミサイルなので、従来、GBIはスペックオーバーだったと言えるのかもしれません。

 同じミッドコースと言っても、日本のイージス艦から撃つSM3は大陸間弾道弾ではなく、前掲の東風21号やノドンミサイルなので、GBIほどの高度が要らないわけです。

 このブースト、ミッドコース、ターミナルの区分は、対象とするミサイルによって区分けがずれることもあります。米国の場合は迎撃対象が大陸間弾道弾になるため、SM3はターミナル段階に分類されるようです。

 そして、問題のTHAADを見ると、ちょうど、SM3とPAC3までの間の空白地帯を守るミサイルだということが分かります。

THAADかイージス・アショアか?

 軍事評論家の野口裕之は米軍関係者から「文大統領は、最新鋭のTHAAD(サード=高高度防衛ミサイル)システムをいらないというつもりだろうか? 彼は正気だと思うか?」と聞かれ、「韓国がいらないのなら、日本に持っていく』と、トランプ米政権が文政権に伝えればいい」と答えたと最近の産経記事(2017.5.15)に書いています。

(「 文在寅大統領がミサイル迎撃システムを拒否するなら『日本移転』しかない! そうなった時、韓国は」)

 この記事では、予算が足りないので、結論としてはイージス艦に搭載されている防空システムの陸上バージョンである「イージス・アショア」の配備を薦めているのですが、日本にTHAADが入ったら、日本に負けたくない韓国も必死に配備したがるだろう、というわけです。

 日本にTHAADが配備されれば、韓国はさぞ慌てるだろう。しかし、防衛予算がいくらあっても足りぬ現下の危機的情勢では、フトコロ具合と相談し《イージス・アショア》の導入を優先させたい。もちろん、同時に手に入れられる財源が確保できれば、そちらがベストではあるが…。 

 THAADの難点としては「とにかく高い」という問題があります。

 10億ドルなので、今の為替で言えば、だいたい1100億円~1200億円ぐらいの間になります。護衛艦「こんごう」の建造費は1223億円ともいわれるので、THAADミサイルだけで艦艇1隻分のお金がかかるわけです。

 我が国の予算制約からいえば、これはかなり厳しいと言わざるを得ないでしょう。

THAADの目玉は、高性能レーダー

 では、THAADは、どのように運用されるのでしょうか。

 よくある方式は、8輪駆動の重トラックに8連装ランチャーを乗せ、そこに24発の迎撃ミサイルを積み込みます。6両を一組にし、射撃管制通信所とXバンドレーザー部隊と連携しながら、目標となるミサイル迎撃を行うのです。

 THAADミサイルは射程250km、迎撃高度は150kmともいわれています。

 まずは前掲のXバンドレーダーで誘導し、次に弾頭に付随する赤外線シーカーを用いて「飛翔体」を把握し、小型のスラスターからの噴射で軌道を変えた弾頭が「飛翔体」への体当たりを行うのです。

 このミサイルの肝は、Xバンドレーダーにあるわけですが、この正式名称はAN/TPY2。

 THAADで用いるAN/TPY2レーダーの捜索距離は1000km。韓国に配備すると、北朝鮮を通り抜けて中国の東北地方までが捜索されてしまうので、中国側が嫌がっているわけです。

 AN/TPY2レーダーには、ターミナルモード(捜索距離1000kmだが、高角度なので、広い扇型の範囲を捜索可能)と、フォワード・ベースド・モード(前方配備型:捜索距離1400km以上。ターミナルモードより見れる角度は狭い)の二種類があり、THAADは前者のターミナルモードを採用しています。実際は、在日米軍は後者のフォワード・ベースド・モードのXバンドレーダーを京都府経ガ岬と青森県車力に配備しており、その距離は何と2000kmにも及ぶようです(『軍事研究』2017年6月号 P123~127 河津幸英氏)。

 こうしてみると、すでに高性能レーダーが置かれている我が国は、前掲の野口氏が指摘したように、THAADよりも、イージス・アショアを優先させたほうがよさそうです。

 なぜかというと、日本のSM3は護衛艦搭載の48発程度の数量なので、百発単位でのミサイルが迫った場合、対応しきれなくなってしまうため、防衛は穴だらけなのが現状だからです。

 かといって、ミサイル防衛システムにだけお金を使えるわけでもないので、イージス・アショアで可能な限り、「穴埋め」をすべきなのでしょう。