トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

マクロン対ルペン 仏大統領選の勝者はどっち? ユーロ為替と欧州株は売りか買いか

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(シャン・ド・マルス公園。出所はWIKI画像)

 フランス大統領選の投票日は5月7日です(結果は日本時間8日未明に判明)。

 「EU離脱か、EU維持か」を巡って戦ってきたマリーヌ・ルペン氏とエマニュエル・マクロン氏への最終審判が国民の手で下されることになります。

 最後のテレビ討論会ではマクロン氏が優勢。調査会社IFOPが5日に公にした最後の世論調査によれば、支持率はマクロン氏が63%、ルペン氏が37%だとされています(仏紙レゼコーによれば5日の支持率は、マクロン氏62%、ルペン氏38%)。

 そして、5月3日の最後の討論会では、ルペン氏がマクロン氏にはカリブ海のバハマにオフショア口座を保有している可能性があると述べた事に関して、マクロン氏が偽証の罪で告訴したことも報じられました(その後、パリ検察が予備捜査に着手)。

 ネットニュース等では、ルペン氏がフランス北西部のブルターニュ地方を遊説した折に卵を投げられたことや、ルペン候補の姪にあたるマリオン・マレシャル・ルペン氏(FN議員)が、決戦候補で40%取れれば大勝利だと述べたことなども報じられています。これは国民議会選での勝利に希望をつなぐという趣旨の発言です。

 ただ、大部分のメディアはマクロン氏勝利のシナリオで情報を流しているので、今さらマクロン氏について書いてもしかたがありません。

 そのため、今回、当ブログでは、ルペン氏の情報を多めに紹介してみます。

(※追記:日本時間8日未明にマクロン候補の当確が報じられました。フランス内務省調査によれば、マクロン候補の得票率は66.06%、ルペン候補は33.94%。世論調査の通り、マクロン氏の勝ちでした。これでルペンショックが回避され、国際社会はそれに伴う複雑な問題を考えずに済むことになりました)

ユーロの為替と欧州株の指標の推移一覧

 現在、マクロン氏優位は動かずという下馬評で、5日までのユーロ為替は以下の推移で動いています(以下、全てブルームバーグのサイトのデータ)。

  • ユーロ円:120.97円(4/27)⇒121.92円(5/1)123.93円(5/5)
  • ユーロドル:1.0873ドル(4/27)⇒1.0899ドル(5/1)1.0998ドル(5/5)

 欧州株の指標を見ていくと、それぞれの指数が急降下爆撃して空に上る戦闘機のような軌道を描いています。

  • SX5E(ユーロ圏の優良株):3495(4/7)⇒3409(4/18)3577(4/24)3658(5/5)
  • CAC40(フランス株):5135(4/7)⇒4990(4/18)5268(4/24)5432(5/5)
  • FTSE100(英国株):7365(4/11)⇒7114(4/19)7288(4/26)7203(4/28)7297(5/5)
  • DAX(ドイツ株):12282(4/4)⇒12000(4/18)12454(4/24)12716(5/5)

 マクロン氏首位が固まったのは4月23日で、それ以降が上がり傾向になりました。まさにマクロン氏は市場にとって「期待の星」になったわけです。

ルペン氏が「フラン復活」に関して公約を修正

  ルペン氏に関しては、最後の討論会で、企業と家計が2つの通貨を使い分けると述べたことが物議をかもしています(日経電子版「ルペン氏、公約修正で支持拡大躍起 ユーロ圏離脱撤回 仏大統領選」2017/5/4)。

「フランスは自国通貨を復活させるが、大企業は引き続きユーロを使う」(ルペン)

「ユーロで稼いだ企業が、自国通貨で給与を払うのか。なんと複雑なことだ」(マクロン)

 具体策が見えないので、思いつき発言でしょうか。だとしたら、かなりテキトーです・・・。

 前掲記事は、調査会社Ifopに依拠して、今回の決選投票率は74%で棄権者が続出すると報じました。

 3位で敗れた共和党(中道右派)フランソワ・フィヨン元首相(63)支持者の24%、4位だった急進左派ジャンリュック・メランション氏(65)支持者の37%が棄権すると答えている。

