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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプVSドゥテルテ 電話会談後、米国とフィリピンの関係は改善するのか?

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(フィリピン大統領府。マカラニアン宮殿。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ米大統領とドゥテルテ比大統領の間で電話会談が4月29日に行われました。

 オバマ政権下で悪化したアメリカとフィリピンの関係が修復されるのかどうかが注目されています。

 日本の報道では、北朝鮮の核・ミサイル開発や南シナ海への中国の海洋進出、フィリピン国内の麻薬犯罪対策などが話題に上ったことが報じられています。

 電話会談の前に、ドゥテルテ氏は北朝鮮問題に関してASEAN(東南アジア諸国連合)諸国が深く懸念していると述べ、アメリカと北朝鮮の双方に自制することを要望していました。

 会談の内容は不明ですが、両者の会談は非常に友好的に進められたと言われています。

 トランプ大統領は11月に行われる東アジアサミットと米国とASEAN首脳会議のためにフィリピン訪問に期待することや、ドゥテルテ大統領の訪米を招請しています。

 「訪米したら」と言っているので、トランプ氏がある程度、ドゥテルテ氏を肯定的に評価していることが伺えます。過去の経緯を見ると、オバマ前大統領は、ドゥテルテ政権下で行われた強硬な麻薬売人の取り締まり(裁判なしに殺される)を人権侵害とみなし、両国関係は悪化。ドゥテルテ氏も暴言を吐いてオバマ氏を批判していました。

 2016年12月の米比首脳の電話会談では、トランプ氏はドゥテルテ氏の麻薬取締を「よくやっている」と評価していました。

 今回はドゥテルテ氏の過去の言動やマニラタイムスの記事などを通して、同政権が今後、どうなるのかを考えてみます。

ドゥテルテVSオバマの結果、米比関係はひたすら悪化

 ドゥテルテ氏が大統領就任後、フィリピン警察は麻薬容疑者を政権発足から18日間で665人を取締現場で射殺したとも報じられました。そして、国連人権高等弁務官事務所からは「超法規的な処刑から国民を守るため必要な措置を取ることを求める」という批判を浴び、ドゥテルテ氏も「容疑者に抵抗されたら射殺しろ。後のことは心配するな。私が支えてやる。弁護士も雇ってやる」と激怒しています。(「国連が何言おうと、おじけづくな」 比大統領、麻薬犯“殺害”への批判はねつける 人権機関「超法規的な処刑」と非難声明 産経ニュース2016/8/18)。

 その後も諸々の暴言を乱発。

 オバマ氏が人権問題としてフィリピン政権を批判した時、ドゥテルテ氏は怒り心頭となり、米比関係は決定的に悪化しました。

「フィリピンは主権国家だ。植民地ではない。敬意を払うべきだ。何様のつもりだ。Putang ina。フォーラムでののしってやる」(※Putang Ina⇒ 「クソッタレ」)。フィリピンに来たローマ法王には「もう来るな」。国連は「脱退してやる」とまで爆発したわけです

(柴田直治「それでもとまらぬドゥテルテの暴言 世界は今後も目が離せない」ハンフィントンポスト: 2016/9/7)。

 米比首脳会談は取りやめになり、ドゥテルテ大統領は、フィリピンの米軍駐留への批判を繰り返します。

 訪中時の習主席との会談では中国の南シナ海での領土主張に関する国連判決を取りあげないことと巨額の投資受け入れを決めました。訪中時(10/20)には「(米国と)「軍事的にも経済的にも決別する」とまで述べています。

 しかし、フィリピンには南シナ海に進出してくる中国軍を止める実力がないため、結局、米国との関係は断ち切るわけにはいきませんでした。

 その後、大統領選で人権問題に厳しいヒラリー氏は落選し、トランプ氏が当選したので、ドゥテルテ大統領にとって、米国との関係改善のチャンスが巡ってきたわけです。

本年の米比首脳会談が東南アジアの運命を左右する?

  ドゥテルテ氏が16年に来日する前のインタビューを見ると、かなり激しい感情をむき出しにしています(NHK「ドゥテルテ大統領 単独インタビュー全内容」10月25日) 

  • 「中国とは対話できるし、ロシアともできる。日本ともできる。しかし彼ら(アメリカ)と話すのは不快だ」(米国を)「避けるのではなく、話すことがない」
  • 「国内の外国部隊についてだが、ここにいるのはフィリピン軍だけであってほしい。。私の国の中で外国の部隊は見たくない。いつか、これを動かぬ方針としたい」(※フィリピンは憲法で外国の軍隊の駐留を禁止している)
  • (アメリカとの軍事協定破棄の可能性が)「あると思う。私の任期中に。私の中にフィリピン兵士以外の武装した兵士は見たくない」

 ただ、この通りに米軍撤退や米国との軍事協定破棄が行われれば、90年代にフィリピンは米軍基地を追い出して、その後、中国軍に島を奪われたことの繰り返しになってしまうので、トランプ氏との会談を通して米比関係が改善されることを期待したいものです。 

