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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

米露電話首脳会談 トランプとプーチンがシリア停戦の協議開始

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(トマホークを発射する米駆逐艦。出所:WIKIパブリックドメイン)

 トランプ米大統領はプーチン露大統領と5月2日に電話会談を行いました。

 両首脳は、米新政権発足後と、4月初めにサンクトペテルブルクで地下鉄テロが起きた時に続き、3度目の電話会談を行いました。

 プーチン大統領は、4月に行われた米軍によるシリアへのミサイル攻撃を主権国家への侵略と見なし、米露関係の緊張が高まりましたが、今回の会談に関して、両政府は建設的な結果に終わったと評価しています。

 今回は、この電話会談の内容とシリア情勢について考えてみます。

米露首脳の電話会談の内容

 ホワイトハウスのHPには、5月2日付けで電話会談の概要が公表されています。

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「トランプ米大統領とプーチン露大統領との会談(2017.5.2)」

( Readout of President Donald J. Trump’s Call with President Vladimir Putin of the Russian Federation、May 02, 2017)

トランプ米大統領とプーチン露大統領はシリアについて、今日、会談を行った。

President Donald J. Trump of the United States and President Vladimir Putin of the Russian Federation spoke today regarding Syria.

トランプ大統領とプーチン大統領は、シリアでの苦しみはあまりにも長く続いており、全ての当事者が暴力を終わらせるために最善を尽くすことで合意した。

President Trump and President Putin agreed that the suffering in Syria has gone on for far too long and that all parties must do all they can to end the violence.

この会談は非常によい結果に終わった。その中には、安全区域や人道的な目的のために永続的な平和を達成するための安全区域や脱エスカレーション区域の議論が含まれています。

The conversation was a very good one, and included the discussion of safe, or de-escalation, zones to achieve lasting peace for humanitarian and many other reasons.

米国は5月3日~4日にカザフスタンのアスタナで停戦を協議するための代表を送る予定だ。彼らはまた、中東でのテロ根絶に関して協力するために協議した。

The United States will be sending a representative to the cease-fire talks in Astana, Kazakhstan on May 3-4. They also discussed at length working together to eradicate terrorism throughout the Middle East.

最後に、彼らは最も危険な北朝鮮の情勢に関して、最善の解決策を探るために議論した。

Finally, they spoke about how best to resolve the very dangerous situation in North Korea.

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 カザフスタンでのシリア和平協議には、アメリカからは中東問題担当のジョーンズ国務次官補代行が派遣される予定です。また、BBCは、ロシア政府が米ロ首脳会談が7月のドイツ・ハンブルクで開催されるG20首脳会議で行う方向で協議したと報じていますが、米国側はこの件についての発表はありませんでした。 

当初からシリア停戦を意図していた米国務長官

 このたびの経緯を振り返れば、4月4日、シリア政府が北西部にあるイドリブ県で反政府勢力に向けて空から化学兵器(サリン)が投下されたと判断した米軍は、シリア爆撃機が発進した空軍基地に向けて、米軍は東地中海洋上の駆逐艦2隻(「ポーター」と「ロス」)から59発の巡航ミサイル(トマホーク)を発射しました。飛行場やその格納庫、武器庫、レーダーや防空システム、レーダー等を狙ったことが各紙で報じられています。

 当時、BBCニュースの日本語版(4/7)は、イドリブでは「子供を含む多数の市民が死傷。呼吸困難や瞳孔の縮小、口から泡を吹くなど、化学兵器攻撃を疑わせる症状を見せていたと現地目撃者は話している」とも報じていたので、ロシアやシリアの主張は疑わしい話です。

 米国側の意図は、国務省HP(4/9)に掲示された、ABCテレビのキャスターであるジョージ・ステファノポロス氏(元広報担当大統領補佐官)が行ったインタビューで明かされていました。

(出所:Interview With George Stephanopoulos of ABC This Week

 その内容は主に、以下の3点です。

  1. 米国の最優先事項はIS打倒
  2. ミサイル攻撃は国際法違反への警告
  3. 同時に北朝鮮への重大な警告を行った

 その中で、特に気になるのは、記者との質疑応答のなかで、ティラーソン国務長官は、シリア停戦を希望し、ロシアとの全面的な対立を望むものではないと述べていたくだりです。

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Q:木曜日の攻撃はアサドを権力の座から除くための新戦略の一環なのか?

(略)

A:周知のように、我が政権のシリア戦略ではIS打倒が最優先事項になっている。彼らがカリフ(※イスラム教の指導者のこと)を称していることが米国や同盟国を脅かしているからだ。

I think our strategy in Syria, as you know, our priority, is first the defeat of ISIS, remove them from access to the caliphate, because that’s where the threat to the homeland and to so many other homelands of our coalition partners is emanating from.

我々が対IS作戦を終わらせれば、我々はアサド政権とその対抗勢力の双方に対して、停戦に関心を向けさせることができる。

Once we can eliminate the battle against ISIS, conclude that – and it is going quite well – then we hope to turn our attention to achieving ceasefire agreements between the regime and opposition forces.

それに関して、我々は、シリアにおいて地域の安定化に影響力を行使し、ジュネーブ条約による政治的な過程を生み出すために、ロシアとも共同できるという希望を持っている。その過程において、我々はシリア国民が最終的にアサドの運命を決めることができると信じている。

And in that regard, we are hopeful that we can work with Russia and use their influence to achieve areas of stabilization throughout Syria and create the conditions for a political process through Geneva in which we can engage all the parties on a way forward.And it is through that political process that we believe the Syrian people will ultimately be able to decide the fate of Bashar al-Assad.

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 一応、これは限定された攻撃だ、という形で、ロシアとの対話可能な余地を残していたので、その後、国務長官は訪露し、露外相と会談し、プーチン大統領と会うことも可能になりました。

 やはり、もともとが親露派なので、ロシアとの全面対決までは考えていなかったわけです。

 オバマ政権でシリア攻撃を行ったら、その後の会談等は成り立たなさそうですが、やはり、ロシアに顔が利く国務長官が米国にいたことは、緊張が高まりすぎないようにする効果があったのでしょう。

ロシアの狙いは、やはり制裁解除か?

 ロシアはトランプ政権に一撃を食らった形になりましたが、意外と抑制的に反応しています。

 もっと激しい反発を見せてもよさそうなものですが、そうしないのは、米国からの経済制裁解除を期待しているからなのでしょう。

 世界銀行のデータで見ると、原油安や欧米からの経済制裁を受け、ロシアは名目GDPが2兆2306億ドル(2013年)から1兆3260億ドル(2015年)にまで激減しています。

 これは石油や天然ガスなどの資源に依存しすぎた経済の弊害です。

 ウクライナやシリア等では強気なロシアですが、経済面で見ると青色吐息になっているわけです。

 ウクライナ危機以降のロシアは、政治面では影響力を増し、攻勢に出ていたのですが、国内経済はひっ迫していたので、これも欧米が下りるか、ロシアが下りるかという、一種のチキンゲームでした。

 ロシア側にも、どこかの段階でゲームを「手打ち」にしなければいけない事情があるように見えます。

 そのため、4月には緊張が高まった米露関係も、今後は、ある程度、両者が落としどころを探し始めていくのではないでしょうか。