 投票したがっている有権者の中でルペン氏の支持率は4割程度なので、ルペン氏はこの棄権者層を掘り起こそうとしているわけです。ただ、これは変節にあたるため、既存の支持者が離れる危険性を伴っています。

 冷静に考えれば、もともと、ルペン氏の「フラン復活」という主張が広範な支持を得られるかどうかは疑わしい面もありました。

 ルペン氏は、ユーロではドイツは通貨が実勢よりも安く評価され、フランスは高く評価されているため、貿易ではフランスの輸出が伸びず、不利になっていると主張しました。その想定通りならば、自国通貨のフランに戻った場合は通貨安になるので、フランスの資産価値が下がります。貧困層は関係ありませんが、これは一定の資産(持ち家等)を持っている人に大損が出ても構わない、という主張でもあるわけです。

 有権者のみんなが貧乏人ではないので、この主張で開拓できる支持者の範囲には限界があるでしょう。

マクロン氏は有望な政治家だが・・・

  いっぽう、マクロン氏の政策の概要は以下の通りです。

 5年間で600億ユーロの歳出削減、500億ユーロの投資を実行。中小企業や自営業者の負担軽減(減税が視野に入っている)。国有企業の売却、国有企業と民間企業の競争条件の対等化、12万人の公務員削減、難民同化策と不法移民の取締り・・・。

 筆者にとっては異論のない政策ばかりですが、同時に、優等生の答案を見た時のような気分にうたれます。

「いいんだけど、こういうのでは物足りない人も多いんじゃないかな・・・」

 マクロン氏自体は有望な政治家ですが、ルペン氏が出てきたのは、既存の政治に飽き足らない人々が増えてきたからです。そのため、同氏のエリート然とした風貌や学歴とあいまって、一連の不安が心によぎります。

(そのほか、25歳年上の奥さんという謎のカップリングは保守層〔特にカトリック信者〕には微妙ですが、伴侶が64歳になっても律儀に夫婦を続けているので、真面目な人なのかもしれません)

 この人の政策は、規制緩和をしながら福祉国家を維持するのが狙いです。

 オランド政権の左がかった路線修復に主眼が置かれています。同氏は現職大臣として競争促進的な「マクロン法」を成立させた実績もありますから、インテリ層には十分な説得力も見込めるでしょう。

 EUとユーロ維持が最重要公約なので、ざっくり言えば、現状を維持しつつ、内政面で「改革」を行うことを目指していると言えます。

結局、どこから先が「極右」になるのか?

 今回のフランス大統領選で気になったのは、定義が不明確なまま、みんながルペン氏に「極右」と札をつけていたことです。

 いったい、どこまでが「右派」でどこから先が「極右」になるのでしょうか。

 コトバンクを見ると、三省堂の記述が出てきます。

「極端で過激な右翼思想。また、その思想をもつ人。 ↔ 極左 「 -勢力」」

 これでは説明になっていません。

 極左の説明をみても、右と左を逆にしただけです。

「ヨーロッパ極右」に関しては朝日新聞出版刊『知恵蔵』の解説が出ています。

主張の共通点は「移民排斥・制限」。イスラム諸国などからの移民を制限(時には「追い出し」)することで、自国の雇用の確保や、治安の向上を実現しようというもの。一見わかりやすいロジックであるうえ、長期にわたり高失業率に悩んできた西欧の人々にはかなり魅力的に映っている。また背景として、「欧州統合」への反対、批判を右翼政党が取り込んでいると考えられている。

 「移民排斥・制限」したら極右なんでしょうか。

 それだったら、戦前のアメリカも日系移民を排斥したので、「極右」になるはずです。

 しかし、朝日新聞社の歴史観では、極右の日本が破れて、アメリカによって民主化・自由化されたことになったとされています。極右のアメリカが民主化してくれたんでしょうか。

