トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

中国で「一帯一路」フォーラム迫る AIIBとシルクロード基金はどうなる?

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(シルクロードの経路。出所はWIKI画像)

  中国政府は北京にて、「一帯一路」フォーラムを5月14日~15日に開催します。

 これは習近平政権が掲げる経済圏構想を実現するための会合ですが、「一帯一路」というのは、以下の二つを結ぶ経済圏構想です。

  • 「一帯(シルクロード経済帯)」:中国西部⇒中央アジア⇒ヨーロッパ
  • 「一路(21世紀海上シルクロード)」:中国沿岸部⇒東南アジア⇒インド⇒アフリカ⇒中東⇒ヨーロッパ

 この2経路の関係国にて、道路、鉄道、港湾、発電所、石油・ガスパイプライン等の建設を促進し、中国から欧州までを結ぶ経済ネットワークの構築を目指しています。

 中国側は、国内で生産過剰になった製品の輸出先を得、エネルギー安全保障(資源輸入の安定化・多角化)、外貨準備の有効活用、人民元の国際化等を狙っており、インフラ不足のアジア諸国は中国側の資金提供等を狙う考えがあります。

 参加国を募る中国は政治面でも影響力拡大を図っており、現在、14日~15日のフォーラムには130か国から1500人ほどの要人が参加するとも言われています 

 本年上半期で見た時、中国の行事の中では、3月の全人代に次ぐ重要行事なので、今日は、その前日に、改めて、「一帯一路」構想の現状について考えてみます。

「一帯(シルクロード経済帯)」とは?

 そもそも「一帯一路」って何だっけ?という方もいらっしゃるかもしれません。

 そのため、一応、基本的な知識を整理してみます。

 まず、「一帯」では貿易やインフラ整備、資金の往来の促進がうたわれ、具体的には中国による高速鉄道の建設がさかんにPRされています。例えば、インドネシアで繰り広げられた「日本の新幹線か、中国の高速鉄道か」という受注競争も、その一環だったわけです。

 鳴り物入りで始まったのですが、その内実をみると、インドネシアでは早くも綻びが出、近年では融資の実行の遅れ等が報じられています。

「高速鉄道の総事業費は55億ドル(約6300億円)」で、「そのうち4分の3を中国政府系の国家開発銀行が融資する予定」なのですが、「経済成長に伴う地価の高騰で用地購入が難航し、完成の見通しが立たない」からです(読売朝刊6面:2017/5/12)。同記事では、開業しても採算が合わず「幻の鉄道」で終わるという、日本の鉄道業界の冷ややかな評価も紹介されていました。

 現代中国研究家の津上俊哉氏はハンフィントンポスト(2015/3/20)にて、中国版高速道路の海外展開には以下の三ルートの計画があると指摘しています(以下、「『一帯一路』構想に浮かれる中国」)

  1. 中国東北部からロシアを経由して欧州と結ぶ欧州アジア鉄道
  2. 新疆から中央アジア諸国を横断してトルコにつながる中央アジア線
  3. 中国南西部からインドシナ半島を縦貫する汎アジア線

 津上氏は、中国は自国で技術や設備を提供し、運営に沿線国に参画してもらい、資源と鉄道技術をバーターで交換しようとしているが、その前途は多難だと論評していました。

 通過地帯の需要密度が低すぎて、金のかかる高速鉄道を採算に乗せるのは至難だからだ。せいぜい需要密度が見込める区間で部分開通できるくらいが関の山、全線開通を無理に目指せば、投融資の不良債権化は必至だ。

 そして、一帯一路は「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」と「シルクロード・ファンド」〔400億ドル規模の投資ファンド〕が担うのですが、この二つが競合し、利益の衝突が発生すると指摘しました。

 北京はこの二つの機関に「一帯一路」事業の投資と融資を分担させるつもりかもしれないが、そうなればAIIBの前途には黄信号が点灯する。シルクロード・ファンドとAIIBの間で、利益の衝突や運営理念の衝突が起きるからだ。

 AIIBは多数国が参加する「国際金融機関」である以上、融資はアンタイド、援助事業にも国際競争入札が求められるはずだが、シルクロード・ファンドは中国単独で設立され、中国高速鉄道の調達を条件とする「ひも付き(タイド)」援助機関だ。

 シルクロード・ファンドが出資し、AIIBが融資する形で同一事業に共同投融資を行うなら、AIIBのアンタイドは有名無実になり、中国産品のメーカーファイナンス(例:クルマのローン)を出す機関に成り下がる。それに、採算の取れない全線開通事業にAIIBが融資すると聞いたら、どこの国もAIIB参加の意欲が失せるだろう。

