トランプ政権と日本・アジア 2017

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各党の憲法改正に関する主張一覧 北朝鮮の核と日本国憲法は何という皮肉な”ベストマッチ” 

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(日本国憲法制定を主導したマッカーサー。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  日本国憲法の成立70年を期して、5月3日には各党が日本国憲法についてのコメントを発表しています。北朝鮮と米国との関係が緊迫化し、それに伴い、各党が憲法改正に関する立場を公にしているわけです。

  今回はややこしい憲法問題について考えてみます。

各党の憲法改正についてのコメント(抜粋)

 まず、5月3日に出ている各党のコメントを抜粋で見てみます。

自民党・安倍晋三首相

 読売新聞は、安倍首相が26日のインタビューで憲法の「改正項目については、戦争放棄などを定めた現行の9条1項、2項を維持した上で、憲法に規定がない自衛隊に関する条文を追加することを最優先させる意向を示した」と報じています。

「東京五輪・パラリンピックが開催される20年を日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだ。20年を『新しい憲法』が施行される年にしたい」 

(出所:憲法改正は20年施行目標、9条に自衛隊…首相 : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 自民党が具体的な改正案の検討を急ぐことを明かしたのは、自民党内には、保守色が色濃い平成24年の改憲草案ではなく、もう少し野党との協調路線が図れる改正案に変える動きもあるからです。

公明党・山口那津男代表

「公明党は憲法改正のあり方について、従来から「加憲」という立場をとっています。これは、憲法3原理(※「国民主権」「基本的人権の尊重」「恒久平和主義」のこと)はどこまでも堅持しながら、必要となる新たな条項を付け加えていく方法です」

(出所:公明党アピール「国民の理解得て『加憲』」(1/3ページ) - 産経ニュース

 加憲って何? 筆者は疑問を感じ、2013年頃に公明党に電話で聞いたことがありますが、特にその時点では加える条文の中身は決まっていないという返答でした。ずっと加憲と言っていますが、条文の中身がわからないままです。

 ただ、その時のヒアリングでは、9条に関する枠組みを変えるつもりはないとの返答なので、実質的には護憲に近い立場なのかもしれません。

日本維新の会・松井一郎代表

「憲法の三原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)をはじめ、現行憲法の良い部分は引き続き守っていくべきである。一方で、憲法制定当時に想定していなかった種々の問題も生じている。現行憲法でこうした問題に対応しきれない場合には、必要な範囲で変えていくべきである」

(出所:日本維新の会・松井一郎代表談話「国民的議論を深め、憲法改正を進める」 - 産経ニュース

 だいたい、自民党と似たような立場に見えます。政策的には、自公連立ではなく、自民党と日本維新の会がくっついたほうが自然なのかもしれません。

民進党・蓮舫代表

「いま日本国憲法は、大きな危機に瀕しています」「集団的自衛権の行使容認にはじまり、安全保障関連法の強行など、立憲主義、平和主義の本質を全く理解しようともせず、これを大きく損なわせた安倍自民党政権が、いよいよ憲法改悪に手をつけようとしているのです」

(出所:民進党・蓮舫代表談話「改悪目指す安倍自民の暴挙に正面から対峙する」 - 産経ニュース

 平和主義が損なわれたとの主張ですが、現行憲法のままでは朝鮮有事に即応するのは困難なのも事実です。

 一応、こちらの具体策も明確にしてほしいものですが・・・。 

共産党・小池晃書記局長

「日本を「戦争をする国」にするための安倍政権の危険な改憲策動に断固反対し、広範な国民・市民のみなさんと、安倍改憲を阻止するため、ともに力をあわせる決意を表明する」

(出所:共産党・小池晃書記局長談話「必ずや安倍政権の改憲策動を打ち破る」(1/2ページ) - 産経ニュース

 いつもの「戦争をする国」という批判です。

 ただ、現状を見る限りでは、集団的自衛権の行使を限定容認しても、昔ながらも自衛権発動が困難な体制が続いているので、諸外国に比べれば、まだまだ戦争は困難です。我が国は、北朝鮮のように隣国に向けてミサイルを撃ったり、砲撃したりすることはできません。

憲法改正に関する国会議員のスタンス

 いまはネット上からは削除されていますが、読売オンラインでは「憲法改正『必要』73% 改正項目『自衛組織保持』最多」(2016/11/03)という記事を掲載していました。

 これは読売新聞社が10月上旬から行った国会議員714名(衆参両院)の議員に行った憲法に関するアンケート結果です。357人(回答率50%)が答えましたが、そこでは憲法を改正したほうがよいと答えた議員が73%を超えたことを報じています。

【憲法で改正したり加えたりすべき条文(議員の返答。複数回答可)】

  • 自衛のための組織維持:48%
  • 国と地方の役割:41%
  • 環境権:41%
  • 衆参両院の役割分担:38%
  • 前文:36%
  • 参院議員の地域代表制(合区解消)36%
  • 緊急事態の首相権限強化や国民権利制限:35%

 この回答を見ると、前文や憲法九条を取り上げたい議員と、これをスルーしたい議員とで大きく分かれています。9条について議論したくない議員もそれなりに多いような気がします。 