 筆者としては、この説明も釈然としません。

 結局、人や組織によって「極端で過激」と見るラインが違うので、コンセンサスを取るのは難しいのでしょう。

ルペン極右でない説も浮上中・・・

 そうした疑問は少なからぬ人が感じているのかもしれません。

 そのせいか、最近のネットニュースでは、ルペンは極右ではないという主張も出てきています。

 その典型は、民族派団体「一水会」の木村三浩代表の主張です(※この人はルペンと親交あり。取材者はジャーナリストの山口一臣氏)。

(出所:「ルペンは極右ではない」—— “ルペンに一番近い日本人”が断言する | BUSINESS INSIDER JAPAN

 木村氏は、ルペン氏を単なる愛国者とみなし、以下の三点が国民の心をとらえたのだと指摘しています。

  1. 反EU感情:「ユーロ」に便乗して多国籍企業が国内市場を席巻。EU基準が押し付けられ、失業者が増えた。
  2. 反移民・難民感情:EUのおかげで義務的な受入人数を割り当てられる。移民流入で街の伝統が一変してしまう。ルペンはせいぜい1万人受入れにしようと言っているに過ぎない
  3. 反テロ:頻発するテロを何とかしてほしい。

 木村氏の主張の中で注目に値するのは、ルペン支持者の中に、実はエリート層も入り込んでいるという指摘です。

ルペン氏のもとに多様な人材が結集している・・・元社会党や共産党、共和党の議員だった人たちがどんどん合流しています。既存政党の限界を知り、展望を失った人たちです。さらに、フランス随一のエリート官僚養成学校であるパリの国立行政学院(ENA)の出身者がルペン氏の応援に集まっている・・・ルペン氏の掲げる144の公約が出ていますが、まとめたのはENA出身で40歳の現役のフランス国防省の職員です。

 確かに、このあたりの話は、既存の大手メディアの記事には出てきません。

 トランプ氏の時も、数は少なめでしたが、一定のプロ人材が支持していたのは事実です。

 筆者は別に木村氏の支持者ではありませんが、日本に流れてくる仏大統領選情報には、既存体制側のお話ばかりなので、情勢を正しく認識するには、非主流派の声も聴く必要があると考えています。そうでないと、2016年の米大統領選から何も教訓を学ばなかったのと同じだからです。

 取材者の山口一臣氏は、極右と極左に入るのは「思想のためなら暴力を肯定するような人たち」のことだとも述べていました。要するに、「極」がつくのは、戦前の血盟団とか、戦後に内ゲバを繰り返した左翼学生集団のように、民主主義の普通の手続きを認めない人たちだとみているわけです。

 同氏は「考え方が違うから、あるいは気に入らないからヤっちまえ」という人たちが、極左、極右と呼ばれるべきだ、としています。

 こうした考えから、山口氏は「フランス大統領候補 マリーヌ・ルペン氏が「極右」というのは誤報ではないか?」という記事を公開していました。

  確かに、以下の反イスラム政策は過激ですが、それ以外のフランス語を守るとか、国境を守るとかの政策は、よくある愛国的主張のレベルの政策ではないのか、と同氏はマスメディアの「通説」に疑問を呈しています。

 同氏は前掲記事で、ルペン氏の過激政策も紹介していました。

  • 〈29 イスラム原理主義に関係するあらゆる組織を禁止し、解散させる〉
  • 〈30 すべての過激派のモスクを閉鎖し、礼拝所や礼拝行為に対する、公的資金(国、地方自治体など)からの援助はすべて禁止する〉
  • 〈32 イスラム教徒のテロリストに関係した犯罪や違反で有罪となっているものに対し、祖国反逆罪を復活させる〉

 イスラム過激派に厳しい法的措置を取ると言っていますが、一応、法的手段を通して実施する考えなので、内容的にはトランプ氏と同レベルの「過激度」と思われます。

  マリーヌ・ルペン氏はもっと過激な父ジャンマリーを追放して支持層を拡大したため、これでも、政策的にはやや「マイルド」にはなっているとも言われています。

※ルペン、マクロン両氏についての詳細は筆者の過去記事を参照。

フランス大統領選 ルペンVSマクロンの構図 EUとユーロはどうなる? 

ルペンは勝てるのか? EUとユーロの存続を賭けたフランス大統領選の行方

マクロン氏にとっての懸念材料は何?