  AIIBもシルクロード・ファンドも規模が大きく、構想は勇ましいのですが、社会主義国によくみられる「採算の度外視」という問題が伴っています。

 日経朝刊(2017/2/28:7面)では、中国の李小鵬交通運輸省が2月27日に、交通運輸分野に対して、2020年までの五か年計画で15兆元〔約245兆円。前五か年計画比で2割増の大盤振る舞い〕を割り当てることを表明したことを報じています。その内訳は道路が7.8兆元、鉄道が3.5兆元、航空〔空港整備等)が0.65兆元となり、大規模投資が敢行される模様です。その投資効率の良しあしが気がかりなのですが・・・。

「一路(21世紀海上シルクロード)」とは?

 海上の交易路である『一路』ではASEAN諸国やインド等が念頭に置かれています。

 中国から、東南アジア諸国を経て、インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ、サウジアラビア、イラン、エジプト等を経る海上ルートを想定し、沿線上にある各国との関係強化を図ろうとしているわけです。

  このうち、近年にスポットライトが当たっているのは、ミャンマーとパキスタンです。

 ミャンマーから中国の雲南省に石油と天然ガスの輸送管が引かれ、それが昆明にまで通じているのです。このパイプラインは中央アジア、ロシア極東部、海路に続く資源輸送ルートとして位置付けられ、中国のエネルギー安全保障を支えています。

 そして、パキスタンには、2013年に中国がシンガポールから運営権を引き継いだグワダル港があります。この港は中国にとってインド洋への出口にあたり、そこに至る鉄道が中国西部から引かれていました。中国がパキスタンを重視しているのは、シルクロード基金が最初にパキスタンの水力発電所建設プロジェクトに投資したことや、AIIBが初めて融資した案件がパキスタンの高速道路建設プロジェクトであることなどにも表れています。

(そのほか、近年に建設が再開されたスリランカのコロンボ港も重要拠点)

 中国が「一路」を打ち出しているのは、「海上交通路」の確保が安全保障上、至上命題だからです。

 中国では経済規模の拡大に伴い、石油や鉄鉱石等の資源輸入の規模もふくらみました。そのため、沿岸国への影響力を強め、有事に米軍に海上交通路を封鎖されないように予防線を張っています。

「一帯」は中国の資源輸入ルートと重なっており、中国の資源・エネルギー安全保障のための戦略構想を兼ねているとも言えます。

 ただ、この「一路」(海のシルクロード構想)は、前掲のインドネシアの高速鉄道の建設遅滞などの問題が浮上し、そのインフラ事業の質に疑問が呈され始めています。

 また、パキスタンやスリランカでの拠点確保を狙う中国に対して、インドは、これは我が国への封じ込めにあたるとして、警戒心を強めています。中国が整備した港をつなぐと首飾りのようにインドを包囲する形になるため、同国は、いわゆる「真珠の首飾り」作戦とみて、疑念を深めているわけです。

 インドは中国との経済関係拡大を狙っていますが、同時に、安全保障上のライバルでもあるため、常に愛憎半ばする関係にあるのが現状です。 

結局、AIIBはどうなった?

 鳴り物入りで始まったAIIBですが、始動から1年後の実績は今一つです。16年に承認した事業は9件にすぎません。

 オマーンとパキスタンが各2件、ミャンマー、バングラデシュ、タジキスタン、インドネシア、アゼルバイジャン各1件で、総額は17億3000万ドル(約2000億円)。
 日米が率いるADBや、世界銀行など既存機関との協調融資が多いのが特徴だ。「経験豊富で融資候補リストも持っている先輩格の機関に、お膳立てをしてもらっている状況」(国際金融筋)で、独り立ちは容易でない。
(時事通信「AIIB、25日で設立1年=本格稼働には時間」2016/12/24)

 ADB(アジア開発銀行)の職員数は約3000人ですが、AIIBは16年末で100名を目指している程度の人数なので、長期間、実績を築いてきたADBとは差があります。信用力に関しても日米主導のADBよりも低評価なので、貸し出しレートは1%ほど割高だとも言われているのです。

 毎日新聞(2017/1/16)によればAIIBには開業時に57カ国が加盟し、さらに25か国が新規加盟を申請。この数はADBの67か国(地域を含む)をしのぎますが、融資額は開業1年目の目標である12億ドルを上回ったものの、15年に260億ドルの融資を行ったADBには及びません(「進まぬ融資、人材確保難航…開業1年」)

(※ロイター記事によれば、16年12月1日時点でAIIBは100億ー150億ドル程度の融資額となると見込んでいるようです)