北朝鮮の核開発が進む中、日本は憲法九条をどうする

 現在、北朝鮮の核・ミサイル開発が進展しています。

 そして、トランプ政権との間で一触即発の状態にまで緊張関係が高まっています。

 しかし、日本は昔ながらの体制を守っています。

 これは、「憲法9条で戦争放棄、戦力不保持を定め、交戦権を否定しているのに、自衛隊が持てる」という不思議な体制です。

 今の政府解釈では、そのロジックはだいたい、以下のような内容です(まともに憲法用語を並べると目が痛くなるので、普通の会話の議論で考えてみます)。

  • 憲法九条であらゆる戦争を放棄。
  • しかし、国際法で認められる「自衛権」は放棄していない。
  • 自衛権は、国が他国からの攻撃などを排除するためにやむをえず必要な行為を行う権利のことだ。だから、侵略への自衛措置は取れる。
  • だから、憲法で「戦力」を持つことは禁じているが、「戦力」ではない範囲の実力部隊はもてる。自衛権の行使の裏づけとなる「自衛のための必要最小限度の実力」(自衛力)を持つことは合憲なのだ。 

 政府の資料や憲法の解説書ではもっと読みにくく、難しい言葉で書かれています。

 これは、要するに九条の枠組の中で苦肉の策を考え出したということです。

 筆者も安全保障について論文を書いた時、たまたまそれを見た法学部卒の方に「戦力」と書いた箇所を「自衛力」と書き直すべきだと言われたことがあります。

 このあたりのレトリックは不勉強な私には、なかなかなじみにくいものでした。苦肉の策を使って「戦力」ではなく、「自衛力」とか「必要最小限度の実力」等と言い換えているわけです。 

どうして参院選で護憲勢力は敗れたのだろうか

 冒頭で護憲勢力の主張も並べてみましたが、彼らは前回の参院選では大勢を占めることができませんでした。

 その主張があまり多くの国民の心には響かなかった理由として、筆者には二つほど思い当たることがあります。

①もともと戦後日本は九条を文言通り適用していない

 一応、昨今の「集団的自衛権行使の限定容認」や「安保法制」等も、こうした「苦肉の策」で自衛隊を持ち、機能させようとした歴史の延長線上にでてきた動きです。

 そのため、「憲法違反だ」だという護憲派の主張に対して、「今までも苦肉の策だからな~。もともと憲法の文言通りに運用してないんだから、今さら憲法違反を訴えてもしかたがないんじゃないの?」と思った人も多かったのではないでしょうか。

 もともと自衛隊の創設以来、苦肉の策を重ねてきたので、憲法違反を厳格に追及すると、伝統的に日本が続けてきた防衛政策の主要部分も否定しなければいけなくなります。最後は「自衛隊も要らない」等の非現実的な主張になりかねません。

 自衛隊は諸外国には軍隊と認識されているので、本当に原理主義的に憲法九条を適用したら、自衛隊そのものが憲法違反になるはずです。

 もともと憲法の文言通りに九条は適用されていないので、「安保法制は憲法違反だ」という主張に対して、「その種の解釈変更は昔から行われてきたが、別に日本は軍国主義国家になどなっていないじゃないか」と、少なからぬ国民が考えていたのかもしれないのです。

②護憲派は北朝鮮の核開発や尖閣諸島防衛に関する具体策が不足していた

 護憲派は集団的自衛権や安保法制を批判しましたが、日本を取り巻く安全保障の環境は悪化を続けていました。

「理屈は分かるけど、現実に北朝鮮は核兵器つくってるじゃん」

「中国の船がどんどん尖閣諸島に押し寄せてきているけど、どうするの?」

 そう思っている人は「戦争法案反対!」とだけ訴えられても、「現実の具体策がないじゃないか」と心の中でつぶやきながら、街頭で演説する人の前を通り過ぎていきます。

 こうした意識の乖離のために、護憲派は負けたのではないでしょうか。

 結局、平和憲法そのものは「物理的な抑止力」にはならないので、日本政府は自衛隊の確保を正当化してきました。そして、14年の解釈改憲以降、東アジアの危機に対応できるように、自衛隊を動かせる範囲を広げようとしてきたわけです。

 これに関して、「自衛隊という侵略への抑止力がないと困る」という現実を無視して、観念的な九条論だけを訴えても、政策論としては成り立ちがたいように思えます。

憲法学者には、個別的自衛権の行使にさえ否定的な人が少なくない?

 実際問題、自衛権がなければ、日本は、お金持ちなのに何も自衛力がない、という丸腰国家になってしまいます。

 しかし、筆者の知人の弁護士に聞いたところ、「こうした政府解釈(個別的自衛権の保持の正当化)に対して、本音では違憲だと考えている憲法学者は、全体の半分ぐらいはいる」と言っていました。憲法学者の感覚と国民の感覚にも、かなりずれがあります。

 2012年以来、安倍ファシズムと左派陣営にののしられながらも、結局、「改憲勢力」が3分の2になったわけですから、こうした憲法学者の見解が国民の大多数に受け容れられているとは思えません。

 安全保障に関しては、もう少し、現実に即した議論が必要なのではないでしょうか。