 東洋経済オンライン(5/5)では、ジャーナリストの小林恭子氏が「マリーヌ・ルペンが支持を伸ばした真の理由
父ジャンマリーを追放した効果は大きかった」と題した記事を公開しています。
 主たる内容は、ルペン氏がFN(国民戦線)の支持者を拡大するまでの過程に費やされているのですが、最後に二点の懸念事項が書かれていました。

1つは、「もう勝てるから、自分は行かなくて良い」と考えるマクロン支持者がいることだ。ルペン支持者は投票に向かう比率が高く、これが数%の差となって出てくる可能性がある。

もう一つは労組関係者、左派系支持者の動向だ。今回の大統領選で、第1回目の投票までに急速に支持を集めたのが、急進左派候補のジャンリュック・メランション候補だった。

同氏の政治運動「屈しないフランス」の約24万人のメンバーが参加した調査で、全体の34.8%はマクロン氏に投票するとしたが、29.1%が棄権、36.1%が白票を出す、と述べたのである。

左派支持者たちは中道独立系で数万人規模の公務員削減を掲げるマクロン候補を支持するかどうかで割れている。

  ヒラリー氏の時にも似たような話があったので、これは不気味な兆候です。

グーグルトレンドでマクロンVSルペンの検索数を比べてみる

  筆者が米大統領選以降、ひそかに重視しているのは、グーグルトレンドの検索件数なのですが、その数字を見ると、マクロン氏優位で推移していました。

 米大統領選では、支持率ではいつもヒラリー氏が勝っていたのに、グーグルトレンドの検索数ではトランプ氏が常に勝っていたため、筆者は選挙の時にこれをチェックするようにしています。

 当時を振り返ると、リアルクリアポリティクスの支持率平均でトランプ氏がヒラリー氏に勝ったのは、5月と7月の短期間(2回)のみですが、グーグルトレンドの検索数平均(期間は12カ月、地域はアメリカ合衆国)で比べてみると、trumpにclintonが勝ったのは9月11日~17日のみだったのです。支持率平均では9割以上、クリントンが勝ち続け、検索数平均ではトランプ氏のほうが9割以上、勝っていたのです。 

 そのため、グーグルトレンドの検索数を見てみます。

 以下、グーグルトレンドの地域設定をフランスにして「すべてのカテゴリー」で見た時の数字です。

 日時:Macron/Le Penの検索数比率で表記しています。

  • 5/4 6時:100/95
  • 5/4 13時:74/67
  • 5/4 20時:31/21
  • 5/5 3時:26/18
  • 5/6 3時:18/12
  • 5/7 3時:16/7
  • 5/7 6時:17/8
  • 5/7 9時:14/7
  • 5/7 12時:14/7
  • 5/7 14時:16/6

  ただ、「ニュース」で設定すると、ルペン優位になるのが不気味なところです。

 同じく、日時:Macron/Le Penの検索数比率。

  • 5/4 6時:57/100
  • 5/4 13時:41/49
  • 5/4 20時:15/27
  • 5/5 3時:12/25
  • 5/6 3時:9/19
  • 5/7 3時:6/10
  • 5/7 6時:8/13
  • 5/7 9時:8/12
  • 5/7 12時:8/11
  • 5/7 14時:8/11

 グーグルトレンドのカテゴリー欄には、ペットやショッピング、美容とフィットネスなど、選挙と関係なさそうな項目も入っています。しかし、金融や行政、ビジネス、産業等の無視すべきでない項目も入っているので、指標としては捨てたものではありません。ほかにもいろいろなデータがあるので、「ニュース」での検索数が指標として使えるのかどうかは、悩ましいところです。

  一応、「すべてのカテゴリー」のほうを基準にした場合、マクロン優位の趨勢になりますが、検索数の減り具合の激しさが懸念材料になります。

 最終のテレビ討論会あたりでMAX時の検索数で、その後、有権者が急速に興味を失っていることが検索数に反映されているように見えるのです。

 大統領選に関して「もういいよ、そんなの」という有権者が増えることは、棄権者が増える可能性を示唆しています。今回の勝負は意外と接戦になるのかもしれません。

 通説的にはユーロ為替はマクロン勝利、ユーロ買い、欧州株買いに賭ける人が多いようですが、いろいろなデータを集めると、今回の仏大統領選には怪しい気配が漂っているようにも思えてきます。

 筆者としては、ルペン氏に賭ける気にもなれないので、仏大統領選が終わるまで寝ていたほうがよいのではないかと考えています。