  しかし、現在、アジアには膨大なインフラ需要が残されています。アジア開発銀行〔ADB〕が2月28日に出した報告書の要旨では、以下の試算が出されました(出所:ADB「アジアのインフラ需要は年間1.7兆ドル超、前回の予測から倍増」2/28)

  • アジアの途上国(地域)が経済成長の維持、貧困の撲滅、気候変動の対応に要する投資額は2016年から2030年の間に26.2兆ドル、年間で1.7兆ドル(1.7兆ドルは09年予測の二倍)。
  • 分野別に見ると、電力が14.7兆ドル、交通・運輸が8.4兆。通信が2.3兆ドル、水・衛生分野でも0.8兆ドルの投資が必要。
  • アジアの現状の年間インフラ投資額は8810億ドル(推計)。インフラ投資の不足額(投資需要-実際の投資水準)は2016~20年のGDP予測額の2.4%分に相当

 まだまだ未整備の発電や送電、交通等のインフラ投資を進める余地があるので、中国は日米主導のアジア開発銀行に対抗すべく、AIIBの国際展開を目指していくはずです。

重要度のわりには報道が少ない「シルクロード基金」

 一帯一路を担う、もう一つの重要な金融機関として「シルクロード基金」があります。

 これは中国が2014年末に外貨準備の切り崩し等を財源としてつくった総額400億ドルの基金です。

 2015年4月20日には総額16.5億ドルをかけてパキスタンの水力発電所への投資を決めました。

「で、いったい、AIIBと何が違うの?」

 そんな疑問も沸きますが、一番の違いは、AIIBが「国際金融機関」の体裁を整えようとしながら活動しているのに対して、シルクロード基金は中国人民銀行(中央銀行)が主導していることにあります。

 中国の独自機関なので、習政権の意図のままに対外援助という名目で軍事転用できるインフラをつくることも可能なので、本当は、こちらのほうが警戒すべきなのかもしれません。

 運営母体の「シルクロード基金有限責任公司」の経営陣は、会長から取締役会や監事会までが中国国内の人材で占められているとも報じられていました。

 中央アジアあたりの広大な地域に社会インフラを整備して中国と欧州等との交易拡大を図ることを意図していますが、パキスタンにも投資しているので、実際は投資先はどこでもよいようです。

 AIIBとも競合しているので、国家戦略として整合性の欠如が気になるところではあります。 

ネックは「収益性」の低さと「信用」

 読売朝刊(2017/5/12:6面)を見ると、中国のアジア諸国へのインフラ投資の懸念事項が書かれていました。

「一帯一路の沿線国はほとんどが途上国だ」「途上国のインフラ事業は収益性が低い。建設費などを回収するのに15~25年かかるとされる。政情不安やテロの心配もあり、融資は慎重に行われる」

  そのため、巨大なインフラ需要のわりには、投資はさほど進んでいません。前掲記事は2014~20年の需要と見込まれる投資額を対比していました。

  • 南アジア:インフラ需要は3090億ドル/予想投資額は680億ドル
  • 東アジアと太平洋地域:インフラ需要は870億ドル/予想投資額は350億ドル

 そのため、日米が主に出資するADB(アジア開発銀行)では慎重に投資先を選んで融資を行ってきたわけですが、AIIBはもっと「大胆に」アジア諸国へのインフラ投資を進めることを宣伝してきました。

 しかし、そのAIIBの懸念事項としては、発足当初から市場の信用力の低さが挙げられています。前掲記事では、欧米の格付け機関はAIIBの債券をいまだ格付けしていないとも報じていました。そのため、AIIBは信用が低いため、市場から十分なお金を集められていないわけです。

 そのため、前掲の読売記事(7面)では、中国は「『海のものとも山のものともつかない』構想を日米が容認すれば『国際的なお墨付きとなる』」ことを期待していると書いていました。

 これが、日本国内でも親中派陣営が「日本もAIIBに参加すべきだ」等と主張する理由でもあるわけです。

 前掲の読売記事も、結局、ADBとAIIBが上手に連携すべきだ、と述べているのですが、筆者は6面と7面の論説を読んでいる間に頭がこんがらがってしまいました。中国のインフラ投資の問題点を盛んに挙げながら、ADBはAIIBに協力すべきだ、といわれても、あまり説得力がありません。

 ADBにとってAIIBは商売敵でもあるはずなので、そんなに易々と協力してよいのでしょうか。

 問題だらけの中国のインフラ投資への協力について、日米は安易にゴーサインを出すべきではないと思います。