トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

コミ―FBI長官辞任 トランプVSプーチンの狭間で揺れる米国 米露和解の可能性はあるのか?

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(ブレジネフ・ニクソン会談。トランプはニクソンを参考にしているとも言われる。出所はWIKI画像)

  トランプ大統領は、5月9日に、米国の大統領選にロシアが介入した疑惑への調査を指揮していたコミ―FBI長官を指導力不足を理由として解任しました。

 FBIはトランプ陣営とロシア政府が連携してクリントン氏の選挙戦を妨害した可能性を捜査しているので、民主党などが反発しています。

 コミー氏は解任前にロシアに関わる捜査でもう一段の資金提供を司法省に要請していたともいわれており、これは、ロシアとトランプ陣営との関係の有無に関する捜査を封殺するためではないかと疑われています。

 トランプ政権はこの解任はロシアとは関係なく、ヒラリー氏の私用メール問題への捜査処理を懸念したためだと説明しましたが、ちょうど10日にはロシアのラブロフ外相が予定されていたので、タイミングとしては「具合がよすぎる」とも言えます。

 2013年8月以来、やっとホワイトハウスに来れたラブロフ氏は大統領執務室でトランプ大統領と会談し、異例の待遇を得たので、その裏が勘繰られてもいるわけです。

 米国では大騒ぎになりましたが、日本人には分かりにくいところもあるので、今回は、この問題の概要を整理してみます。

FBI長官はクリントン、トランプ両氏に対して何をした?

 メール問題を捜査していたコミー氏は2016年7月5日にクリントン氏の不訴追を発表。そして、10月28日には、新証拠の発見を理由に連邦議会に捜査再開を通知。

 さらには11月6日に民主党やオバマ大統領等からの批判を受け、クリントン氏を訴追しない方針を固めました。

 きわめて不可解な動きをしていたのは間違いありません。

 当時、二人はこの再調査に関して、以下のように主張しました(日経電子版「トランプ氏、最後の反撃 FBIがクリントン氏の捜査再開」2016/10/30)。

【トランプ氏】

「クリントン氏が犯罪計画を大統領執務室に持ち込むのを許してはならない」「ウォーターゲート事件以来、最大の政治スキャンダルだ」

【クリントン氏】

「選挙直前にこのような断片的な情報でしかないものを出してくるのは大変奇妙な話だ。実際、奇妙なだけでなく、前代未聞であり、大いに問題がある」

 ・・・

 コミ―氏は大統領選に不当な影響を与えたと批判されましたが、2017年5月3日には「今でも正しい選択だったと信じている」と述べていました。

 ただ、クリントン氏はコミ―氏の再捜査を敗因に挙げていたように、当時のトランプ陣営は、このコミ―氏の動きに助けられた面もありました。

 そして、トランプ氏当選後は、オバマ政権の意向を汲んでロシアのサイバー攻撃が米大統領選に与えた影響を調べていたので、今度は、トランプ陣営がFBIに「追われる側」になったわけです。

 FBIとしては、民主党政権下でヒラリー氏への捜査を行い、共和党政権下でトランプ陣営とロシアとのつながりを調べ、不偏不党であることを国民に示したかったのかもしれません。

 しかし、コミー長官はトランプ政権にとがめられ、2023年までの任期を残したまま解任されることになりました。FBI長官の任期は10年あり(コミ―氏は2013年任命)、政治的に辞任を要求されない慣例があるため、これは異例の人事と見られています。

ロシア外相訪米前の辞任という”ベストタイミング”

 何もこのタイミングに・・・と思われた方も多かったに違いありません。

 10日にはホワイトハウスでトランプ大統領はロシアのラブロフ外相と会談しましたが、その前日にFBI長官が辞任。その背景にはトランプ氏だけでなく、セッションズ司法長官の意向も働いていると見られています。

 プーチン大統領との米露首脳会談を準備した会談は良好な結果で終わったとされ、当日の模様がブルームバーグの記事(5/11)で報じられていました。

「ホワイトハウスは、トランプ大統領がラブロフ外相と会うところを取材するのを認めなかったが、トランプ氏がラブロフ氏とセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使を迎える写真をロシア政府が公開した後、記者団は突然、大統領執務室に通された。そこにはトランプ氏がキッシンジャー元米国務長官と共に座っており、ロシアの外相らは既に去っていた」(ロシア外相がホワイトハウス訪問-FBI長官解任の翌日 5/11)

 この中に出てくる「キスリャク大使」は、前大統領補佐官のマイケル・フリン氏と政権発足前に電話で協議したともいわれる人物なので、メディアは一層、疑いを深めることになりました。

トランプ陣営とロシアとの関係の有無の捜査は継続

 では、この捜査は終わるのかというと、そうでもないようです。

 今後のシナリオがロイター通信(5/11)の記事に書かれていました。それは、以下の可能性が想定されています。

  • 後任の人選が進む中でコミー氏が任命した捜査官がFBI捜査の指揮を継続
  • 議会が特別委員会を設置したり、調査担当者を任命して捜査
  • 司法省が特別検察官を指名して捜査。セッションズ司法長官は自分は関与しないとしているので、この場合は司法副長官が特別検察官を指名する可能性が高い。
  • 特別検察官が指名されても、議会は調査を継続可能

 米国の大統領制が独裁制とは違うことがよく分かります。

 何か異常があれば、司法省が動けるようになっており(ただ、セッションズ氏が司法長官なので、今回、ここは動かない可能性高)、三権分立に基づいて、議会が動く余地を残しているわけです。

ただ、大局的には米露は和解したほうがよいのでは

 オバマ政権はウクライナ危機に際して、対露制裁を打ち出し、同盟国に協力を求めました。欧米を中心に制裁の包囲網をつくり、日本も制裁に参加しています。

 しかしながら、その結果、ロシアと中国が接近することになりました。

 現在、経済的には米国の最大の競争相手は中国(経済力はナンバー2、軍事力はナンバー3)なので、軍事力で世界ナンバー2のロシアを追いこみ、中国と連携させることが得策だったのかどうかは疑問が残ります。

 世界ナンバー1国家が避けるべきなのは、基本的にはナンバー2とナンバー3の国が手を組むシナリオだからです。

 パワーポリティクスでみると、米国の脅威が最大化されるのは、中国の軍事力がロシアに補完された場合と、中国の経済力が日本に補完されるかのいずれかです。(現在、我が国では「日中連携を強化して米国に対抗しよう」等という愚策は傍流になり、後者の可能性はほぼ消えています)

 ウクライナ問題に関して、米国にとっては牽制球が必要だったわけですが、前者の中露連携シナリオを本格化させないためには、どこかの段階で制裁を「手打ち」にすべきなのではないでしょうか。