 過去、争点になった激しい麻薬取締(死者続出)に関して、ドゥテルテ氏は、国内に400万人もの麻薬中毒者がいるのをどうしたらいいんだい?と述べていました。半年で麻薬犯罪を一掃することを公約した同氏の言い分は、優しい顔を見せても麻薬売人どもはどうにもならん、ということです。極めて難しい国内事情を抱えているので、外国の大統領にしたり顔で偉そうなことを言われたくなかったわけです。

 ただ、トランプ氏とオバマ氏とではこのあたりの見方は全然違うので、一応、米比関係が元サヤに戻ることは期待できるのではないでしょうか。 

ドゥテルテ氏と前任者の経歴の違い

 しかし、ドゥテルテ氏を支持する人々が何を考えているのかは、日本の報道を見ても、よくわかりません。

 そのため、今回は、最後に、マニラタイムスの記事を通して、ドゥテルテ氏を支持する勢力の考え方を紹介してみます。

(出所:At last, with Duterte, we’re no longer the US lackey in Asia - The Manila Times Online)

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先週に開催されたASEAN首脳会議でフィリピンは外交的に見て、歴史的な重大メッセージを送った。

THE big message that the Philippines has sent to the world during its hosting of the Association of Southeast Asian Nations (Asean) summit last week was as historic as can be in terms of our foreign policy:

我々はもはやアメリカの召使ではない。アセアンの代理人でもない。世界の中のこの地域においてーー。ASEANはアメリカが共産主義者が支配する中国に対抗するためにNATOの同等品としてつくったものだ。

We are no longer the Americans’ lackey in this part of the world, not its proxy in Asean, which the US secretly founded as the Asian equivalent of NATO to counter communist China.

恐らく、これは大統領の経歴のほとんどがその前任者とは違うという事実によるものだ。

Perhaps this owes much to the fact that President Duterte’s background is unlike most of his predecessors.

コリー・アキノとは違って、彼は権力の座に上るまで、アメリカに政治的、軍事的な借りをつくらなかった(略)。

Unlike Cory Aquino, he does not owe his rise to power and his hold on it (so far) to American political and military might(略).

コリーのクローンだったフィデル・ラモスとも違う。彼はアメリカの軍事学校で洗脳されていない。

Unlike Fidel Ramos, who was after all Cory’s male clone, he had not a chance to be brainwashed in an American military school.

ベニグノ・アキノ3世は、外交政策に関する全ての考え方を放棄した。それを、この国の歴史の中で最もアメリカナイズされ、最も親米的な外務長官に譲り渡したのだ。インドネシア人のアンソニー・サリムは長い間、ロザリオ外務長官の”取締役”だった。

In the case of Benigno Aquino 3rd, he was happy to relinquish all thinking on foreign policy to the most Americanized, and most pro-American foreign secretary this country ever had, the Indonesian magnate Anthoni Salim’s long-time board director Albert del Rosario.

 これに対して、驚くべきことに、ドゥテルテは政治人生の大部分をフロンティア・シティのダバオで過ごした。彼は自分で外交政策をつくりあげた。それは米国は我々の主人ではないという現実的な世界観に基づいている。しかし、驚くべきことに、彼の最初の外務大臣は米国市民だった(※筆者注:ヤサイ外相は米国市民を持っていたが、持っていないと述べ、虚偽説明で辞任している)。それが彼の外交チームだ。

In sharp contrast, and surprisingly for somebody who’s spent most of his political life in the frontier city that is Davao, Duterte himself is molding our foreign policy to his more realistic worldview in which the US is not our master, to the consternation even of his first foreign secretary who was a US citizen, and that of our diplomatic corps.

残念なことに、我々の外交政策を担当する高官のほとんどは親米だ。

Sadly, most of our top foreign affairs officials are so pro-American.

激しい国家主義者だったブラス・オプレを除いて、我々の外交政策は建国以来、米国の言いなりだったという批判を免れる者がいるだろうか?

Who would blame them when except for the fiercely nationalistic Blas Ople, our foreign policy since our independence simply followed what the US told us to follow?

ドゥテルテだけがアメリカをあざ笑い、”北アメリカ帝国”のライバルである中国に向けた外交政策の大転換を世界に宣告できる。

Only a Duterte could snub the US, and declare to the world that his big foreign policy pivot is towards the People’s Republic of China, that North American empire’s rival in Asia.

ドゥテルテはプーチンが導くロシアに接近した。

 Duterte has even drawn the country closer to Russia under Putin.

1970年代半ば以来、フィリピン大統領がロシアのことを考えたことはない。マルコス政権は米国の敵と接近して見せることで米国帝国主義の鷹の詰めから国を取り戻そうと試みた。

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 要するに、長年、フィリピン外交が米国の言いなりだったことへの反感が渦巻いていたわけです。

 フィリピンが親米だったことは日本にとって悪い話ではないのですが、支配階層が米国の顔ばかりを見て、国民のほうに振り向かなかったため、フィリピンのダバオ市から台頭した「自国第一」の大統領に人気が集まったとも言えます。

 ただ、今後、トランプ氏はオバマ氏と違い、人権よりも治安重視なので、政策的にはドゥテルテ氏と衝突する要素は少なくなります。トランプ氏のほうが反中路線が強硬ですが、どちらも中国を「交渉相手」と見ている点は似ています。

 今後、米比関係を改善するためには、米国は対米追随を嫌うフィリピン人の国民感情への配慮が必要になるでしょう。